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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十三章

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第673話 近衛部隊壊滅


 明らかに起動したと見た目で判断できる魔法具(マジックアイテム)

 それも運んできた兵の扱いがかなり丁重だったので、少なくとも魔法道具レベルではなく魔導具レベルであるのは明らかだ。

 しかしすぐにその魔法具(マジックアイテム)の効果が明らかになる事はなかった。

 それが明らかになったのは、エルフの女が集団で突っ込んでくる近衛兵に魔法を使用しようとした時。


「雷よ激しく舞え! 【ライトニングスパーク】。…………、これはっ!?」


 エルフの女が発動したと思しき"雷魔法"は、微かな電撃すら生み出す事もなく、不発のまま終わった。

 そして魔法発動の瞬間、魔法具(マジックアイテム)が一瞬蒼く光ったかと思うと、魔水晶部分の淡い蒼の光が微かに輝きを増す。


「ディロイ様。どうやらあの魔法具(マジックアイテム)は魔法を阻害……いえ、吸収するようです!」


「よくぞ一目で見破った! 見ての通り、我が国が誇る神器〈魔落の吸魔水晶〉によって、貴様らの魔法は封じた。これで貴様らも終わりだ!」


 早々に魔法具(マジックアイテム)の効果を言い当てられたからか。

 或いは状況を説明する事で三人に心理的動揺を起こそうとしたのか。

 近衛騎士隊長が〈魔落の吸魔水晶〉の効果を説明して見せる。

 だが、詳細な説明までは当然ながら行っていない。


 ただ単に周囲の魔法を封じるだけならば、正直使い勝手が余り宜しくないという、使いどころが限定されてしまう魔法具(マジックアイテム)でしかない。

 しかし実際使用されている今の場面を見ると、亜人の三人は魔法を使用出来なくなっているのに対し、近衛隊側は普通に魔法を使用する姿が確認出来る。


 これは〈魔落の吸魔水晶〉に予め魔力波形のパターンを登録する事で、その者達には効果が及ばないようにする機能が組み込まれているからである。

 効果内容は異なるが、『ジャガーノート』の拠点でも似たようなシステムは採用されていた。


「……ほおう。どおれ、試してみるとしようか!?【黒雷】」


 先ほどの魔法が不発になった事で、エルフの女の下に近衛兵が殺到していた。

 それを大剣で薙ぎ払っていた獣人の男は、興味深そうな声で呟くと、殊更に魔力を込めて"漆黒魔法"を発動させようとする。


 発動前の段階のせいか、すぐに〈魔落の吸魔水晶〉が起動する事はなかったが、その余りの濃密な魔力の奔流に、近衛隊の魔法を使える者達は背筋を凍らせる。

 中には失神してしまったり、その場で吐いてしまったりする者もいたくらいだ。


「う、くっ……」


 自身も微かに魔法の心得がある近衛騎士隊長も、獣人の男の異常な魔力につい圧されてしまう。

 しかしながら、膨大な魔力が一点に集中し、いざ魔法発動という段になっても魔法が発動する事はなかった。

 代わりに〈魔落の吸魔水晶〉が一際まばゆく輝き、一度の発動で先ほどのエルフの女の時より多くの魔力が魔水晶に吸収される。


「そんなっ! 一度の魔法でこれだけの魔力を吸収するなんて!?」


 〈魔落の吸魔水晶〉の傍に控えていた魔術師と思しき女性が、驚愕の声を上げる。

 激しい戦闘が続く帝城入口部だが、増援に現れるのは何も近衛部隊だけではない。

 城に勤めていると思われる魔術師たちや、神官たちも続々と応援に駆けつけていた。


「けどそれだけ魔力があれば、こいつでっ!」


 魔術師や一部の近衛兵の中には、先端部分に魔水晶の欠片のようなものを埋め込んだ短杖を持つ者がいる。

 この短杖には〈魔落の吸魔水晶〉が吸収した魔力をもとに、魔法を使用出来るという機能が備わっていた。

 本体(魔落の吸魔水晶)の近くという制限はあるし、予め登録が必要ではあるが、相手の力を利用出来るのはかなり有利に働く点だ。


 魔法攻撃というのは避けにくいものであるし、幾らレベル差や耐性スキルがあろうとも、着実にダメージを重ねていくという点では向いている。

 〈魔落の吸魔水晶〉による魔法の封印と、物量による相手の疲弊を誘う作戦。

 それは相手が並のSランク三人であれば、通用したであろう。

 しかし……、



「まだか!? まだ倒れないのかッ!!」


「ぐ、これ以上は俺の眼が持たねえ!」


「あの獣人の男には魔眼系スキルは全く通用しない! 狙うなら他の二人にしろ!」


「俺の"念動力"がさっぱり効果がないぞ!」


 これだけの人数がいれば、特殊能力系のスキルを持つ者も当然含まれる。

 中にはそうした何かに突出した能力を持つ者が、特別枠として近衛隊に採用される事もあった。

 魔法とは違い、独特な効果を持つ特殊能力系スキルは、何をされるか分からないという点でも脅威であるし、"ガルスバイン神撃剣"のように強力な威力のあるスキルも存在する。


 しかし、この亜人の三人とは根本的にレベルの差が大きい事もあって、そうしたスキルもいまいち効果を発揮出来ていない。

 そしてあれだけ動き回っているというのに、亜人達は疲れを一切見せず、同じペースで死体の山を生産し続けている。


気になるもん(魔落の吸魔水晶)が出てきたからペースを落として様子を見たがぁ、追加の魔法具(マジックアイテム)もないようだし、これで決めるぜオラァ!」


 獣人の男はそう言うと、闘技奥義スキル"転"を発動させて周囲の敵を一網打尽にする。

 それに合わせ、エルフの女もドワーフの男もこれまで以上の速さで持って辺りを動き回り、秒ごとに死体を作り上げていく。


「よおっし、まあこんなもんでいいだろぅ。いいもんも手に入ったし、こいつぁ宝物庫の方も期待できるってもんだぁ」


 満足気に〈魔落の吸魔水晶〉をペチペチと叩いた後、収納する獣人の男。

 状況的にはおかしくはないのだが、妙にテンションが高い。

 そんな獣人の男に対し、エルフの女が口を開く。


「……ところでディロイ様。その宝物庫ですが、捕らえた者から話を聞くのでは……?」


「……あっ」


 エルフの女に指摘され、辺りを見渡す獣人の男。

 しかしそこに生ある者の姿はなく、何百人もの死体の山が転がっているだけだった。


「……まあ、しゃあないしゃあない!」


 自分の失態に気付いた獣人の男だったが、あまり気にした様子もなく魔法を使用する。

 その魔法――"死霊魔法"によって蘇った近衛騎士隊長や他の兵士から、宝物庫に関する情報を得る三人。

 ついでに他の死体にも手当たり次第"死霊魔法"を掛けていき、城内で暴れまわるように命令を下すと、早速三人は宝物庫へと一直線に向かうのだった。






▽△▽△▽



 大胆にも正面から帝城に乗り込んできた侵入者たちの情報が、謁見の間まで届くのには大分時間を要してしまっていた。

 それはすぐに鎮圧されるだろうから、報告は鎮圧を確認してからでいいだろうという、初期判断のミス。


 そしてたった三人の侵入者相手に、帝城を守る近衛兵が手も足も出ないという状況に、迂闊に報告しようものならどんな処罰が下るか分からないという、現場判断。

 ようやくそんな呑気な事言ってる場合じゃないと気付いた時には既に遅く、報告しようとした兵は戦場から逃げ出す事も出来ず、その場で全滅してしまったという点。


 これらの要因が重なり謁見の間への報告は遅れに遅れてしまったのだが、三人の目的は宝物庫であったため、三つある宝物庫を全て巡っている間に、ようやく謁見の間へも連絡が届く事となった。


「近衛部隊が壊滅……したというのか?」


「その通りであります! それだけでなく、どうやら侵入者には"死霊魔法"の使い手がいたようで、帝城内には元近衛隊のアンデッドがそこら中に蠢いております!」


「なんと……」


「栄えあるこの帝城に不浄なる者どもが……」


「ええい、忌々しい。下等なアンデッドなどすぐさま滅却してしまえ!」


 続く伝令の報告に、謁見の間に集まった貴族達の間には意外にも恐怖の色は余り見られない。

 それよりも、アンデッドが帝城内をうろついている事に不快感を覚えるものが多いようだ。


 今日だけで《ストラディグロウ》の陥落、帝城への侵入者による近衛隊壊滅。

 それに伴うアンデッドの大量発生。

 これだけの事態を耳にしても、彼ら貴族にはどこかしら自分の命だけは大丈夫だろうという、根拠のない自信を持ったままだった。


 これまでの貴族生活の中、子飼いの冒険者や密偵などがしくじった結果、大きな損害を出したというような事なら彼らにも経験があった。

 しかし結局は貴族たる彼らが害されるような事態に、そうそう発展する事はない。


 それ故彼らは、忘れていたのだ。

 時に理不尽というものは、平民だの貴族だの関係なく訪れるものだという事を。

 いや、そもそも最初から彼らには、そういった事態が訪れるという想像力が欠如していたのかもしれない。


 しかし現実はすぐそこに迫っている。

 開け放たれたままの謁見の間の扉の方から、何者かが会話する声が近づきつつあったのだ。



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