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遅くなりごめんなさい。
あれから食事を取ってアタシは先に家へ帰った。右手から流れる血を手で押さえながら血まみれの手で玄関のドアを開け部屋に戻る。
「あとで血とか拭かないとな」
そう零しながらコンビニで買った包帯や絆創膏を使い出来るだけ血を止める。魔法での治療では傷が塞がらない。だからこうした道具を使って物理的に血が流れないようにしなければならないからだ。
「でも、少しずつ血が止まって来たかな。――さて、どうしよっかな」
ズキズキと痛む右手を見ながら考える。何かがおかしい。怪我をしたとき何も思わなかったけど、よく考えればアタシがあの程度で怪我をするということ自体がおかしいのだ。だというのに怪我をした時、何もおかしいと感じなかった。
「思考操作をされるって感じ? 意味わかんない」
精神系魔法とかも効いたことない。魔法がないこの世界で向こうの世界以上の魔法が存在するわけないし。となると――どう考えてもたどり着く答えは1つだけだ。
「――魔法と呪いって相性悪いわけ?」
そういえば礼土も呪いは面倒だって、地球での武勇伝をねだった時に言っていたような気がする。失敗した少し甘く見過ぎてたかも。
そもそもどういう理由で怪我しているのか分からないのが厄介だ。攻撃されている様子はない。ただ何故か怪我をしている。原因が分からないのに対処方法を見つけるってどうすればいいのよ。
「はあ。礼土もまだ戻ってこないし……仕方ないなぁ」
アタシはPCの電源を付け、ネットを立ち上げる。目的は例の呪いの動画をもう一度見る事だ。既に呪いに感染している身なのだし、何度見ても変わらないはずだ。出来ればヒントが欲しい。そう思っているとディスコードに個人チャットが来ていた。テロテロさんからだ。
テロテロ:この間はコラボありがとう! それでこんなことを聞くのはすごい心苦しいんだけど、例の呪いの件……。その頼りになりそうな人って話どうなったかな?
「はぁ。そうだよね……テロテロさん、アタシより先に呪いを受けてるんだもんね……。だめだ、潔くごめんなさいしよう」
ネム:テロテロさん。そのごめんなさい。アタシの知り合いの凄腕の霊能者なんだけど、まだ前の依頼の仕事から戻ってきてないの。アタシなりに調べてはいるんだけど
そう送るとすぐに返事が返って来た。
テロテロ:ネムちゃん、わざわざありがとうね。そっか、悪いんだけどその人と連絡着くようになったら教えて貰ってもいいかな? あとこの呪いのやつ洒落にならないから調べない方がいいよ。
「あーごめん。もう遅いんだよなぁ」
そうぼやきながらアタシはチャットを返す。
ネム:ははは……。ごめん、実はアタシの方でも調べてるうちにその動画みちゃって……。
テロテロ:え!? まさかネムちゃんも怪我し始めてる?
ネム:――うん。ごめんね、かっこよく解決したかったんだけど。
テロテロ:こっちこそごめんね。私のせいで巻き込んじゃって……実は私が通ってる大学にそういう奴を調べてる人がいてね。ちょっと話を聞いてみようと思ってるんだけど、よかったらネムちゃんも一緒に行かない?
確かテロテロさんは都内に通っている女子大生って話だったっけ。学校内に呪いを調べている人がいるって事なのかな。
ネム:それって今回の呪いについて調べている人がいるって事?
テロテロ:ちょっと違うかな。まだ1年生何だけど、元々オカルト系サークルで活動している人で、霊能力が使えるようになってから呪いも使えるようにならないか研究している人がいるの。だから多分今回の呪いの件も絶対調べてると思うんだ。
何もしないよりはマシって感じかな。少しでも何か手掛かりを集めないとじり貧になりそうだし。
アタシはそれを了承して、翌日テロテロさんと会う約束をした。
目が覚めるとそこは電車の中だった。当然電車に乗った記憶なんてない。揺れる車両、まばらに人が乗っている電車の中をゆっくりと見回す。
状況がつかめない。変わった夢だと思いつつ流れる風景を見ていると段々と頭が覚醒していく。夢、そうだこれは夢だ。ああ、思い出した。これは呪いの夢なのだ。既に3回目の夢、これでアタシは理解した。どういう理屈か分からないけど、夢から覚めるとアタシはこの夢の事を覚えていない。そして夢であの女に触れた場所が、現実のアタシは怪我をしている。
アタシはもう一度周囲を見渡す。例の女はどこにもいない。座っていた座席から立ち上がり、もう少し周囲を確認しようと思った時だ。
「くそッ! またこの夢かよ!!」
「今度は電車!? うそでしょそれじゃ逃げられないじゃない!」
「くそ、次の停車駅で降りるしかねぇぞ」
次々と電車に乗っていた乗客たちが騒ぎ始めた。そしてとあることにアタシは気づく。もしかしなくてもここにいる人全員が呪いの動画を見た人ってこと?
「ねぇ、誰か呪いの事を詳しく知っている人――」
そう言いかけて電車が大きく揺れた。金属の叫び声のような高音が鳴り響き、電車が揺れる。立っていた人達もその揺れに耐えきれずバランスを崩し倒れていった。アタシは足腰に力を入れてバランスを取りながら進行方向へ視線を向ける。電車の連結部分にある窓には次の車両が見える。そしてその車両には誰もいない。
――いや、1人いる。割れた窓ガラスの上に、長い髪を床まで垂らすあの例の女だ。
「の、呪いだ! 逃げろぉぉおおお!」
「いやだ、次捕まったら死んじまう!!」
「早く、早く向こうの車両へ!」
パニックを起こしながら逃げ叫ぶ人々を見送りながらアタシは考える。
「ようは直接触らなきゃいいのよね」
手に力を込め、座席部分の手すり部分の金属パイプのような物を引きちぎる。手ごろな長さの得物となったパイプをアタシは構えた。
「武器とか使った事ないけど、試してみようかしら」
これは実験だ。あの女に触れられず、起きる事ができれば怪我をしないかもしれない。現実のアタシに記憶を引き継げないのなら、夢の中でのアタシが頑張るしかないじゃない。