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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十一章

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第600話 異界の~


 北条達『ジャガーノート』は、国外の祝福されたダンジョンを次々と巡って攻略していた。

 『ローレンシア神権国』の方へと向けて順番に攻略している最中であり、今は『カスタイズ共和国』という『ロディニア王国』より更に小さな小国に滞在している。


 《ヌーナ大陸》中央部には、南北を隔てるかのような長大な《ホライゾン山脈》が続いている。

 この山脈によって、北の『パノティア帝国』は南の諸国をあまり気にする事もなく、大陸北東部の制圧に乗り出す事が出来ていた。


 そしてこの《ホライゾン山脈》の西側には、《ホライゾンバレー》と呼ばれる通行可能な谷があり、谷を抜けて少し北にいった所には帝国の砦が立つ。

 そして反対側にはこの『カスタイズ共和国』の城塞都市が存在している。


 元々この辺りには幾つかの小国が存在し、互いに争っては興亡を繰り返していた。

 しかし、旧カスタイズ王国の近くに、小規模ながら祝福されたダンジョンが発見されると、『ジャファー共和国』と『ユーラブリカ王国』が関心を寄せる事になる。

 都市を一つと、その周辺の村々しか領土を持たない王国では、両国の干渉を退ける事は実質不可能であった。


 更にその頃には周辺の国家を攻め落とし、飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を広げていた、北の帝国の存在が問題視され始めていた。

 結局『カスタイズ王国』は『カスタイズ共和国』と名を変え、十三人の元老院によって運営される事となる。

 ジャファーとユーラブリカから六人ずつと、旧カスタイズ王族から一人という内訳だ。


 傍目からは両国の自治領扱い……そして実質的には帝国に対する盾として、『カスタイズ共和国』には両国から防衛費や人材などの援助が行われている。

 北の『パノティア帝国』に対抗する最前線として、小国にはそぐわない程の軍備も整っているのだ。


 そんな『カスタイズ共和国』の首都であり、国内唯一の都市である《城塞都市モウセス》の宿屋の一室で、一人の男の声が響き渡っていた。




「えっ、どーゆー事だよオッサン!」


「どういう事も何も、お前の新しい称号は『異界の剣豪』だぁ」


「くぅぅぅっ! 何で勇者とか英雄じゃねーんだよおおお!」


 龍之介が嘆いているのは、異邦人達に訪れた変化についての話だった。

 この世界に転移した時から、異邦人達には『異界の来訪者』という称号がついている。

 この称号によって各種経験値の獲得にボーナスがついている他、北条の"解析"でも調べきれない隠し効果があるとも言われていた。


 その異邦人特有の称号が、おおよそレベル八十代を超えた辺りから、各個人で新しい称号へと切り替わっていた。

 先ほど龍之介が喚いていたように、龍之介は『異界の来訪者』から『異界の剣豪』への変化となる。


 具体的な称号効果は、これまでの『異界の来訪者』の効果を更に強化したものとなっている。

 実感できる程ではないが各種経験値のボーナスが更に増加しており、更に龍之介なら剣豪だけあって剣に関しても色々とボーナス効果もつく。

 具体的には、剣系のスキル熟練度が上がりやすくなり、剣系によるダメージの向上などの効果もある。

 本人は納得していなかったが、十分強力な称号の一つだ。


「まあ、別に妥当な所じゃない? 私だって『異界の結界師』だった訳だし」


 陽子が言うように、基本的には各個人の特徴を元にした称号へと変化していた。

 慶介は『異界の異能力者』であり、楓は『異界の忍』。

 これらを見ると分かるように、この世界に来て後天的に身に付けたものというよりは、最初に選んだ二つのスキルが基準となっているように見える。


「ぬう、確かに剣豪って言われて納得はできっけどさあ。でもやっぱ和泉リーダーの『異界の英雄』とか、ツヴァイみたいな『異界の勇者』ってのには憧れるぜ」


 異界称号の中でも信也とツヴァイが持つ英雄と勇者という称号は、この世界でも元々有名な称号の一つだ。

 かつてシルヴァーノが『勇者』を自称していたが、彼の場合はあくまで職業だけであって、称号に勇者はついていなかった。

 しかし、ゼンダーソンの『ユーラブリカの英雄』のように、この世界の生まれでも英雄や勇者の称号を持つ者はいる。


 恐らく基本的な効果は同じで、異界の~とつくほうには各種経験値ボーナスがおまけでついているんだろう、と北条は予想している。

 剣豪の称号は見た事なかったが、ゼンダーソンの仲間のシーフには『百盗』という称号がついているのを確認していた。

 恐らくそれも職業的というか、個人の資質を表すような意味合いを持つ称号なのだろう。


「でもまあ、なんにせよこれで後は芽衣と由里香と細川さんだけになったなぁ。称号が変化する条件は分からんがぁ、この三人も近い内に変化しそうだぁ」


「私の場合は……、やはり『異界の回復術士』でしょうか?」


「まあ、そんな所だろう。何にせよ恩恵に授かれる事に違いはないから、楽しみだな」


 最後に信也が爽やかな声で纏めると、部屋に集まっていた者達は解散して散り散りになっていく。

 この街では《迷宮都市ヴォルテラ》の時のように、一々仮拠点などは借りていない。

 近くにある祝福されたダンジョンの規模が小さい為、攻略もすぐに終わると見ていたからだ。


 なので、『ジャガーノート』は幾つかのグループに分かれて、街中の四か所の宿屋に分かれて宿泊していた。

 異邦人達は久々に身内だけで固まって、一つの宿に宿泊をしている。

 ちなみにツヴァイだけは、ムルーダらと一緒に行動していた。



「オッサン。出発は明日なんだろ?」


 話を終えて解散した後、自室に戻ったり一階の食堂に軽食を取りに行ったりと、各自がバラバラに行動し始める中、龍之介は北条に予定を尋ねる。


「あぁ。一旦転移拠点からポータルルームに戻った後、次の転移拠点へと向かうぞぉ」


 北条は祝福されたダンジョンの近くに、簡易的な転移拠点を幾つも作っている。

 その原型は、貴族派の内乱の時にシルヴァーノらを閉じ込めた石部屋だ。

 あの時は試行錯誤しながら作っていたが、今では完全に規格化して作る事が出来る。


 何故なら、何度も同じような拠点を作る内に、一連の製作工程が一纏めになって一つの魔法へと昇華する事が出来たからだ。

 その魔法の名は、【イエーイイエーイ】。

 始めは冗談半分で、拠点を作る時にこう叫んでいれば、魔法として認識されるんじゃね? という程度の試みだった。


 しかし二度目の試みで上手くいってしまい、以降は北条が魔法名を唱えるだけで、拠点が作れるようになってしまった。

 分類としては"大地魔法"であり、勿論北条のオリジナル魔法となる。

 外見が岩のように見える建物を生みだすという魔法だが、建物の石部分は圧縮された頑丈な作りになっており、この魔法を使用するには膨大なMPと精密な魔力操作が必要だ。


「そんならさぁ。ちょっくらこの街の酒場にいって、色々話でも聞いてくるわ」


 龍之介ももうとっくに二十歳を超えているので、例え日本にいても飲酒に問題はない。

 しかしただ酒を飲みたいというのではなく、龍之介の場合はそうした場所で人々から話を聞くのが目的だった。

 元々そうして酒場で情報を集める事に憧れてもいたし、実際にやってみると色々な人間と知り合う事が出来て、龍之介自身もそれを楽しむようになっていたのだ。


 この街は、『ジャファー共和国』と『ユーラブリカ王国』との間に位置し、少数ながらも帝国との間を行き来して取引を行う商人もいるので、各地から様々な人が集まっている。

 そうした人々が集う酒場には、多くの情報も集まっている事だろう。


「分かったぁ。あんま目立つ事はすんなよぉ?」


「わーってるって。じゃあな」


 そう言って一人宿を出ていく龍之介。

 すでに辺りは夕暮れに染まってきており、もうじき辺りは暗くなっていくだろう。

 そうなれば、昼は食堂を営んでいるような場所でも酒が提供され始める。


 龍之介はそうした店を何軒もハシゴして、軽く情報を集めるつもりだった。

 しかし、三件目で龍之介は酒場巡りを打ち切る。

 何故なら、どこの酒場でもほぼ同じ話題しかされていなかったからだ。



「チッ、胸糞わりぃぜ……」


 その話題とは、大陸北部にある『ラヴァン獣人国』の《獣都ゼラス》が陥落したというものだった。

 そしてその際に、街にいた獣人たちは女子供の区別なく全て首を刎ねられたという話も伝わっている。

 他に聞こえてくる噂話は、どれもこれも食事がまずくなるものしかなかった。


 龍之介は三件も酒場を巡った割に、ろくに食事も飲みもせず宿へと戻る。

 そして酒場で聞いた話を、仲間へと伝えるのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] やけに軽い名前の魔法を聞くたびに表情を曇らせてしまう人がいそう
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