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第77話 待ち伏せ


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「で、奴らがこの街を出るのは明日で間違いねーんだな?」


「へえ、間違いありやせんぜ。当初思ってたより人数は多かったんですが、なあに。調べた所によれば、全員冒険者ギルドに登録したばかりのペーペーなんで、全員で襲いかかれば楽勝ですぜ」


 《鉱山都市グリーク》にあるスラム街の中にある、古びた建物。

 その一室で数人の男達が薄暗い明かりの中、よからぬ計画を企んでいた。

 別に日頃の言動と容姿というのは、必ずしも一致する訳でもないのだが、揃いも揃ってこの場にいる者達の人相は悪かった。


「油断はするなよ? 確かに俺達には魔術士が二人もついてるが、最初の襲撃予定地点はこのグリークを出てすぐ近くだ。近くの余計な行商人だとかの人目に付く可能性もあるし、巡視達の目につくのもまずい」


「そこんとこは心配ありやせん、親分。奴らが向かうのは南の街道……それも目的地はどうやら最奥にある、ジャギ村だかジャグ村だとからしいですぜ。あの街道は人通りもすくねーし、絶好のカモって奴でさあ」


 細身の男が、髭面の親分と呼んでいる男に、おもねるように言葉を発する。

 話しながらも時折腹部を押さえ込んでいるその様子は、どこか調子が悪そうだった。


「……今回は相手の数が多かったからテメーにも出てもらうが、その調子で問題ないのか?」


「そこは仕方ねーんで、夜が明けたらもっかい神殿で治療を受けときますわ」


 細身の男はやはりケガを負っているようで、隣の部屋で行われている狂態(・・)には参加できずに残念そうな顔も見せている。


 男達が話している部屋の隣では、明日の襲撃の為に英気を養う、と称してスラムで攫ってきた女が複数の男達によって凌辱されていた。

 最初は泣き喚いていた女も、暴力により完全に心が折られた今、ボコボコに腫れた顔に浮かぶ瞳の光は、すでに失われていた。


 反応がなくなった女に面白みを感じないのか、途中何度か殴ったり首を絞めたりするといった行為が行われていたが、今となってはそういった行為に対しても反応すらみせず、浅く今にも止まりそうな呼吸の音しか発していない。


「そうしておけ。奴らのメンバーは女も多いんだろ? なら明日はお前も楽しむことができる。手を抜くんじゃねーぞ」


「へい、わかってやす」


 手下の細身の男の返事を聞いた親分――山賊団の首領であるザンブルという名の男は、こう見えて意外と慎重派であった。

 でなければ二十年近くも山賊家業を続けることはできない。


 しかし、この間よその街で珍しくヘマをしてしまった結果、そのメンバーの数は大幅に縮小してしまった。

 結果、このような辺境の街にまで流れてくることになったので、なおのこと警戒に警戒を重ね今回の襲撃を敢行することにした。


 手下が見たという〈魔法の袋〉がどの程度のものかはまだ分からないが、そのような物を持っているなら、他にも何か持っている可能性はありえる。

 そうでなくとも、手持ちの荷物や装備をはぎ取って、更に生きたまま捕らえることができれば、裏のルートから奴隷として売り渡すことも出来るのだ。

 

「ここいらで資金を稼いどかねーとな……」


 そう呟くと、隣の部屋の狂態に参加することなく、ザンブルは早めの就寝を取るのだった。



▽△▽△▽△



 信也達が《鉱山都市グリーク》に到着してから六日目の朝。


 今日は短いようで色々あったこの街との別れの日となる。

 お世話になった『森の恵み亭』の女将にさよならの挨拶をした一行は、まずは進路を北へと取る。


 街の北の商店街地区にある、先日防具を買った店では、期日が遅れることなく防具の調整がなされており、信也達は防具を受け取ると同時にそれらを身に着ける。

 他のメンバーもそうだったが、初めての鎧に若干ぎこちない体の動きになりながらも、初めて街の北の方まで遠出した北条パーティーによる、軽い寄り道という名の買い物にも付き合った。

 

 若干買い物に時間がかかってしまったが、昼食も街の食堂で済ました一行は、ようやく街の南門からあの田舎の村へと続く街道へと躍り出た。

 相変わらず門にはきちんと門番もいて、近くには衛兵の詰め所などもあるのだが、商人やいかにも怪しい風体でもない限り、いちいち止められることはない。


 とはいえ、街の南門を出入りする人の数はそれほど多くはない。

 実際、短い間だったが《ジャガー村》に滞在していた時に、村を訪れた外部の者は皆無だった。

 まあ《ジャガー村》はこの街道の終点なので、余計人がこないというのはあるのだが、その途中の村や分岐先の村などにも訪れる人はそう多くはないのだ。


 そんな寂れた街道であるが、元々の人数が十三人と、小さな商隊規模の彼ら一行は、それだけで傍からみると大分目立つ。

 もっとも当人たちにその自覚はないようで、特に周囲からの視線を気にしている者はいない。



「街の外ならようやく"召喚魔法"も練習できますね~」


「わー、なんか久々だね! でも、召喚するならかわいーのがいいなー」


 ギルドの訓練場で"雷魔法"の練習は十分出来た芽衣だったが、"召喚魔法"の方はさっぱり練習する機会がなかった。

 これから《ジャガー村》に到着するまでの約五日間は、練習にはもってこいとなるだろう。


「あ、ちなみにジョーディさん。私達のスキルのこととかは他の人に言いふらしたりはしないでくださいね」


 一応は言って置かないと、といった体でジョーディに口止めをする咲良。

 まだまだ出会ってそう日が経っていないとはいえ、休日にたまに会う程度の友人や、仕事の同僚といった関係以上には、ジョーディとは密な付き合いをしている。


 今までのそうした付き合いから考慮すれば、ジョーディが人にいいふらかすようなタイプではないというのは分かっていたが、異邦人達の使う魔法やスキルは特殊なものも多いので、敢えての念押しだ。


「ええ、分かってますよ。これで私もギルド職員の一人ですからね。冒険者の個人情報をホイホイ漏らしたりなどはしません」


 そう胸を張って言うジョーディにはプロ意識が感じられる。

 そんなジョーディの様子を見て取った咲良は、「まあ、ジョーディなら大丈夫そうね」と言葉を返す。


「ああ、それと魔法の練習をなさるのでしたら、もっと街から離れた所で行った方がいいと思いますよ。特に人目に付きたくないなら一、二時間は離れた場所でないと……」


 彼らのレベルではそれほど派手な魔法を使うことはまだできないが、"召喚魔法"に関してはうっかり人に見られたら『魔物を呼び出す怪しい奴ら』として面倒なことになる可能性もある。

 それほど"召喚魔法"というのは知名度が低い。


 同じ魔物を使役するのでも魔物使いはそこそこ知られており、使役している魔物に目印である首輪などを付けることが義務付けられているため、見た目でもすぐに分かりやすい。

 "召喚魔法"で呼び出した魔物は、三十分程で消えてしまう上、召喚時はその場でいきなり現れるので、見た目の印象がよろしくない。


「は~い、わかりました~」


 暢気そうな……常にこんな口調なので、本当に暢気なのか、実はイラついていたりするのか、どちらか判別しにくい芽衣の返事。

 それから街の中での出来事など、雑多な話題を話しながらも街道を進んで行く。

 やがて一時間を優に過ぎ、更に三十分ほど歩いた頃、ふと一瞬北条の歩みが遅くなる。


 すでに距離的には魔法の練習をしても問題はなさそうな距離であり、前方にも後方にも他の旅人の姿は見当たらない。

 隣を歩いていた咲良は「そういえば、そろそろ魔法の練習とかしても大丈夫そうね」などと、北条の動きが鈍くなった理由を勘違いしてそんなことを言っていたが、次に北条から出た発言を聞いて一同に緊張の色が走る。


「……いいかぁ、落ち着いて聞いてくれぃ。態度にも妙な動きはするなよぉ」


 突然の北条の物思わし気な言葉に、みんなの足が一瞬止まりそうになりかけるも、忠言通りにどうにかこうにか普通を意識して、動きを修正させる。

 龍之介や由里香などは、どうみても動きが不自然になってしまってはいたが。


「まだ距離は離れているがぁ、何者かに狙われている。直前まで武器を抜く必要はないがぁ、里見は"結界魔法"を使っておいてくれぃ。【物理結界】だけでなく【魔法結界】も使えるようになったんだろぉ? なら両方を張っておいたほうがいいなぁ」


 元々【魔法結界】については、陽子は初めの頃から手ごたえのようなものは感じていたようで、今回の街の滞在中に見事ものにすることが出来た。

 信也襲撃事件などを経て、より腕を磨くのに精を出したせいもあるだろう。


「狙われてるって……。間違いないのか? それはつまり相手が人間だということか?」


 ダンジョンで出現する魔物は最初から殺す気満々で襲ってくるが、フィールドの魔物は必ずしもそうとは限らない。

 ゴブリン達のような"妖魔"と呼ばれている、人型で知性を持った魔物ならば、狙いをつけて襲ってくることも十分ありえる。


 しかし人通りが少ないとはいえ、この辺りの街道沿いに魔物が出ること自体が余りない事例だ。


 そういった背景を踏まえて相手が人間だと思ったのか、或いは"狙う"という言葉で人間相手を連想してしまったのか、北条に質問を投げかける信也の表情は重々し気だ。


 一応可能性としては、魔物が待ち伏せて襲いかかって来ることも、空を飛ぶ魔物が突如襲いかかってくることもありえることではある。

 もしそうだとしたら、信也の心の均衡も保たれたままだっただろう。

 しかし、信也の質問に対する北条の答えは、そんな淡い期待を裏切るものだった。


「そうだなぁ。明らかに殺意、それと害意を持っている"人間"に間違いない。あの先の左右に広がる小さな森……いや、林か。あそこに両サイドに分かれて待ち伏せをしている」


状況が状況だというのに、特にあせりも緊張も見られない口調の北条に、信也達はそれとは正反対の緊迫した表情をそれぞれ浮かべるのだった。






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