開闢の宙3
城砦都市テセゲイト。
現在は地上から数十キロ上空を浮遊している大陸である。元々は魔人キノルの施した重力魔法により地上から切り離され未だ浮遊しているのだが、いつ落ちるか取り残された人々は気が気ではなかった。
このテセゲイトはミティスとヤマトの戦いによって魔人を退けたが、この浮遊状態がいつまで続くか定かではない。そのためミティスは一度報告と継承のために帝国へ戻り住民の避難を任されたヤマトは独り残ってそれに対処していた。
「ヤマトさん! これは!」
テセゲイト警備部隊隊長であるサンガは少し怯えた表情を見せている。それを見ながら僕は唇を噛みながら必死に考えを巡らせていた。
(どうして急にこの大陸が移動し始めたんだ?)
最初は気のせいかと思った。だが見える景色が少し変わり、違和感が確信へと変わった。この大陸は移動を始めたと。帝国本部へ連絡を取ろうにも何故か通じない。何があったのだろうか。
「サンガさん避難状況は?」
「は、はい。まだ数百人ほど残っておりました。恐らく搭乗者数を無視したとしても後数回は必要かと思います」
ミティスさんが帝国に戻ってから入れ替わりとして帝国の魔力駆動型飛行船を十数船ほど駆け付けてくれたため、少しずつ住民を下の大陸へ避難をしていた。だが大陸が移動を始めたとなるとその避難活動が少し面倒なことになるかもしれない。
「こちら六柱騎士ヤマトです。飛行船での着陸は可能でしょうか?」
『――こちら第12飛行部隊です。テセゲイトの移動速度より本船の方が移動速度が速いため少々時間はかかりますが追い付き着陸は可能かと思われます』
良かった。少しノイズが混じっているがこちらは通じるみたいだ。
「わかりました。では、引き続き、避難の方を――」
『な、なんだあれは!?』
「どうしました!?」
通信用魔道具で通信していたところ、何か向こうで異常事態が起きたらしい。
『魔物だ! 見た事がない魔物が凄まじい速度でテセゲイトへ近づいてきている!』
魔物だって? まさかキノルがまたやってきたのかな。とはいえ考えている時間はない。少しでも時間を稼がないと。
「僕が出ます。少しでも早く救助の再開を」
『承知した。ご武運を……』
通信を切り、サンガへ視線を戻す。
「サンガさん。魔物の襲撃のようです。僕は迎撃にでますので、引き続き避難誘導、そして飛行船が来たらすぐに乗り込んで下さい」
「了解しました。ヤマトさんもどうかお気をつけて」
「はい!」
そう返事をして僕は走り始めた。既に半壊状態の都市で所々穴が空いており、そこから地上が見えている。身体を魔力で満たし身体強化を施して僕は飛行した。
「ルクス。魔物の数は分かるかな?」
【そのまままっすぐの方角から数百くらい飛んできてるわよ。でも大丈夫。私たちなら倒せるわ】
心強い。契約している大精霊の言葉に勇気づけられる。そのままテセゲイトから離れ雲を突き抜けてさらに速度を上げ、見つけた。
「――翼が生えたゴブリン?」
ドラゴンのような翼を生やしたゴブリンの集団がいる。確かに数は多い。既に疲弊しているテセゲイトへ侵攻されれば被害は計り知れない。
「光の刃をッ!!」
【任せて!】
僕は人差し指を一本伸ばし真横へ線を引くように払った。それが空中に一瞬光りが走り、その直線上にあるすべてを切り裂く。真横に放った光刃によってこの新種のゴブリンは一気に数を減らし、海へ落ちていった。
【流石、ヤマト! どんどん行きましょう!】
ルクスと契約してから光属性の魔法以外をほとんど使っていない。いや正確にいえば他の属性を使うとルクスは怒るのだ。浮気者と。そのため必要がない限りは出来るだけ光魔法だけを使うようにしている。とはいえルクスと契約して光魔法が断然強くなったため、これといって不自由はしていない。
残りのゴブリンたちも同様に光刃で切り裂き、ものの数秒で数百体近いゴブリンを全滅させた。なんとか襲撃を回避できたことを安堵していた。その時だ。
「あら。思ったより早くリベンジの機会に恵まれちゃった感じ?」
その声が聞こえた瞬間、僕は海へ落とされた。