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第59話 レベル百の壁


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「…………」


 信也達がチンピラに絡まれるより前、三手に分かれた直後の冒険者ギルドの資料室は沈黙に包まれていた。

 今回資料室へと来ることにしたのはメアリー、楓、石田、長井の四人だ。

 この面子で会話が弾むことなどは当然なく、そもそも資料を調べにきたので作業に集中すれば話している余裕もなくなる。


 先日は気前よく魔法について教授してくれたシディエルも、それならそれと無理に話しかけることはせず、自分の分の仕事である写本作成を黙々と行っていた。


 一方四人は、十二人のメンバーの中では比較的ファンタジー知識には疎い方ではあるので、それを補う意味も含めてスキルや魔法以外の書物も読んでいた。

 とはいえ、元々冒険者用の資料室なのでそういった一般知識の資料は余り多くはない。


 この世界では書物そのものが高価であり、一般人の手が届く場所にほとんどないということもあって、とりあえず何かしら役に立つ情報があれば儲けもの。と、いった感じで、各自ひとつひとつ資料を漁っていた。


 中でも石田は気になる本を見つけたのか、先ほどから同じ本をずっと開き時折メモを取っている。

 楓は地理に関する本を探っているようで、"忍術"の使い手が多いという《ヌーナ大陸》の東にある《クラトン諸島》に関する情報を中心に探しているようだ。


 長井は、いまいち何を調べてるのか判然とせず、適当に見繕ってきたような本をパラパラッとめくっていたり、室内にいる他の人たちの様子をじっと眺めていたりして、メアリーはその様子に気味の悪いものを感じていた。


 そして残るメアリーはといえば、


「『初めて転職する人にもお勧め! 職業解説書 著:アスディーバ・マルティン』かあ……」


 職業に関することが記されているらしい大きな本を手に取っていた。

 この本だけ他の本と比べて妙に分厚くしっかりと装丁されていて、まるでハードカバーの文庫本のような厚さをしている。この本の角の部分でなぐったら痛そうだ。


 その内容の大部分は、大まかな職業分類とそこから派生・枝分かれしていく職業の名称と、特徴。それから著者の私見などが記された部分であり、解説書というよりは職業データ集といった方が近いと言える。


 しかしデータ部分に比べると僅かではあるが、職業や転職に関する基本情報もきちんと記されていた。

 以前ジョーディが語っていたように、レベル五十一以上になると職業が二つ持てるようになる、ということも書かれていたが、更にその後にも文章が続いている。


 そこには『更にレベル百の限界の壁を越え、英雄の領域へと至った者は、もうひとつ職業を追加できるようになる。計三つの職業を得た彼らはまさしく天下無双の強さを見せてくれるだろう』と書かれてあった。


「百レベルって……。一体レベルって幾つまであるのかしら?」


 単純な疑問であるが、重要な点を突いた疑問でもあった。

 一概にレベルが全てとは言い切れないが、己のレベルを知り最高位者のレベルを知れば、おのずと自分の現在の立ち位置というものも見えてこよう。

 このことは後でシディエルにでも尋ねることとして、更に先を読み進める。


 『職業にはレベルのような、どれだけその職業について熟練した腕を持っているかの指針となる基準がある。高度なステータス鑑定の魔導具を使用することで、ぼんやりとした確度で確認できるのだ。ただし、きっちりとレベル十、などと判明するのではなく、レベル十四前後とかレベル八~十二位といった具合にぼんやりとしか把握できない。なお、本来のレベルとは違い魔物を倒していけば確実に上昇するものではないので、本書ではレベルではなく職業熟練度と記す。そして、その職業熟練度が一定以上に達すると、その職業から別の職業へと変更することが可能になるのだ。職業を変更することによって、身体能力などの変化は起こるが、前の職で得たスキルはそのまま使用できる。こうして転職を繰り返すことによって、新たな職業への扉が開かれていくのだ。例えば、魔術士としての腕を磨いてから戦士へと転職する。そして戦士としても腕を磨き、転職が可能となるまで腕を磨く。すると、新たに魔法戦士の職業に就くことが出来るようになる。これは資質の問題もあるので、確実になれるという訳ではないが、今までの統計上はそういうデータが揃っている。ただし、職業熟練度を上げていくことが上位職や複合職への転職条件なのかというと、意見が分かれている。"祝福されたダンジョン"にて魔法スキルを得た戦士が、魔法戦士への転職の道が開けたという事例もあるからだ。無論彼はそれまで魔法系の職業に就いたことはなかった。似たような事例は幾つか報告はあるのだが、症例が少なすぎて未だ仮説にしか過ぎない。そもそも、事実だったとしてもダンジョンを踏破できる実力者が、運よく望みのスキルを得られた場合にしかこの条件は当てはまらない。よって、余り意味のない仮定でもある。そのような夢を見るよりは、堅実に職業を重ねていって――」



「へぇ、転職って何度も出来るのねえ」


 ある程度読み終えたメアリーは分厚い本を閉じ、眼がしらに軽く指をあてる。

 大分集中して本を読んでいたようで、隣の机で本を読んでいたはずの楓がいつの間にか別の机に移動したりしている。


 どうやら、思った以上に時間が経過しているようだとメアリーは感じ取った。

 ならお昼が来る前に気になったことを尋ねようと『初めて転職する人にもお勧め! 職業解説書』を本棚へと戻し、シディエルの下へと移動するメアリー。


「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」


 作業に集中していたシディエルはすぐには気づかなかったようだが「あの、あのー……」と申し訳なさげに何度か呼びかけられたことで、ようやくメアリーの声に気付いたようだった。


「ん、おお。なんじゃ、何を聞きたいんじゃ?」


 ささっと、キリの良いところまで文字を書き終えたシディエルは、そのまま本のページを開いた状態のままメアリーに尋ね返した。


「先ほど読んだ本で、レベルが百になると更に職業がひとつ多くもてるようになるって書かれてましたけど、レベルって幾つまであるんですか?」


「む? そのように書かれてあったのか? ならばそれは間違いじゃな。正確(・・)にはレベル百ではなくレベル百一になった者、じゃな。レベル百になるとそれまでのように、ただ魔物を倒すだけではレベルが上がらなくなる。その"限界の壁"を突破した者こそが『英雄』と呼ばれ、三つ目の職業を得ることができるのじゃ」


 シディエルの指摘に「あ、そういえばそんな風に書いてあったかもしれないです」と済まなそうに謝罪するメアリー。


「いや、気にすることはないわい。で、レベルの上限についてじゃが……正直いって分からんというのが答えじゃな」


「分からないんですか?」


「そうじゃな。時折自分は百五十レベルになっただとか、二百レベルになっただとか自称する奴はおるがの。そういった奴らは間違いなく嘘っぱちじゃな。何だかんだいってステータス鑑定を避けたりするのでな。で、実際にステータス鑑定の結果が公開された中で一番高レベルとされとるのは、冒険者ギルドの創設者。初代グランドマスターのギーダ・ユーラブリカじゃな。確か……レベル百二十代にはなってたはずじゃ」


「百二十……。ちなみにここのギルドマスターのゴールドルという人はどれくらいなんでしょう?」


 メアリーの脳裏には先日の超人じみたゴールドルの戦いっぷりが浮かんでいた。

 しかも後にジョーディに聞いた所、あれでメインは近接戦闘ではなく、ヒーラーなのだという。

 真似して格闘術を習おうとは思わないが、"回復魔法"だけでなく近接戦闘にも参加できるあのスタイルは、メアリーも意識している所だ。


「んん? あの筋肉バカか……。そうさのお、奴はBランクになっていたはずじゃし、レベル七十前後じゃないかな?」


「……あの強さでそれくらいですか。だとしたらレベル百二十というのは相当なものなんですね」


「そうさのお……。流石にレベル百二十となると他に該当者を聞いたことがないレベルじゃが、百レベル越えの者なら見たことはある。とある都市で行われた武闘大会にゲストとして来ていてな。優勝者には彼への挑戦権が与えられたのじゃが、他の出場者を圧倒して優勝した男が、ろくに手も足も出せぬまま負けておったわ」


 レベル百とレベル百一では大きな差が出来るとされている。

 職業をひとつ追加できるというのはそれだけ大きな力になるのだ。

 これはレベル五十と五十一の場合でも同様だ。


 職業に就くことで、その職業に応じた能力が加算されるので、職業の数は多ければ多い程強くなる。

 ただし、就いた職業によって強化される能力値にも差が出てくるので、場合によっては下級職二つより上級職ひとつのが強いなんてパターンもありえる。


「ううん、まずは私は地道に自分に何が出来るかを探る所から始めないとだめですね」


 改めて自分の進む道を再認識したメアリーは、その後もシディエルにいくつかの質問を飛ばしていく。

 その話の中で、"祝福されたダンジョン"についての話題になった時に、不自然にならないように情報をシディエルから聞き出した。


 これは無論自分達が今後ダンジョンに潜っていくからであるが、ジョーディからはダンジョンが発見されたことはまだ外部には漏らさないでほしいと言われていたので、その辺りのことはうっかり話さないよう注意をしながらの聞き込みとなった。


 他にもシディエルがスキルの"メディテーション"を所持していることが明らかになると、具体的にどういう風にこのスキルを使えばいいのかなどを教えてもらい、メアリーにとっては大変有意義な時間となるのだった。






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