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第60話 ライバル


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おお、やるじゃねーか!」


「そっちこそ、冒険者なり立てってのは本当なのか!? 既に二つも闘技スキルを覚えているなんて!」


 今日も余り人が多いとは言えない訓練場では、龍之介と彼と同じ位の年ごろの少年が木剣を手に模擬戦を行っていた。

 二人は白熱したいい勝負をしており、力では少年の方が、技では龍之介に軍配が上がっている。


 今も少年が力まかせに斬りつけてきたのを、龍之介が"パリィ"で見事受け流し、体勢を崩した少年の横っ腹めがけて木剣を横薙ぎしていた所だ。

 しかし少年も反射神経を総動員してかろうじてその攻撃を避けることに成功すると、即座に後ろに下がって一旦距離を取った。


「ハァッ、ハァッ。なん、で、レベルも下の、冒険者なりたての奴にこんな苦戦してるんだ、俺は」


「ふぅ、ふぅ……。俺様の、センスに、かかれば、こんなもんよ」


 既に両者共に息は荒く、動きも大分精細をかきはじめている。

 このまま事が推移すると、どちらかが一撃をもらって終わるか、或いは泥仕合に発展するかといった感じだ。


「ムルーダ、頑張ってー!」


 そう声をはりあげたのは、杖を手にした赤髪の少女だ。

 ゆったりとしたローブを身にまとい、その顔にはまだ幼さが僅かに窺える。

 茶色の瞳を目いっぱい開いて見つめているのは、龍之介と対戦している少年――ムルーダだ。


 彼女の近くには龍之介陣営ともいえる咲良もいるのだが、こちらは龍之介に応援のメッセージを送ることもなく、赤髪の少女のパーティーメンバーと思しき少年と会話をしていた。


「おう、見てろ、シィラ!」


 少年が赤髪の少女――シィラの声に応えると、何の工夫もない全力の前進で駆けながら、鋭い突きを放ってきた。

 しかし龍之介はその勢いに怖気づくことなく立ち向かい、僅かに上体を捻ってその突きを躱すと同時に相手の胴体部分を木剣で斬りつけた。


「ぐうううぅぅっ」


 カウンターのような状態で決まったせいか、木剣とはいえ大分ダメージが入ったようだ。

 苦しそうな声を上げながら打たれた部分を手で押さえるムルーダ。

 その様子を見て、即座に心配そうな顔で駆け寄るシィラ。

 隣のスペースでは、龍之介同様に模擬戦をしていた由里香が、とっくのとうに相手の少年をのめしており、勝者となった由里香と龍之介は仲間の下へと戻っていく。


「おう、そっちもどうやら勝ったみたいだな?」


「相手があのおっちゃんみたいな奴じゃなければ、なんとかいけるね!」


 勝利を収めた二人は実に楽しそうだ。

 ただ、龍之介の方はともかく、由里香の方は"なんとかいける"といったレベルではなく、大分楽勝といった様子だった。

 そのため、若干不完全燃焼であり物足りなさを感じてもいた。


「君たち、本当にすごいねえ。これでもあの二人は冒険者歴一年位なんだけどね」


 咲良と話していた少年が、素直に感心した様子でそう口にした。


「余りそういうことは本人には言わないでね? 特にあのバカはすぐ調子に乗っちゃうんだから……。じゃあ、ちょっと私は彼らの治療をしてくるわね」


 そう言うと、未だ苦しそうなムルーダの下へと歩いていく咲良。

 入れ替わりで戻ってきた由里香と龍之介は、訓練場の端の部分で座り込んで模擬戦を観戦していた仲間と合流した。


「由里香ちゃん、すごかったね~。こう、バシッとズバッと」


 身振り手振りで先ほどの戦闘の様子を再現する芽衣。


「うん。以前と比べるとホント体が軽くなってるから、思った通りに体が動かせてすっごく楽しいの!」


「俺の方はどうだった? 最後はズギャーンって上手く決まったと思うんだけど」


「え? そっちは見てないから知らないですよ~」


「な、なんだとおおおっっ」


 このように騒がしい異邦人達に比べ、ムルーダのパーティーメンバーの方は仲間が負けたこともあるだろうが、とても静かだった。

 その内の一人は最初に咲良と話していた少年で、背には弓を、腰には短剣を帯びていて、鎧はレザーアーマーを身に着けている。


 穏やかで弱気そうな印象はあるが、彼らのパーティーの中では一番話がしやすいのは彼かもしれない。

 名前をディランといい、職業は狩人らしい。

 男性としては背は百六十センチ代半ばと低めだが、まだ十六歳ということなのでこれから伸びる可能性はある。


 そして、ディランの隣にいるのはロゥという少年で、こちらはメンバー最年長で十九歳。同時にパーティーで一番高身長でもある。

 だがパーティーリーダーは彼ではなく、龍之介と戦っていたムルーダがリーダーだという。


 ロゥは余り表情を表には出さないタイプで、更に非常に無口らしく龍之介達と会ってから一言も発していない。

 その為詳しい話を本人から聞けていないが、槍を身に着けていることからそっち関連の職業だろう。


 それから龍之介と戦っていたリーダーであるムルーダと、彼を応援していたシィラ。

 最後に割とあっさり由里香にのめされてしまった、『盗賊』の職に就いているシクルムを合わせた五人でパーティーを組んでいるらしい。

 龍之介達が彼らと出会ったのは、訓練場に来てから三十分ほど経った頃だった。



△▽△



「お? お前達も冒険者なのか?」


 自分達と年が近い、というよりは自分達より幼く見える龍之介達に関心を持ったムルーダが話しかけてきたのがそもそものきっかけだ。

 その後ウマがあったのか、龍之介を中心に交流が進み、咲良が"神聖魔法"の使い手だということが分かると、模擬戦をやってみようという話になった。


 彼らのパーティーにはヒーラーがいないので、元々は一人でもできるような訓練をメインにする予定だったそうだが、普段は気軽に出来ない実戦形式の訓練をするいい機会だと、ムルーダから話が持ちかけられた。


 その結果が先ほど出た訳だが、彼らは見事にやられてしまったという訳だ。

 特に由里香と対戦したシクルムは、当初「へっ、何で俺が女のガキ相手に模擬戦なんてしなきゃなんねーんだよ」などと舐めた態度をしていたものの、結果はぼろくそにやられてしまい、今や虫の息といった所だ。


 勿論致命傷などを受けたという訳ではなく、はじめのうちにある程度相手の実力が見えた由里香が、以降は加減して絶妙な威力の攻撃を次々と繰り出していたのだ。

 すっかり男としてのプライドも、体力から何もかも奪われたといった様子のシクルムは、今は咲良からの治癒魔法を受けている。


「いやー、参ったぜ。まさかあそこであんな風に立ち向かってくるとはな。おれの負けだ」


 魔法による治療を終えたムルーダがシィラと共に他のメンバーの下へと戻ってくる。

 その後ろからは沈んだ表情のシクルムと、咲良も続いていた。

 ムルーダの口調は一見あっけらかんとした口調に思えたが、その顔には隠し切れない悔しさが見え隠れしている。


「だけど次は負けねーぜ。これでもそろそろFランクへの昇格も見えてきてるんだ。昨日入会したばかりのひよっ子には負けてらんねーからな!」


「はん、そしたらオレだってすぐにFランクにまで上がってやるぜ」


 未だ無念を内に潜めながらも白い歯を見せ笑ったムルーダに、心地いいものを感じた龍之介も負けじと言い返す。

 お互いタイプも似ていた二人は、模擬戦を通じて更に関係が深まったようだ。

 そんな二人を、少し呆れた様子の咲良と、あっという間にムルーダと仲良くなったことへの嫉妬のような感情を抱いたシィラが見つめていた。


「ね~、次はそろそろ魔法の練習もしてみようよ~」


 そこへのんびりとした口調の芽衣の声が聞こえてくる。

 この訓練場では、バッティングセンターのひとつの区画のように、魔術士用の訓練スペースが用意されている。


 コの字の上辺下辺を更に長く伸ばし、長方形の短辺1辺だけが抜けたような構造の壁が組まれていて、材質は対魔レンガという魔力を阻害・減衰させる特殊なレンガで組まれている。


 魔法には矢を飛ばすタイプのものや、球状のものを飛ばすタイプなど種類が複数存在するので、タイプに応じた的も魔法訓練エリアには複数配置されてある。

 その的となる部分も金属製であったり、岩の塊であったりと色々だ。


「そうね、私も早く攻撃魔法を試してみたいわ」


 そう口にする咲良は、昨日の転職で"水魔法"と"火魔法"を覚えて以来早く試してみたくてウズウズしていた。

 "水魔法"の【クリエイトウォーター】や【水操作】などは宿の中でも試してはみたが、これらの魔法は非常に地味だ。

 この訓練場なら攻撃魔法を思いっきり放てる。

 既に咲良の顔はワクワクが止められないといった表情だ。


「え、お前攻撃魔法も使えるのか?」


 驚いた声を発したのはムルーダだ。

 というか彼以外のパーティーメンバーも皆驚きの表情を見せている。


「ええ、そうよ。元々は"神聖魔法"を使ってたんだけど、転職して魔法系の職業についてから、"火魔法"と"水魔法"も使えるようになったのよ」


「……っ」


 普段は無口なロゥも、これには軽くうなり声のようなものを発して驚きを表していた。

 確かに治癒系魔法と属性魔法の両方を使える者もいない訳ではない。

 だが、魔術士系と神官系では職業が別の系統とされていて、両立できる人は多くない。


 "回復魔法"は神官系ではないが、そもそも資質を持つ者が少ないし、"精霊魔法"にも生命の精霊の力を借りた治癒魔法はあるが、あれはまた別だ。

 "精霊魔法"自体が魔術師系より珍しい職であるし、"精霊魔法"の使い手でも生命の精霊を扱える人の割合が少ない。


 ヒーラーというのは、冒険者にとっては不足しがちなポジションであり、そこから更に属性魔法も使えるとなると、もうあちこちから引っ張りだこになること請け合いだ。彼らの驚きようも納得できよう。


「……すごい、んですね。私も魔術士にはなれましたが、"火魔法"を扱うのが精いっぱいで……」


「あ、"火魔法"を使えるんですか。それならちょっと試しに見せてもらってもいいですか? 実は転職したのが昨日で、まだろくに火も水も試してないんですよ」


 咲良の申し出に、シィラは一瞬迷ったような顔を見せた後、傍にいたムルーダへと視線を移す。


「ん、基本的な【炎の矢】ならいいんじゃないか? どうせ練習するつもりだったんだし」


 その視線の意味を感じ取ったムルーダがシィラにそう促すと、コクリと頷いたシィラは魔法の発射地点へと赴いた。

 そして、


「炎よ、矢となりて敵を穿て。【炎の矢】」


 魔法名だけでなく呪文のようなものも唱えると、シィラの目の前に長さ二十センチ程の炎で出来た矢が形成され始め、成形が完成すると同時に奥にある的へと向かって放たれた。


 魔法にも命中率があり、それは"魔力操作"や"精魔照準"などのスキルを磨くことによっても向上するが、地道に同じ魔法を何度も使い慣れていくことでも魔法の命中率は僅かに向上していく。

 また魔法を使うことそのものが、その魔法の腕前を上達させる為にはもっとも手っ取り早い方法ともされていて、上を目指す魔術士は常日頃から魔法を使っているものだ。


「ふう。これが"火魔法"でも基本的な【炎の矢】になります」


 シィラの放った【炎の矢】はぶれることなく真っすぐと突き進み、やがて奥にある何重もの円で縁取られた的の、内側から三番目の円上に命中した。

 すると対魔レンガの効果か、威力を減衰された【炎の矢】は燃え広がることもなく、軽く燃え続けた後すぐに跡形もなく消え失せた。


「……そうね。大体イメージは掴めたから次は私がやってみるわね」


 そう言い、発射地点に一人立つと咲良は魔法を放つために精神を集中しはじめた……。






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