第744話 ラブラブな二人
休憩時間を兼ねたパーティー編成の話し合い。
それは結局以下のように落ち着いた。
基本的な構成は北条以外を3:7の戦力比で分け、戦力の低い方に北条が加えて最初のボスアタックに入る。
北条を最初の戦闘パーティーに加えるのは、万が一の事態を想定してのこよ。
ダンジョンによっては低階層のボスで順番待ちなどが起こるが、そこでは後に入ったパーティーが進化ボスやら変異ボスなどと特殊な事態が発生した報告がない。
まったく未踏のエリアであろうここのボスの場合、何かあるとしたらまず最初に出て来るボスの方がその危険性が高いということになる。
その編成に加え、アーシアやヴァルドゥスなどのSランク以上の従魔をもう一方の北条の加わらない方のパーティーに参加させる。
北条には"召喚魔法"があるので、数的な問題はそれで補えばいい。
恐ろしいことに、北条は召喚によって契約した魔物の数が三十体を超えるというのに、更に別に四十体以上同時に召喚可能な枠が残っている。
これは最大MPが増えると召喚可能枠数が増えることも理由の一つだが、"上位召喚魔法"を覚えているというのも理由に挙げられる。
"召喚魔法"は上位魔法となっても、特別に威力が変わるとかいう類の魔法ではない。
明確な違いが現れるといえば、"上位召喚魔法"の方が効果時間などが伸びたりする程度だ。
しかし"召喚魔法"で召喚できる枠数に加え、"上位召喚魔法"で召喚できる枠数が加わるので、一気に召喚可能枠数は拡大される。
今では芽衣もこの"上位召喚魔法"を覚えているので、北条ほどではないがかなり多くの魔物を召喚できるようになっていた。
その他のメンバーの構成としては、"結界魔法"のスペシャリストである陽子と、"召喚魔法"の芽衣は北条とは別パーティーに配属される。
後は大まかに割り振られており、人数としては北条パーティーが十四人で信也パーティーが残り全員という形だ。
「……という訳で、パーティー編成はこんなもんでいいだろう。あとは実際俺らが戦ってる所を参考にして、作戦を練ってくれぃ」
「ダンジョンのボス戦といえば、大体は閉ざされた扉の向こうなどの閉鎖空間で行われる。だがここは構造的な作りからいって、私達も観戦できるのだろうな」
信也パーティーに配属されたエスティルーナが推測を述べる。
観戦できるというのは、後続にとって有利に働く。
「万が一それで危険そうだと判断したら、時間はかかるが来た道を引き返すことにしよう」
「それ位慎重に行動してくれると、こちらも安心だぁ」
「ハンッ。オッサンこそ、さっき散々フラグ建てまくってたけどよお。その進化ボスだとかを引き当てて苦戦したりすんなよな」
「そう言いながらお前もフラグを建てていくんじゃあない。まあ、もしそうなっても俺が蹴散らしてやろう」
「おお? 言うじゃねーかオッサン!」
「ホージョーにはそれだけの力が確かにあるからな」
「チェッ……。まあオッサンがどんだけ強かろーが、俺は俺だしな。オッサン、死ぬんじゃねーぞ?」
「ああ、勿論だぁ」
「ねえねえ、リュー。ウチには? ウチにはなんかないの?」
今回のパーティー編成では、龍之介とルーティアは別々に分かれている。
ルーティアが北条パーティー、龍之介が信也パーティーの方だ。
「ぐっ……。る、ルーティア……愛してるぞ……」
「ニャーッ! そんにゃ面と向かって言われると照れるニャ……」
嬉しそうに尻尾をブンブンと振りながら、顔を赤らめていくルーティア。
龍之介の方も人前で愛の言葉をささやいたせいか、気恥ずかしさで既に顔が真っ赤だ。
「ルー……」
「リュー……」
自然と見つめ合う形になった龍之介とルーティアは、互いの目に惹かれ合って周囲の喧噪がどこかへ飛んでいく。
やがて二人の距離が縮まっていき、目と鼻の先にまで両者の顔が近づき…………。
「はいはい。こんな所でおっぱじめたりしないでね」
「おい、ルーティア。そこまでにしとけ」
すっかり二人の世界に入っていた龍之介とルーティアを、陽子とキカンスが止めに入る。
「お、あ、ぬ、ううぅぅ…………」
「ああん、今いいところだったのにい!」
止めに入られ口ごもって何も言葉が出ない龍之介と、反対にキカンスに食ってかかるルーティア。
突如発生したラブラブ空間は、これからレイドボス戦に挑もうというメンバーの緊張を押し流した。
「ふっ……。イチャイチャするのは後にしとけよぉ? そんじゃあ、俺達は先に行くぞぉ!」
「はい!」
「という訳だから、リュー。またあとでね?」
「お、おう……」
ねっとりとした視線を向けられた龍之介は、思わず自分の股間部分へと目を向ける。
獣人が全員そうなのかは龍之介も知らないが、ルーティアはその気になると理性をなくして襲い掛かってくる。
ここ最近はそういったことも少なくなっていたので、久々に妙な危機感を覚えてしまう龍之介。
そんな龍之介の思いも知らず、ルーティアは北条に続いて観客席から闘技場の舞台へと下りてゆく。
「……全員で下りてきましたけど、すぐに魔物が出て来る訳ではないようですね?」
「あの先にある鉄格子の門の近くまで行かないといけないのかな?」
北条パーティーには、異邦人組では慶介、メアリー、楓が参加している。
その内メアリーと慶介が何も変化が起こらない舞台を見て、状況を話し合っていた。
彼らの視線の先には、三メートル近くある大きな鉄格子の門が遠くに見える。
「多分……後ろが……怪しいと思う…………」
「後ろですか? 楓さん」
楓に言われるままに背後を振り向くメアリー。
すると、そこには正面に見える鉄格子とは対照的に、開き放たれてぽっかり開いた空間が見える。
鉄格子は上の方に限界まで開いているので、こちらは問題なく通ることが出来そうだ。
「こういった闘技場だと、大抵戦う者同士は東西の門に分かれてそこから出場するってイメージがある。もしかしたら、あの待機場所みたいな所に入ることで、ボス戦参加者を区切るのかもしれん」
すでに〈ソウルボード〉を使用して、北条と信也をリーダーとするレイドパーティーは組んである。
北条達は踵を返し、背後にある開いたままの鉄格子の門へと向かう。
最初北条達が下りてきた観客席側の背後にある壁だったので、下に降りるまでは気づきにくい位置だ。
門を抜けた先の奥には更に大きな扉があったが、そちらは閉じたままだった。
そして門と扉にあるちょっとした空間には、中央部分にこれ見よがしに深い藍色をした一メートルほどの石柱が立っている。
「まあ、これだろうなぁ……」
「北条さん。先に補助魔法を掛けていきましょう」
「ああ、そうだった」
メアリーに指摘され、北条達は戦闘前の準備を整えていく。
一通りの事前準備を済ますと、早速北条は中央にある石柱に手を振れ魔力を通していく。
ギギギギギッ…………。
すると、上がったままになっていた鉄格子が徐々に降り始める。
この速度なら完全に降りきる前に、十分この場所から抜け出せるだろう。
「団長、どーするの?」
「ここで慌てて抜け出しても意味はないだろう。多分これは挑戦者の選別だろうから、ここで様子を見よう」
通常の鉄格子程度なら、北条でなくともここまで来れるメンバーなら破壊出来ないことはない。
だがこの巨大なコロッセオもダンジョンの構造物の一部だ。
ダンジョンの壁や床などと同じく、恐らく生半可な攻撃では破壊することは出来ないだろう。
確かに鉄格子が下りていく速度はゆっくりとしたものではあったが、ジッと様子を見守る北条達には実際の時間以上に長く感じられた。
やがて完全に下まで降りきると、どこからかズズズッという音が聞こえてくる。
「あの、これ大丈夫なんッスか!?」
その様子にロベルトが少し慌てた様子で声を上げる。
「まあ落ち着け……って、これは……」
待機場所の部屋に閉じ込められる形となった北条達。
そこに物体をスキャンするかのような光が端から端へと走る。
北条達異邦人は、そうした光の動きを見てなんとなく何をされてるのかを理解したが、この世界出身の者達は平面状に走る薄い壁のような光を見て、警戒心を露わにしていた。
だが直後、再び鉄格子が上に上がり始めると安心した様子を見せる。
再び開け放たれた鉄格子の門を抜け、先んじて闘技場へと向かう北条。
すると、そこには驚きの光景が待ち受けていた。




