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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十四章

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第734話 格の違い


 開始数秒で一気に佳境に上り詰めたかのような北条の昇格試験。

 自己強化スキルを重ね、"縮地"でもって北条に迫るゼンダーソンに、しかし北条はくるりときびすを返す。


「気付かれた!?」


 振り返った先には驚いた様子のコーヘイジャーの姿があった。

 彼は開始直後に"影術"の【薄影】で気配を消し、【影転移】にて即座に北条の影の部分へと転移していたのだ。


 しかし予めコーヘイジャーが"影術"を持っていることと、"予知の魔眼"によって北条はこの動きを看破していた。


「エエイシャコラアアアッッ!」


「ぶへらっ!!」


 振り向きざまに、気合の籠った神属性を乗せた拳がコーヘイジャーへと撃ち込まれる。

 【影転移】によって【フレア】のダメージは回避出来ていたが、元々盗賊タイプのコーヘイジャーに北条の重い一撃は殊の外効いた。


 しかし彼もただ殴られるだけに終わらず、殴り飛ばされる直前に"影術"の【影縛鎖(えいばくさ)】を発動させる。

 【影縛鎖】によって、北条の影には同じく影で出来た鎖が絡みつき、それは本体の北条の動きをも縛った。


 後方へと振り向いたため、結果として北条の後方から"縮地"で迫ることになったゼンダーソン。

 絶好の機会かと思われたが、コーヘイジャーの【影縛鎖】による拘束は北条の異様な耐性スキルやステータスによって、一瞬で拘束が解かれる。

 だがそれでもゼンダーソンが攻撃をする位の時間は十分に稼いでいた。


「よっしゃ! 獅子炎獄――」


「エエイシャコラアアアアアッッ!!」


 最初の一撃から闘技最終奥義スキルを放とうとしたゼンダーソンであったが、目の前にすでに北条の姿はなかった。

 そして刹那の時の後に、背後から聞こえてくる北条の声。


 先ほどのコーヘイジャーと同じように、【影転移】でゼンダーソンの背後に回り込んだ北条は、再度神属性を込めた拳を放つ。

 "縮地"で移動中の高速な影を捉えて【影転移】で転移するのは、コーヘイジャーであっても成功率が低い。

 不意を突かれたゼンダーソンは、今まで味わったことのない神の拳を受け、コーヘイジャー同様に吹っ飛んでいく。


 最初の【フレア】によるダメージと、思いのほか重かった神属性の一撃によって、ゼンダーソンはまともに体勢を整えることも出来ない。

 そのまま十メートルほど吹き飛ばされると、そこで待ち受けていた北条が更にコンボを繋げていく。


「エエエエエイシャコラアアアアアッッ!」


 その一撃によって、器用にコーヘイジャーが飛ばされた方角へと飛ばされるゼンダーソン。

 二人の体が激突すると同時に、追撃の"氷霜魔法"が飛ぶ。


 【フレア】同様に二重で発動した【プリズンアイス】の魔法は、ゼンダーソンとコーヘイジャーの周囲に二重の氷の牢獄を生み出した。

 ただ"リフレインマジック"は発動していないのか、四重にはなっていない。


「うひぃっ!」


「寒っ! ごっつ寒ッ!!」


 氷で出来た牢獄を生み出す【プリズンアイス】は、ただ単に相手を捕えるだけでなく、檻の中にいる者に氷属性の継続ダメージを与え続ける。

 中に閉じ込められた二人は必死に檻を破壊しようと試みるが、ただの氷のように見える檻は非常に硬い。

 しかもかるく一部を削ってもすぐさま修復されてしまう。


「漆黒の黒き雷は、破壊と共に全ての滅びを齎す。【黒雷】」


 ここまで魔法は"フォースキャスト"スキルで発動時間を縮めていた北条だったが、ここにきて普通に魔法の発動を行う。

 だがこの段階で既に【フレア】の影響から復活していたエルネストが、魔法の詠唱に入っていた。


 北条がゼンダーソンらを相手にしてたのは、ほんの数十秒。

 普通それだけの時間があれば、先に詠唱を始めた方の魔法が先に発動する。

 勿論使用する魔法によって発動時間も変わるのだが、両者ともに"漆黒魔法"の同レベルの魔法を発動させようとしていた。

 それでいて、先に魔法を発動させたのはエルネストではなく、北条の方だ。


 ズドオオオオォォォォンッ!


 という音と共に、北条の魔法がエルネストを直撃する。

 それは拠点襲撃時にゴドウィンも使っていた黒い雷を落とす魔法――【黒雷】だった。


「……ッッ! ぜ、【絶魔の黒光】」


 北条の放った【黒雷】は、漆黒属性と雷属性が入り混じった強力な魔法だ。

 他の暗黒属性系魔法に幾つかみられる特殊効果こそないが、その分威力にガン振りしているので攻撃性が高い。


 対するエルネストが使用した【絶魔の黒光】は、空中に入ったヒビの先にある黒い空間から、黒い光が一定範囲に広がるという魔法だ。

 この黒い光を浴びると暗黒属性のダメージを受ける上に、確率で「状態異常:魔力回復不可」にされる。


 暗黒属性は耐性スキルがあってもダメージを軽減しにくいが、それはこうした特殊効果にも影響する。

 それはつまり、状態異常により掛かりやすくなるという事だ。

 高レベルの冒険者であっても、暗黒属性による状態異常は致命的になり得た。


「…………」


 北条の頭上の空間に、ヒビが入り始める。

 ここで一瞬北条の動きが止まったのは、どう対処するかを見繕っていたからだ。

 如何様にも対処法がある中、北条が選んだのは再び"漆黒魔法"を行使するというものだった。


 既にエルネストの魔法が発動しつつある状態だったので、再び"フォースキャスト"スキルにて発動時間の短縮を行う。

 そして使用するのは【ディスペルフィールド】の魔法だ。

 この魔法は【ディスペルマジック】を空間に対して掛けることが出来る魔法であり、使用時に籠めた魔力に応じて魔力を消散する空間を作り出す。


 魔法を即座に発動できる"フォースキャスト"スキルは便利ではあるが、その分魔力消費量が激増する。

 特に【ディスペルフィールド】のように、籠める魔力量が重要な魔法とは相性がよくない。

 魔力を籠めれば籠めるほど、消費魔力が跳ね上がっていくからだ。


 しかし北条はエルネストの使用した魔力量を正確に読み取り、籠める魔力量もそれに合わせて調整を行う。

 少しでも無駄にする魔力を減らすためだ。

 そうして発動された【ディスペルフィールド】は、後だしにも関わらず先にエルネストが発動させた【絶魔の黒光】を飲み込んでいく。


「な、なんだって! 今のは一体……!?」


 【絶魔の黒光】はエルネストにとっては、とっておきの魔法の一つだ。

 上手くいけばこれだけで相手を倒せるし、例え生き残っても魔力回復不可の状態異常の判定が待っている。


 そのような強力な魔法が、明らかに途中から(・・・・)打ち消されたのだ。

 その衝撃は、歴戦練磨のエルネストの思考を僅かに奪った。

 だが北条はそんなこと気にしないとばかりに、魔法の量産体制に入った。

 いつぞやのゼンダーソン戦でも見せた、"短縮詠唱"と"ダブルキャスト"による、魔法の圧迫面接だ。


「近き者全てに紫電の裁きをもたらせ、【紫玉】。降り注げ大地を穿つ星石、【メテオストライク】」



 ――そこからは一方的な展開となった。



 "ライフアナライズ"のスキルで常にゼンダーソン達のHPを確認しながら、死なない程度の魔法攻撃を繰り返す北条。

 最初の内はまだ戦意の高かったゼンダーソンも、手も足も出ない状態が続いたことで流石に勢いが弱まっていく。


 あらゆる属性の攻撃魔法が、大闘技場内に飛び交っていた。

 その光景に、初めて北条の力を目撃したイザイージやサーシャなどは、顔を真っ青にしながら震えている。


「わ、分かったああ! もう終わり! 終わりいいいいいい!!」


 ついにはエルネストが傍目も気にせず、大声で喚き散らすように試験の終了を告げる。

 その姿からは、普段の飄々とした様子は全く見られない。


「――き炎球は赤き炎球をも焼…………って終わりだって? エルネストはあと一発くらい耐えられるんじゃあねえかぁ?」


「イヤイヤイヤイヤ、無理だよ無理ッ! もうしっちゃかめっちゃかだよ!」


 途中で発動を止めたようだが、最後に放とうとしていた魔法も相当の魔力が込められているのをエルネストは感じていた。

 確かにギリギリで耐えられるかもしれないが、好き好んで瀕死になりたくはない。


「ふぅ……。初めはあんま乗り気じゃなかったがぁ、魔法を派手にぶっぱなすのはなかなかストレス解消になるな! それに大闘技場の耐久実験にもなった。これ位なら、ちょっとした破損程度で済むようだ」


 大闘技場を覆う結界は、直接結界を狙ったものではないとはいえ、この魔法の暴威を完全に防ぎ切った。

 ただ石畳の床の一部は、微かに破損している箇所が見られる。

 その辺が改良点かな? などと思いつつ、ハレバレとした表情で北条は大闘技場から下りていった。


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