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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十二章

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第650話 二つ名


 北条は最初に悪夢を見て以来、結界の強化や拠点内での敵方の転移対策などを行ってきた。

 その際、簡易的ながら拠点住人の避難先も用意している。

 それは、《ガルトロン神殿》への転移拠点を拡張する形で用意したものだ。


「久々に来たが、大分がらんとしているな……」


 転移拠点とは隣接している形にはなっているが、互いに直接の行き来は出来ない。

 例え拠点住人であろうと、ポータルルームへと直接通じる転移拠点に招くわけにはいかなかったからだ。


「ここを用意した時は、一時的に住人が避難出来ればいいという感じで作ったが、二度目の悪夢を見た事で拠点が破壊される可能性も浮かんできた。なら、ここにもある程度居住性を持たせたほうが良さそうだな」


 一応現時点でも、各地にトイレや水場などは設置してある。

 しかし拠点にもしもの事があった場合についても、考えておく必要があった。


「それと、拠点から持ってきた財産を一時的に保管する部屋も用意せんとな」


 それらの財産は、拠点が被害を受けた際の復興費用にもなるし、最悪『ジャガーノート』が壊滅した場合は、住人達の今後の生活の為に使ってもらう。

 前に《ガルトロン神殿》に挑んだ時は、この転移拠点から直接ダンジョンに向かって攻略していたが、近くには《ガルトロンデスの街》もある。

 金さえあれば、そこで新たな生き方を見つけるまで暮らす事も可能だろう。


「よし、さっさと取り掛かるとするか!」


 今は地中に広げただだっ広いだけの空間といった感じだが、人が暮らすとなれば敷居が必要だ。

 派手に"土魔法"や"大地魔法"を使って、広い地下空間に小部屋を幾つも作ったり、風呂などの公共施設や、鍛冶場、食堂用の部屋などを作ったりしていく。


 拠点より生活の質は下がるが、それでもこの世界の基準よりは高い程度の居住スペースを作り上げていく北条。

 この辺り、残り時間がないとはいえ凝り性の部分が出てしまった。

 元々換気や下水処理まで考えて作られていた地下空間は、まるでドワーフの住む地下都市のような状態に、ビフォーアフターされてしまう。



「……ううむ、もっとここを仕上げていきたいがこの辺にしておくか」


 現在の拠点の住人は、すでに数百人にも及んでいる。

 北条が転移拠点を作る時のオリジナル魔法【イエーイイエーイ】の時のように、今回同じ形の部屋を何度も作っていたら、【メイクルーム】という"大地魔法"を新規に覚えられた。


 これは洞窟や地下空間などで、ちょっとした作りの屋根付きの家を作りだすというものだ。

 家といっても、リビングと寝室くらいしか部屋がない簡素なものだ。

 魔力を更に籠めれば部屋数も増やせるが、永続的に暮らす訳ではないので、台所などは省いてある。

 食事に関しては、別に幾つか用意した食堂で纏めて取ってもらう事になるだろう。


 膨大な魔力を頼りに、【メイクルーム】を使いまくるという大まかな作業を終えた北条。

 部屋の内装など細かい部分は、後で避難してきた拠点の建築業者に任せる事になるだろう。


「思いの他ここまでの事前準備に時間が掛かってしまったな。後は……アイツは未だに捕捉出来んか。となると……」


 転移魔導具作りや、避難先の準備を整えつつも、北条は事前に何をしておくべきか。この先どう動くべきかを考えながら行動していた。

 《暗黒大陸》でのレベル上げに入る前に、やっておきたい事が北条にはまだ二つほど残っている。

 その内の片方は今は実行出来そうにないので、もう片方を実行する為に北条は【長距離転移】を発動させた。






「この街も久々だな。最も時間もなかったから、前来た時はろくに見て回ってもいないが」


 北条が転移したのは冒険者の国『ユーラブリカ王国』、その王都である《グレートシティ》だ。

 国外の祝福されたダンジョンを巡る予定を立てた北条は、その際に《ヌーナ大陸》南側の主要な場所を、"空間魔法"の【座標登録】で登録してあった。


 南の四大国のうち、最南端に位置する『タロォク連合国』だけは位置的に除外してあるが、『ユーラブリカ王国』、『ジャファー共和国』、『ローレンシア神権国』のそれぞれの首都の座標は登録済だ。


 《グレートシティ》は何かあった時にゼンダーソンと直接連絡を取る為。

 そして冒険者ギルドの総本部が設置されている事から、少しルートを外れつつも登録しておいた場所だったので登録してある。

 また、《サルカディア》が発見されるまでは大陸最大規模と言われたダンジョン、《ブレイヴキャッスル》もここからなら近い。


「だがま、今は観光やダンジョンよりまずは目的を果たそう」


 そう独り言ちて北条が向かうのは、冒険者ギルド総本部。

 北条は最初に、座標を登録してあった変哲もない民家の屋根の上から下に降りる。

 転移の際は、"透明化"や各種隠密系スキルを使用しているので、突然屋根の上に人が現れても気づく者はいない。


(けど、小さな家でもいいから仮拠点でも作った方がいいか?)


 そんな事を考えながら、隠密状態を解除した北条は人込みに紛れてギルド総本部へと向かう。

 一度も訪れた事はなかったが、ギルド総本部の敷地内には三つの高い塔が立ち並んでいるので、先程屋根の上に転移してきた時に大体の方角は確認済だ。


「……おお、流石は総本部」


 ギルド総本部前にたどり着いた北条は、思わず感心の声を上げる。

 その建物は石造りの重厚な建物で、大きさもやたらとバカでかい。

 なんせ、明け開かれたままになっている入口のドアの高さが、無駄に四メートル位はある。


 この世界では、友好的な亜人種族としての巨人族はいないので、巨人族用に高く作られている訳でもないだろう。

 中に入ると、やはり一階部分は全て天井が高くなっているようで、空間的に余裕が感じられる作りになっている。


 こうした広い場所に大勢の人が集まっている時特有の、まさに喧噪といったざわめきがそこら中から聞こえてくる。

 時勢的に、帝国関連の話をしている者が多いようだ。

 そのざわめきの中、初見の人にも分かりやすいように入口からよく見える位置に配置されたカウンターへと、北条は歩を進める。

 これだけ多くの人がいる広い空間なせいか、北条一人がギルドに入って来た所で誰も特別注意を払ったりはしていない。


「ようこそ、冒険者ギルド総本部へ。ご依頼を発注しにきたのでしたら、私マテリアが承ります」


「ああ、いや。俺は依頼者ではなく冒険者の方だぁ。それで、グランドマスターに話があって来たんだがぁ、今ここにいるかぁ?」


「え、えっとお……? あの、冒険者という事ですがどちら様でしょうか?」


 今の北条は直前まで魔導具作りや避難場所工事をしていたせいで、普段着のままだった。

 鎧も纏わず、最低限腰に剣を佩いただけの軽装である。


「ああ、そうだったぁ。俺はジャガーノートの団長であるホージョー。Aランク冒険者だぁ」


 言いながらギルド証を呈示する北条。

 それを恭しく受け取ったマテリアは、受付カウンターの奥にある魔法装置でギルド証を確認する。


「確認致しました。それで、エルネスト様に面会希望との事ですが、どのようなご用件でしょうか? 今ギルドは帝国の問題で色々と手を取られておりまして……」


 一介の冒険者ならともかく、Aランク冒険者なだけあっていきなりトップと話をしたいという北条に対しても腰は低い。

 しかし、隠し切れない微かな否定的な感情を北条は敏感に感じ取る。


(まあ、それも分かるがな)


 虎の子のゼンダーソン達まで、前線に駆り出されているのだ。

 本来戦争への積極的参加を良しとしない、冒険者ギルドがである。

 だがそれも仕方ないといえるだろう。


 このまま帝国が南諸国を併呑するような事があれば、冒険者ギルドは帝国領内のギルドと同じような目に遭う可能性が高い。

 それではかつて冒険者ギルドとこの王国を作り上げた、初代グランドマスターであるギーダの理念から大きく逸脱してしまう。


「ああ、それは理解している。話というのはその事にも関係している事だぁ。それに、ゼンダーソンからグランドマスターへと俺の話は伝わっているハズだ。とりあえず俺の名と、話があるという事だけを伝えてもらえんかぁ?」


「えっ、あの『撲殺犯』とお知り合いなのですか!?」


「……撲殺犯? それはもしかしてゼンダーソンの事かぁ?」


「はい! この街の英雄、ゼンダーソン様の事です! その余りのパンチ力の強さに、撲殺された死体が発見されたら、『ゼンダーソンがやったんだろ!』って言われるほどなんですよ!」


「あー、もちっとマシな二つ名はないのかぁ?」


「勿論ありますよ! なんせこの街の英雄ですからね! 『女泣かせ』とか、『あれ? 僕の剣が刺さらないぞ?』とか、『暴力魔人』とか『生きる理不尽』だとか、色々二つ名があるんです!!」


「……」


 これは偶々この受付嬢がそういった二つ名が好みなだけであって、普通に『鋼の肉体』だとか、『格闘王』などといったまともな二つ名もたくさんある。

 しかし、北条には変わった二つ名の方が強くインプットされてしまう事になった。


「分かりました! そういう事でしたら、直接エルネスト様へと確認を致します。少々お待ちください!」


 ゼンダーソンの知己と聞いて、テンションの上がったマテリアはそう言って奥へと消えていく。

 しかし十分程待っても帰ってこないので、一旦待合場所と思われる、椅子などが置かれた場所に移動し始める北条。


「お、お待たせしましたああ!」


 そこへ先ほどのマテリアが、息を荒くしながら北条の下へ走り寄る。

 どうやらグランドマスターが時間を取ってくれるとの事だ。


「案内は引き続き私がいたします。後についてきてください」


「ああ」


 マテリアの後をテクテクとついていく北条。

 冒険者ギルドの総本部は敷地面積も広く、この建物の奥にも訓練場や三本の塔が立ち並ぶ広大なスペースが確保されている。

 その三つの塔の内、マテリアが案内するのは中央にある王者の塔だ。


 辺りを見回すと、いかにもといった初心者冒険者の姿をそれなりに見かける。

 彼らは右手にある試練の塔へと向かっているようだ。

 この試練の塔は、初心者向けに開放されている人工のダンジョンのような作りをしている。


 そんな初心者冒険者を横目に王者の塔に向かう北条達だが、こちらに向かう者の姿は殆どない。

 冒険者ギルドの中枢部であるその塔は、上級職員が多く勤めている場所だ。

 受付嬢であるマテリアも、普段は入り口まで案内する程度で中まで入った事は殆どない。

 しかし今回は、直接グランドマスターの執務室までの案内を命じられている。


「さあ、こちらでございます」


 そのためか、少しテンション高めなマテリアに案内され、北条はようやく目的の場所まで辿り着いた。



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― 新着の感想 ―
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