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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第四章

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第73話 葬送の祈り


▽△▽△▽△



 ゴブリン村の征伐から始まった想定外の魔物の乱入。


 それから小一時間掛けて総出で後処理が行われた。

 まずは、ゴブリン村跡地に散らばる、ゴブリンの死体を一か所に集め、まとめて収集品を取り出す作業。


 収集品といっても、稀に頭部に生えている角付きゴブリンの角を取り除くのと、大体心臓部付近にある魔石を取り除く作業だけだ。

 とはいえ、数が数だったので総出でかかっても、それなりに時間がかかる作業だ。

 その結果、微魔石が百二十一個、小魔石が五十六個という数字になった。


 微魔石、小魔石の違いは単純に大きさによる区別となる。

 魔物のランクを決めるための指針でもあり、H~Gランクの魔物が持っている魔石が微魔石、F~Eランクの魔物が持っている魔石が小魔石、と二ランクごとに魔石の呼び名が変わっていく。

 時折成長した魔物が上のランクと同程度の魔石を持っていることもあり、そういった魔石は同じランクの魔石より高値で取引される。


 これらの魔石を、魔石のランクごとに三パーティ分に分けて、余った微魔石一個と小魔石二個を第三者の立ち会いのもとにくじ引きで決めた。

 くじ引きは立ち会いの人に、そこら辺から小石を三つ拾ってきてもらい、一つに印のために傷をつけて袋に入れる。

 後はその袋からパーティーの代表者がそれぞれ石を取り出し、今回の場合傷があったパーティーが微魔石を獲得することになる。


 今回の場合は信也のパーティーが傷付きを当ててしまったようだ。

 しかし、魔石一つ程度の差なので誰も気にした様子はない。

 あくまで複数のパーティーの全員に、言いがかりの元になるような、ささいなきっかけを残さないために行ったようなものである。

 そんなことよりも、その後に残された作業の方が、彼らにとってはきついものだった。



 それは死体の処理である。


 ゴブリンの死体に関しては、一か所にまとめて火を付けて焼き払うだけなので、特に問題はない。

 なおゴブリンの死体を焼くのは、何もアンデッドとして蘇るとかそういった理由からではなく、単純にこの周辺に住む魔物――テイルベアーのような存在の餌になることを防ぐ為だ。


 通常は、森の中でゴブリンの小集団を倒した場合、いちいち穴に埋めたり焼いたりするといった処理を行っている冒険者はほとんどいない。

 今回は数が多かった上に、倒した場所が森の中にある開けた空間ということで、燃やすのに適した環境だったことでバーベキューの刑となっている。


 山積みにされたゴブリンの死体が燃やされていく中、鉱夫達の死体の処理が仲間達の鉱夫の手によって行われていた。

 埋めるための穴掘りは、この場にシャベルを持ってきている鉱夫もいたので、問題なく時間もかからず終わった。


 その掘られた穴に、全体としての形を留めていない死体の一部分を埋めていく。

 ある程度以上形を残している死体に関しては、鉱夫街へと持ち帰るらしい。

 それら一連の作業を、ただじっと眺め続ける異邦人達。

 死というものが現代の日本以上に溢れかえっているこのティルリンティと呼ばれる世界。


 信也ら大人達はともかく、由里香や慶介などの子供にわざわざ見せるものではない。後処理は任せてもう立ち去って構わない、と衛士長のトムは言っていたのだが、彼らは敢えてその場を立ち去らず作業の様子を見守ることにした。


 これは今後を見据えてのことであったが、異邦人達は特にそれに関しては言葉で示し合わせたりはせず、誰彼となく自然とそういう流れになっていた。

 そして何人かは数か所に吐しゃ物をまき散らしながらも最後までその様子を見届けた。


 それは彼らにとって一種のイニシエーションとも言えるだろう。

 今後これより酷いものを見てしまうことだって十分にありえる。

 しかし、少なくともこの世界で暮らしていく間は、目を背けてばかりもいられない。




「なあ、よければ奴らの為に祈りを捧げてやっちゃあくれねえか」


 そう声を掛けてきたのは、最初に鉱夫街で声を掛けてきた禿頭の鉱夫長だった。

 既にバラバラになっていた遺体は一か所に埋められ、事後処理は全て終わっていた。

 後はそれぞれ帰るのみ、といった場面での声掛けと、その内容に信也は一瞬訝し気な顔をする。



「――分かりました、引き受けます」


 しかし、その言葉の意味(・・)を理解した咲良が、誰かが反応するより早くそう答えていた。


「……ありがてぇ。すまねーな、あんたも大分疲れているっていうのに」


 そう言って、残った遺体を持ち運ぼうとしていた者達の所へ、咲良と共に向かう禿頭の男。

 そしてその後に様子が気になった、信也含む数人が咲良の後を追う。



「どうか安らかな眠りにつけますように……。【レクイエムプレイ】」


 弔いの言葉と共にその場に並べられていた遺体に"神聖魔法"の【レクイエムプレイ】を掛けていく咲良。

 魔法をかけられた遺体は五秒程の間、神聖なる白い光に包まれる。

 【レクイエムプレイ】は"神聖魔法"の初級魔法のひとつであり、【キュア】と共にまず最初に神官が教わる魔法である。


 基本的に魔法発動に呪文の詠唱は必要ないのだが、この魔法に関してだけは各神官の奉じる神によって、それぞれ異なる死者への弔いの言葉が付属する。

 魔法の効果としては、遺体にこの魔法を使用することで、アンデッドとして蘇ることを防止することができる。


 ティルリンティにおけるアンデッドは、ダンジョンで発生したものを除くと幾つかの発生パターンが存在する。


 ひとつは打ち捨てられた死体が、そのままアンデッドとして蘇るもので、これは特に生前に強い思い――中でも恨み憎しみなどマイナスの感情を持つ者が、死亡した場合に起こりやすいとされている。


 ただし、余程強い思いがなければアンデッド化することは無いので、そうホイホイと生まれてくるものではない。

 例外としては、大規模な戦場跡だろうか。


 戦の後に、神官による浄化作業が行われないと、結構な確率でアンデッドの溢れる地となってしまう。

 また、戦場跡以外でも、地理的にアンデッド化しやすい場所というものがあり、そういった場所は魔力が淀んでいたり、瘴気のようなものが満ちていたりする。


 次に"死霊魔法"による場合で、他人の死体をアンデッドにする方法と、術者自らがアンデッドになる二つの方法がある。


 前者は"死霊魔法"の基本といえる魔法であり、死者を冒涜しているということで、大抵の国では"死霊魔法"の術者は忌み嫌われ、見つかったら投獄されるか殺される。

 だが、例外として『ジャファー共和国』では、一部の特別な許可を受けた者達による"死霊魔法"の研究が行われている。


 後者に関しては、高位の術者が最終的に高位のアンデッドへと生まれ変わる、"死霊魔法"の秘術ともされる魔法によって、生まれ変わった者達だ。

 成功率は低いとされ、多くの"死霊魔法"の使い手が目指す到達点でもある。


 最後のケースは、特殊なスキルや、マジックアイテムによって生まれるアンデッドだ。

 こちらは知られている症例が少なく、資料がほとんどない状態だが、そういった事例が存在することだけは、世に知られている。




「…………ふぅ」


 最後の遺体に【レクイエムプレイ】を掛け終えた咲良は重い息を吐いた。

 今回テイルベアーに殺された鉱夫の数は全部で九人。

 その内ある程度状態が良かった遺体が六体。

 とはいえ、足や手がもぎ取られたり潰されたりするような酷い有様の遺体も含まれている。


 【レクイエムプレイ】は直接触れる必要はないが、数十センチの距離まで近寄らないと使用することは出来ない。

 その為、咲良は並ぶ遺体の一つ一つに近寄って魔法をかけていた。


 そんな彼女の様子を見て、周囲でじっと様子を窺っている鉱夫達の中には、涙をこらえきれないものも何人かいた。

 《鉱山都市グリーク》の周囲にある鉱山は複数存在しており、中には犯罪奴隷だけを集めた所も存在している。


 だが、《グリーク》からすぐ傍にあるこの鉱山で働いていた者達は、元々は街や近隣の村々からやってきた者達だ。

 反発しあう者達もいるが、同じ場所できつい仕事をする仲間としての意識は強い。



「ありがとう……心から感謝するぜ」


 そういって禿頭の男は頭を垂れる。

 更に周囲の鉱夫達もそれに続き、感謝の言葉を述べて一斉に頭を下げた。


「そんな……これくらいは当然ですよ」


 鉱夫達の謝罪に、少し戸惑いながらもそう答える咲良。

 そこへ信也達と同じく、近くで様子を見守っていた衛士長のトムと、咲良の後を追わずに少し離れた場所で様子を見ていた残りのメンバーが、近寄ってくる。


「俺達はこれにて引き上げる。お前達はどうするんだ? あのムルーダという坊主達のパーティーは、俺達と一緒に引き上げるそうだが」


 元々は常設依頼になっていた三つの依頼を目標にやってきた彼らだが、ゴブリンの依頼は十分に達成できたものの、他の依頼は全くの手つかず状態だ。

 しかし、先ほどまでの戦闘は異邦人達に肉体の疲れと共に、精神的な疲労ももたらした。


 トムの質問に対しては各々何か思う所があるようだが、すぐに答えはでない。

 しかし一人だけ例外がいた。


「オレは……とりあえずここに残ってどーするか考えるつもりだ」


 それは、先ほどまで言葉少なに考え込んでいた龍之介だった。






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