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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第三章

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第61話 アレ? 私、何かやっちゃいました?


「…………」


 先ほど目の前で実演された【炎の矢】のイメージを脳裏でシミュレートする咲良。

 シィラは呪文のようなものを唱えていたが、あれ自体は別に絶対に必要というものではない。


 ただ、本人のイメージを補佐する、とかもうそれで慣れちゃったから言わないと上手く発動できない、だとかいった人は魔法発動の際に呪文を唱えることがある。

 もっとも、魔法名だけで発動したとしても、魔法を使おうと思ってから発動するまでには、魔法を構成し、組み上げるプロセスが存在している為、そのプロセスと合わせるように同時に呪文を唱える人もいる。


 しかし咲良はどうにもそういった呪文詠唱が『中二病っぽくて恥ずかしい』といった理由で、初めから呪文詠唱しようとは思っていなかった。

 かつては弟相手に呪文を唱えながらの魔法――という名の物理攻撃――を何度も繰り出していた咲良だったが、流石に高校生になってそうした行為に恥ずかしさを覚えるようになったらしい。


 しかし、下手に気取って呪文詠唱をしないせいで魔法が不発でもしてしまったら、それはそれで恥ずかしい。

 そんな妙な焦りと緊張の中、咲良は魔法を発動した。


「…………。【炎の矢】」


 "火魔法"の中でも基本の魔法とされる【炎の矢】。

 それは本来は先ほどのシィラのように二十センチ程の炎で出来た矢を生み出し、それで敵を攻撃する魔法だ。

 しかし、咲良の魔法発動によって生み出された【炎の矢】は二十センチでは止まらず三十五センチ程の大きさにまで成長すると、ようやく的へと向かって発射された。


 別に大きい分、矢の形に形成されるまで時間がかかったということはない。

 同じ速度で形成され、同じ速度で的へと飛んでいく。

 そして、的に命中したかと思うと、明らかに先ほどとは規模の違う大きさの炎が少しの間残り続け、全て消えるまでには若干の時間が必要だった。



「…………」


「……お、おお?」


 咲良の周囲にいた関係者だけでなく、隣の区画で練習していたらしき魔術士も驚いた様子でその光景を眺めていた。

 辺りは奇妙な沈黙に包まれ、的に当たった炎が完全に消えるまで誰も一言も発することはなかった。


(アレ? 私、何かやっちゃったかも?)


 そんなことを思いながら、咲良はこの妙な空気を払拭するために適当に思いついたことを喋りはじめる。


「あ、あー、ちょっと力が入り過ぎちゃったかも?」 


 確かに魔法は魔力の調整で威力や効果などを変化させることは可能だ。

 【炎の矢】の場合でも、例えば一度に発生する本数を増やしたりするといった応用も出来る。


 しかし、先ほどの咲良の使った【炎の矢】は見る人が見れば分かるが、不自然な部分があった。

 それは、途中まではシィラの【炎の矢】と同じようなプロセスを辿っていたのに、大きさが二十センチ程になってから急激にポンっと急膨張したことだ。

 混乱している本人も具体的な理由には気づいていないが、魔法を使った当人として、その急激に膨らむような感覚は把握していた。


「あー、そ、そうなんですね……」


 明らかに納得してないような口調ではあったが、本人がそういうのなら仕方ない。

 余程親しい間柄でもなければ、他人の能力についてあれこれ深く追求するのは、冒険者の間では忌避されている。


「次はちょっと"水魔法"の方も試してみようかなー」


 気まずさを誤魔化すように咲良はそう口にすると、再び集中を始める。

 先ほどの件を踏まえ、威力弱めを意識しながら、既に何度も慶介が使っていてイメージがまとまっている【水弾】を放った。


 それは確かに意識した分威力は弱まっていたのかもしれないが、それでも周囲の反応は同じようなものだった。

 見た目的には慶介の放つ【水弾】とそう変わりはないと思っている咲良だが、実は慶介も"水魔法"を天恵スキルとして持っているので、他の人より"水魔法"の威力が高い。


 そんな慶介の【水弾】と同レベル(・・・・)ということは、つまりは通常より威力が高いということに他ならない。



「おおっ!」


 魔法に余り詳しくなさそうなムルーダなどは"神聖魔法"、"火魔法"に続いて三種類目の"水魔法"を使いこなす咲良に単純に称賛の声を上げている。

 しかしシィラや、輪から少し離れた場所で見ていた他の魔術士たちは、咲良がなんらかのスキルを持っているか、魔法装備などを身に着けているのだろうと睨んでいた。



 その後、何度か魔法を撃って威力の調整も多少はマシになってきた咲良は、席を芽衣へと譲る。

 観客席のようになっている龍之介達のいる場所へ戻る途中、芽衣とすれ違う瞬間に、


「"エレメンタルマスター"っていうのは凄いですね~」


 と、小さく他の人には聞こえないような声で芽衣がつぶやいた。

 思わず振り返りそうになった咲良だったが、ぎりぎり体を制御してそのままみんなの所へと戻っていく。


 芽衣の口調は嫌味とかそういうったニュアンスではなく、単純に凄いと思っての発言のようにも思えるし、いまいち魔法効果の強さの原因を理解出来ていない咲良への助言のようでもあった。


 ともあれ、咲良もようやく何で魔法があんな風に発動するのかの原因も分かり、自宅に戻ってきた時のような安心感を覚える。

 威力が強くなるのはいいのだが、原因が分からない状態というのは地味にストレスにもなりかねない。


「サクラっていったっけ? あんた治癒魔法だけでなく攻撃魔法もすげーんだな! 羨ましいぜ、龍之介のパーティーがよ」


「あ、いえ。私は龍之介と同じパーティーではないですよ。今向こうに行った芽衣ちゃんと、素手で戦っていた由里香ちゃんは同じパーティーですけど」


「……あ? マジか? じゃあ龍之介って一体何なんだ?」


 どこか可哀そうな奴を見るような目付きで龍之介を見ているムルーダに、慌てた様子で言い返す龍之介。


「いや! 確かにこの三人とは今は別のパーティーだけど、元々は同じパーティーっつか、ファミリー? みたいなもんなんだよ。オレにはオレで別にちゃんと――」


「ちょっと、ファミリーって何よ? 私達とあんたは赤の他人でしょ? たまたま出身地が近いってだけで」


「なああぁっ、確かにそーかもしんねーけど、遠く離れた所で一緒にいる同郷の者同士なんだから、もっとフレンドリーでもいいだろ?」


「あんたのは『フレンドリー』というよりは、単に『図々しい』だけでしょ」



 などと二人が言い合っている間にも、淡々と芽衣は"雷魔法"を試していく。

 お得意の【雷の矢】の他にも、触れた相手に電気を流してスタンさせる【ショックスタン】などの魔法も練習していく。


 これはシディエルに教えてもらった基本魔法なのだが、既に【ショックスタン】に関してはものにしているようだ。

 今は直線状に貫通する電撃を放つ【ライトニングボルト】を発動させようとしているようだが、どうも上手くいっていないようだ。


 ちなみに"召喚魔法"の方は使う予定はない。

 シディエルから情報が得られなかったため、ということもあるが、使用者の非常に少ない"召喚魔法"を大っぴらに使ったら悪目立ちしてしまう。

 魔物を呼び寄せるという性質上、迂闊に街中で使用する訳にもいかなかった。

 例えそれが制限時間がくれば自動で消えるものだとしてもだ。


 そういった訳で、"召喚魔法"については、街の外やダンジョンの中などで練習していこうということになっていた。



「ふぅ。少しつかれました~」


「お疲れー、芽衣ちゃん。はいこれ」


 ビリビリと"雷魔法"を使いまくっていた芽衣がもどってきた。

 疲れたといいつつも、余り見た目には疲労を感じられない芽衣。


「あとすこしで何か掴めそうなんだけどな~」


 そう言いながら、由里香の差し出してきた水筒を受け取ろうとする芽衣。

 その瞬間、バチっとした音が響いた。


「うわっつっ!」


 へんてこな声を上げた由里香は思わず手にしていた水筒を落としかけてしまったが、そこは見事な反射神経で地面に激突する前に再救出することに成功していた。


「あ~、由里香ちゃんごめんね~。まだ少しぱちぱちしてたみたい」


 どうやら"雷魔法"の後遺症のようなものらしい。

 謝りながらも今度は確実に水筒を受け取った。


「んーん、いーよいーよ。というか、芽衣ちゃんが頑張ってるの見てたら、私もまた体動かしたくなってきた! シクルム、もっかいやらない?」


「え、あ、いや。俺はちょっと今日は調子悪いみたいだから、次はムルーダが相手してくれるってよ」


 龍之介と何やら話をしていたムルーダは、自分の名が聞こえてきたので話を一旦やめ、シクルムの方へと向き直る。

 そんなムルーダに、押し売りのセールスマンの如く売り込みを掛け、由里香との対戦を実現させるシクルム。

 ――結局、その後シクルムも再戦させられたり、再び魔法組が魔法の練習をしたりして、充実した午前のひと時を過ごしたのだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえずここまで読んで、個人的には十分設定とかは練られているのかなと思います。 世界観の描写も多めでイメージがしやすいと思います。 (ギルドの資料室に関しての会話はほぼ同じのが繰り返され…
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