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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十一章

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第634話 ゴドウィン・ホールデム


「……そうよ。それよりアンタこそ何者なのよ?」


 長井は悪魔司祭の力の一部を取り込んだ事で、悪魔の持っていたスキルの一部が使えるようになっていた。

 その中には"人化"という、本来は人外が人間へと化ける為のスキルが含まれている。


 人間が通常覚える事のないスキルではあるが、人間がこのスキルを使う事で人間に化ける事も可能になる。

 その際、本来の自分の姿と大きく異なる姿に変化する事も可能だった。

 この"人化"のスキルを使い、長井はガイとして姿や性別を偽り、帝国で活動をしていたのだ。


「ああ? 気付いてねぇのか? 俺はゴドウィン。この国ではそれなりに名が知られてる悪魔だ」


「……っ、また……か!」


 ゴドウィンの問いかけに応えず、逆に問い返した長井。

 問いかけにすんなり答えたゴドウィンの言葉を聞き、長井は過去の出来事を思い出す。



 あの時もそうだった。



 "魅了の魔眼"スキルで『流血の戦斧』を配下とし、順調に計画が進んでいたハズだったのに、一人の悪魔によって計画が大きく崩れ去った。

 今回はその時の反省を踏まえ、慎重に、それでいて過剰な程の戦力を手にして復讐を果たそうとしていたのだ。

 自分を今の現状に追いやった原因である異邦人達……。とくに、直接自分とやりあった北条に対して、長井は強い憎しみの心を抱いていた。


 ……だというのに、順調に計画が進んだ今の段階になって、まるで交通事故にでもあったかのように、強力な力を持つ悪魔と遭遇してしまう。

 ゴドウィンの名は長井もよく知っていた。

 長年の間、帝国に災いを振りまいてきた強力な悪魔なのだから当然だ。

 ここ最近は活発的な活動は行っていなかった事も知っており、だからこそ長井は何故こんなところで! という思いが強い。


「また? なんの話だ」


「……以前も裏で上手い事やってたと思ったのに、突然現れた悪魔に計画がめちゃくちゃにされたのよ」


 半分やけっぱちになった長井は、自分の命さえ危ういという状況なのに、まるで媚びた態度を見せる事なく強気で言いたい事をぶちまける。


「悪魔……。それは西の辺境で活動してた悪魔か? 名前までは忘れちまったが」


「多分、その悪魔よ。もう死んだけど」


「いや、完全に死んじゃあいねえだろ。お前のその悪魔の力は、ただ契約を結んだだけの人間とは訳が違う。テメー、奴の力を取り込んだな?」


「……そう。それで私の中にある悪魔の気配を感じて近づいてきたって訳ね」


 長井は何故ゴドウィンほどの悪魔が、わざわざ自分に接触してきたのかを理解した。

 自分はまだ悪魔を目の前にしても、相手が悪魔であると感じる事は出来ない。

 しかしゴドウィンからすれば、自分のような中途半端に悪魔の力を持つ者を感知する事が出来るのだろう。

 もっともたまたま近くにいたというのも事実だろう。流石に遠く距離が離れていては、いかにゴドウィンといえど感知される事もなかったハズだ。


「まあ、そういうこった。偽装してる悪魔にしても妙な気配だったんで気になってな。ってかどうやって悪魔の力を得た?」


「それは……」


 今の状況で下手に逆らっても命がなくなるだけだ。

 長井はかつて自分の身に起きた事を語っていく。



「ほおう、興味深ぇ話だなあオイ。お前のようなケースはそうそう聞かん話だ。で、復讐に燃えるお前はこんな所で何してやがる? さっきは村を襲っていたみてえだが」


「あれはレベル上げよ。下手にダンジョンに潜ってレベル上げするよりも、こっちのが楽でしょ。どうして皆して魔物退治に拘るのか理解に苦しむわ」


「フン、それは仕方ねぇ。フツーの人間なら、同族を殺しても得られる経験値は少ねえからなあ」


「どういう事?」


「テメーはどうやら人間と悪魔の中間みてぇなもんらしいな。半分悪魔になってるせいか、人間相手にも同族殺しのペナルティーがないか、弱くなってるんだろ」


「つまり、普通の人間は同じ人間を殺しまくってもレベルは上がらないって事?」


「全く上がらない訳じゃねえ。だが、同族殺しは極端に得られる経験値が減る」


「……なるほどね」


「他にも悪魔は人間から畏れられたり、強い負の感情を向けられると経験値が得られる。テメーにも心当たりがあるんじゃねえか?」


「……」


 長井の元々の性格として、ただただ機械的に人を殺すのではなく、相手を苦しめてから殺すという事は割とよく行ってきた。

 そういった時の事を思い返すと、あくまで感覚なものではあるが、確かにゴドウィンの言う事にも納得する長井。


「という事は、アンタがこの国で暴れまわってるのも、自分の名を知らしめて負の感情とやらを自分に向けさせる為?」


「まあ、それもある。それに暴れまわっていると、時折人間共が強者を送り込んできやがるんでな。これがまたレベル上げにはもってこいって訳だ」


「要するに悪魔ってのはそうして自分を強化するために、人間を利用してる訳ね」


「んなのは(悪魔)によるだろ。俺はゼノン派だからこんなだが、お前が力を取り込んだ奴は確かソフィスト派だったから、別の目的があって動いてたハズだ」


「確かに、アイツは裏でこそこそと動き回っていたわね」


「ハッ、ソフィスト派の連中らしいぜ。俺にはサッパリ理解出来ねえけどな」


 滅多に得られない強力な悪魔との会話を重ねるにつれ、長井は目の前の悪魔の傾向がつかめてくる。

 要するに力こそパワーという、脳筋的思考が根本にあるらしい。

 強力な悪魔と遭遇するという不幸に見舞われながらも、長井は力を求めるというゴドウィンの性質を、上手く利用できないものかと考え始める。


「アンタにとっては、人間の強者はレベル上げの為の餌という訳ね?」


「確かに餌と言われるとそうかもしれねえが、強者との闘いを楽しみてえってのが一番の理由だ。雑魚を狩ってレベルを上げる事もあるが、俺の性には合わねえ」


 このゴドウィンの答えを聞いて、長井は一つの策を思いつく。

 これが上手くいけば、今回の不幸な出来事をまたとない幸運な出来事へと変える事も出来るだろう。



「……なら、私の話に乗らない?」


「話だあ?」


 訝し気に訪ねるゴドウィンだが、少しは聞く耳があるのか、一方的に長井の話を打ち切るつもりはないようだ。

 そんなゴドウィンの反応をつぶさにチェックしながらも、長井は慎重に話を切り出す。


「さっきも言ったように、私には復讐したい相手がいるわ」


「らしいな」


「アンタに比べればまだまだだけど、私も以前よりは強くなった。……でも、それでも奴らに復讐するには力が足りない」


「ほお……」


 ゴドウィンからすれば、確かに今の長井は力不足だ。

 それでもレベル百を超えているだけあって、それなりに力を認めてもいる。

 そんな長井でもまだ力が足りないという、復讐相手。

 ゴドウィンの好奇心を刺激するには十分だった。


「奴らは今ジャガーノートという冒険者クランで活動している。私が一番復讐したい相手はそこのリーダーだけど、その男はエルダードラゴンをテイムしたと話題になっているのよ」


「エルダードラゴン……だと?」


「ええ。最も私の手の者で調べさせた結果、奴がテイムしたドラゴンは大きさから言って、エルダードラゴンではなく属性竜とかいうのらしいけど」


「だとしても、そこいらの人間がテイム出来るような相手じゃあねえ」


「そうね。こいつだけは昔から力の底が見えない男だった。どう? 興味を惹かれた?」


「ああ、ビンビンとなあ。そういやあ思い出したが、いつだったかあの辺境の国で()を見つけた事があったな」


「種?」


 突然の関係なさそうな言葉に、長井は「種」とやらについてゴドウィンに尋ねる。


「俺の"第六感"スキルは、俺の性質のせいか戦いに関する事を知らせてくる事があるんだよ。中でも『種』ってのは、いずれ大きな力をつける相手の事だ。それを感知した時は、俺はしっかり熟すまで刈り取らねえ事にしてる」


 それはつまり、ゴドウィンはこれまでそうして見逃してきた『種』を持った相手に、命を奪われる事もなく確実に刈り取ってきたという事だ。

 幾ら才能のようなものを感じたとしても、相手がただの人間であればそれは当然とも言える。


「そう。もしかしたら、その種があの男……北条の事だったのかもね。それで、私はそいつらに復讐しようと計画を練ってるんだけど、協力してもらえない?」


「さっきも言ったが、俺は計画だの策略だのってのは好かねえ。まだるっこしい真似する位なら正面から突っ込むぞ」


「ちょっと待って! 話を聞く限り戦闘狂って感じのアンタだって、何十年も暴れっぱなしじゃあなかったでしょう?」


「そりゃあな。そんな調子で暴れてたら、収穫できなくなるじゃねえか」


 言っている事は農家のオッサンのようだが、収穫されるのが人間の命なだけに、実に物騒なセリフだ。


「ならあと少し待って。私の計画も後少しで大詰めだし、戦いの時は正面からぶつかるようにセッティングするわ」


「あと少しってのは、どれくらいだ?」


「そうね……後三か月くらいでいけると思うわ」


「三か月か……、いいだろう。ただしそのリーダーの男ってのは俺が殺るぞ」


「……まあ、いいわ。出来れば私の手で仕留めてやりたかったけど、この際方法は問わないわ」


 以前に比べて大きく力を付けた長井だったが、あの悪魔の力を身に付けた直後の時点では、北条とかなり大きな力の差があった。

 その差が今ではどれくらい埋まっているのか分からない以上、無理をすると自身の命も危うくなる。

 猛烈な復讐心を抱きながらも、その部分だけは長井は冷静だった。

 というより、それだけ自身の生に対する執着が強いとも言える。


 何にせよ、長い事行方をくらましていた長井と、帝国の悪魔が手を結ぶ事となった。

 そして長井が提示した計画の大詰めの日が、三か月後。

 それは、北条が悪夢で見た時期と時を同じくしていた。



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