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天空墓標7

 第2階層。1階層とは違い一本道ではなくいくつもの道が交差している通路がある。鮫田さんはこれを蜘蛛の巣と現したが個人的にはあみだくじみたいだと思った。鮫田さん曰くただまっすぐ進めばいいとの事。例のごとく先は見えない。恐らくここも1階層と条件は一緒と考えていいだろう。

 俺は先ほどと同じように目を瞑りながら四つん這いになり進んでいく。この姿勢にもなれた影響で1階層よりは進みがいいと思う。あとは――。




「勇実さん。1m先にT字で別れています。右へ進んで下さい」

「わかったよ」



 福部の蟲によるナビのお陰というのもある。基本的に進む方向ははっきりしているが、それでも最短の道というのは当然ある。出来るだけはやく直進できるルートを福部に選んで貰い、俺達は進んでいた。



「鮫田。ここはどのくらいで前回踏破したんだい」

「同じくらいだ。とはいえペースは結構早いしこの調子なら……ほら見えてきたぜ」

「なるほど。順調だわ――ここまではね。確か前回の攻略隊が挫折したのは次の階層だったよね?」

「ああ。前回のミーティングの時に軽く話した通りだ」




 ミーティングの時の会話を思いだす。確かゆっくりではあるが第2階層までは踏破出来たと言っていた。当然道中の犠牲は決して少なくない数字ではあったそうだ。だが第3階層へ到達した時点で鮫田さんを含めて6人はいたそうだ。





 そして3人が落ちた。


 


 それを見て残りのメンバーは撤退を決意したという。




『第3階層には1や2にあったような細い通路すらない。あるのは円柱型の足場だけ。おまけに訳の分からん石像みたいなのが徘徊してやがる』




 鮫田さんはそう言っていた。通路がなく円柱の足場だけ。つまりジャンプして飛ばなければならないという事を意味している。では、その石像みたいなのってのは何なのか。鮫田さんもそこまで到達する前に撤退を始めたという事なので分からないらしい。



 俺は起き上がり目の前の光の渦を見る。第2階層は何も問題なく突破出来た。つまりここからが本番っていう訳だ。






 渦に触れ光に包まれる。そして光が収まったのを感じ俺はゆっくりと目を開いた。





「全員注意しろ! 前回はここで下を見て2人連れてかれたんだ!」

「何だい、こりゃ……」

「……第3階層。ここからは俺も詳細はわからん。慎重に行くべきだ」




 目の前に広がる景色は確かに聞いていた通りだった。視界の端から僅かに見える白い円柱が宙に浮いている。通路ではなく、ただの円柱が浮いているとなれば思わず下を見てしまう気持ちも分かる。だがそれ以上に存在感を放っているのは全長十数mはあると思われる剣を持った白い石像だ。両手で剣の柄を握っている。まるで漫画やゲームに出てくる神殿の守り神みたいだ。




 そしてすべて移動している。数はここから見えるだけで6体。円柱の間を縫うように動いているようだ。上下動がない所を見ると当たり前だが浮いているのだろう。仮にあの巨大な剣を振り下ろされた場合、下手しなくても足場諸共破壊される可能性すらある。





 だが俺はそれ以上に、気になる事があった。

 





「鮫田さん。前回ここへ来た時も同じでしたか?」

「あ、ああ。そうだがどういう意味だ」

「いえ、俺達がここへ突入したのは確か午前中の事です。第1階層で続いたとはいえ、精々数時間という程度のはず」

「そうだな。そのくらいだ」

「なら既に空が夕焼けになっているのは何故でしょうか」

「え? 確かに言われてみれば少しオレンジ色に染まっているか」



 そう。僅かだが地平線が夕焼けにそまり始めている。




「外と中で流れる時間が違う可能性もありますが……鮫田さん。前回の攻略時帰る時に通った第1階層の空は何色でしたか?」

「青だったはずだ――まさか」

「ええ。ほぼ間違いないと思います。恐らく上に行けば行くほど、時間帯が夜になっていくのかもしれません。その場合問題なのは……」

「明かりか!」




 そう。もし最上階へ到達した時既に完全な夜になっていたとしたら。第3階層でこれなのだ。まともな足場があるとは思えない。ただでさえ下を見る事が出来ない状況で夜になってしまえば完全に足場を見分ける事が困難になる。

 この領域内では俺は魔力を外へ出すことが出来ない。つまり光魔法を使う事が出来ないという事。夜目は効く方だがこの環境下でどこまで行けるかわからんな。




「くそ! そうなると確かにランプがいる。一度戻って体勢を整えるべきか?」

「個人的には賛成だけど、私たちよりも勇実さんの方が問題でしょ? どう、戻った方が良さそうなら一度帰りましょ」

「そうだね――福部、蟲って偵察以外にも作れるかな」

「え、ああなるほど。はい! 微量な光源でもいいのであれば僕の蟲で作れます」

「蛍くらいの明かりがあれば十分だけどどうかな?」

「それなら大丈夫です。それよりは明るく出来ると思います」

「そうだな。現状あくまで仮説にすぎねぇ。だが一応備えを用意できたのは幸いってとこか。んじゃ予定通り行くとしようじゃねぇか」




 とはいえ問題はあの石像か。足場の跳躍程度なら問題ない。一度見ればある程度位置は覚えられる。ただどう進めばいいのかが問題か。




「鮫田さん。前回はここを飛んで移動したことは?」

「残念ながらない。だからあの石像が俺達に反応する可能性も十分あるぜ」

「なるほど。だったら仕方ないですね。俺が先行します。一度あの石像が何なのか様子をみましょう」

「おい!? 気を付けろよな!」



 俺は跳躍して白い足場へ飛んだ。着地し足場に触れる。触った感触だけなら石に近い。あの通路と同じ感触という事は材質も一緒という事か。俺は目を瞑りながら円柱の端部分に手を添え、全力で足場を指で掴んだ。




 

 ――しかし。




 ()()俺が全力で指に力を入れても破壊出来ない。思ったより随分硬いな。

 この領域内で俺は魔力を外に出すことが出来ない。だが体内で作ることはできる。だから肉体の能力を向上させることは可能だ。だが本当の全力での肉体強化ではない。なぜなら本気で肉体強化をしようとすると魔力がどうしても溢れ出てしまう。いくら領域で抑えられているとはいえ、俺が全力で魔力を漲らせれば領域自体が崩壊するのはあの実験で学んだ。




「今できる強化はせいぜい6割くらいか」



 あの石像が同じ材質で出来ていた場合、少々面倒だな。まあ指で摘まんで壊せなくても殴って壊せれば問題はない。いざとなればあれとやり合う事は考えた方がいい。





 俺は跳躍して進むともうすぐ近くにいる石像と接敵する。その時だ。





 距離にしてあの石像から10mは離れた場所で着地した。その瞬間、凄まじい速度で石像の剣は振るわれた。後ろで見ていた鮫田さん達の上げる声よりも早く放たれたその斬撃は俺の身体へと命中する。それを敢えて受けた俺はそのまま吹き飛ばされ足場のある場所から離れた方向へ飛んでく。


 

「勇実さんッ!!」



 悲鳴に近い声に対して俺は下を見ないように気を付けながらみんなに答えた。

 

 

「大丈夫です、あとうおさん! 足場お願いします!」




 俺がそう声を上げると少し遅れて俺の周囲に幾重もの足場が形成される。吹き飛ばされた方向が上の方だったからうおさんの視覚の範囲で少し安堵した。最悪強引に戻ることもできるが出来ればやりたくない。

 俺はそのまま足場を思いっきり蹴って飛ぶ。その反動でうおさんの作った足場はガラス細工のように粉々になって消えていく。そんな中で俺は先ほどと同じくらいの速度であの石像へ接近した。



「ん?」




 てっきり空中にいる俺を迎撃するもんだと思ったが石像は俺の方へ見向きもしない。俺はそのまま身体を回転させ、回し蹴りを石像の胴体へ放った。



 俺の足が直撃し、石像に無数のひびが入っていく。そして胴体は爆散し粉々になっていく。胴体が砕け落ちていく石像は光となって消えていった。





 そしてまたすぐに空から現れた新たな石像は円柱の足場に立っていた俺へめがけてその大剣を振り下ろす。落ちてきた刃が当たる瞬間、それを右腕で弾くと軌道がそれた斬撃は他の足場を砕いていき、それらも光となって消えていった。


 一度振り下ろした大剣を石像は再び振りかぶり、もう一度俺へ向けて今度は薙ぎ払おうとしてくる。次はそれを俺は片手で受け止めた。足に力を込め、今度は吹き飛ばされないように踏ん張る。だが僅か数mしかない足場ではあまり踏ん張れず単純な質量で吹き飛ばされそうになってしまう。

 こういう時、魔力で空を飛ぶのと同じ感覚で身体を支えられればいいんだが、あいにくそれは出来ない状況だ。仕方なく俺は受け止めていた刃を避けるように跳躍してよけて一度石像から距離を取る。




「――なるほど。追ってこないと」




 先ほどまで猛攻を繰り広げていた石像は他の石像と同様にまた剣を構え徘徊するように移動を開始したのだった。

 

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― 新着の感想 ―
レイド以外にとってクソゲーでしかないやんこんなん
[一言] 全長十数mの石像が振るう剣を受けたり反撃したりしてる… 鮫田たちはどのような反応をするか楽しみです笑
[一言] 幽遊白書で言うテリトリーですね ルールを守っていれば能力が使えるのがせめてもの救いですか…
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