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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十一章

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第605話 望郷


 ほぼ同じタイミングでダンジョンの入口に到着し、互いに黙ったまま見つめ合う二つの集団。

 周囲には一件だけ建物が建てられているが、基本的には他の冒険者や商人などは周囲で思い思いの体勢で過ごしている。

 そんな彼らにとって、この二つの集団が対峙する様子は奇妙に映っていた。


「…………」


「…………」


 しかし、妙な緊張感のせいか対峙する集団に声を掛けようとする者はいない。

 どちらも結構な集団であるし、何か揉め事に巻き込まれたらとばっちりを食らうかもしれないからだ。


「こうして見つめあっていても仕方ないニャ。ちょっと向こうで話をしニャいか?」


「……そうするとしよう」


 やがて小柄な猫獣人がそう話しかけると、両集団は少し離れた場所へと移動する。

 別に両者とも、初対面の相手であるハズなのでわざわざこうして話し合う理由も本来はない。

 しかし実際はこうして、示し合わせたかのように話し合う流れになっていた。


「あの……隊長。なんで改まってこの連中と話をしようと?」


「ミーシャ、"鑑定"持ちの君ならその理由も多少は分かるんじゃないかニャ?」


「なっ、隊長!?」


 普通は"鑑定"スキルなど、他人の能力をこっそり盗み見られるスキルを持っている事を、初対面の人間の前で明かす事などない。

 ミーシャと呼ばれた女性も、慌てた様子で猫獣人の方へと振り返るが、本人は気にした様子もなく話を続ける。


「それで、君からは何人が見えた?」


「えっ……、それは、その、十数人程度です。それもレベルとかの最低限のものしか見えませんでした……」


「だろうね。なんせこのオレでも見えない奴がいるからニャ」


「そんな! 隊長が見えない相手なんて……」


「それだけヤバイ相手って事ニャ。それと、何度も言ってるけどオレは隊長じゃないニャ。その名称は他に相応しい奴がいるニャ。オレの事はリーダーと呼んでくれニャ」


「は、はい……リーダー」


 黙りこくった北条達を前に、猫獣人と女性の会話が繰り広げられる。

 しかしここで、猫獣人は前を向き北条達へと話しかけた。


「という訳でニャ。"鑑定"で能力が見えニャイような連中がウヨウヨといる集団。それだけでも興味はあるけど、オレの独断でも君たちとはちょっと話してみたいと思ったニャ」


「そいつぁ、都合がいい。こっちも色々と尋ねたい事がある」


「何かな? 答えられる範囲でなら答えるニャ」


「そう言われても訊きたい事が多くてなぁ……。ま、とりあえずは自己紹介といこう。俺は北条。クラン『ジャガーノート』の団長をしている」


「ジャガーノート……。ニャルホド、そういう事かニャ」


 『ジャガーノート』というクラン名を聞いて、何か納得したかのように視線を動かす猫獣人。

 『ロディニア王国』内ならば一部で名前が知れ渡っているかもしれないが、このような離れた場所にある国では、『ジャガーノート』という名前は殆ど広まっていない。

 しかし中にはエルダードラゴンをテイムした男が所属しているクラン、という事からその名を知っている者も存在する。

 猫獣人が移した視線の先には、逞しい肉体をした老人の姿をしたヴァルドゥスがいた。


「見えない内の片方は、エルダードラゴンだったという訳ニャ」


「エルダードラゴン!?」


 猫獣人の発言を聞いて、周りのメンバーがざわつき始める。

 すでに北条の"解析"によって、猫獣人の仲間にはレベル百超えのメンバーが多いという事は判明していた。

 そんな謎の集団であっても、エルダードラゴンが相手ともなれば全滅まではしないかもしれないが、戦った場合には大きな犠牲がでるだろう。

 ……レベル百五十だという猫獣人が参戦すれば、話は別だが。



「きさ……ま……、思い出したぞ! まさかとは思うたが、どうやら本人のようじゃな。ノーチラスよ!」


「あれ? オレの事知ってるのかニャ? その通り、オレの名はノーチラス。クラン『ノスタルジア』のリーダーニャ」


「フンッ、あの頃の我はまだエルダードラゴンに進化する前のファイアードラゴンであったからな。貴様が覚えていないのも仕方あるまい」


「あーー、ニャルホド? なんとなく分かったニャ。あんま覚えてニャいけど、こんな所で再会するなんて奇遇ニャ」


「何をヌケヌケと……。あの時散々我をズタボロにしておいて……」


「ヴァルドゥス」


「ぐ、ぬうう……。今はあの時の事はひとまず置いておくとしよう」


 以前猫獣人……ノーチラスによって酷い目にあわされたらしいヴァルドゥスが恨みがましい声を発するのを聞いて、北条が刺すようにヴァルドゥスの名を呼ぶ。

 激情という程高まっていた訳でもなかったので、主の声を聞いたヴァルドゥスは大人しく引き下がった。


「……なるほどぉ。ステータスを見た時から可能性は疑っていたがぁ、数百年前にヴァルドゥスを打ち倒したっていう猫の獣人とはアンタの事かぁ。そのふざけたようなパーソナルデータと、見た事がない種族名にも納得がいくってもんだぁ」


「……そう。やっぱり君にはオレのステータスが見えてるんだニャ。けど、その事は仲間にはまだ伝えてないし、オレの方から伝えたいと思ってるから黙ってて欲しいニャ」


「あ、ああ、承知したぁ」


 お願いするかのような口調のノーチラスだが、そこに込められていた圧は一国の王ですら何でも言う事を聞いてしまいそうな程の勢いがあった。

 それは様々なスキルを持つ北条ですら、一瞬気圧される程のものだ。


「ところで君たちはニャんでここ(モルソヴ)に?」


何故(ニャんで)って、冒険者がダンジョンを訪れるのは普通の事だろう?」


「確かにそうニャ。でも、君たちはかなりダンジョンの祝福を受けていると見たニャ。今の時代、君たちのような攻略法をしている冒険者は珍しいニャ」


「……ちょっと急ぎで強くなる必要があってなぁ」


 北条は"解析"スキルによって、ノーチラスのステータスを全て見通している。

 そこに表示されたデータは、これまで見た中でもとびっきりとびぬけたステータスであったが、その中に"解析"スキルは含まれていない。

 "鑑定"スキルは所持していたが、"鑑定"スキルではダンジョンの祝福――ダンジョンスキルについては見られないハズだ。

 しかしノーチラスは、北条達が多くのダンジョンを攻略している事を嗅ぎ取っているらしい。


「にゅう、今以上に強く……ねえ。何か明確な目標、或いは敵がいるって事かニャ」


「まあ、そんな所だぁ。そもそもそっちはどうなんだぁ? 世の中には現役のSランク冒険者以外にも、レベル百を超えてる奴がいるって事は知ってる……つもりだったぁ。だがぁ、アンタらみたいな常識外れな集団が、ポンッとその辺を歩いてるとは思いもしなかったぞぉ」


「ニャハハハ、それもそうニャ。でも、オレらが今いる大陸の他にも、世界にはたくさんの島や大陸があるニャ。それを思えば、オレ達もそこまで常識ハズレじゃないニャ」


「つまりアンタみたいな奴が、他の大陸にはうじゃうじゃ存在していると?」


「うじゃうじゃいるかは分からないニャ。でも、オレの目的はヴァル……暗黒大陸を探索する事ニャ。かの地には、もしかしたらまだ……」


 完全に猫タイプのノーチラスであるが、その声音や表情の変化から、人間である北条にも感情がまざまざと伝わってくるようだった。

 それは強い望郷の念。

 遠く過ぎ去った何かに想いを寄せるノーチラスの心情が、北条だけでなく周囲にいた者達にまで広がっていく。


「その為にも、オレも仲間を集めて一緒にダンジョンを回ってるニャ」


「暗黒大陸……。クラトン諸島の東にあるという大陸かぁ。確かにあの大陸は最低でもAランクの魔物がうろついているらしいなぁ?」


「そうニャ。今では大分戦力も整ったけど、奥を目指すにはまだまだ厳しいニャ。だから、祝福されたダンジョンをハシゴしつつ、サルカディアというダンジョンを目指してる所ニャ」


 北条がチラッとノーチラスの仲間を見回すと、この目的については語ってあるのか、全員ノーチラスの期待に応えたいという気持ちが伝わってくる。


「そいつぁ奇遇だなぁ。俺らは逆にそのサルカディアから、ローレンシアの方に向けてダンジョン巡りをしてた所でなぁ」


「あそこから来たニャ? どんな所ニャ? ブレイヴキャッスル以上の規模と言うのは本当ニャ?」


 北条の話を聞いて、興味津々の様子のノーチラス。

 無意識になのか、シッポを軽く左右に揺らしていた。


「ブレイヴキャッスルには行った事ないがぁ、恐らく大陸最大規模というのは間違いない。難度の高いエリアもあるし、俺らがダンジョン巡りをしてる理由の一つも、そうしたエリアをクリアする事も含まれているんでな」


「それは楽しみニャ。でもまずはここのモルソヴから行くニャ」


「そうだな。俺達もモルソヴはこれから探索する所だ。だがぁ、他の連中はともかくアンタはもうレベル限界だろう?」


「それでも祝福の効果は受けられるニャ。それに仲間の強化にも持ってこいニャ」


「ふむ……」


 ノーチラスの答えを聞いて、少し考え込む北条。

 確かにノーチラスのいう事も間違ってはいない。

 北条がやってるのも似たような事だから、なおさらその事は理解できる。

 しかし北条の場合は、自身もまだまだレベルを上げられる段階だ。

 幾つか方策は考えていたが、北条は自身の強化が此度の悪夢対策には一番だと判断して動いている。


「アンタ自身(・・)はそれ以上成長するつもりはないのかぁ?」


「それはどういう意味ニャ?」


 それは疑問形でありながらも、内なる疑問を口にしただけのものとは異なっていた。

 北条の質問の意図に気付いていながら、敢えて疑問形で返している……そんな感じだ。

 その事を敏感に嗅ぎ取った北条は、伏せていた札をひとつオープンさせる。


「アンタのレベルからして、『覚醒』の最低条件は整っている。他の条件の方はどうなっているんだぁ?」


 それは劇的な変化だった。

 北条が発言を終える前の段階から動き出したノーチラスは、一瞬にして北条の前へと移動する。

 それは単純にステータス(身体能力)でゴリ押しした移動であり、能動的なスキルは一切使用していない。

 にもかかわらず、北条以外にまともにその反応を捉えられた者はいなかった。


「ニャッ! ニャッ! 覚醒について、何か知ってるニャ!?」


 先ほど軽く左右に振っていた時とは比べ物にならない程、速い動きで尻尾を左右に振りながら質問してくるノーチラス。

 その反応の良さを見て、北条はこの手札をどう活用するかを考えていた。



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