第671話 震撼する帝国
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「……お前達、よくやってくれた」
激しい魔法や戦闘によって広範囲にわたって地形がボコボコになった場所に、北条の従魔達が勢揃いしている。
この辺りには一応街道も通っていたのだが、影も形も残っていない。
帝国軍の主力部隊は壊滅したが、この辺の後始末をするのにはかなり手間がかかる事だろう。
「初めに北条様の偉大な魔法があったからです。私達だけでしたら、あれほどの人数ですし取り逃した人数はもっと増えていた事でしょう」
「僕もはりきって魔法撃ったです!」
「キュキュッ!」
「それで、次はどうするんじゃ? 拠点に戻るのかの?」
「いや、次は帝国内にある都市に襲撃をかける」
「ほほっ、それはまた豪気なことよ」
北条は《暗黒大陸》から戻る前には、既にこの事を決めていた。
なので、拠点に戻る前に帝国の各地の都市を巡り、"空間魔法"で座標を記録してある。
その数、十七都市。
勿論、その中には《帝都パノティア》も含まれている。
「北条様、現在のレベルは幾つになられたのですか?」
「ああ、お陰でレベル百二十五に達した。あと一レベル上がれば俺もSSランクの仲間入りだな」
「あとは都市襲撃でどれほどレベルが上がるかじゃな」
「レベル上げも勿論だがぁ、帝国には立ち直れないくらいのダメージを与えておきたい」
平坦な声でそう宣言する北条。
帝国軍の主力が壊滅状態にある現在、十分壊滅的なダメージを受けている状況なのであるが、北条は追撃の手を緩めない。
国土の広さや人口などを見れば、未だに帝国は二位以下を突き放す国力を持っている。
北条はその状況を打ち崩すつもりでいた。
「そろそろ休憩もいいだろう。お前達に、これから行う都市襲撃の概要を説明する」
元々Sランク以上の魔物だらけの従魔達は、HPの損傷は軽微だった。
問題はMPの方だが、"トリックボックス"などのMPの回復を手助けするスキルなどを使い、それなりに回復している。
そもそも北条が最初に派手にやったせいで、従魔達もそれほどMPは消費していない状態だった。
しかし、これから幾つもの都市に襲撃をかけていく予定なので、魔力管理には十分注意するようにと北条から注意がなされる。
そして肝心の概要だが、これまた込み入ったものではなく、先程帝国主力軍を壊滅した方法と大して違いはない。
つまり、まずは北条が広範囲を魔法で攻撃し、その後に従魔が突っ込むというものだ。
違いといえば、最初に放つ魔法では都市の門をまず狙うという点と、市街地戦になるという所だろうか。
「……ではまずは俺が先に転移して、お前達を呼びよせる。戦闘中、何かあればすぐに俺に報せる事」
最後に硬い口調でそう言って転移していった北条。
口調だけでなく、その表情にも硬さが感じられるものだった。
しかし既に決意した事を翻す事なく、北条は大虐殺へと出向く。
それから二日の間にわたって、帝国各地の都市は惨劇に見舞われることになる。
一つの都市に対する襲撃はおよそ二時間くらいにもかかわらず、その短時間の間に都市は壊滅状態にされていく。
ダンジョンスキルである"マナの祝福Ⅳ"や、"深きマナの器Ⅵ"の称号効果によって、最大MPが大幅に強化されている北条。
それでも強力で大規模な魔法の連続使用は、大海のような北条のMPでも不足が発生する。
その際北条は破壊前に都市へと単身で侵入し、手当たり次第に"魔力吸収"を使用して、MPを補填する。
また人が密集している所に、"漆黒魔法"の【魔力吸収の霧】を使って魔力を奪い、省エネも心掛けた。
そうして次々と帝国各地の都市を襲撃していった北条は、最後に《帝都パノティア》へと転移していった。
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《帝都パノティア》の中でもひときわ目立つ建物、それは皇帝の座す帝城である。
細部にまでわたって精緻な造りをしており、城内のあちこちに美術品やら絵画などが飾られている。
その帝城の入り組んだ通路を抜けた先にある、謁見の間。
そこには皇帝をはじめとした、この国の重鎮たちが勢揃いしていた。
「今、何と申した?」
「はっ、その……、要塞都市ストラディグロウが壊滅状態にある、との事です」
「南側諸国が攻め込んできたというのか?」
「い、いえ。都市は魔物による襲撃を受けたとの事。報告によりますと、Sランクの魔物の集団から突如攻撃を受けたとあります。守備に当たっていた者達も、壊滅状態のよう……です」
「な、な、ななななっ……」
至高の玉座にて臣下からの報告を受けた、『パノティア帝国』現皇帝バルバドス・ジョアン・ダンケ・ゾルアスタ・フォン・パノティアは、皇帝らしからぬ狼狽を臣下達を前に見せる。
バルバドスは、ガイ扮する長井によって完全に支配下に置かれていた。
しかし、ロディニアへの侵攻命令などを除く通常の政務においては大きな問題を見せず、皇帝としての辣腕を振るっていた。
一連の無茶な出撃命令も、そうしたまともな部分がちゃんと残っていた事もあって、バルバドスに対する疑念の声もある程度抑えられていた。
要するに通常の政務に当たっている今のバルバドスは、思考の濁りなどもなく、活動するのに滞りない状態。
であるにもかかわらず、臣下がもたらした情報には隠し切れない動揺を浮かばせる。
『ロディニア王国』へと大軍を派遣した結果、南側諸国が攻め入ってきたというのなら理解できる。
実際、長井によって自意識なくロディニアへの出撃を命じたバルバドスは、我に返ったかのように、追加の命令を発している。
それは自分で掘った穴を埋めるかのようなもので、虎の子の帝国第一軍団を、《ホライゾンバレー》の帝国側入り口付近にある都市へと派遣していたのだ。
その都市は、《ホライゾン山脈》を挟んで反対側にある《城塞都市モウセス》のように、南側諸国の侵攻を警戒して幾重にも改装され、帝国屈指の難攻不落と呼ばれるまでに防備が固められていた。
帝国の歴史上一度も落とされた事のない、『不落城』とも呼ばれる《要塞都市ストラディグロウ》。
そしてこれまた精強なる帝国軍の中でも、更に優秀なものを集めて構成された帝国第一軍団。
この二つが合わされば、例え南側諸国が全戦力を一点集中して攻撃してきたとしても、しばらくは耐えられるほどの目算は立っていた。
その帝国の武と守りの象徴が壊滅したと聞けば、さしものバルバドスも取り乱すのも無理はない。
「余の……余の第一軍団はどうなったのだ?」
「それは……恐らくは壊滅したものかと……」
「貴様! 報告ならばもっと正確に報告せんか!」
いまいちハッキリしない物言いの伝令に、謁見の間に控えていた男から叱責が飛ぶ。
「そ、それが、その……。連絡を受けた者によりますと、ストラディグロウでは激しい戦闘が行われていたようでして、壊滅状態にあるという報告の後に、すぐに通信が途絶えてしまったのです」
「なっ……」
「報告する余裕すらなかったというのか!?」
伝令の報告によって、謁見の間に集まった諸侯に動揺が広がる。
これまで勝利の報告が齎された事は幾度もあれど、敗北だの壊滅だのといった報告はここしばらくは無縁であった。
「え、Sランクの魔物の集団となると、やはり西にあるガリアント山脈のドラゴンだろうか?」
「いやいや! 確かに可能性としては一番高いが、ドラゴンが集団行動して人の都市を襲うなど、聞いた事もないぞ!」
皇帝の御前でありながら、動揺を隠しきれない者達によるざわめきは留まるところを知らない。
バルバドスの心境もそうした諸侯と同じようなものであったが、とにかくここで憶測を述べているだけでは話もまとまらない。
バルバドスは玉座より少し離れた場所にいた宰相に咳払いして見せると、その意を受け取った宰相が事態の収拾のために声を張り上げる。
「皆の者、静まれい! 陛下の御前であらせられるぞ!」
この宰相の言葉は、混乱に陥っていた諸侯に落ち着きを取り戻させた。
意味不明な報告よりも、皇帝の御前であるという事が彼らにとっては大きな意味を持っていたのだろう。
諸侯が静まったタイミングを見計らい、バルバドスは改めて意見を求めようと口を開く…………丁度そのタイミングで、謁見の間へと通じる大きな両開きの扉の方から、人が言い争う声が聞こえてくる。
「何事か!?」
先ほどに続けて宰相が鋭く誰何の声を上げる。
その声に軽く体を震わせながらも、入り口付近を守護する騎士が答える。
「ハッ、それが危急の事態につき、急ぎ報告したい事があると……」
この時新たに齎された報告。
それは、北条による帝国の各都市への襲撃報告ではなかった。
何故ならば北条は都市襲撃する際に、門を落とした後は優先して領主の居城を破壊していたからだ。
これはなんとなく頭から潰した方がいいだろう、という北条のその場判断で行っていた事だった。
しかし、長距離通信が可能な魔法具は貴重であり、大抵はその都市の重要拠点の安全な場所に配置されている。
結果として、北条の取った手段は通信手段を先んじて無効化する事に成功していた。
そして続く大雑把な都市への魔法攻撃によって、冒険者ギルドや一部の商業ギルドなどに配置された通信用魔法具も、使用不能となっている。
そのため、帝都には未だ帝国の各都市が襲撃にあったという情報が伝わっていない。
帝国の誇る《要塞都市ストラディグロウ》は、城部分に魔法装置による結界が展開されている。
そのおかげで少しは時間を稼ぐことが出来、かろうじて帝都へと通信する事が出来たという裏事情があった。
「陛下、如何いたしましょう?」
「よい、通せ」
先ほどの伝令の報告によって、すでに謁見の間では緊急事態の空気に変わっていたが、新たに齎された緊急事態の報告はもしかしたら先の伝令の続報かもしれない。
そう思って許可を出すバルバドス。
しかし、新たな緊急事態を運んできた伝令が伝えたのは、もっと直接的な危機であった。
「それで、何があったというのだ?」
「ハッ、帝城内に侵入者が現れました! 対応に当たった近衛兵は壊滅状態! そして今もなお侵入者は帝城内を練り歩いております!!」




