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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十五章

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第737話 デーモンバスター


 拠点への襲撃を跳ね除け、『ジャガーノート』がダンジョンの探索を再開してからおよそ一か月が経過した。

 この一か月の間は、第二レイドエリアの奥にある巨城エリアでのレベル上げをメインに行われている。


 ここではAランクからSランクの魔物が出現しているので、レベル的にまだAランクに至っていないムルーダらの底上げが目的だ。

 今も巨城エリアの城門から左右二手に分かれて探索しながら、城門の反対側にある場所での合流を果たしていた。


「和泉、そっちも問題なさそうだなぁ?」


「北条さんこそ、それだけ少数のメンバーで俺達と同じ探索速度とは流石だ」


 『ジャガーノート』はメンバーが三十人を超えてしまっているので、レイドエリアといえどパーティーを二つに分けないといけない。

 その際に、レベルを上げたい連中を北条のいる少数パーティーで受け入れることで、より効率的にレベルの平均化が行われている。

 レイドエリアの探索ではすっかりお馴染みとなった手法だ。


「最初ここで戦った時はもうちょい余裕がなかったんだがぁ、今ではかなりゆとりを持って回れるようになった。称号の効果も大きいだろうなぁ」


「おれ達も、ようやく全員がレベル八十一のAランクラインを超えたしな!」


 北条側のレイドパーティーにはムルーダやキカンス達が参加していたが、ついに全員がAランクの基準レベルを超えていた。

 四十人近く在籍しているのに、その全員がAランクレベル以上というとんでもない集団になっている。

 それも祝福を受けまくっているので、一般的なAランクよりもステータスが高い。


「団長。称号といえば更に称号持ちは増えてるのかい?」


「んんー? ああ、どれどれ……。あー、シャンティアとドランガランも新しく取得したみたいだなぁ」


「ようやく俺もか」


「みんな一緒に行動しているのに、これだけ取得までに差が出来るのはどういう理屈なんでしょうねえ」


「やっぱアレじゃね? トドメ刺した回数が多い方が早く称号もらえるとか」


「それは可能性が高そうだぁ。にしても、もう少し早くこの称号が欲しかったなぁ」


 彼らが話している称号とは、悪魔相手に攻撃力が増す『デーモンバスター』という称号のことだ。

 討伐系の称号は、同種の相手を多く殺すことで得ることが出来る。

 そして討伐系の称号があるとその種族に対して攻撃力が上がり、更に威圧感を与えられるようにもなる。


 この討伐系称号は魔物だけでなく、人間や亜人種用の称号も存在している。

 しかし戦争などで人間を多く殺しても、なかなか『ヒューマンバスター』は手に入らない。

 種族によって、称号を得るのに必要な討伐数の基準が異なっているからだ。


 その中でいえば、悪魔に特効がある『デーモンバスター』は討伐数少なめでも済んでいた。

 といっても、レイドエリアでA~Sランクの悪魔をモリモリと倒していた『ジャガーノート』だからこそ、この短期間で称号を獲得出来ているのだろう。

 このペースでいけば、このエリアの探索が終わる事には全員が『デーモンバスター』を取得してもおかしくはない。



「ところで北条さん。この後どうするんだ?」


 言いながら信也は目の前に続く上り坂の道を見遣る。

 城門入口から台地の外周部分を移動しながら、反対側へとぐるり回り込んだのが現在の位置だ。


 ここからは台地中央部に柱状にそびえる高台へと続く、少し急な坂道が見える。

 だが途中から暗黒の雲に覆われており、上部がどうなっているのかここからは確認することが出来ない。


「ううん……。全員揃ってることだし、この先をちょっくら偵察代わりに上ってみるか」


 北条のこの一言で、先へと進むことになった一行。

 台地中央部は柱のようにせりあがっているが、その周囲は一方向を除いて深い谷になっている。


 中央へと続く坂道の端から下を覗くと、"暗視"や"遠視"など様々なスキルを持つ北条ですら見通せない闇が広がっている。

 坂道の幅はレイドエリアだけあってそれなりに広めに取られているので、注意していれば落ちる心配はない。

 植物も何もない岩肌が続く坂道はそれなりの勾配で、所々に大きな岩のようなものが置かれていたり、ちょっとした崖になっているような部分がある。


「山登りにしても、上の様子があんなんだとまったく楽しい気分にならないわね」


 大分間近に迫って来た、暗黒の雲が広がる坂の上部分を見つめる陽子。

 ここまで登ってくる間に一度だけ魔物のリンク集団が襲ってきたが、出現する魔物はこれまでと同じ顔ぶれだった。


「ここまで近づくとまるで霧のように見えるっすけど、あれって普通に触れても大丈夫なんっすかね?」


「う~ん、あの黒い霧がずっと続いてるとなると~、視界も悪そうだね~」


「そうですね。それに、このエリアは"神聖魔法"の効果が低いですし、体に悪影響があると治すのも手間がかかりそうです」


 ユリメイコンビに続き、慶介が冷静に状況を分析する。

 黒い気体というのは、見るだけで体によくなさそうだというイメージが強い。

 慶介が体に悪影響があると思うのも当然だ。


「……よし。まずは俺が様子を見てこよう」


 あれから更に坂道を登り続け、眼前に黒い霧が迫る。

 霧の外からだと微かに魔物らしき気配を感じる程度で、ここまで近づいても体に悪影響はないようだった。


 そこで北条が最初に名乗りを上げて、一人先へと進んでいく。

 北条が霧の中へ入ると、途端に北条の気配や魔力がぼやける。

 まるで別空間や特殊な結界に入ったかのようだ。


「やっぱただの黒い霧じゃなさそうね」


「ああ。でも北条さんなら大丈夫だろう」


 それは信也の願望も含まれていたが、果たして数分もすると北条は無事にみんなの下に帰ってきた。


「オッサン! 中はどーなってたんだ!?」


「ん、うむ……。中は大分視界が悪い。"暗視"スキルもいまいち効果が弱いし、照明系の魔法の効果も弱い」


「体への悪影響はどう?」


「そっちは問題ない。念のため【エリア解析】を使ってみたが、相変わらず"神聖魔法"の効果が弱く、"暗黒魔法"の効果が強い以外の特性はないようだぁ」


 北条の場合、過剰な耐性スキルのせいで毒霧の中を歩いても気づかない可能性すらあったが、そこはちゃんと"情報魔法"で調べていた。


「となると、視界確保のために【ライティング】などを多めに展開した方がいいか」


「バニラにもしっかり光ってもらおう」


 北条が使役する光の精霊バニラは、この短期間ですでに上位精霊へと進化している。

 見た目は以前と同じ、ビーグルを少し大きくさせたような見た目のままだ。

 ただ上位精霊となった事で、大きさなどももっと自由に調整できるようになったし、より物質世界へと強く干渉できるようになったので、見た感じだと普通の犬にしか見えない。


「僅か数年で上位精霊に至るとはな……」


 エスティルーナは微妙な表情でバニラを見つめる。

 本来精霊というのは、長い時間をかけて成長していくものだ。

 中には成長を早めるスキルなども存在しているが、それでも上位精霊ともなると百年以上はかかるのが普通だとされている。


「うちのライも中位精霊になったけど、上位精霊はまだまだね。ほんとホージョーってどうなってんのかしらね」


 同じ"精霊魔法"を扱うディズィーも、自身が使役する光の中位精霊ライを呼び出して、視界が悪いという黒い霧へと備える。

 もちろんエスティルーナも、中位精霊であるランタンの形をしたルーを呼び出していた。

 魔法スキル持ちが多い『ジャガーノート』は、ダンジョンの特殊な環境でも対応力が高い。


「みんなの準備もいいようだなぁ? 中に入ると魔物の気配がより強く感じられるんだがぁ、その感覚からしてどうも新種の魔物も交じっているらしい。いつも通り、俺が"解析"を掛け終わるか緊急事態が起こらない限り、最初は様子見でなぁ」


「それに道を踏み外さないように注意だね」


 シグルドが追加で注意事項を呼び掛ける。

 どのくらい視界が悪いのかはまだ分からないが、前衛職などが派手に動き回ると確かに危険そうだ。


「ふむ、それもそうだなぁ」


 北条も納得したのか、"上位召喚魔法"で召喚した魔物を隊列の左右の端に配置する。


「こいつらは両端を守るように指示を出すから、戦う時はその外側に出ないように気を付けてくれぃ」


「分かったぜ!」


 これまで無灯火エリアであっても、【ライティング】などで対処すれば視界に困るということはなかった。

 しかし照明系の魔法を使っても視界を十分に確保できないというのは、ここが初めてだ。


 十分に気を引き締め、『ジャガーノート』一行は黒い霧に覆われた空間へと足を踏み入れていった。


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