悪霊ゲットだぜ
あれから俺たちは家に戻りリビングへ集まっていた。ケスカはソファーへ寝かせ、俺達は今後の話し合いをしている。いや正確に言うと俺とアーデが、だ。ネムは同じテーブルを囲んでいるがずっと漫画を読んでいた。
「今後の方針だが、まず霊能者免許の取得を優先でいいのか?」
「ええ。少なくとも礼土と私は取った方がいいでしょう。ネムは――後で考えればいいかなと」
「一応ざっと試験を調べてみたがやはり問題はこれか」
そういうとテーブルの上に載せられたスマホを指で叩く。そこには霊能者免許資格の取得についての内容が書かれていた。
試験は2つ。1つ目は筆記試験。これは基本2択の〇×問題らしい。バイク免許以来の勉強という訳だ。これは教材が沢山出ているから問題はないだろう。2つ目は実技試験。幸い内容は簡単のようで霊能力を使い自分の能力を測定する程度らしい。一瞬漫画みたいに試験官と戦う事を想像していたから少し残念である。
「流石にこの実技をどう乗り切るかだよな」
「そうですね。とりあえず魔法でごまかせるラインを見極める必要があるでしょう。その辺りの情報収集は私の方で行います。礼土には別の仕事をお願いしてもいいですか」
そういうとアーデは付けていた指輪を外し、それをテーブルの上に置いた。
「この指輪には霊が封印されている。という認識でよろしいのでしょうか?」
「いや、少々強引に魔力で包み、この指輪の中へ押し込めた感じだ。道行出れるか?」
そういうと指輪から黒い煙が放出され人の形へと形成されていく。全身黒いシルエットに身を包んだ武者が外へ出てきた。
『さて、何ようかな勇実殿』
「紹介しておこう。陸門道行。ちょっと以前に知り合った霊だ。道行、こっちは俺の家族だ」
そういって簡単にアーデとネム、ケスカを紹介する。
『承知した。それで儂の仕事は何かね』
「アーデの護衛だ。この中で戦闘能力がないのはアーデだけでね」
『む? そこの2人は良いのか? まだ子供であろう』
そういうと道行はソファーで寝ているケスカの方へ視線を向ける。言いたいことは分かる。道行は特に幼子に対し守護意識が強いからな。だが心配はいらないだろう。
「心配しないでいい。ネムもケスカもお前より強いぞ」
『何と。それは真か?』
流石にすぐ信じられないか。まあ二人とも見た目子供だしな。っていうかケスカに関しては見た目小学生だし。だけどその2人は人間に転生したといっても、潜在魔力から考えるに以前の能力は殆ど継承していると見ている。ケスカの方は実験しないとどこまで違いがあるか分からないが、あの魔力量から考えて弱い訳はないだろう。
「おう! アタシは強いぞ! シュッシュッ!」
何故かシャドーボクシングを始めるネム。気のせいかこっちの世界に来て随分幼くなったような気がする。それともこっちが素なのだろうか。
『いや、信じよう。確かにお二人には並々ならぬ気配を感じる。では儂はそちらの姫の護衛をすればよいのだな』
「ああ。それで頼むよ」
ひ、姫? アーデの事か。あんまりそんな感じじゃないと思うんだがまあいいか。
「さて、礼土。これと同じものを作れますか?」
「霊を閉じ込めた指輪か。確かにまだ指輪はあるけど」
とはいえあと1つ。以前はカッコつけて色々持っていたが、爺に投げたりして消費してしまっている。
「まさか同じ事をやれって?」
「ええ。そうすれば霊力を偽装出来るのではないかなと思います」
「……そりゃさっきの件を考えれば可能かもしれないがなぁ」
どうなんだろうか。これは立派な詐欺なのではないか?
「少なくとも装備品によって霊力を増加させることは法令には違反していません。調べましたから」
「――なるほど。あとは捕まえる霊を探す方法か」
「貴方の懸念も理解出来るわ。でもそれは大丈夫だと思うの。道行という霊を見てある程度確信しました。恐らく私たちの魔力のせいで弱い霊は感知できないんじゃないかしら」
いや、それも少し違う気がする。以前なら弱い悪霊だって感知出来たはずだ。いやそうか。
「この世界自体が変わったからか」
「どういう事かしら?」
「以前は人に干渉する程強い霊ってのは悪霊しかいなかった。だから弱い悪霊であろうともその異物感から感知出来ていた。だが今の世界は違う。すべてが平等に霊力を持つようになった。だから弱い霊だと俺達からすれば埋もれてしまう。だから感知できない。つまり――」
アーデの目を見ながら俺の結論を言った。
「俺たちはある程度強い霊しか感知できない」
「でもそれなら方向性は見えてくるわ。私たちが気を付けなければならない点もね」
「ああ、そうだな。外出する際は細心の注意を払った方がいいだろう。少なくともネムはしばらく単独での外出は禁止だな」
「えぇ!? なんでよ!」
スマホから顔を離してこちらを驚いた様子で見てくる。こやつ話をどこまで聞いていたんだ。
「言った通りだ。お前がポカする可能性がぬぐいきれん。しばらくはここで漫画読んでてくれ」
「ええー!? なんかつまんないなぁ」
「とりあえず一ヵ月は我慢してくれ。俺達も手探りなんだ」
「アーデと一緒ならいいんだよね?」
「ああ。それなら心配ない」
「じゃあそれで我慢するか……」
さて、方向性は決まったな。であれば出かけるとしよう。幸いもう日も落ちてきたしな。
「気を付けて下さい」
「おう。適当に捕まえたら戻るわ」
そういって上着を着て窓へ向かう。夜なら魔法を使って移動しても多分大丈夫だろう。
「あ、そうだ。道行。この辺に強い霊とかいないのか?」
『この辺りだと一通り儂が切り殺してしまったぞ』
おい、まじかよ。
「他は? 別の県でもいいんだぜ」
『そうさな。今は人に恨みを持つ霊が多い。質はともかく量はおるはずだ』
なんじゃそりゃ。仕方ない。適当に悪そうな悪霊を見つけて適当に指輪に閉じ込めてみるかね。




