第739話 まとめて昇格
「ギルド証が用意出来たってぇ?」
「ええ。受け取りには、以前のギルド証を持って本人様に来ていただく必要があります。ホージョー様の方からお伝えいただけますか?」
「分かったぁ。なら俺達の分もその時に一緒に受け取るから、全員分用意しておいてくれぃ」
「かしこまりました」
普段はあまり受付に立つことがないシャンインが、にこやかな笑顔で対応をしている。
彼女は北条達ともそれなりに付き合いが長く、この《ジャガー町》のギルド支部の創設メンバーでもあった。
最初の頃はやり手の受付嬢といった雰囲気だったシャンインは、月日がたつにつれ徐々に焦りが勤務態度にも表れ始め、三十路を超えてからは野獣のような目つきで受付業務に入ることもあった。
そんな彼女も、ここ最近は鬼が改心したかのように笑顔を振りまいている。
一か月ほど前、ついにシャンインの毒牙に……ではなく。彼女の魅力に気付いた一人の冒険者との交際が始まっていたのだ。
しかも常に放ち続けられるシャンインからの結婚のアプローチが強いので、押しに弱いその冒険者はこのままだと蜘蛛の巣に絡み取られた獲物のような運命をたどることになるだろう。
「彼女、大分雰囲気が変わったな」
「だねえ。以前は若い受付嬢を押しのけて、受付業務をしてたからね」
ギルドからの帰り道。
北条や信也達はいつも通り駄弁りながら、拠点への帰路についていた。
「男と違って女はあれ位の年になると慌てるもんなのよ。特に、こっちだと結婚年齢はもっと低いんだから、余計焦りも大きかったんでしょうね」
他人事のように言っている陽子だが、彼女も年齢的にはシャンインと同じくらいだ。
しかし陽子には結婚に焦っているという様子は見られない。
「ヨーコさんは焦ったりしてないんですか?」
拠点での長期休暇中に、ついに守衛として雇っている元冒険者のミトが怒涛の攻めを見せ、ライオット城は陥落していた。
鈍感という防壁を打ち破ったミトは、その勢いのままライオットと関係を結び、恋人の座へと落ち着いた。
流石にここまでくると、鈍感なライオットでもミトのなりふり構わない気持ちを理解していたので、女性的にはその辺のことをどう思っているのか気になったらしい。
ただ無遠慮に独身女性にそのようなことを聞いてしまう辺り、根っからの性格はそのままのようだ。
「まー私はいずれ故郷に帰るつもりだし……ね」
そんな不躾なライオットの問いに、陽子は寂しげに答える。
「ああ……そうでしたね。そういえばシンヤ副団長も、最近はあの魔法具開発局長と仲が良いですよね?」
「……え、あ、俺か?」
「はい。この前私がどんなものか覗きに行った時も、二人で楽しそうに話してたじゃないですか」
自分に恋人が出来たせいなのか、最近のライオットは他人の恋愛ごとにも首を突っ込みたがる傾向にあった。
「いや、俺のは別にそういうもんではない。……ただ思いの他魔法具作りに嵌ってるだけに過ぎない。あ、別に彼女に魅力がないとかそういう訳ではないぞ?」
少し慌てた様子の信也に、陽子の恋愛センサーが作動し始める。
ただライオットのように、あからさまにそのことを指摘はしない。
その後、拠点へと戻った北条達はギルド証のことをメンバーにも伝え、早速明日にでも受け取りに行くことになった。
Bランクへと昇格したムルーダ達は、純白鋼製のギルド証で、色は素材のものをそのまま活かした白色をしている。
それがAランクになるとミスリル製に変わり、色は白銀色に。
そして一人Sランクに昇格したエスティルーナには、オレイカルコス製の金色のギルド証が交付された。
「おお、それがSランクのギルド証か!」
「やはりこっちでも金色というのは特別な色なのか?」
「なんか凄い豪華な感じがするっす」
「あれって元の素材が金色なのかな~?」
余り騒がれるのが得意ではないエスティルーナだったが、仲間から好奇心の籠った目で見られては、さっさと懐に仕舞ったりはしなかった。
表示項目は重要なところは非表示にしてあるので、『ジャガーノート』以外の冒険者に盗み見られても問題ない。
元々この町では有名だった『ジャガーノート』だが、クランのメンバーが一斉にギルド証を更新しているとあって、周囲には冒険者の人だかりが出来ている。
といっても、ある程度の距離を取って囲んでいるような形だ。
最低でもBランク以上の集団相手に、下手に手出ししたり絡んだりするやつはいない。
「はいはい。それじゃあ最後にホージョーさん。初代グランドマスター以来、二人目のSSランク達成おめでとうございます! こちらがSSランクのギルド証となります」
北条へとギルド証を手渡しているのは、異邦人とは古い付き合いのジョーディだった。
ジョーディは今ではほぼ裏方の中間管理職のような仕事をしているので、普段北条達と接触することは少なくなっていた。
それでも、変わらずこの町のギルド支部で働いており、時折『ジャガーノート』の初期メンバーと食事を共にしたりしている。
「ふむ、なんか妙に黒いがぁ、こいつは一体何で出来てるんだぁ?」
「それはアダマント製ですね。急遽調査されたんですが、当時の記録にはギルド証の情報がありませんでした。そこで、今回新たにSSランクはアダマント製と定められたみたいですよ」
そもそもSSランクレベルに認定されたのはギーダだけであり、彼自身がグランドマスターであった為、ギルド証が作られていない可能性も高いという。
そこで貴重な金属の中から、新たなSSランクのギルド証素材として、アダマントが採用されたようだ。
「御存じかもしれませんが、アダマントは非常に硬く、また魔力を弾くような性質があります。ギルド証として加工するのも大変でしたが、その分偽造されることもないだろうとのお墨付きが出てます」
「それはいいんだがぁ……みょーーーに黒いなぁ?」
「それはアダマントの他に混ぜた素材のせいだと思います。私も詳しくは知りませんが、素材を混ぜた結果黒っぽい色合いになったので、そのまま黒を前面にだして、SSランクのカラーは黒に決まったようです」
「プラチナを通りすぎて金から一気にブラックなのね」
陽子の脳裏に浮かんだのは、日本のクレジットカードの色のことだった。
今のところ、冒険者ギルドではこの黒いギルド証が最高峰ということになる。
「SSランクだって?」
「そういや、なんかギルドからそういう話出てなかったか?」
「ああ、そういやあったな。なんでもSランクの数を増やして、更に上のランクを設けたとかなんとか」
遠巻きに見ている冒険者達が好き勝手噂をしている。
これは予め冒険者ギルドがまいていた情報で、冒険者達の間に急激に広まっていた話だ。
エルネストは本格的にギルド体制の改革を始めたらしい。
「このギルド証は総本部から直接運んできたんですが、その際にグランドマスターからホージョーさんへの伝言を言付かってます」
「……なんだぁ?」
「『いずれ高ランクの魔物調査について指名依頼を出すことがあると思うから、その時は宜しくお願いね』……だそうです」
「まあ……時間があったらなぁ」
明言はせず言葉を流した北条だったが、ジョーディーはそこから更に言い含めるようなことはしなかった。
とにかくこれで今回試験を受けた者たちは、正式にランク昇格を果たしたことになるのだった。
ギルド証を受け取った後は、さっさと拠点に帰る者やついでに町に寄っていく者。
他の冒険者と話し込んだりする者などに分かれてゆく。
龍之介などは馴染みの冒険者も多いようで、「いっちょ訓練つけてやらあ!」などと言いながら、脳筋系の冒険者を引き連れてギルドの訓練場に向かっていた。
「ホージョーさんはこの後どうするんです?」
「そうだなぁ。久々にこっちで飯でも食ってくかぁ。ジョーディもどうだぁ?」
「私もご一緒したい所なんですが、仕事がまだ残ってまして……」
「なら俺が付き合おう」
「あら。なら私も一緒に行くわ。なんでも新しくドフォール商会が高級料理店を開いたらしいのよ」
ジョーディに振られたばかりの北条に、信也と陽子が名乗りを上げる。
「へぇ、そいつぁ気になるな」
「ジャドゥも、いく」
「おわっと。そっか、じゃあとっとと行くとしよう。ジョーディ、またなぁ」
近くで話を聞いていたジャドゥの他、何名かも一緒についていくことにしたようだ。
十人余りを引き連れ、ただ豪華なだけではない美味しい料理を味わった北条達は、満足げに拠点へと帰っていくのだった。




