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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十章

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第591話 Aランク昇格の条件


「む、お主らこの街を去る予定だったのか?」


「ああ。もう借りていた拠点を後にしたし、ギルド前には仲間が待ってる」


「ぬう、どうにか後一日出発を延ばす事は出来んのか?」


「そう言われてもなぁ。昇格試験なら別にジャガー町に戻ってからでもいいだろう?」


「いや、今回はAランクへの昇格試験となる。試験官を用意するのに、この街は好都合なのじゃ」


 Aランクへの昇格試験なのだから、試験官側も原則Aランク以上でないとならない。

 そしてこの《迷宮都市ヴォルテラ》には、それなりの数のAランク冒険者が活動している。

 『ロディニア王国』で活動しているAランク冒険者の内、九割方がこの街を拠点にしている位だ。

 そういった事情を説明していくゲルト。


「ううん、そうなると僕としてはここで試験を受けておきたいねえ」


 ゲルトの説明を聞いて、シグルドはここで試験を受けていきたいと希望を出す。

 今回Aランク昇格試験の声が掛かったのは、『リノイの果てなき地平』の六人と、北条、ヴェナンド、ライオット、シャンティアの計十人だ。

 この街には高難度のダンジョンがあって、それに伴い多くの冒険者クランも存在しているが、一度にこの人数がAランク昇格試験を行うのは初めてだ。


 ちなみにこの時点で、レベル的には信也達もギリギリAランクレベルに達していたが、今回はお声が掛かっていない。

 ただしこれまで同様に、そう期間を空けずに信也達もAランクに追いつく事にはなりそうだ。


「……しゃあない。出発の日を伸ばすとするかぁ」


「すまないね。Bランク昇格の時は大分待たされてしまったから、機会は逃したくないんだ」


 このシグルドの態度は冒険者としては普通の反応であり、昇格をそんなに望んでいない北条のようなタイプの方がレアケースだ。

 その事は北条も理解しているので、今回は素直に昇格試験を受ける事に決める。


「では明日の午後、この東支部に訪ねて来てくれ」


 最後に試験会場と時間を告げ、ついでにこの近くの宿を何軒か紹介してもらった北条達は、ギルドの建物を出て仲間と合流。先ほどの話をメンバーに伝えた。




「ほう、Aランク昇格か。まあ実力的にはそれも当然だろうな」


 昇格の話を聞いて、エスティルーナがまず所感を述べる。

 その様子はいつもとそう変わるものではなく、来るべき時が来たと冷静に受け止めていた。

 しかしムルーダや龍之介、それからマデリーネなどは、北条のAランク昇格にそれぞれ別の想いを覗かせる。


「おれ達もCランクにまで上がる事は出来たっけどよお、団長はもうAランクになっちまったんだな……」


「途中から随分と差がついてきちまってたが、オッサンもついにAランクかよ。……なんかFランクだった頃がついこないだの事みてーに感じるぜ」


「ふっ、初めから只者ではないと思っていたが、ついにここまで上り詰めたんだな。私としても感慨深いものがあるぞ」


 などと、まだ試験前の段階なのに既に昇格確定の前提で話をしたりしている。


「おいおい、お前ら。試験は明日だぞぉ? ってか、試験ってまた試験官相手に戦えばいいのかぁ?」


「そうだな。魔法が得意な者は魔法を見せればいいし、とにかくレベル相応の実力を見せて、それを試験官が認めたら試験は合格だ」


「試験といってもそれ自体は難しい訳ではないんだな」


 日本の生活が頭に残っている信也は、試験というともっと事前に対策をして挑むものだという印象が強かった。

 その点が心に残っていたので、ついこのようなセリフが漏れてしまう。


「実績に関してはギルドが管理してあるし、Aランクへの昇格には三人のギルドマスターの推薦が必要になる」


「ふむ、そうなのか?」


 先ほどのゲルトの話にはその点は含まれていなかった。

 そこで、エスティルーナがその条件についてを話していく。


「もしAランクへと昇格した冒険者が問題を起こした場合、その責任は三人の推薦者に及ぶ事になる。ギルドとしても、無責任にAランクを量産するつもりはないという事だ」


 それ故、Aランクの冒険者というだけで、ギルドはその冒険者を厚く遇する。

 Aランク冒険者にはそれだけギルドからの信頼が寄せられているからだ。

 それでもシルヴァーノのように、時折ギルドの意図を潜り抜けてAランクへ昇格する者も出て来る事もある。


 シルヴァーノの場合、生前の行いで既に除名処分に至っていたので、彼を推薦した三人には先に処罰が下っていた。

 とはいえ、よっぽどの酷い事件を起こしていない限り、一度で推薦したギルマス達が解任される事はない。

 しかし何度か同じような事が続けば、癒着や賄賂が疑われてそのギルドマスターは更迭されるだろう。


「なるほど。となると、北条さん達を推薦したのは……」


「まあ、ナイルズにゴールドル。それから妙に乗り気だったここのギルマスだろうなぁ」


 というか、北条としてはそれ以外にギルドマスターとの繋がりがない。

 場合によっては直接面識がない場合でも、これまでの活動記録や対象冒険者の評判などを聞いて、推薦を出すギルドマスターもいる。

 しかし自分にも責任が及ぶ事になるので、そうしたケースは余り多くない。


「最初は酷い歓迎っぷりだったけど、最初ギルドに挨拶に来て正解だったね。おかげでゲルトさんとも知り合う事が出来たし」


「それにしても、付き合いの浅い俺達に推薦を出すような関係までは、築けてないと思うんだがなぁ」


「それはほら。ダンジョン攻略と、バスタードラゴンの件が効いたんじゃないの?」


 あてずっぽうで口にした陽子の推測は、間違ってはいなかった。

 ただ付け加えるなら、実際にゲルト本人が北条達と接していた事も理由として大きい。


「そうかもしれん。とにかく、そういった訳でもう少しこの街に留まる事になったぁ。なので、まずは宿を探しにいくぞぉ」


 大きな街の冒険者ギルドの傍には、彼らを目当てにした店が軒を連ねている。

 宿屋だけでもこの東支部の周辺に何軒もあったので、何人かずつにばらけて宿を取る事になった。

 さすがに四十人近くの大人数となると、受け入れられる宿がなかったのだ。

 この日は宿を取った後、各々自由行動という事で時が過ぎていった。







▽△▽



 そして翌日。

 基本的には前日同様に、試験を受ける者以外は思い思いに時を過ごしていた。

 ただ大部分のメンバーは、昇格試験が気になるのか午後になると一緒にギルド東支部へと赴く。


 試験を行う場所は、ギルドに大抵併設されている訓練場の中だ。

 すでにそこにはギルドマスターのゲルトをはじめとした、試験官らしき冒険者が勢揃いしていた。

 南支部に比べたら人が少ない東支部だが、それでもつい先ほどまでは、この訓練場内でそれなりの冒険者が各々訓練をしていた。

 しかし今は昇格試験を行うという事で、人を捌けさせてある。


「ふむ、こりゃまた大人数できたものじゃな」


「ウチは何かってえと集まってくる奴が多いんだよなぁ」


 ソロゾロとクランメンバーを引き連れ、試験場にやってきた北条。

 これまでも北条が誰かと手合わせなどをする時、蟻が砂糖を見つけたかのように、ワラワラと集まってくる事があった。

 元々冒険者としても上昇志向の強い者が多いので、そうした機会は見逃したくないのかもしれない。


「ああぁっ! ンシアぁ!」


「ユリカ、元気か?」


 北条がゲルトと話している中、由里香がンシアに気付く。

 彼女は試験官達のいる場所で一人所在無げにしていたが、由里香に気付くとふわっと表情を変えて由里香に応える。


 ンシアは『バスタードラゴン』が行っていた悪行の参考人として、あれから役人から話を聞かれたりしていた。

 そして、売り払わずに自分の物としていたンシアの仲間の装備の一部が、彼女の下に戻ってきている。

 その後は仮拠点からは離れはしたが、北条達精鋭パーティーがダンジョン攻略に挑んでる間、時折由里香らと一緒に街をぶらついたりして、その後も交流は続いていた。


「そこにいるって事は、ンシアも試験官の一人なの?」


「そう。ジャガーノート、世話になった。けど、実力は、ちゃんと、見る」


「うん、そこはズルしちゃダメだからね! とーぜんだよ」


「フフッ、由里香は、良い奴だな。それで、試験、終わった後、団長に話、ある」


「話? うん、分かった。北条さんに伝えておくね」


「たのむ」


 由里香にそう告げると、ンシアは元の場所に戻っていった。

 しかしそんなンシアと入れ替わるようにして、一人の女性が北条の下へと近づいていく。


「やあ、また会ったね」


「お前は……シャルンかぁ」


「君たちのお陰で、この街の冒険者も変わる事が出来そうだよ。……ところで、水竜はどうだったんだい?」


「あー……そうだなぁ。最深部に居たのはウォータードラゴンではなく、それよりは格下のサーペントドラゴンだったがぁ、大分タフだったぞぉ」


「へぇ……そうなのかぁ。昔の言い伝えや古い書物には微かに残されていたけど、間違いじゃあなかったんだねえ」


「アレに挑むんなら、最低でもAランクフルパーティー。できればSランクがいた方が生存率は増すだろう」


「ふうん、それは興味深いね。それって暗に君たちの実力を示しているって事かな?」


「さあてなぁ。どう取ろうとお前さんの勝手だぁ。それより、そろそろ試験も始まるみたいだぞぉ」


「みたいだね。私は魔術師担当として呼ばれている。君が何を得意としてるのか知らないけど、魔術師だったらド派手な魔法を見せてもらえたら嬉しいな」


 そう言い残してシャルンも元の位置へ戻っていく。

 その直後、ゲルトによるAランク昇格試験開始の声が響いた。



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