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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十二章

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第638話 短期集中訓練


「はーい、つぎぃ」


「お、おう……」


 拠点内の一角。

 クランメンバーが並ぶ行列の先には、向かい合うようにして北条が立っている。

 列の先頭に並んでいたシィラが北条の掛け声で脇へ避けると、次に並んでいたムルーダが北条と正面から向かい合う。


「ぐ、ぬぬ……」


 北条と見つめ合うだけで、額から汗が流れてくるムルーダ。

 初めは痛みを我慢してるかのような顔を浮かべていたが、すぐにそれまでと逆に腑抜けた顔に豹変する。


「はーい、つぎぃ」


 その豹変した顔つきは、北条が次に並んだ者を呼ぶと同時に正常な状態へと戻る。

 そして、慌てたように次の順番であるシクルムの為に脇へと避けたムルーダは、近くの終了組が集まる場所へと移動した。



「……マジでやべえなこれは」


「そうね。私は女だからあの悪魔の"テンプテーション"には強かったけど、団長にやられるとすぐに落ちちゃうわね」


 移動してきたムルーダとシィラが、今しがた体験した事について話し始める。

 他にも周囲では一回目の施術(・・)を終了した連中が、思い思いに話をしていた。

 そうした話し声を背景に、次々と列に並んだクランメンバーが消化されていく。


 北条達『ジャガーノート』の主要メンバーは今、巨城エリアに出現するSランクの女悪魔、ラハブに対抗する為の耐性訓練を行っている所だった。

 ラハブは特殊スキル"テンプテーション"を使い、異性を「状態異常:魅了」へと誘ってくる。


 最初にムルーダがシィラを刺したのも、これにひっかかった為だ。

 なまじ使い手がSランクの悪魔なだけに、Bランクレベルのムルーダではろくに抵抗する事も出来ず、短時間で魅了に陥ってしまった。

 これを重くみた北条は、自身のスキルを使って仲間の"魅了耐性"スキルを鍛える事にしたのだ。


 しかし、使用するスキルは"テンプテーション"ではない。

 右眼からは"誘惑の魔眼"。

 左眼からは"支配の魔眼"。

 二つの魔眼を同時に受け、双方の効き目が表れた後に【メンタルセーブ】の魔法で元へ戻す。


「しかも二つ同時だからな。あんなん、団長に使われたらたまんねえぜ」


「でもこれを克服すれば、"魅了耐性"以外の耐性スキルも覚えられるかもしれないんだから、やっておいて損はないわ」


「う……、まあそうなんだけどよお」


 シィラは元々生まれ育った《ムスカ村》から、ムルーダに手を引かれて冒険者になった口だ。

 そのせいか、魔法や薬関係に関しては向上意欲はあったものの、戦闘に関しては消極的だった。

 しかし今では積極的に強さを取り込もうという気概があり、その幼馴染の変化に未だムルーダは戸惑う時があった。


「確かに、あれを何度もやってりゃあ耐性スキルも生えてきそうだぜ」


 二人が会話している所に、施術を終えたシクルムも交じってくる。

 今回の北条の耐性訓練は、"魅了の魔眼"よりは効果が弱いものの同性も魅了状態に出来る"誘惑の魔眼"。

 そして、それら魅了系の魔眼の上位互換のような"支配の魔眼"という、レアスキルが訓練に用いられている。


 "支配の魔眼"では、相手を魅了状態ではなく、強制隷属状態にさせる事が出来る。

 元々レアスキルだけあって所有者がほぼいないスキルであるが、かつてこのスキルを持った暴君が誕生した事もあって、一部の間ではこのスキルの存在はよく知られていた。


 これら二つのスキルを同時に使用する事で、"魅了耐性"、"隷属耐性"、"精神耐性"、"支配耐性"などの耐性系スキルを覚える可能性がある。

 しかも、北条は"魔眼強化"スキルによってただでさえ魔眼の能力が強力だ。

 耐性系スキルは、受けた力が強ければ強い程多くの熟練度を得る事が出来る。


 更に『ジャガーノート』には、まだまだ特別な条件が揃っている。

 〈八咫鏡(やたのかがみ)〉による、スキル熟練度のプラス補正もその一つ。

 そして指導者である北条の持つ、耐性系スキル五段階目の称号『耐性スキルの頂に至る者』による、教導効果アップの影響もでかい。

 これは、三段階目の『耐性スキルの伝道者』よりも更に効果が高くなっている。


 おまけに、指導を受ける側も耐性系称号を所持しているので、スキル熟練度にプラスボーナスが付く。

 元々高レベルになれば、それなりに耐性スキルは覚えていくものだが、『ジャガーノート』では幾つかの耐性訓練を時折行っていたので、メンバーの保有耐性スキルは多い。


 そうして新たに耐性スキルを覚える事で称号を獲得し、更なる耐性スキルの取得にもプラス補正がかかる。

 ……一部の変態的求道者の訓練光景が余りにアレなせいか、痛みを伴う耐性訓練は頻繁に行われている訳ではないが、厄介な状態異常系への耐性は日々の訓練が活きていた。



「はーい、これで一周終わったからぁ、二周目行くぞぉ」


 この耐性訓練には、メインメンバー以外にも守衛組などからも参加している者がいる。

 その分一周するのにそれなりに時間はかかっていたが、あれだけ特殊能力系スキルを使っているのに、北条にそれほど疲れは見えない。

 そして、再び圧迫面接のような耐性訓練が始まる。


 この訓練は、巨城エリアから帰還した翌日から三日間にわたって、集中的に行われた。

 その結果、一番覚えやすかったのか殆どの者が"魅了耐性"を覚える事が出来た。

 他の耐性については、"精神耐性"、"隷属耐性"、"支配耐性"の順で取得者に差が出ている。


 "支配耐性"を覚えたのは信也とドランガランのみで、"精神耐性"はそれなりに取得者がいた。

 これは、日頃精神系の状態異常攻撃を受ける機会が多いためだろう。

 なお"魔眼耐性"については、多少は熟練度が稼げたものの新規に覚えた者はいなかった。

 どうやら精神系の状態異常にする"誘惑の魔眼"と"支配の魔眼"では、得られる熟練度が少ないらしい。

 これで"魔眼耐性"を得るには、長期的に何度も行わないと取得は難しいだろう。


 ともあれ、目下目標だった"魅了耐性"は取得できたので、明けて四日目にはリベンジとばかりに巨城エリアへと向かう事が決定された。

 ……のだが、当日になってその予定は急遽変更される事になるのだった。







▽△▽△▽



 明水の月・水の五日(6月16日)


 集中的に行った三日間の"魅了耐性"訓練は、劇的な効果を見せた。

 耐性スキルというのはいつ役に立つか分からない分、覚えておいて損はないスキルだ。

 北条の見た悪夢の日が近づく中での三日間というのは、それなりに長く感じられるのかもしれない。

 その分、北条達は巨城エリアでのレベル上げに意欲的で、朝早くから拠点の東門前には『ジャガーノート』のメンバーが集まっていた。


 まだ日が出てから三十分もしていない時間だというのに、集合していないメンバーはあと三、四人程度。

 夏を間近に控えたこの時期は、日の出の時間も早い。

 だというのに普段は寝坊の多い龍之介やムルーダなども、既に準備を整えて今か今かと残りのメンバーを待っていた。


「なー、オッサン。別にすぐに追いつくだろーから、先に行っちまわねーか?」


「ん、まあ、遅れてるのがお前だったらそうしてたかもなぁ」


「な、なんだよそれー!」


 今遅れているのは陽子やシグルドなど、普段めったに遅刻しない面子であったので、北条はこの東門で待つ事にしていた。

 別に時刻的には遅刻という程でもなく、ちょっと時間が遅れている程度だ。

 いつにも増して朝早くから起きて待っていたせいで、龍之介としてはかなり待たされた気分になっているのだろう。


 そんな話をしていたせいか、噂をすれば何とやらというように、遠くに人影が現れた。

 その人影は、すでに東門前に多くの人が集まっているのを見たせいか、途中で少し小走りになって駆け寄ってくる。


「なあに? 今日はみんな早いわね」


 息を弾ませながら、駆け寄ってきた陽子が話しかけてくる。

 その陽子の後方には、更に人影が二、三見えてきた。

 どうやらそろそろメンバーが全員集合しそうだ。


「あれ? もう全員揃ってるのかい?」


 最後にシグルドが合流すると、辺りを見回して尋ねる。


「ああ、皆気合が入ってるようでな。あの龍之介もかなり先に来て待ってたみたいだ」


「へぇ、信也もなんだかやる気満々って感じだね。ところで……あ、いた。団長!」


 合流するなり信也と軽く挨拶を交わしたシグルドは、北条の姿を見つけると駆け寄っていく。


「どうしたぁ?」


「ああ、なんでも西門の方に客人が訪ねてるみたいでね。どうも団長の対応が欲しいとの事で、伝えておいてくれって頼まれたんだ」


 シグルドは東門へと向かい始めた直後に、ジャガーキャッスルからの伝令に遭遇したらしい。

 その伝令の代わりに、シグルドが北条に用件を伝える。


「俺の対応だぁ? 誰が西門で応対してるんだぁ?」


「えっと、確かドライセンからジャガーキャッスルまで連絡が届いたって話だよ」


「ドライセンか……。ちょっと待っててくれぃ」


 西門や東門などには、当然の事ながら連絡用の魔法装置が設置されている。

 それらは、北条が持っている携帯用の高度な通信魔導具を使えば、今この場所からも繋げる事が可能だ。

 しかしアイテムを取り出す事も面倒だったのか、北条は直接"念話"スキルをドライセンへと繋いだ。


「…………」


 集中する為か目を閉じて黙りこくる北条。

 最後のメンバーが揃った事で、二人のやり取りは周囲から注目を集めている。

 そんな中、再び目が開いた北条はみんなに聞こえるように、大きな声で計画変更を告げた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] エスティルーナがキリッとした様子で挑むも、何度となく北条の前にだらしなく表情を弛ませ、くっころエルフとして敗北者の味を知ったのではないかと心配しています
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