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第81話 賊の引き渡し


「む、お前達。そこで止まれ」


 《鉱山都市グリーク》の南門で衛兵に声を掛けられる信也達。

 流石に縄で縛られた状態の男達を引き連れた集団を、衛視もスルーして通す訳にはいかない。

 もっとも信也達もそのまま通れるとは思っていなかったので、元々止まるつもりであった。


「その三人の縛られた男達はどういう素性だ? ……まあ、見た感じからして察しはつくのだが」


 強面の顔というだけなら冒険者には多いものだし、一般人にだっているだろう。

 しかしそういった面をした連中がまとめてお縄についた状態を見れば、おおよその察しは付く。


「はい、こいつらは街道を歩いている途中に襲ってきた賊になります。他にも数名いたのですが、生きて捕らえられたのはあの三人だけです」


 そう言ってジョーディがギルド職員の身分証を見せながら、率先して衛兵へと話しかける。こうしてジョーディが主体となって、衛兵と話を詰めていくことになった。

 衛兵も慣れたもので、淡々と所定の手続きに則って、何やら部下を呼んだり聞き取りをしたりしている。


 道中にジョーディに聞いた話によると、捕らえられた犯罪の容疑者は、特殊な魔法道具によってまず調べられるらしい。

 直径十センチほどの水晶玉の形をしているのだが、触れることによって内部から光を発するらしい。


 どのように判定されているのか、実はまだ仕組みがよく掴めていないようなのだが、大雑把にまとめると善人が触れると白い光を発し、悪人が触れると黒く光る。

 また光具合によって強弱の差もあり、真っ白で強い光を放つ人はそうそういないとされている。


 ただ、この魔法道具はあくまで最初の調査段階での参考程度にとどまっている。

 下手にこの魔法道具をそこいらの貴族につかったら、真っ黒になることが多いからだ。

 ただ、一般人や冒険者など普通に暮らしている場合、そう極端に黒い光にはならないようで、今までの経験則的によると、法に触れるようなことをするほど色が黒くなっていくらしい。


 そして不思議なことに、同じ行為であっても判定が異なることもある。

 例えば、平時において殺人や強姦をした場合は黒く染まっていくのだが、戦争時においてのそれはどうやらカウントされないようで、戦争で何十人殺しても黒くなったりはしない。


 とはいえ、それにも度というのがあるようで、戦時であろうと無抵抗の一般市民を切りまくったり、逃げ惑う市民の女性を強姦していたりしたら速攻で真っ黒になった、なんて話もよく耳にする。


 衛兵に呼び出されてやってきた別の衛兵は、手に水晶玉を持っており、あれが例の魔法道具か、と信也達も興味津々だ。

 衛兵は三人の男に魔法道具に触れるように命令し、男達も素直にそれに従う。


 ここで拒否しても強引に使用させられて、真っ黒に光ったという判定になるだけだし、何より印象も悪くなる。

 しかし、素直に従った所で魔法道具はごまかせないようで、魔法道具に触れた三人はみんな真っ黒な光を発していた。


 それをチェックした衛兵は、今度はジョーディ達にも水晶球に触れるように要求してくる。

 人数が多いので、最初に衛兵と話していたジョーディと、「試してみたい!」と手を上げた龍之介ら数名が触れてみたが、特に白くなったり黒くなったりということはない。


 妙に残念そうな顔を浮かべている龍之介。だが、最後に水晶球に触れたメアリーだけが白い光を放出させていた。


「ほお、これは珍しいな。普通は触れても反応が出ないことが大半なんだが、それでも黒く光る者はそれなりにいる。しかし、白い光を発する者はそう多くはないのだ。よっぽど心清い方なのだな」


 真っすぐな賞賛の言葉をぶつけられたメアリーは、僅かに照れた様子を見せる。

 そんなメアリーに仲間からの「メアリーなら確かに白い光も納得だ」、といった視線が集まる。


「ここまで結果がはっきり出ると、尋問をしてすぐにでも奴隷登録になりそうだな。ところで、あの連中のことについてなにか知っていることはないか?」


「あ、ええとそれは彼らが街中に滞在している時から目を付けられていたみたいで、襲われたのもこの門を出て一、二時間歩いたすぐ近くの林でした」


 ジョーディが魔法の袋のことについては触れずに簡単に経緯を説明する。


「む、あそこか……。確かに街を出てすぐとはいえ、この先の街道は人通りも少ない。既に街で狙いを付けられていたのなら、先に待ち構えて襲いかかるのも容易、か」


 そう口にした衛兵は「もう少しあの近辺の警戒を密にした方がいいのかもしれん……」などとブツブツ言い始め、信也達への対応が一旦疎かになってしまう。

 そこに北条が新たな情報を追加で提供する。


「それとあいつらが親分と呼んでいた奴だがぁ、首領の名はザンブルというらしい。俺が直接相手をしたんだがぁ、槍を使うそこそこガタイのいい男だったぁ。今回、襲ってきたのが全部で十人位。小さい山賊団だったのか、或いはまだ他に仲間がいるのかもしれん」


 北条のその言葉に衛兵はすぐに反応を見せた。

 先ほどまでブツブツ言っていたので、もしかしたら聞いていないかもと思っていた北条は、その反応に思わずびくっとする。


「それは本当か? ザンブルといえば《アルザス》の方で暴れ回っていた山賊団の奴かもしれん。確か向こうでもヘマをこいて、大分人数を減らしてしまってからは姿を見せなくなったと聞いていたが……」


 流石に街の門を守る衛兵なだけあって、そういった情報には詳しいようだ。

 更に衛兵は北条に他に何か情報はないのか尋ねるも、北条もこれ以上の情報は持っていなかった。


「分かった。あとはこちらで取り調べを済ませておこう。君たちはこれからどうするんだね?」


 そのことについても道中仲間内で話し合って決めてあった。

 結局今日はもう大分遅くなってしまったことだし、もう一泊《鉱山都市グリーク》で宿泊して明日に再びここを発とうと。


「そうか。では明日までに話をまとめておくので、明日街を出る際には門番に声を掛けてくれ。明日もこの門から旅立つのだろう?」


 ジョーディが頷きを返すと、衛兵は早速信也達と別れの挨拶を済ませ、捕らえた山賊三人を衛兵の詰め所へと引っ張っていく。

 残されたジョーディ達は、更に軽く話し合った結果、南門に近い所にあり、なおかつ少し高めの宿に一泊することが決定される。


 だが宿に行く前に龍之介が、「街を出る前にもっかいステータスをチェックしたい!」と言い出し、それに咲良なども乗っかったため、ギルドでステータスの更新をしてから宿に向かうことになるのだった。




▽△▽△




「流石に少し高めの宿だけあって、全員分のしっかりとしたベッドがあったのはよかったわね」


 翌朝、宿をチェックアウトした一行は街の南門へと向かいながら雑談をしていた。

 昨夜泊まった宿は咲良の言う通り、今までのそれと違い人数分のベッドがきっちり用意されていた。


 床に筵をしいた《ジャガー村》の寝床よりはマシだったが、これまでの宿ではベッドの数が足りず、他の者は床にセットされた藁の上にシーツをかぶせただけのような、簡易ベッドで寝ていたのだ。


 彼ら異邦人の一応の目的は、日本へと帰るための手がかりを見つけるために、ダンジョンに潜る。といったものなのだが、その遠く見える目標に向かうにあたって、まずは自分の住む所をもっとマシにしたい、というのは共通の想いだった。


「そうね、でもあれでも一泊一銀貨ってことは、高級宿もそれほど期待はできないかもね。よっぽどの超高級宿でもない限り」


 陽子の言う通り、今回泊まった宿ですら日本に暮らしていた頃の基準でいえば、最低限の最安宿と同等かそれ以下のクオリティーなのだ。

 彼らの満足する宿などは、そうそうこの世界には存在しないだろう。


 そういった話をしながら門まで辿り着くと、昨日言われた通りに門番に声を掛けてみる。

 この世界の住人からしたら大分遅い、しかし日本人からしたら少し遅い程度の時間に起きて、朝食を取ってから宿を出たので、まだまだ日は昇り切ってはいない頃合いだ。


「ああ、はい。隊長から窺っております。ここで少々お待ちください……」


 そう言うと声を掛けられた門番は、詰め所まで一旦戻ったかと思うと、手に袋を持って戻ってきた。

 といってもそれほど大きな袋ではなく、信也達の持つ〈魔法の小袋〉と同程度の大きさだ。


「ではこちらをどうぞ。あの山賊達は正式に犯罪奴隷となって売却されたので、その代金と捕まえてくれた謝礼です。内訳は二人がそれぞれ十銀貨、一人だけいた魔術士は土属性の魔法を使い、現場(・・)では重宝するということで一金貨になりました。なお、ザンブルについては賞金がかかっておりましたが、確認が取れないので賞金は出ておりません。ご容赦ください」


 そう言って門番は小袋を渡してくる。

 信也が中を確認すると、分けやすいようにか十銀貨が十二枚入っていた。

 これは丁度いいと、ジョーディを除く十二人で均等に分配し一人頭十銀貨の臨時収入となった。


「確かに確認した。ではこれで失礼する」


 そう短く信也が答えると「お気を付けて」と門番が言葉を送ってくる。

 その声を背に聞きながら再び一行は《ジャガー村》への旅路に出るのだった。






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