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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十五章

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第738話 黒い闇のエリア


「確かにこれはかなり視界が悪いな」


「だな。和泉リーダーに【ライティング】を点けてもらってるのに、それでも視界が悪いぜ」


「私でも……視界が確保……できない……」


 北条の傍に立つ楓が、ボソッと呟く。

 楓は"視覚強化"や"暗視"スキルを持っているが、それでもやはりこの黒い霧の内部では視界が通らないようだ。


「真っ暗という訳でもないのだが、少し距離が離れると月の出ない夜のような暗さだ」


「うぅん、なんだか不気味な感じねぇ」


 暗闇というのはただでさえ恐怖心を刺激する。

 この場にいるのは並大抵の恐怖になら打ち勝てる面子だが、それでも不安を感じてしまうほどの雰囲気が辺りには漂っている。


「いいかぁ? 動き過ぎて一人だけはぐれないように注意してくれぃ。とりあえず魔物を釣って、一度だけこの場所で戦ってみる!」


 黒い霧部分に入って少し進んだ所で北条が指示を出す。

 まずはこの黒い霧の中に、どのような魔物がいるのかを確認するのが目的だ。


「分かったぜ、オッサン! だけど、こうも視界が悪いと遠距離攻撃系はつかえ…………うわっちょ!」


 話の途中で急に奇声を発する龍之介。

 見るとそこには、翼の生えた悪魔のような見た目の魔物がいつの間にか現れていた。


「リュー!」


「あれは……ガーゴイルか!?」


 ガーゴイルとは三角耳と翼をもつ、石で出来た魔法生命体系の魔物のことだ。

 自然に発生することはなく、基本はダンジョンにのみ生息している。

 しかし今龍之介を襲った魔物は、ガーゴイルの見た目に加え頭部から二本の角が生えていた。


「龍之介! そいつはシャドーデーモンといって、"影術"を使う! この真っ暗な空間のどこから襲ってくるか分からん。気を付けろぉ!」


「わ、かっ、ったぜええ!!」


 "気配感知"によって、直前にシャドーデーモンの爪の攻撃を躱していた龍之介は、反射的に流れるようにして逆に相手を斬りつけながら答える。


「っ! こっちにも来た。ガルド、僕達で引き付けるよ!」


「おうよ!」


 "影術"によって闇から潜んで不意打ちしようとするシャドーデーモンも、敵意を引き付けるスキルの影響からは完全に逃れることは出来ない。

 街灯に群がる蛾のように、シグルドやガルド。信也などのタンク役がヘイト管理に移る。

 アタッカーはそれらタンクの傍に布陣し、群がってくる魔物を打ち倒す。


「外周部にいた魔物も結構混じってるっす」


「そうね~。でも見たことないのもチラホラ混じってるっぽい~?」


「北条さんあの蝙蝠の翼が生えた魔物は……」


「ありゃあダークキマイラって名前らしい。闇属性の魔法に、"ダークブレス"を使ってくる。さっきのシャドーデーモンと同じで、こいつもAランクだぁ!」


 視界の悪い中、その環境に適したような魔物が多く襲い掛かってくる。

 それらを次々と打ち払いながら、北条は新種の魔物を"解析"し、その情報を仲間へと伝えていく。


 レイドエリアでは一度戦闘が始まると、付近の魔物がリンクして次々と襲い掛かってくる。

 幸いなのは、ここまで登ってくる途中にいた魔物は蹴散らしてあるので、魔物が向かってくる方向が坂の上に限定される点だ。

 そのお陰で、背後からの挟み撃ちを気にしないで済む。


 戦闘が始まってから二十分程が経過しているが、今のところ陣形が態勢が崩されることもなく、順調に魔物を撃破している。

 だが右翼側で戦っていた由里香は、急に上から押しつぶされるような圧力を受けた。


「うっ!? な、なんか上から押されてるっす!」


 優れた身体能力を活かして、風のように敵をぶん殴りまくっていた由里香だったが、急に発生した重力によって動きが阻害されてしまう。


「うわ、こっちもッス!」


 すると反対の左翼側でもロベルトから同様の報告が上がる。


「ちょっと何よ……。また新種ぅ?」


「でも姿が見当たりませんね」


 周囲は暗く見通しが悪いが、慶介の言うように見た感じでは新たな種類の魔物は見当たらない。

 後衛の位置にいる慶介だけでなく、前衛で戦っている龍之介達からも新種発見の報告はなかった。


「いや、待て。さっきから気になってたが、なんか……潜んでやがるぞぉ。……そこだぁ! 【フラッシュフレア】」


 北条がただ強い光を発するだけの"光魔法"を、薄っすら感じる気配の近くで発動させる。

 するとその周囲だけ闇が晴れ、明るい空間が生まれた。

 だがそれでもなお晴らすことが出来ない黒いモヤモヤとしたもの……気体のようにうごめく何かが、そこには潜んでいたらしい。


「アレだぁ! あの黒いモヤモヤが"重力魔法"を使ってるらしい。奴の名はウィズラック。Sランクの魔物で、闇属性と暗黒属性の魔法も使ってくる!」


「それでか! さっきからどーも敵のいない方から魔法が飛んできてると思ったぜ!」


 この場所には他にも、闇属性と暗黒属性の魔法を使う魔物が多い。

 そのためすぐにウィズラックの存在に気付けなかった。

 辺りに漂う黒い霧自体に微弱な魔力反応があることも、更に発見を遅れさせている。


「こいつはただでさえここでは察知しにくいのに、"闇同化"のスキルでかなり気配を探りにくい。おまけにガス状の魔物だから物理攻撃も効かん!」


「そんなのどーするっすか!?」


「魔術師組は、気配をよく探ってウィズラックをまず優先的に狙ってくれぃ! Sランクの魔法特化系の魔物を後に残すのは面倒だぁ!」


「むう、厄介な相手のようだ。精霊を上空から派遣するか」


「それはいい考えだなぁ、エスティルーナ。ほれ、お前らもいってこおい」


 エスティルーナの案にのって、北条も精霊を何体か派遣させる。

 精霊は精霊で独自の知覚を有している上に、魔力に関しての感知能力も高い。

 自我の薄い微精霊ならともかく、二人が使役する中位以上の精霊であれば、自我と共に知性も発達してくるので、自己判断で行動も出来る。


 この作戦が功を奏したのか、厄介なガス状の魔物ウィズラックは徐々に数を減らしていった。

 元々数がそう多くなかったのかもしれない。

 その他にもシャドーデーモンやダークキマイラなども大量に襲い掛かってきたが、三十分程の戦闘で完全に壊滅させることに成功する。



「特に問題なく倒せたのはいいが……」


「ちょっとこれは大変そうだねえ」


「だが回収はせんとなぁ」


 無事戦闘が終わりはしたが、まだこの後にやるべき作業が残っている。

 それはダンジョンの魔物を倒した後の恒例である、ドロップの回収作業だ。

 しかし黒い霧に覆われたこの空間だと、地面に落ちたものを探し集めるのにも一苦労だ。


「しょーじき、最近は金が溜まってもあんま使い道ないんッスよねえ」


「随分贅沢なこと言うようになったわね、兄さん」


「んなこと言ったって、お前だって大分貯めこんでるんだろ?」


 装備面に関しては、ルカナルや彼の弟子たちが日々装備製作に励んでいる。

 最近ではポーション関連も、拠点内で生産されるようになっていた。

 世界樹区画で栽培している各種薬草や、世界樹関連の素材などを用いればかなり等級の高いポーションも作成できる。


 冒険者はランクが上がれば上がる程、稼ぎも大きくなる。

 その分支出も増えたりするのだが、その支出の多くを拠点が担っているのでみんなのお金は溜まっていくばかりだ。


 ここまできた冒険者なら、無理にダンジョンを潜らずゆっくりとした余生を過ごしてもおかしくはない。

 しかし周りのみんなが自分と同じか、それ以上の実力者ばかり揃っている『ジャガーノート』。


 その中で団長である北条が高みにいるせいか、自分達はまだまだ修行不足だという思いをメンバーに抱かせていた。

 そのせいか、Aランクになったというのに足を止めることもなく、更に先を目指そうという気概に満ちている。

 勝負の世界には時折みられる構図だが、ライバルがいなければそこまでの高みに上ろうという者が現れない。

 高め合う相手がいるからこそ、彼らは先へ進み続けているということだろう。



「まあごちゃごちゃ言ってないでさくっと回収済ませちゃおっか」


 人数だけは多いので、この暗い場所でも回収にそれほど時間は掛からなかった。

 そして回収が終わると、予定通り一旦この黒い霧の空間を後にする。

 今回はここ(黒い霧)に来るまでに、一週間以上かけてゆっくり回ってきていた。

 まだ余力は十分あるが、そろそろ一旦拠点に戻ってもいい頃合いだ。


 帰りは全員で同じ方向から、ぐるりと台地の外周部を回りながら城門入口まで引き返す。

 帰りは北条が従魔達を呼びまくっていたので、戦闘時間や労力が大幅に減り、一行は数日で城門入口にある迷宮碑(ガルストーン)まで辿り着いた。


 こうして無事今回の探索を終えた『ジャガーノート』。

 いつものように、北条が信也やシグルドらと《ジャガー町》に換金に向かうと、彼らは冒険者ギルドにてとある報告を受けることとなった。


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