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狂乱水城のルクテュレア14

 思い付きだった。この世界で殺せないなら違う場所に連れてけばいいのでは? という発想から今回の戦法を考えたわけである。

 某石仮面で有名な吸血鬼みたいに外へ放り出すって戦法もありなのかもしれんが、転移出来る以上確実とは言い難いし、とりあえず試してみようと思う。



 宮殿内に侵入した。いたるところで使用人のような連中が忙しなく働いている。とりあえず片っ端から気絶させていく。一応ケスカの気配を感じるが妙に魔力が大人しい気がする。多分寝ているのだろう。以前鬼ごっこをした時にも思ったのだが、あいつ自身、基本寝ている事が多い印象だった。もっとも俺から本格的に逃げるようになってからはそんな様子もなかったんだが。

 だから今回も寝ていると見ていいだろう。それなら好都合だ。下手に起きていると強引に事を進める必要があるからね。


 使用人を気絶させながらスニーキングミッションのように進んでいき、ようやくケスカの元にたどり着いた。

 魔力を出来るだけ抑え、寝ているケスカの横に立つ。



 このまま起きるのを待って、目の前でおはようと言えばこいつは驚くんじゃないだろうか。



 そんなことを一瞬考えたが、やめた。さっさと準備にかかるとしよう。寝ているケスカに本当に僅かに俺の魔力を付着させマーキングする。これでいいだろう。

 


 思い出すのはいつかの学校の出来事。区座里は面倒な男だったが勉強になった相手でもある。必要な物は膨大な魔力。正直光魔法とか関係ない、ただ純粋な魔力を用いた強引な術だ。

 あの時を思い出せ。空間を俺の魔力が侵食し、領域内を支配し、構築していく感覚。


 


「”極光霊耀(きょっこうれいよう)”」



 

 俺の魔力が空間を圧縮し、空間を作り替えていく。前回は既に完成した土台を奪った形だった。だが今回は違う。俺が1から構築した領域になる。はたして上手くいくか若干不安もあったが完全に空間が閉じた感覚を得て成功を確信した。



 やれば出来るもんだな。まあ魔力の半分吹き飛んだが。さてターゲットはどうなったかなと思い寝ているケスカに視線を移すと、うなされているようだがまだ目が覚めていない。……意外に図太い性格してんだな。



 さて、どうしようか。俺の目論見通りなら外界から隔絶されたこの空間内であればケスカの不死性は消えていると思うんだよな。なんせケスカの不死性はあの世界が証明しているから実現出来ている法則のはずだ。ヴェノの言う通りなら完全に世界から切り離されたこの空間なら消滅させれば死ぬと思う。

 


 

 

 ――だが、だ。俺は重大なことに気がついた。






 俺がこの領域を作ったのは2度目。一度目は区座里を逃がさないようにするために出来上がった領域を乗っ取った。そして今回で2度目になるわけだが……。





 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「これは……伝承霊か?」




 俺が今まであった伝承霊。そして俺の知らない伝承霊。その記録というか情報が何故か俺の頭の中にある。まさかと思うが。



 俺はケスカの寝室から廊下に出て、玄関に向かう。そして玄関の扉を開けるとそこには学校の廊下が続いている。そのまま廊下を進み、実験を行ってみた。




「……なるほどね」




 目の前にいる八尺様、リンフォンの動物、そしてテケテケという知らない伝承霊。



「なんか召喚できるな……」



 それぞれが持っている能力も再現できるようだし、単純に戦闘をさせる方法も取れるみたいである。

 ふむ。――思い出すのはケスカの寝室で考えた悪戯。




「せっかくだし脅かすか」




 そうしてセッティングした。ケスカが起きるまでの間に、出来るだけお化け屋敷やホラー映画などを思い出しどうすればあいつが驚くだろうかと考える。うん。思ったより楽しい。やっぱり祭りの前の準備って大切よな。


 

 

 そうしてケスカが目を覚ましたことに気付く。驚いてくれるだろうか。そんな期待に胸を躍らせて待機していた。今回の領域はケスカのいた屋敷と学校を無理やり組み合わせた形に構成してある。出来ればケスカが学校の廊下に来たタイミングで屋敷の方は消してしまおう。その方が怖いだろ。


 見た目のインパクトがかなり強いテケテケを配置するとして後は演出でどこまで脅かせるかだな。そう考えていると、やっと学校の廊下に足を踏み入れてくれたようだ。よし、お決まりの電灯チカチカをやっておくとするか。




 暗闇から突然血の槍が降ってきた件について。


 いやびびったね。普通魔法ぶっぱなす? いや使えるなら使うか。洋画ホラーでも銃持ってれば撃つもんな。でもお決まりがあるだろう。いきなり演者がお化け倒しちゃだめよ。いやあの程度の魔法は効かないからいいんだけどさ。


 しかし、どうやら電灯チカチカと足音作戦はうまくはまったようでなによりだ。あいつ涙目になってたぞ。笑いを堪えるのに必死だったね。



 

 正直不安だったが下準備がよかったのだろうか。ちゃんとテケテケに驚いてくれた。不安だったんだ。だって足がないだけの霊だしそんなに怖いものなのだろうかと。でもちゃんと驚いてくれてほっとした。後は仕上げだ。このまま脅かし続けてもいいんだけど、こうしている間も俺の魔力ガンガン減ってるしさっさと終わらせよう。



 泣きながら廊下を走るケスカを後ろから追いかけ、泣き叫びながら蹲るケスカの後ろに立ってネタバラシをする準備をする。さてどういう反応をするだろうか。俺を見て驚くのか、逃げようとするのか、それとも殺しに来るのか。出来れば戦おうとしてくれるのが一番ありがたい。流石に無抵抗の奴を殺すのは気が引けるし、やりにくい。



「レ、レイド……」

「ああ。久しぶりだ」



 俺を見て大きく目を見開いている。流石に驚くか。さてどうなる? そう思っていると足に何か温かいものがあたる。なんぞと思い自分の足を見ると――。



「うぉぉ!? きったねぇな!?」


 ケスカは漏らしていた。しかも俺の足に思いっきりかかったぞ。こいつの攻撃で初めてダメージを受けたかもしれない。一張羅なのに……洗えば落ちるかな。



 バタン。


 音がしてそちらを見るとケスカが倒れていた。自分の小便の池にダイブしているが大丈夫なのかと不安になる。



「おい、起きろ。なんで気絶してんだ?」


 とりあえず頬を叩く。薄く目が開いていて、なんか魂が抜けた人形みたいで怖いんだが。仕方ない、教室に移動しよう。ケスカを抱えて近くの教室へ。机の上に寝かせて近くの椅子に座った。

 さてどうしようか。このまま殺すのは流石に寝覚めが悪い。いや痛みを感じない分そっちの方が良心的なんだろうか。とはいえな。


 そもそもケスカが人間を襲っていた理由は基本食事のためだ。俺の知る限りただの快楽目的で殺人はしていないはず。それは家畜を食べるために飼い殺す人間と何が違うのだろうかと、最初王より命令を下されてからずっと考えていた。

 

「だから殺す理由があると助かるんだよな」


 生かしておいてまた別の場所で同じように洗脳を始める可能性を考えると、ここで仕留めた方がいいし、どうしたもんかね。


 そう思っていると倒れていたケスカの瞼が動いた。ようやく目が覚めたか、と思いどういう行動をとるか観察しようと思った。



 ――だが。




「いやあああああッ!!」



 目が覚めて突然ケスカは叫びだした。流石に困惑する。俺はもう何もしとらんぞ。



「いやぁぁ。いやぁぁ。助けて1人にしないで……」


 そういって震えながら周囲に目を配り始め俺と目があった。するとケスカは一瞬静止し俺に突撃してきた。


「おい! なんだ!?」

「お願い1人にしないで! 助けて。もういやなの。1人はいやなの! 痛いのも嫌なの!」

「離れろ! 何言ってんだお前は!」

「いやあ。お願い助けてよ」



 大泣きしながら抱き着いてくるケスカ。元々10歳くらいの子供みたいな奴だったがこれじゃ精神年齢まで子供になったとしか――。


 いや待て。そうなのか?



「おいケスカ」

「……ケスカ?」



 両手をケスカの頬に当ててしっかり目を見てもう一度訪ねる。こういうのは目を見れば大体分かるもんだ。



「お前、自分の名前を言ってみろ」

「名前……知らない……ケスカって私の名前?」

「なら俺の名前は?」

「――パパ?」


 

 誰が父親だ。拳骨するぞ。



 

 廊下を歩く。トテトテと後ろから俺の服を掴んでケスカが付いてくる。なんなんだ。どうすればいいんだ。


「おい」

「ん。なにパパ」

「――パパはやめろ。お前魔王の配下なんだろ?」

「知らない。誰それ」


 記憶喪失なのか。頭を叩けば治るだろうか。



「痛いッ!?」


 とりあえず拳骨してみた。さて治っただろうか。


「どうだ?」

「痛い……酷いよパパ」


 そういって大粒の涙を浮かべ唇が震えている。やりづれぇ。


「……ほらこれやるから泣き止め」

「ひっく。ひっく。――なにこれおいひい」


 ポッキーを口に捻じ込んで頭をわしわしと撫でた。俺は何をやっているんだろう。どこかにこいつをクーリングオフしたいのだがどうすればいいのか。血を分けた使徒って他にいるんかな。あの3人逃げてたし、1人は殺しちゃったしな。こんな状態だと殺すのにかなり気が引けるし。マジどうしよう。



 そう思い、色々考え、もういいかと諦めた。この様子なら少なくとも俺がいる間にまた何かするって事はないような気がする。もし何かやらかしたら仕方ない。その時はきっぱりケジメをつけるとしよう。



「おい」

「なあにパパ」

「誰がパパや。……これから無意味に人を襲うな。約束できるか?」

「……ご飯は?」

「んー。そうだな。お前って血しかだめなんか」

「血が一番好きだったの。でもさっきくれたパパのポッキーの方が好きだわ」



 お菓子が主食か――それはそれでいいんだろうか。



「よし、なら俺が一緒に居る間はポッキーやるから人を襲うなよ。ただしだ」

「うん」

()()()()()()()()()()()()()。ただ出来るだけ殺すなよ。やられた倍より少し多い程度にしておけ」

「……うん。わかった」


 


 さて、これでいいか。いいんだろうか? 色々納得しかねるがまあいいや。そう思いこの領域を解除する。そうして外界に出て見たものは……。



「なんじゃこりゃ」

「おー。なにあれ。デカい」



 

 半壊した宮殿と暴れまわるルクテュレアの守護龍たる水龍ティルワス。そしてその水龍と戦っているのは、先ほど会った帝国の2人であった。

 

 

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― 新着の感想 ―
リアドさんが水龍襲ったのか?
[気になる点] 水路にも魔力が流れてるってことみたいだし、水龍が洗脳されてるか、あるいは元から敵対する意思があったのかな? [一言] ケスカちゃん連れて地球に戻って欲しい 女性陣を戦々恐々とさせた上で…
[一言] なんか色々すごいことになってるw
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