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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十四章

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第725話 思わぬ客人


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 龍之介や由里香などは、ゼンダーソン達との模擬戦や鍛錬。魔術師組は落ち着いた時に出来るような魔法の研究などに励み。

 信也はディーヴァと魔法具(マジックアイテム)製作の沼に嵌り、慶介はリタとの関係を一歩先に進める。


 初めてとも言えるほどの長期休暇を各々が満喫しながら過ごす中、北条は拠点の修復などを済ませていた。

 それも、これまで本格的に工事を行っていなかった東区画を壁と水堀できっちり覆い、新たに訓練場区画として完成させた。


 といっても、区画整理自体はそれほど手間がかかっていない。

 豊富な魔力とこれまでの経験から、作業自体は二日もあれば完成していた。

 この区画では、主に訓練用の施設を作っていく予定だ。


 今稼働してるのは模擬戦を行う為の石床で出来た闘技場や、空き広場のようになっているトレーニングスペース。

 弓の訓練用の的が設置された場所や、小規模用の魔法練習場。

 そして大規模な魔法を練習するための、強固な結界を張る事が出来る場所も用意してある。

 他にも体育館のような室内訓練場も建設してあるが、まだガワだけで中はがらんどうといった所。その内ここに特殊な施設を作る予定だった。


 そして何より時間をかけたのが、旧東門から出てすぐの場所。

 今でいう訓練区画の西門近くに建てた、新しい入浴施設。

 その名も『ネオスーパー銭湯ランド』。


 この独特なネーミングの入浴施設は、これまでのノウハウや魔法具(マジックアイテム)の知識などをふんだんに盛り込み、利用者の大幅増を見越してかなり広めに作られて建築されている。

 通常の浴槽とサウナは勿論、打たせ湯、薬湯風呂、岩盤浴、ジェットバスなども新しく作られた。


 特に薬湯風呂は、世界樹区画で育てられてる薬草や世界樹の葉などを原料にした入浴剤が用いられており、明確に薬効が現れると北条が太鼓判を押す程だ。

 施設の規模としては、男女それぞれ二百名ずつ利用できるほど大規模になっている。

 こうしてネオスーパー銭湯ランドを訓練区画に配置する事で、訓練帰りにひとっ風呂浴びて帰るという事も可能になった。


 ただし、ネオスーパー銭湯ランドを作るのに思わず力が入ってしまい、明火の月(8月)終わりまでの休暇の予定が、更に数日伸びる事となってしまった。

 しかしその予定の遅れによって、とある人物とすれ違いにならずに済む事となる。






 それは明火の月(8月)が過ぎ、暗土の月(9月)に入って少し経った日の事。

 一連の作業の最後に建設していたネオスーパー銭湯ランドが完成した日、拠点へと先触れの使者が訪れる。


 使者を派遣してきたのは、『ロディニア王国』の王子であるキリルであった。

 すでにキリルら一行は《ジャガー町》に到着しており、都合が合えば明日にでも面会したいという。


 北条は使者に明日の面会を了承する旨を伝えると、使者はキリルの下へと帰っていく。

 その日の夜、クランのメインメンバーは完成したばかりのネオスーパー銭湯ランドを存分に堪能し、これまでの疲れを癒した。


 そして夜が明けた。


 面倒な話はさっさと済ませたいと、北条はキリルとの面会を朝の時間に指定した。

 この世界では陽が昇ったら活動し始める人が多いが、北条が指定したのはそれよりは遅く、朝の鐘の音がなって少し経った頃を指定している。


 面会の時刻になると、キリルが十人ほどの供を連なって拠点を訪れた。

 連なると言っても、王子という立場にしてはその数は少ない。

 《ジャガー町》に移動するまでの道中はもっと人数が多かったのだが、拠点を訪ねてきている今は、以前拠点を訪れた時に連れていた者しかいない。

 拠点の中に入るには、誓約の魔導具で情報厳守を誓わないといけない事をキリルは知っていたからだ。


 しかしキリルと共に拠点を訪ねたメンバーの中には、初めて拠点を訪れる者も交じっていた。

 彼らは順に誓約の魔導具で情報厳守を誓っていこうとするが、最初に並んだ男が魔導具の前に立つと、ピーッ! というエラー音らしきものが発生する。


「む、これはどういう事だ?」


 明らかに何か不具合が生じた事が分かる……そんな音が鳴り響いた事で、キリルは少し慌てた様子を見せる。

 音が鳴った人物はキリルとは直接関わりのある者ではなかったが、何が原因で『ジャガーノート』の不興を買うか分からない。

 それほどまでに、キリルは今回の会見に入れ込んだ気持ちで臨んでいた。


「あー、少々お待ちください。城の方に連絡を取りますので……」


 しかし守衛の反応を見る限り、特に大きな問題には発展していないようだ。

 もしこの魔導具に敵意を見抜くような効果があり、その機能が反応していたとしたら一波乱起こるところだった。


 連絡を取る守衛の様子を見ながら、ほっと胸を撫で下ろすキリル。

 それから少しすると、キリルは聞き覚えのある声を耳にする。


「いよう、キリル王子。久々だなぁ」


 その口調はとても一国の王子に向けるものではなかったが、声を掛けられた本人は勿論、周りにいた者もこの声の主に口を挟む者はいなかった。

 そこにはこの拠点の主であり、Aランク冒険者でもあり、『ロディニア王国』から名誉子爵の位を与えられた男。

 北条が姿を現していた。


「ああ、久しぶりだな。壮健そうで何よりだ」


 ここで両者が手の平を互いに向けて、挨拶を交わす。

 次に北条がこの場に到着してから、真っ先に気になった事を口にする。


「それになんだぁ? 王子だけかと思いきや、冒険者ギルド関係者までいやがる。しかもナイルズだけでなく、まさかのグランドギルドマスターがこのような場所までお越しとはなぁ、エルネストさんよ」


 拠点を訪ねたのはキリルを主とする集団であったが、その他にも冒険者ギルドから派遣された者も交じっていた。

 ……というより、冒険者ギルドの最高責任者であるエルネストが、直々に総本部から参加している。


 キリルの御供は四人、ギルド関係ではエルネスト、ナイルズ以外にも四名がこの場に加わっている。

 内一名は、エルネストと共に総本部から派遣された、総本部に幾人か存在するサブマスターの一人だ。


「やあ、ホージョー。前回は突然の訪問で驚かされたからね。今度はボクが驚かせにきたよ」


「随分とフットワークが軽いんだなぁ? しかしアンタなら魔導具が反応したのも頷けるってもんだぁ」


 誓約の魔導具には単に誓約の効果をもたらすだけでなく、相手の能力が測れない、或いは高レベルな相手に関しては、警告音でもって予め知らせてくれる機能があった。

 そういった相手に魔導具を使用しても、きちんと効果が表れるかどうか微妙だからだ。


「なんかそういう仕掛けがしてあったんだね。ボクが壊したとか言われたらどうしようかと思っちゃったよ」


 最初にエルネストが北条と挨拶を交わすと、他のギルド関係者達も順に挨拶をしていく。

 ナイルズはともかく、残り三名は北条も初めて会う人物だった上、レベルも高かったので"解析"するのを怠らない。




「さて、挨拶も済んだところで、あんたら六人には俺が直接契約を行う。拒否するならそれで構わんがぁ、そうなると拠点へ入る事は許可できん」


「ああ、別に構わないよ。話は前もって聞いていたしね」


「そうかぁ。じゃあブレナン! 甲種契約書を出してくれぃ」


「はい。分かりました」


 守衛のブレナンが奥にあった棚の引き出しから取り出したのは、六つの契約書の束。

 数ページに渡る契約書には、順守すべき契約内容が記されている。

 ブレナンは、その契約書をエルネストら新規の六人へと渡していく。


「うわ……、何枚もあるのにビッシリと書いてあるね」


「情報漏洩に関してはうるさいと聞いてはいたが、ここまでしていたのか……」


 その余りの細かい内容に、エルネストもナイルズも頭を掻きながら契約書の内容を確認していく。

 この契約書自体に特別な効果はない。

 だが毎回口頭で説明するのも面倒なので、こういった時の為に用意しておいたものだ。


 正直北条としては昔からの付き合いのあるナイルズに関しては、一番制約の厳しい甲種契約でなくともいいかと思っていた。

 しかしエルネストやエルネストと共に総本部から来た連中は、今の段階では警戒が必要だ。


「うん……、内容は大体把握したよ。その上でボクはこの契約を受け入れると誓うよ」


「私も同意するぞ」


「私も……」


 何度も内容を把握したかの確認が取られたが、この段になってわざわざ拒否するような者はいないようだった。

 確かに要項が多く、罰則も厳しい事が記されていたが、理不尽な内容は記載されていない。

 というより、機密情報を守るのであれば、これ位セキュリティーを高める必要があるのかと、内心でエルネストは拠点の防諜システムを評価していた程だ。


「そうかぁ。んじゃあ、いくぞぉ」


 六人の承諾を確認した北条は、早速契約を実行していく。

 例え口だけで同意していても、北条ならば強引に"契約魔法"で契約を結ぶことも可能だ。


「ぐっ」


 実際、一名だけ北条の"契約魔法"を素直に受けようとしない者がいた。

 総本部でサブマスターをしているという中年の男だ。

 彼も勿論契約書の内容に目を通してはいたが、とりあえず内容だけ軽く覚えておけばいいだろう程度の認識しか持っていなかった。


 しかし契約書の最後の方には、もし契約の意志がない者が同意の言葉を発していた場合、より拘束力の強い契約を施行すると明記されていた。

 サブマスも、まさか"契約魔法"の使い手がいるとは思っていなかったのだろう。

 北条がちょっと魔力を強めただけで、あっさりと契約が――それもより拘束力の強い契約が成立してしまった。


「どうやら若干一名、契約を軽視した者がいたようだがぁ、契約書に明記してあった通り、更に強い契約で縛った。これでお前は口頭で伝える他、文字に書いたり身振り手振りで伝えたり、"念話"などのスキルで伝えたりする事も出来なくなる」


 より強い"契約魔法"で解除するなり、契約内容を一部変更する事は理論的には可能だ。

 しかし北条が掛けた"契約魔法"を解除出来るとしたら、高位の天使や悪魔くらいだろう。


「例え拷問されたとしても、口を割らないほどに強力な契約になっているので、うっかり口を漏らさないように頼むぞぉ。まあ一言でも漏らしたらその時点で終わる(・・・)けどなぁ」


 契約の効果として、秘密を伝えられないようにはなっている。

 しかしそれでも何等かの手段で口を割った場合、甲種契約より更に強い契約で縛られた為、契約者の命が失われる事になる。


「な、んだと……」


「あーあ……。だからボク、前もって何度も言ってたよね? ホージョーを甘く見てはいけないって」


 地面に膝をついて崩れ落ちるサブマスに、エルネストの冷たい声が追い打ちとなって突き刺さる。

 一気にこの場の空気がしけこんだが、契約を順守すれば別に被害は出ないのだ。

 そう何度も自分に言い聞かせ、どうにか立ち上がったサブマス。


 これで一先ず全員の契約や誓約は終わったので、一行は北条の案内の元、最近作り直されたばかりの西門を抜け、拠点の中へと入っていった。


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