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閲覧注意10

体調不良でパソコンのモニターを見るだけで嘔吐する状況になっており死んでおりましたがようやく体調が戻りました。

お待たせしており、大変申し訳ありません。

「なんだ、緊急招集……?」


 配布されたスマホの画面に表示された文字を見て俺はそう呟いた。自衛隊に入隊し、世界がおかしくなってから俺に宿っていた霊力の強さから配置換えがあり、現在は自衛隊の中にある対悪霊を想定された部隊へ配属された。


「おう、佐藤。早かったな」

「田崎先輩。いや、緊急招集なんて配属されて初めてですし」

「ま、そうだよな。隊長に聞いたんだが霊能者も呼ばれてるらしいぜ」

「え、本当ですか」



 現在自衛隊と霊能者の関係はあまり良いとはいえない。俺たち自衛隊からすれば霊能者という連中はただ霊能力を公的に振るうために資格を取った連中という認識でしかない。霊能者だけで食っていけるのは本当に一部だけだ。飽和した霊能者という存在のため、依頼で仕事が出来るのは大手の事務所くらいであり、それ以外の多くの霊能者は趣味で霊を倒し、ただ自身の力を強めようとする者が多い。まるでゲーム感覚のように。


 とはいえ霊能者の中にもまともな連中はいる。それは理解しているのだけど、とある理由で霊界領域などの現場ではほとんど霊能者任せになってしまう現状を俺は少しだけ歯がゆく思っており、少し霊能者たちに敵対意識を持っていた。



「ああ。聞いた話、ランクの高い霊能者を集められるだけ集めたんだとさ。ただ相手がかなりやばいらしくてな。今回共同作戦が組まれたってわけだ」

「なるほど……もしかして相手は悪霊じゃなくて例の()()()の連中ですか?」



 脳狩り。ここ最近起きているとある殺人事件の犯人の呼称だ。共通している事は、被害者は全員が高ランクの霊能者だという事。そして全員が頭を切り裂かれ脳が無くなっているという事だ。当初は単独犯と考えられていたが、事件の頻度、その発生場所の距離から考えて単独犯では不可能。複数犯、もしくは組織的なものと考えている。まだマスコミ関係の報道は止めており、現在は警察の方で捜査をしているが、中々その足取りが捉えられていない。



「いや、完全に別件だ。すぐ作戦会議らしいしそこでわかるはずだぜ」

「そうですね。急ぎましょう」




 自衛隊は通常の霊能者とは違い、霊力だけで戦うという事はない。対霊用の弾薬、霊から身体を守るためのボディアーマー、動きを封じるための結界装置など、株式会社アマチ製の装備で固められている。アマチは現在主要都市の建物や交通機関などに霊を寄せ付けない結界用品などを作製しており、世界でそのシェアは計り知れず、ほぼ独占している状況だ。日本の自衛隊だけでなく、各国の軍でさえ、霊と戦うための装備はすべてアマチから仕入れているくらいだ。


 もっともそのため性能も絶大だ。アマチ製の弾薬であれば弱い霊なら数発で祓う事が可能だし、強い悪霊であろうとも数人で囲み撃ち込めば容易に祓う事も出来る。霊からの攻撃でさえも、この特性のボディアーマーの防御力は絶大であり、先日の実験的に行われた作戦では、領域持ちの悪霊相手に無傷で祓う事が出来たくらいだ。この装備さえあれば霊力の低い者でも安定した戦力を保持できるため、今後より安全に霊と戦う事が出来る。



 唯一の難点であった装備の配給不足もようやく解決し始めており、装備不足という理由で霊界領域を霊能者に任せきりだった状況がようやく変わり始めるという確信があった。



「ようやくアマチの装備も充実してきましたね」


 小走りで集合場所へ移動している中、俺はそうこぼした。


「まあな。アマチも日本の会社なんだからもっと国内を優先してくれてもいいだろうにな」

「ほんとそれっすね」




 田崎先輩とそう他愛のない話をしているが、内心心臓の鼓動は強くなっていった。集合場所には既に100人以上の同じ装備に身を包んだ自衛隊員と数十人の私服を着ている霊能者が集まっている。いや、さらに人が集まってきているところを見ると、より一層緊張感が高まっていく。ここまで大規模な作戦はあっただろうか。まるで災害地への救援のようだ。



「さて、諸君。時間がないため形式的な挨拶は省かせてもらう。私は陸上自衛隊の田邊一佐だ。今より30分ほど前、スカイツリー前にとある悪霊が出現した。推定であるが特級レベルの能力を持った悪霊と断定。見た目は巨大な猿だ。体長は約7m。右手に成人男性が掴まれている。生死は不明。現在スカイツリーへ咆哮を繰り返している」



 一佐の説明に俺の頭は混乱していた。7mの大猿? なんだキングコングか何かか? 



「目撃情報によると突如上空から落ちてきたらしい。諸君らの気持ちは理解できる。この意味不明の状況に混乱しているだろう。だが近隣住民の被害が予想される以上我らはすぐにでも出動しなければならない。アルファー、ブラボーチームはスカイツリー周辺を封鎖。それ以外のチームは直接奴を叩く。戦闘が開始された際、領域が作られる可能性も考慮すること。いいか、一切油断するな、では出動だ」



「いくぞ、佐藤。気を引き締めろよ」

「――はい!」




 俺と田崎先輩は攻撃部隊だ。自然と手に力が入る。俺たちはすぐに車両に乗り込み移動を開始する。どうやら戦車を使う話もあったらしいが、まだ戦車用の弾などは作られていない。だから現状の装備で作戦を開始すると聞いた。まあ霊に実弾は効かないのだから仕方ないだろう。






「いいか。幸いターゲットの猿は未だスカイツリーの前から動いていない。どういう訳かあの猿はスカイツリーに敵意をむき出しにしているようだ。攻撃はかならず発砲命令が出るまで行うな。まずは周囲に霊を弱める結界を配置し合図を元に一斉に起動させる。既に周辺住民は避難を始めているが、大きな戦闘が予想される気を緩めるな!」

「「はッ!」」




 俺はこんな状況だというのに、まだどこか楽観的だった。アマチの装備で固めた部隊をこれだけ動員し、高ランクの霊能者もいる。確かに強敵なのは間違いないがそれでも十分な準備をすれば問題ないのだと。








 その気持ちは一瞬で消え去った。





『■■■■■■ッ!』





 車両での移動中、その咆哮が聞こえた。ただそれだけだ。音の感じだけならそれこそ映画に出てくるキングコングみたいな音だったと思う。だがそれでもあのボディアーマーを装備しているというのにも関わらず、その咆哮を聞いただけで震えが止まらなくなった。



 誰も声を出さない。先ほどまでも無言の状況であったが、今はまるで違う。そう少しでも声を出せば見つかるのではないか、そんなこれから対峙する相手に対し、思わずそんな思考をしてしまうほど全員が恐怖に飲まれた瞬間だった。






 震える身体を叱咤しゆっくりと現場へ向かう。そこには――悪魔がいた。





 白い毛に覆われた巨人のような大猿。丸太よりも太い腕を地面に叩きつけ、スカイツリーの上空へ向かって咆哮を繰り返している。その咆哮を聞くたびに、心臓が縮み、身体が委縮する。恐怖で前が見れず、思わず地面を凝視してしまいそうになる。

ゆっくりと顔を上げ、よく見ればその右手に確かに報告にあった男性が捉えられていた。生死はわからない。だがあんな巨大な猿に身体を握られている以上死んでいると考えるべきかもしれない。




「俺たちはどうすれば――」

「まずは待機だ。ほかのチームが奴を囲むように結界を配置している。それを待て」



 隊長の言葉にうなずきながらも頭の中は混乱で満ちていた。なぜあんな化け物がいるのか。どう考えても普通の悪霊ではない。未知のクリーチャーとしか思えなかった。荒くなってしまう呼吸を整えて周囲を見ると何かおかしい点に気づく。



「あれ、霊能者の連中少なくないですか?」

「……ありゃ逃げたな」

「くそ、何しにきやがったんだ」




 数十人いたはずの霊能者が今は数える程度しかいない。そしてその霊能者たちも真っ青な顔で地面を見ている。悪態をつきたくなるが、相手が相手な以上仕方ないと思ってしまう。そうして生きた心地がしない状況が続き、精神に限界が訪れようとしたその時だ。




「合図だ。結界が起動する。総員、構え」




 俺はセーフティーを解除し、地面からゆっくりとあの猿へ視線を移す。するとこの周囲一帯を覆うように青白いドーム状の光が展開された。アマチの作り上げた結界製品の中でも最上位のものでそれこそ上級に位置づけられる悪霊でさえまともに動けなくなる代物だ。それを今回は全部で20機使用している。これで身動きを封じ一斉射撃で仕留める。そういう作戦であった。





 ――だが。






『■■■■■■ッ!』





 たった一度の咆哮。それで結界がすべて消し飛んだ。消えていく結界に呆然としているとあの巨大な猿は初めてこちら側へ視線を向けた。ただそれだけで死を予感し一部の隊員が命令前に発砲してしまう。だが確かに命中したはずなのに、ダメージを受けた様子はない。




『■■■■ッ!』



 二度目の咆哮。ただそれだけで意識が遠のいた。僅かに視線を動かせば俺だけではない。全員だ。あの霊能者の集団でさえ気絶していく。俺は薄れゆく意識の中、あり得ないものを見た。






 それは赤い髪の美女があの巨大な猿の頭を殴りつけ地面へめり込ませているというものだった。


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― 新着の感想 ―
キィカワイソス アマチは絶対黒幕側やろ
キィ言いつけ守ってるのにw
[良い点] やはり面白いすね。 自分の心を大事にしてください 書籍や漫画合ってそうすね
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