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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十二章

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第636話 誘惑スキル


「かはぁっ……、む、ムルーダ?」


 ムルーダの突き刺した剣は、完全にシィラの腹部を貫通していた。

 血を吐き出しながら、突然の凶行に及んだムルーダを見つめるシィラ。

 しかしムルーダは明らかに様子がおかしく、このような事をしでかしたのというのに、顔には表情というものが浮かんでいなかった。


「おい、お前っ!」


 慌てて近くにいたシクルムがムルーダを取り押さえるが、無表情なまま暴れまわるので、なかなか取り押さえる事が出来ない。

 結局ロゥも取り押さえるのに協力し、二人がかりでムルーダを取り押さえる事に成功した。


「こいつ、一体どうしちまったんだ!?」


「それはあの女悪魔のせいだろう」


 ムルーダを取り押さえた状態のシクルムが、大きな声を上げる。

 その声に応えたのは冷静な北条の声。

 重傷を負ったシィラには即座に北条から"再生魔法"が飛んでいったが、念のためシャンティアも傍に付いて治癒魔法による治療が行われている。


「さっき言ってた誘惑系のスキルとかいう奴か!」


 シクルムのその質問に北条はすぐには返答せず、近くにいた仲間の男連中に【精神倍増】の魔法を掛けていく。


「そうだな。おおい龍之介ぇ! その女悪魔を本陣からもう少し引き離してくれぃ!」


「くっ、わ……かったぜ」


 北条や陽子が結界を張って構築している本陣は、位置的には後方に当たる。

 四体のSランク悪魔とも距離が離れていたはずなのだが、巧みに立ち位置を変えていったのか、いつの間にか女悪魔が龍之介達と共に本陣近くへと移動してきていた。

 距離が近づいた事で誘惑系スキルの射程に入ってしまい、それでムルーダが一発アウトになってしまったようだ。


「これでも食らうっす!」


 ムルーダ達に何かあった事を知った由里香が、容赦のないコンボを決めて女悪魔を殴り飛ばしていく。

 派手にダメージを受けているように見えるが、番人(キーパー)だけあってHPは高い。

 ただそれでも、本陣からは大分距離を離す事に成功していた。


「今からムルーダに魔法を掛ける。様子を見て拘束を解いてくれぃ。【メンタルセーブ】」


 シィラの処置、周りへの指示を出した北条は、最後にまだ暴れようとしているムルーダに、【メンタルセーブ】の魔法を使用する。

 この魔法は精神系の状態異常になった相手を、通常の状態へと戻す"精神魔法"だ。

 見た目的には光が発したりという効果はなかったが、魔法の効果は劇的だった。

 無表情のままもがいていたムルーダの動きが、ピタリと止まったのだ。


「ムルーダ!」


「おれ……は、一体……」


 暴れている時は決して離そうとしなかった剣も、正気に戻ると同時に手元から離れ地面へと落ちる。


「もう……ムルーダ。ようやく、正気に、なったのね……」


「っ! シィラアァァ!」


 正気に戻ったムルーダが、慌ててシィラの下に駆け寄る。

 どうやら先ほど敵に誘惑されていた時の記憶は残っているようで、しきりに自分のしでかした事を詫びていた。


「今はいい、から……。まずは敵を全滅させるのよ」


 魔法で治癒されHP的には問題ないレベルになったとはいえ、腹部を刺された際の出血のせいか、シィラの顔色は少し悪い。

 にもかかわらずムルーダに発破をかけながら、自身は腰に帯びたポーチから〈造血玉〉を取り出して呑みこんでいく。


 "錬金術"や薬草系のスキルを持つシィラは、自分で作った薬やポーションなどを常備している。

 なのでこうした事態でも、慌てずに冷静に対処していた。

 むしろ、刺した側のムルーダの方が精神的ショックが大きい。



「よおし、いいぞぉ! その女悪魔ももう虫の息だぁ!」


 一時はムルーダが誘惑され、シィラが危険な目に遭いはしたが、以降は安定して敵を倒していく『ジャガーノート』。

 最後の方では、ついに召喚ストックがつきたのか魔物の増援も止まった。

 こうなれば、後は残る番人(キーパー)を倒すだけだ。

 すでにその頃には女悪魔も倒されていたので、集団リンチの如く最後に残ったライオン頭の悪魔がぼこぼこにされていく。


 結果として一時間以上という、普通に領域守護者(エリアボス)守護者(ガーディアン)と戦うのと同じくらいの時間をかけて、城門前広場の制圧に成功した。

 固く閉ざされていた城門も、最後の番人(キーパー)が倒されると同時にその巨大な門が開かれる。


「ふう、多少しんどかったけど、どうにかなるもんだな!」


「北条さんがSランクの魔物を召喚してくれたおかげで、大分助かったわね。あれがなかったら、もっとキツかったと思うわ」


 今回現れた魔物は、四体のSランクの悪魔の他は全てがAランクの魔物だった。

 それも全部が全部ではないが、Aランクの魔物は悪魔系が多めだ。


「そーいえば、リュー。戦いの最中だというのに、どーーーも女に見惚れていたわよねえ? それも敵の女悪魔に」


「うぇっ? い、や、そ、そそそんな事はねーぜ?」


「……にゃーんで、そんなすぐ分かるような嘘をつくのかしらあ?」


「まあまあ、ルーティアさん。リューノスケも男の子なんだから、多少は仕方ないよ。あ、ボクは気にしてないからね? たまに頭を撫でてくれるだけで満足なんだ」


「う、おい……、ファエルモ? それはフォローになってないと思うんだが……?」


 戦闘が終了し、体力に余裕のあるものがドロップを拾い集めるなか、広場では小休止タイムに突入していた。

 龍之介周りだけでなく、ムルーダのいる辺りも戦闘中の例の件について騒がしい。

 ムルーダが必死になってシィラに取り繕おうとしているのを、周りのシクルムらが囃し立てている。


「……ともあれ、全員が無事で何よりだ」


「そうだなぁ。ダンジョンの祝福をたんまり受けているせいか、ムルーダやキカンスらもAランクの魔物相手に普通に戦えていたしなぁ」


「そうだな。恐らくは、あれらの魔物はこの先の城内に出現する魔物なのだろう。例の女悪魔には注意が必要だが、現状でもやれない事はなさそうだ」


「って事は、ここで小休止したらすぐに先に進むのかな?」


「俺の"空間感知"では、門入ってすぐ脇の所に迷宮碑(ガルストーン)らしきものを感知している。とりあえず中に入ってそれに登録だぁ」


 『ジャガーノート』の首脳陣で話し合いが進み、ドロップの回収と小休止を終えた後は、ひとまず北条の進言通りにまずは門の中へと入る事に決まった。

 然して、北条が感知したものは確かに迷宮碑(ガルストーン)だったようで、そこで全員の登録を済ませ、再び今度はメンバー全員で話し合いが始まる。


 これまで通り、城の外側でレベル上げを行うのか、或いは城内部に突入してみるのか。

 城内には、先ほど襲ってきたようなAランク以上の魔物が蔓延っていると思われた。

 当然ながら台地の周辺よりは危険が予想されるが、守護者(ガーディアン)などよりは弱いとはいえ、Sランクの番人(キーパー)が四体いた場所を突破する事に成功している。


 城内でまたあの女悪魔が出る可能性はあるが、今度はノーマルタイプであろうから仕留めるのに今回程時間もかからないだろう。

 他の能力的にも、番人(キーパー)として出現したあの女悪魔よりは劣っているハズ。


 そう言った事も考慮して、とりあえず一度どんなものか城内に侵入して一回だけ戦闘してみるという案が取り入れられた。

 もしかしたら、広場に出た魔物とは全く別の魔物が出現するかもしれないが、入り口付近であれば最悪迷宮碑(ガルストーン)で逃げる事も可能だ。



「あの、先に進むのには賛成なんですけど、一つ気になる事があるんです」


 今後どう行動するのかについての話が終わり、次にどのようなフォーメーションを取るかなどを話し合う一同。

 そこで、何か気になる事があるというシャンティアが、とある指摘をする。

 それによると、先程の戦闘中や戦闘後に"神聖魔法"を使用した際に、いつもより効果が弱かったというのだ。


「それはもしや環境効果か?」


 シャンティアの話を聞いて、エスティルーナが会話に参加してくる。


「環境効果……と言いますと、火山などでは火属性の魔法の効果が高く、逆に氷属性などの魔法効果が弱くなるという現象でしょうか?」


「そうだ。このエリアは常に暗雲が立ち込めている。ダンジョンなどは、フィールドに比べるとそうした環境効果を持つエリアも多い。ここでは"神聖魔法"の効果が弱まるのかもしれん……」


 実は、『ジャガーノート』がこれまで探索してきたダンジョンにも、そういったエリアは幾つも存在していた。

 この《サルカディア》でも、例えば大森林エリアでは木属性の魔法効果が僅かに向上する。

 ダンジョンの場合は、大抵そのエリアの特徴に合わせた環境効果というものが付く事が多い。


 最も火山とか雪山みたいな極端に偏ったエリアでない限り、属性の弱体効果はそれほど気になるものではない。

 むしろ、基本的にはプラスの効果が付く事の方が多いので、マイナス効果を気にするような場所は少なめだ。

 しかしシャンティアが今回指摘したという事は、体感できるほどに"神聖魔法"の効果が減衰していたのだろう。


「ふむ……、どれ、ちょっと調べてみるかぁ。【エリア解析】」


 シャンティアの報告を受け、北条が【エリア解析】の魔法を発動させる。

 これは現在いる場所の情報を調べる"情報魔法"で、環境効果についても知る事が可能だ。


「……なるほどぉ。確かにこのエリアでは"神聖魔法"は効果を大きく減衰されてしまうらしい」


 "神聖魔法"はHPを回復させるのに一般的に使われる魔法だ。

 それがまともに使えなくなるというのは、これまで以上に安全マージンを多めに取る必要がある。


「それは、上位魔法の"純聖魔法"もって事ですよね?」


「ああ。魔法だけでなく、聖属性を使うスキルなども全部同じだぁ。それと、"暗黒魔法"や"漆黒魔法"については、逆に威力が大幅増らしい」


「チッ! 道理でさっきの戦いでやたらと"暗黒魔法"を撃ってくる訳だぜ」


 "暗黒魔法"といえば、大抵の悪魔が使用できる属性魔法であり、逆に人間では使い手の少ない魔法だ。

 耐性スキルは存在するが、他属性ほど耐性スキルでダメージを軽減も出来ず、魂に直接影響を与えたり、下手すると後遺症が残ったりするような魔法も存在する。


「そうなると、やはりこの先に待ち受けるのは、さっき出てきた悪魔を中心にした連中が出現するんだろう。地の利は敵にあり……か」


 確認するように信也が言う。

 弱気な発言とも取れるが、信也の顔にはやる気が満ちていた。


「ま、その辺も考慮して、この先どう戦うかについて話し合おう」


 結局先に進んで一戦するという方針は変わらず、軽く作戦を練る『ジャガーノート』。

 そして万全の準備を整えると、台地の上を覆いつくすように広がっている巨大な城の内部へと、突入していくのだった。



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