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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十六章

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第767話 魔王効果


「ふうむ、なるほどぉ?」


 一方北条は、久々に強めな暗黒属性の攻撃をもらったことで疑惑が核心へと変わっていた。

 かつてヴェネト―ルと戦った時に薄っすらと感じ、昇格試験の時に再度浮かび上がっていた疑問。

 それは、暗黒属性の魔法を食らった時のダメージに関することだった。


 これは感覚的なことなので、なかなか判別が難しいものだった。

 ヴェネトールの"漆黒魔法"は威力が高すぎたし、昇格試験の時も初手を【ディスペルフィールド】で防いだので、エルネストの"漆黒魔法"は二回しか受けていない。


 だが今改めてルシアンから"漆黒魔法"を受けたことで、明らかに以前より暗黒属性のダメージを軽減出来ていることに北条は気づいた。

 そしてこの変化のタイミングとして、一番疑わしいのはあの時以降……。


(これも『魔王』の称号効果かねえ)


 思い当たる原因として、『魔王』の称号を思い浮かべる北条。

 "解析"ですら効果の詳細が不明なこの称号だが、元々感じていた魔法威力向上の他に、暗黒属性への耐性アップというものも含まれている可能性が高そうだ。


(それに、魔法攻撃に対する防御力そのものも上がっているように思える。魔王というと仰々しいが、魔法に関する効果が多いことから、どちらかっていうと魔法王みたいな効果だな)


 内心ではそんなことを考えていた北条だが、とっておきの"漆黒魔法"を涼しい顔で受けられたルシアンとしては、内心穏やかではいられない。

 というより、最早ルシアンの心の中は荒れ狂う海のようにぐわんぐわんと揺れていた。


「検証は終わったし、次はこちらからいくぞぉ」


「け、検証やて?」


 訳が分からない様子のルシアンに、四大属性の基本的な魔法を撃ちこんでいく。

 【水弾】や【土弾】。【炎の矢】に【エアーハンマー】。

 この場で観戦している冒険者にも馴染みのある基本的な魔法だが、北条が放つそれは見た目以上に威力がえぐい。

 それも詠唱もせずに連続してそれらの魔法を放たれてしまっては、ルシアンとしても対応のしようがなかった。


「そ、そこまででええんとちゃうか?」


 一方的に魔法を撃ちこまれるばかりのルシアンを見て、マクシアンが思わず制止の声を上げる。

 それとほぼ同時にルシアンはダメージによってか気を失い、その場にバタンと倒れ伏した。


「加減はしといたぁ。さっさと治してやるんだな。さ、俺達はもう行くぞぉ」


 未だに回りからの注目を集めながら、北条は信也達を連れてギルドの建物へと引き返していった。





◇◆◇



 訓練場に残っていた者達は、去っていく北条達の後ろ姿をしばし黙って見つめ、完全に建物の中に入ったのを見届けると途端にあちこちから声が上がり始める。


「なあ、見たか今の?」


「何言ってんだ、当たり前だろ! ってかあれ一体何なんだ!?」


「何か特殊なスキルを使って無効化していた……とか?」


「特殊なスキルぅ? ありえないわよ。私も魔術師だからよく分かるけど、あのルシアンってのが使ってたのは上級魔法や特級魔法よ? そんなもんをホイホイと無効化されたら魔術師なんていらなくなるわよ」


 周囲で冒険者が口々に今の勝負の話をしている中、中央部では気を失って倒れているルシアンに、ネイヤが"神聖魔法"による治癒を行っていた。


「…………」


 ネイヤは思いのほか真剣な眼差しでルシアンの治癒を行っている。

 普段はルシアンを揶揄ったりすることが多いネイヤだが、その面差しからは全くおちゃらけた様子が見えない。


「どうせおのれが冗談半分で焚き付けたんやろうが、今回ばかりが洒落んならん相手やったな」


 そんなネイヤにマクシアンが声を掛けるが、相変わらずネイヤは黙ったままだ。


「ちなみにな。あのホージョーいうSSランクの男も、一緒にいた他の仲間も。俺の〈竜眼鏡〉で誰一人ステータスが見えんかったで」


「流石SSランク……いうことやな」


「せやな。元々シャロンの奴に頼まれてたことやったが、ありゃあアカン。迂闊に手ぇだしたらこっちが破滅やわ」


「拠点とやらにも、迂闊に忍び込まん方がええか……」


「そないなことしたら、こんなもんや済まへんやろな」


「……あたしはルシアンの夢を叶えてあげたいだけなんやけどなあ」


「ハンッ、相変わらず素直になれん奴っちゃな。ルシアンの意識のある時にその態度みせとけばええのに」


「今更遅いわ。それにルシアンはシャロンのこと……」


「はぁぁぁ。普段はあない調子やのに、裏ではこうも弱気なんやからなあ……」


「しゃ、しゃあないやろ! あたしら冒険者なる前からの長い付き合いやねん。今更接し方変えぇ言われても無理や!」


「大きな声上げるとルシアンが目ぇ覚ますで」


「ッ! ……とにかくあたしのことはどうでもええ。SSランクの男の調査についても、これで十分やろ」


「ああ。ルシアンもあんだけされたら、流石にまた突っかかってくこともないやろ。とりあえず一度宿に戻ろか」


 そう言ってマクシアンは未だ気を失ったままのルシアンを背負い、ギルドを後にする。

 その後をネイヤが追い、やがて三人は雑踏の中に消えていった。






◇◆◇



 一方、ギルドでの報告を済ませた北条達は、拠点へと帰還していた。

 西門から入り西区画を抜け、本区画へと入ったところで解散……の前に北条から話があった。


「明日の予定なんだがぁ、和泉と陽子とライオット。三人にとある魔法具(マジックアイテム)……の素材になるものを作るのに協力してほしい」


「私達が? 副団長はともかく、私は魔法具(マジックアイテム)作成に関してはそれほど知識はありませんが」


「私も同じよ。そもそも何を作るつもりなの?」


「お前達も名前くらいは知ってるかもしれんがぁ、いわゆる〈魔水晶〉という奴だな。こいつは作る際に魔力を多く注ぎ込むほど、質がよくなる。複数人の魔力や魔力操作力を使って魔法を使う儀式場を用意したんで、お前達にも声を掛けたって訳だぁ」


「ああ、儀式魔法って奴ね。拠点が襲撃された時も、西門側に攻めてきた敵が使ってたって聞いたわ」


「なるほど。それなら納得ですね。魔法に関することなら何でも興味あるので、私はいいですよ」


 やはりというかなんというか、まず最初に食いついたのはライオットだった。

 それから陽子や信也からも了承の返事をもらう北条。


「サンキューなぁ。じゃあ明日の朝、俺の家まで来てもらえるかぁ?」


「分かったわ」


「助かる。それじゃあ俺は他にも声を掛けてくるから、ここで失礼するぅ」


 ここで解散した一行は、その後は思い思いの休日を過ごす。

 勿論北条は前言通り、心当たりのメンバーの下を訪ね回っていた。

 そうして時間が過ぎ去っていく。




 夜が明け次の日の朝、北条邸。


 そこには声を掛けた者達が勢ぞろいしていた。

 六式魔陣の最大人数の都合上、呼び集められたのは北条以外に六人。

 信也、陽子、ライオットの最初に声を掛けた三人に加え、エスティルーナ、慶介、芽衣の三人が新たに加わっている。


「すまんなあ、こんな朝早くに呼び集めてしまって」


「それは別にいいわよ。魔法具(マジックアイテム)作りに必要なんでしょ?」


「……ああ、そうだぁ」


 陽子の問いかけに一瞬詰まりながらも、何気ない様子で応える。

 陽子の発言からは、例の火山や雪山対策の魔法具(マジックアイテム)作りの為だと思っている節が窺えたが、実はそれらの魔法具(マジックアイテム)はすでに完成しているので、それとは別件だ。


 北条がこのメンバーを集めたのは、〈ダンジョンコア〉の素材を作る為だ。

 だが今のところ信也と慶介以外にはそのことを明かしていないので、その辺は曖昧にぼかしたまま北条は話を続ける。


「"砂魔法"には【クリエイトクリスタル】っつう魔法があってなぁ。普通に使うと水晶を作り出すだけの魔法なんだがぁ、魔力をめちゃくちゃ注ぎ込むと〈魔水晶〉を生み出すことが出来る」


「〈魔水晶〉というのはかなり貴重な品だ。今更な話だが、そのようなものが魔法で作れるというのは驚きだな……」


「そんな代物だったのか……。研究室には北条さんから譲られた〈魔水晶〉がゴロゴロと転がっていたから、いまいち貴重だという実感がなかった」


「うあ、それは凄いですね……。私もなんだか魔法具(マジックアイテム)作りに興味が湧いてきましたよ」


「そいつぁいい。和泉やディーヴァの研究の手伝いをしてもらえると、俺としても助かる」


 少なからず魔法関連の話ということで、ライオットも魔法具(マジックアイテム)に興味を持ち始めたらしい。


「それよりも今日のことだけど、ここにいる全員で【クリエイトクリスタル】の魔法を使うって訳よね?」


「いや、少し違う。実は"砂魔法"の上位魔法である"砂漠魔法"には、【クリエイトコンデンスクリスタル】という魔法がある。こいつは水晶を生み出す【クリエイトクリスタル】とは違い、最初から〈魔水晶〉を生み出すことが出来る魔法だぁ」


「ふむ、ではそちらの魔法を使うのか」


「そゆことだぁ。この魔法で更に魔力を多く籠めると、〈魔水晶〉ではなく〈魔結晶〉へと仕上がる。この拠点内の各所に設けられた魔法装置の中には、これら〈魔結晶〉が使用されているんだよ」


「どっちでもいいから、さっさと始めましょ」


「うむ、それもそうだなぁ。では……」


 そう言って北条は、"ディメンジョンボックス"から六式魔陣の儀式場を取り出す。

 今皆が集まっているのは北条邸の庭部分であり、そこにはこの大きな儀式場を置けるだけのスペースがあった。


「うわ……。思ってたより大きいのね」


「小規模なものならともかく、この規模の儀式場を持ち運びできるとなると、大規模戦闘では役立ちそうですね」


「必要とあらば作るがぁ、今は良いだろう。さ、配置についてくれぃ」


 そう言いながら北条は中央の魔法陣へと向かう。

 他の六人も慶介と信也以外は初見だったが、中央の魔法陣を取り囲むように六つの魔法陣が周囲に散っているのですぐに向かう場所が分かった。


 配置に付きながら北条は六式魔陣についての説明を行う。

 といってもそう難しいものではない。

 説明が終わると北条は中央の所定の場所に、追加燃料たる魔石の山を築く。


「それでは〈魔結晶〉の作成に入るぞぉ!」


 こうして〈ダンジョンコア〉の基幹となる素材の作成が始まった。


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