閲覧注意2
「やった! 勝った!!」
「おお! 流石魔王様だな」
アタシはキーボードでggとチャットに打ち込む。随分とFPSというゲームにも慣れてきた。最初はキーボードでのキャラコンに随分苦戦し、見えている敵に散々撃たれ、何度も悔しい思いをしたものだ。ただエイムは数回でほぼ正確に合わせられたからあとはゲーム自体にひたすら慣れるようになるのが目標だった。
「いやーテロテロさんが教えるの上手いからだよ」
「いやいや、何度も近距離スナイプできるネムちゃんのプレイヤースキルが高すぎるだけだよ。普通アサルトライフル相手に、スナイパーライフルで、且つ近距離で無双する意味わからないからね?」
現在、アタシは個人Vtuberテロテロという女性Vの人とコラボ配信をしている。DMで誘われ、軽い気持ちでOKをしたのだ。
テロテロさんは登録者4000人ほどで当たり前だがアタシよりも多い。最初は緊張もしたが配信で流れるコメントもアタシをほめてくれるものが多く、ようやくゲームに勝てるようになったという事でようやく緊張感がなくなってきた。魔王時代より緊張したかもしれない。
「いや、だって頭撃てばかなりダメがでるんだよ? 一対一なら一発が強いスナイパーの方が強いって」
「いやいや。意味プーだよ」
「そうかな?」
「そうだよ。あれ、そういえばそっちの配信名物のイケメンお兄さんとか超絶美人のお姉さんとかはゲームしないの?」
「いや別に名物じゃないからね……」
礼土もアーデも何度注意しても勝手に部屋に突撃してくる。特にアーデだ。配信をしていると言っているのに、何を勘違いしているのか適当な理由を作って覗きに来る。そのせいでリスナーである背信者の人たちもこの乱入騒ぎを楽しんでいるようなのだ。
「そっか。ちょっと話してみたかったかな」
「もう勘弁してよ……。そういえばテロテロさん今日は調子悪かったりする?」
「え、なんで?」
このテロテロさん。かなりゲームがうまい。特に今やっているFPSゲームの大会に参加したりするレベルである。勉強のために何度も動画もみたくらいだ。ただ今日は妙に動きの精細さが欠けるように感じた。なんというか反応が妙に遅いのだ。
「いつもなら別パが来てもすぐ反応しているのに、今日は撃たれることが多かったでしょ」
「おおー。よくわかるね。マジでネムちゃんってリアルチートだったりするのかな」
「いやいーそういうの別にいるからさ」
「あれ、そんなチートキャラみたいな知り合いいるの?」
チート、バグ、そんな言葉を聞いて思いつくのは1人だけだ。
勇実礼土。戸籍上アタシの兄であり、保護者。アタシが今まで生きていて唯一絶対に勝てそうにないと思った人物だ。アタシも大体強い強いと言われてた方だけどアレを知ってしまうとアタシもまだまだだと思ってしまう。
「いるいる。ミサイルで撃たれても死なないような人が」
「はっはっは。それは流石に死んじゃうよ」
いや、傷もつかないと思うんだよね。ていうかその程度ならアタシも無傷の自信あるし。
「へぇ。いるもんだね、そんな超人」
「いるいる。んでどうしたの?」
「ああ。えーっとね、どうしたもんかな」
ヘッドフォンからテロテロさんの少し困惑した声が聞こえる。どうしたのだろうと思っていると画面に流れるあるコメントに目が留まった。
「例の動画の事? ってコメントで言われてるよ」
「ああ。そういえば、昨日の雑談で言っちゃったか。実はね……」
ロビーでゲームキャラクターが待機モーションをし始める。それを見ながらアタシはテロテロさんの話に集中した。
「ネムちゃんは、山Gの呪いの動画って知ってる?」
「山G? いや知らないかも」
「ははは。ネムちゃんはそういうの興味なさそうだもんね。ちょっと昔ならともかくほら、今って普通に霊がいるじゃん?」
「う、うん」
といってもアタシはあまり霊を見たことがない。礼土曰く保持している魔力が高いせいで弱い霊の気配が分からないらしい。だから礼土の実験とか、アーデの護衛をしているあのじっちゃんくらいしか実は見たことがないのだ。
「でね、ちょっと前に山Gっていう結構有名な配信者が所謂見たら呪われる系のものを配信でばらまいたらしいのよ」
「なにそれ、へんなの」
「そうだよね。私も霊は見えるけど、呪いとか見えないじゃん? だからうっそだーと思って、ネタになると思ってその動画みちゃったんだよね」
ちょっと待って。この流れってもしかしてそういう事かな。
「あのー話の流れ的にそれってもしかして……」
「うん。それが原因か分からないんだけど、あれ以降急に怪我が増えたんだよね。今日も手首に内出血みたいな感じになっててちょっと痛いんだ」
あれ、思ったよりそこまでひどくないのかな。
「ただね――ちょっと怖い話になるんだけど、あの動画をみた視聴者の人もネットで呟いてるんだけどみんな怪我してるらしいんだ。でねホントかどうかわからないけど、その動画を見て10日くらい経った後死んじゃった人がいるんだって」
「そういう噂があるの?」
「いや、どうもマジっぽいよ。だって動画を配信した張本人が死んじゃってるくらいだし。ほら最近不審死の事件多いでしょ?」
そういえばアーデが見てるニュースでそういう話を聞いた気がする。全身が原型を留めない程破損した死体が見つかってるって。
「いや、参ったよ。面白半分で見るんじゃなかった。見えないから呪いなんてないでしょ、なんて思うんじゃなかった。霊がいるくらいだもん、呪いとかもありそうなものなのにね」
随分声が沈んでいる。テロテロさんを心配するコメントも多い。よし、色々親切にして貰えたんだしここは人肌脱ごう。正に専門にしてる奴がいるのだ。依頼料はポッキー渡せば何とかなる。
「うん、任せてよ! アタシの知り合いにすごい霊能者いるからどうにかできないか聞いてみる!」
「え? ネムちゃん!? いや無理しないで大丈夫だよ。自業自得だし。それにこれ呪いであって霊じゃないのよ。だって霊が憑りついてる気配もないんだよ」
「大丈夫、大丈夫! あいつなら何とかできるはず! よーし、じゃ配信終わり!」
「あ、ちょッ!?」
アタシは通話を切り、配信も停止した。そして立ち上がり、リビングへ急いで移動する。
「アーデ! 礼土は? どこにいるの!?」
「家の中とはいえもう少し静かにできないの? というか背信はもういいのかしら」
「配信はもう終わったよ」
「そう。いくら宗教が自由な日本とはいえ、あまり人の信じる神を裏切る行為というものは……」
「ああ。そういうのいいから。で、礼土はってッ!? あ、あなたは……」
ちょうど玄関へ向かう途中のスーツ姿の男性がいた。アタシはその人物に見覚えがある。
「た、田嶋さん。なんでここへ……」
「おや、ネムさん。お久しぶりですね。実は近くへ用事があったもので、だから礼土さんへ珍しいものをお渡しにきたんですよ」
額から汗が流れる。先ほどのコラボとはまったく違う緊張感。そうだ、これは礼土に叱られるときと同じ部類のもの。すなわち恐怖。
よく見ればアーデの顔色は真っ青になっている。そして隣に座っているケスカが何故か夢中でチョコレートケーキを食べている。間違いない、この田嶋の襲撃をアーデとケスカで戦ったのだ。
「へ、へぇ。お土産ですか。そ、それはぜひ礼土に飲んで貰わないとなぁ」
声が上ずってしまう。
「おや。よく飲み物だとお分かりになりましたね」
「いや。そりゃもう……」
「ネム。背信で喉が渇いているでしょう。ほらこれで喉を潤すといいわ」
いつのまにか背後を取られている。馬鹿な、気づかなかったわ。ゆっくりと振り向くとアーデは1つのペットボトルを持っていた。英語のラベルでなんて書いてあるかわからないが、透明な液体というところを見ると例の危険物ではなさそうだ。ミネラルウォーターの類かしら。
「それって水?」
「ああ。それは――」
「ええ。お水よ、ネム」
何故か田嶋の声をアーデが遮った。
「さあ。頂き物よ。まさか――」
まるで亡者のような瞳をしたアーデの唇が動く。その口はこう言っている。「逃げるのか」と。
「あ、あんた仮にも聖女って言われてたんでしょ? 道連れにしようっての?」
「何のことかしら。私はただどこにでもいる普通の女よ。それに同じ境遇を乗り切ることが連帯感を強めるのに必要だと思わない?」
この女……何が水だ。絶対水じゃない。確信したわ。田嶋の方へ振り向けば楽しそうに笑みを浮かべている。この男、この状況を楽しんでいる? ふざけるな、人が苦しむさまを見て楽しむなんて。
「さあ。どうぞ」
アーデはキャプを外し、ペットボトルを手渡してきた。震える手でそれを受け取る。そうだ。まだアレと決まったわけではない。もしかしたらここまで脅しておいて普通の水という可能性もある。そうよ、アレなら黒く濁るはず。だけどここまで透明なんだもの。きっと――。
「~~~~~~~~~ッ!」
「面白いでしょう。それはクリアコーヒーといって最近発売された珍しい無色透明なコーヒーなんです。むろん、皆様へ何度もプレゼントしているコーヒーよりは味が劣りますが、それでも今界隈で注目されている商品なんです。ええ。まさか涙を流して喜んでくださるとは持ってきたかいがありました。一緒にお持ちしたチョコケーキと一緒にぜひ味わってください。では、礼土さんにどうぞよろしく」
そういって笑顔の田嶋は去り、アタシは誓った。
このコーヒーを水だと言って礼土に飲ませてやるのだと。
お待たせしました。仕事がかなり立て込んでおり中々時間が作れませんでした