表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

712/907

第631話 ちょっと暗黒大陸


「ねえ、北条さん」


「ん、なんだぁ?」


「私達が神都ゼラムスで数日休息してる間、ずっとどこかに出かけてたようだけど、どこに行ってたのかしら?」


 にっこりとした顔で問い詰める陽子。

 だがその笑顔の裏に、妙な圧力を感じる北条。

 近くには副議長だった信也や、二人の会話が気になるのかシグルドやエスティルーナなども集まってきていた。


「え、いやぁ、ちょっと散歩に……?」


「なーーんでそこが疑問形なのかしらねえ?」


 これまで北条の突飛な行動を間近で見て来た陽子は、「ちょっと出かけてくる」と言ったまま数日戻ってこなかった北条の事を気にしていた。

 今までの経験から言って、こういった時の北条は絶対何か裏でしでかしているものだ。

 それは陽子にとって、最早直感というより自然の摂理とも思えた。


「べ、別に嘘ではないんだがなぁ。ちょっと……暗黒大陸まで散歩にいってきただけだぁ」


「そう、暗黒大陸にねえ。……暗黒大陸ぅぅ!?」


 見事なノリ突っ込みを陽子が決める中、冷静に信也が尋ねる。


「北条さん、それって危険な魔物がウヨウヨしているという?」


「うん、凄かったぞぉ。隠密系のスキル全開で、ヒヤヒヤしながら探索したからなぁ」


「ちょっと! なんでそんな危ない所に一人で行ってるのよ!!」


「……そもそも、どのようにして暗黒大陸までいったのだ? 転移魔法というのは行った事のない場所には転移出来ないのではなかったか?」


 暗黒大陸に一人で行ったという北条に、ぷりぷりと怒り出す陽子。

 それとは対照的に、純粋な疑問点を質問してくるエスティルーナ。


「ま、まあ落ち着いて聞いてくれぃ。移動手段は、転移魔法ではなく高速移動魔法だぁ。恐らくやろうと思えば複数人でもいけると思うがぁ、一人だとかなり高速で移動できるんでなぁ」


 北条が『ローレンシア神権国』を目指した理由は、ミリアルドに会って話を聞くというのが大きな理由だ。

 しかしそれとは別に、遥か東にあるという暗黒大陸に向かう為に、少しでも距離を縮めるという裏目的もあった。


 《神都ゼラムス》から、北東に進んでクラトン諸島を経由。そこから更に東にある暗黒大陸へと向かう。

 行きは地理もよく分かっていなかったので丸一日費やす事になったが、帰りはそれこそ【長距離転移】の魔法を使えば一瞬で戻って来れる。


「そういえば以前にもそんな移動方法があるって言ってたような……。それで、暗黒大陸なんて何しに行ってたのよ?」


「ノーチラスも言ってただろう? あそこにはヤバイ魔物がうじゃうじゃいるって」


「そうよ、そんな所に一人で内緒で向かうなんて何考えてんのよ?」


「それはSランクの魔物をテイムする為だぁ。これもさっき言ったがぁ、俺がスキルをフル活用して隠密状態になれば、楓以上に気配を消す事が出来る。そうして陰に潜みながら、テイムする魔物を選別して上手い事テイムしてきたぁ」


 北条としては、最悪テイムまでする必要もなかった。

 魔物をテイムするには、まずは実際に戦って魔物を弱らせる必要がある。

 そうなるとただ普通に倒すより困難だ。


「お前達も知ってる通り、"召喚魔法"は実際に倒した事のある魔物や、長時間身近で接触するなどしないとその魔物を召喚出来ない。その為には、実際に俺が接触する必要があったぁ」


「だからってわざわざ危険を承知で向かった訳ぇ?」


「過信している訳ではないがぁ、言うほど危険はないと思ったから決行した。いざとなれば、"フォースキャスト"スキルで瞬時に転移魔法を発動すれば逃げられる。それに今の俺を速攻で殺しきるような魔物はいないと踏んでいたからなぁ」


「それは確かにそうかもしれないけど……」


 これまでの付き合いから、北条は大胆なようでいて実は慎重派な事は陽子も知っている。

 それでも今回の話は流石に不安に思ったし、北条としても、例の悪夢の件がなければこのような事はしなかっただろう程度には、多少の危険も覚悟して行っていた。


「俺達はダンジョンに潜っているがぁ、まだSランクの魔物の出現するエリアをまともに探索していない。つまり召喚できるSランクの魔物レパートリーが少ない」


 北条は属性竜は流石にレベル不足で召喚出来ないが、Sランクのガリアントドラゴンならば、召喚が出来るようになっている。

 《水竜洞窟》で戦ったサーペントドラゴンも同様だ。

 しかしこれらドラゴンは体がでかすぎるので、戦争やら街やらを落とすのには絶大な効果があるだろうが、ダンジョン内や狭い範囲での局所戦闘には向いていない。


 ジャファーと出会ったダンジョンでも、Sランクのリッチやヴァンパイアロードを倒してはいる。

 しかしこれらはアンデッドなので"召喚魔法"では召喚出来ない。

 仲間には隠している"死霊魔法"でも、ダンジョン産のアンデッドには効果がないので支配下にはおけなかった。


「それで暗黒大陸にまで向かったという訳か」


「確かに多様なSランクの魔物と接触するには、ダンジョンよりはそちら(暗黒大陸)の方が向いていよう」


 信也とエスティルーナも、知らない所で危険な行動をした事に思う所はあった。

 しかし論理的に鑑みて、北条の行動を咎めようとまではしない。


「……ふぅ。分かったわ、これ以上その事をとやかくは言わないわ。で、成果はどうだったのよ?」


「それがなぁ。ドラゴンのような巨体じゃなくて、もっと小さめの魔物を探してたんだがぁ、なんかあんまそういうのはいなくてなぁ……」


 気持ちを切り替えた陽子が成果について尋ねると、北条は暗黒大陸での出来事を語っていく。

 余り奥地にはいかなかったが、それでもSSランクの魔物までを確認している。

 レベル百五十一以上のSSSランクの魔物は見かけていないようだ。


 スケールの大きい暗黒大陸での話に、会議場に残っていた面々がいつの間にか周囲に集まって北条の話に耳を傾ける。

 こうしてこの日は過ぎ去っていき、翌日には久々の《サルカディア》探索に意欲を見せるメンバーの姿が立ち並んだ。


 拠点に帰還してすぐ翌日の話ではあるが、その前に《神都ゼラムス》で休みを取っていたので、立ち並ぶ顔に疲れは見られない。

 そして彼らは慣れ親しんだ《サルカディア》までの道を進み、以前逃げ帰った巨城エリアへと向かう。


 北条が見たという悪夢を打ち払う為、『ジャガーノート』は巨城エリアでのレベル上げを開始した。








▽△▽△▽△▽△▽



 『ジャガーノート』が巨城エリアでのレベル上げを始めて、一か月ほどが経過した。

 この一か月の間は中央にある台地には踏み入らず、その周辺でのレベル上げが中心に行われている。


 この辺りにはラットマンジェネラルや各種属性ウルフ。それからロケットボアやギガースベアーなど、動物系のB~Aランクの魔物が出現する。

 前回はそれこそ一度リンク集団を撃退しただけで引き返す羽目になっていたが、今回は前回の事が嘘であるかのように、まともにやりあえるようになっていた。


 一番レベルの低いムルーダ達ですら、今ではBランクになっているのだ。

 それも全員が祝福をマシマシに受けているので、素のステータスは一般的なAランク冒険者をも超える。


 魔物や冒険者にはランク付けがされているが、AランクやSランクともなると、同じランクで一対一(サシ)で戦っても、冒険者側の勝ち目は薄い。

 それでもAランク冒険者パーティーが同数のAランクの魔物に勝利出来るのは、連携や足りない部分を補い合う協力プレイによって、強さを足し算するだけでなくプラスα加えているためだ。

 また"神聖魔法"による治癒魔法の影響も大きい。


 しかし、祝福で強化されたステータスを持つムルーダらであれば、同ランクの魔物との一対一で、余裕を持って倒す事が出来る。

 それは魔物を倒す速度向上にもつながり、ゲーム的に言えば経験値効率もかなり上がっていた。




「ふぅ……、そろそろ頂上みたいね」


「これまでは下からずっと見上げるだけだったけどよお、ようやくここまで登ってきたぜえ」


 そして彼らは今、台地の周辺をぐるりと巡るスロープ状の坂道を登っている所だった。

 このエリアの中央にある広大な台地部分には、まるごと大きな城が聳えている。

 そして台地の端っこ部分は完全に囲われる形で城壁が築かれていて、その外側はかなり角度の急な崖になっていた。

 ここを登って城内に侵入するのはほぼ無理と言えるだろう。

 何故なら、城壁の上にはちらほらと魔物の気配が感じられるからだ。


 レイドエリアの本来の特性ならば、崖下で戦闘していようが城壁の上の魔物もリンクして襲ってくるのが普通だ。

 しかしこのスロープの坂道と城内とでは別のエリア扱いにでもなっているのか、城壁の上から魔法攻撃などを仕掛けてくる事もなく、勿論強引に飛び降りて魔物がリンクする事もない。


 これはフィールド型のダンジョンには時折ある仕組みなようで、かつてシグルドらが《クッタルヴァ遺跡群》に挑んでた時には何度か経験していた事だった。

 通常であれば視界内に収まれば、殺意の高いダンジョンの魔物ならば一直線に向かってくる。


 しかし階段を一つ上った上のフロアの魔物が、同じフロアに移動するまで襲ってこないという箇所が何か所か存在していた。

 ……勿論、下のフロアから上のフロアの魔物に攻撃をすれば、襲い掛かってはくる。

 だがそれまでは様子を見ているだけなので、《クッタルヴァ遺跡群》に挑む冒険者の間では必須の知識だった。


 ともあれ、そういった訳で先に進むには愚直にこの台地の周囲を巡る坂道を登っていくしかない。

 そしてその行程もそろそろ終わりが見える頃合いだった。


「どうやら城への入口は、あの先の方に見える城門だけっぽいなぁ」


 北条の視線の先には、巨大な門の姿が見える。

 門の前は大きな広場になっているが、今は魔物の姿もない。

 城門は固く閉ざされたままで、まるで北条達を強く拒んでいるかのようにも見える。


「あの広場はなんなんっすかねえ?」


「いかにもって感じだけど~、魔物の姿が全くないのが不気味ね~」


「少し前に魔物の集団をぶちのめしただろ? そん時の魔物がこの広場に集まってたんじゃねーの?」


 いよいよこの巨城エリアの本丸……にはまだ遠いのだが、本拠地を目前にして由里香らが意見を交わしていく。


「でもこんなあからさまな広場があるって事は、番人(キーパー)領域守護者(エリアボス)でも出て来るんじゃないのー?」


「そうだなぁ。あの広場の直前で休憩を挟んで、万全な態勢を整えてから、先に進もう」


 少し前に魔物集団を殲滅してからは休みなく移動していたので、休憩のタイミングとしてはバッチシと言える。

 少し余裕を持って、広場から大分離れた場所でしっかり休息を取る一行。

 そして十分休んだ後に、補助魔法を掛けて万全な態勢で広場へと進む。



「おっ! 来やがったな!」


 やはりと言うべきか、一行が城門前広場へと到着すると、あちこちから召喚時に発生する光が立ち上っていく。


「では作戦通りに魔物の殲滅に取り掛かる! 行くぞぉ!」


 次々と出現する魔物を前に、北条が大きく声を張り上げる。

 そして城門前での戦闘が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

こちらの作品も宜しければどうぞ! ↓からクリックで飛べます!

ドラゴンアヴェンジャー

― 新着の感想 ―
[良い点] くっ、何をテイムしてきたのかはお預けか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ