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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十章

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第582話 精霊玉


 《水竜洞窟》最深エリアである海底神殿エリアは、まるで古代の遺跡のような階層だ。

 基本はフィールドタイプになっていて、建物が立ち並ぶ街並みのような階層や、地下通路のようになっている階層がある。


 古代遺跡といっても建物などがそのまま残されている感じなので、一から探索するにはかなり骨の折れるエリアになっている。

 幾つも立ち並ぶ建物の内部に、次の階層への転移魔法陣が設置されている事もあるからだ。


 とはいえ、冒険者ギルドには途中の階層までの地図情報が伝わっている。

 正確さはこれまで『ジャガーノート』が作ってきた地図には劣るが、お陰で六十四層まではすんなりと進む事が出来た。



「最初は荘厳な雰囲気に感心していたが、こうも同じような光景が続くと新鮮さも薄れてくるな」


「そうかぁ? 俺はこういう遺跡は見ていて飽きないけどなぁ」


「ホージョーは随分と余裕だな。このエリアに潜っている冒険者でそんな悠長な事思ってる奴はいないだろうに」


 遺跡の通路を移動しながら、雑談をしている北条達。

 この階層に来るまでに、他の冒険者とは一度も出会っていない。

 出て来るのは魔物達ばかりだ。


 《迷宮都市ヴォルテラ》には、『バスタードラゴン』以外にもAランク冒険者は何名か存在する。

 しかし彼らも、海底神殿エリアの入口辺りの階層を時折探索する位で、奥の階層に進もうとする事はない。


「……ホージョー、敵だ」


「あいよぉ。この先の床部分に罠が仕掛けられてるから、少し下がって戦おう」


 今回はとにかく戦闘能力重視のパーティーだったので、専用の盗賊職は参加していない。

 そこで今回は北条が先頭を歩き、罠のチェックを行っていた。

 北条としても、普段あまり使わない盗賊系のスキルを使うのは、熟練度を上げる意味でも吝かではない。


 北条の指示に従って来た道を少し引き返すと、ほぼ同じタイミングで通路の先に魔物の姿が現れた。

 見た目的には水の体で出来た蛇の形をしており、どういった原理でかそれが空中をふよふよと浮遊している。

 数は五体程だが、その水蛇を見て龍之介が嫌そうに文句を垂らす。


「チッ、水精霊かよ」


 不本意な様子で、武器を〈水鳥〉から〈サンダーソード〉へと持ち換える龍之介。

 龍之介は剣をメインにここまで来ただけあって、どんな敵にも対応できるように用途に応じた剣を、幾つも〈魔法の小袋〉内に持ち歩いている。


 〈サンダーソード〉はその名の通り雷属性の力を秘めた片手剣であり、切りつけた相手に雷属性のダメージと、低確率で相手に「状態異常:スタン」を齎すことが出来る武器だ。


「相手がこいつらなら、もう少し……さっきの十字路の場所まで下がって迎撃する! 龍之介達は無理せんでいいからなぁ。襲い掛かって来た奴に対処するだけでいいぞぉ」


 北条が龍之介をはじめとした前衛に向けて指示を出す。

 この水蛇は龍之介が言ったように精霊……それも上位の精霊だ。

 フィールドでは精霊が襲い掛かってくる事などほとんどないのだが、ダンジョンでは精霊系の魔物が出現する事がある。


 そして厄介なのは、それら全ての精霊は物理攻撃が通用しないという点だ。

 それも今現れた水蛇――ウォーターハイエレメントは、Aランクの魔物に分類されている。

 ゲーム的な観点からすると、HPはそれほど高くないのが救いではあるが、物理無効のうえ相手は魔法をガンガン使ってくるので、非常に対処が厄介な魔物だ。

 ウォーターハイエレメントは、海底神殿エリアの六十二層から出現し始めるが、Aランク冒険者が奥まで探索しにいかない理由は、この魔物のせいでもあった。



 北条達はこの厄介な魔物に対し、一旦後方の十字路の場所まで戻る。

 十字路といっても地下迷宮などと違って、遺跡の建物によって区切られた十字路であるが、魔物達は建物の上を飛ばずに、律義に通路部分を通って追ってくる。


「冷たき氷の茨は我が意によって絡みつき、汝に束縛と氷結をもたらさん。【氷結の茨】」


「光輝く剣は、深淵なる闇をも打ち払う。【シャイニングソード】」


「近き者全てに紫電の裁きをもたらせ。【紫玉】」


 十字路から横道にそれた北条達は、ウォーターハイエレメントが十字路に差し掛かった瞬間に魔法を放つ。

 エスティルーナの"氷霜魔法"は、地面から氷の茨を生み出して魔物へと絡みついていく。

 相手は水で出来た体のため普通に手掴みする事は出来ないが、エスティルーナの魔法は相手を凍らせながら束縛していった。

 

 そこに信也の上級"光魔法"、北条の"轟雷魔法"が突き刺さり、ダメージを重ねていく。

 特に水の上位精霊であるウォーターハイエレメントは、雷属性を弱点としている為、北条の魔法が殊の外よく効いた。


 とはいえこれだけで仕留めきれる訳もなく、ウォーターハイエレメントも反撃に魔法攻撃を仕掛けてくる。

 それらの魔法攻撃を、北条が自分の身を持って盾として食らっていく。

 元からそのつもりだったのか、【魔法聖域】の結界すら張っていない。


「ハッハッハ、無駄無駄ぁ。俺の"水免疫"スキルや多種多様なスキルの前には通用しないわぁ!」


 何故か妙にハイテンションになりながら、敵の魔法攻撃を受けつつ、北条の方もお返しとばかりに攻撃魔法を放っていく。

 なお、範囲魔法など敵の一部の魔法は仲間にも飛び火していて、慌てて龍之介らが更に後方へと下がっていった。


「ちょ、オッサン! 結界張ってねえのかよ!」


「龍之介ぇ。結界ばかりに甘えてはいかんぞぉ!」


「うっぜえ……。何なんだそのテンションは」


「ホージョーは、私との訓練の時たまにああなる事があるのだ。あのドワーフとは違って、そういう性癖という訳ではないようなのだが……」


 最初にエスティルーナが加入する時に北条と行った手合わせ。

 北条の希望もあって、あれ以降何度かエスティルーナは付き合わされた事があった。

 その際も妙にテンションが高かったのを、エスティルーナは記憶している。


「わはははっ! 流石は我が主。では我も一息吹いてやるとするかの」


 同じく機嫌の良さそうな人間形態のヴァルドゥスは、一歩前に出るとブレスの発射体勢に入る。

 最初のエスティルーナの魔法によって、一か所に固まった状態のウォーターハイエレメント達は、ブレスの恰好の的だ。


 ゴオォッ! っとヴァルドゥスから放射状に放たれる"ファイアブレス"は、ウォーターハイエレメント達をこんがりと焼いていく。

 表面部分から凍り付いていたウォーターエレメントは、急激な温度差によってミシリと水蛇の体にヒビが入っていき、やがて割れるようにしてその体が崩れていった。


 しかしその水蛇の体自体は本体ではなく、あくまで仮初の肉体でしかない。

 その本体である水色に淡く光る球状の塊は、まだ二つほど残っている。


「うわああっちいぃ! おおい、ヴァルドゥス! 思いっきり俺を巻き込んでるぞぉ! 【雷轟】」


 文句を言いながらも、きっちり"轟雷魔法"で残ったウォーターハイエレメント達に止めをさしていく北条。

 魔物のHPがそこまで高くないためあっさり戦闘は終了したが、それも高威力な魔法攻撃やヴァルドゥスのブレスがあってのもの。

 一般的なAランク冒険者では、中々ダメージが与えられず苦戦していた事だろう。


「ハハハ、なあに。主ならそれくらいのブレスでくたばる事はあるまい?」


「……まあ間違っちゃあいないし、以前ブレス耐性の訓練を頼んだ事もあったがぁ、不意にやられるとちぃとばかしイラッとするわ」


 北条が"ブレス耐性"などのスキルを習得していた事。

 ヴァルドゥスが人間形態でブレスの威力が弱まっていた事。

 更には、咄嗟に北条がウォーターハイエレメントを盾にしていた事もあって、北条はブレスによるダメージはそこまで受けていない。

 ……Dランク以下の冒険者がまともに食らえば、死が見えたであろうブレスであったが。



 なんにせよ、無事に戦闘が終わり、北条はすぐ近くに散らばったウォーターハイエレメントのドロップを回収していく。

 その途中、北条はドロップの中にレアドロップが混じっている事に気付いた。


「おお、これはただの〈精霊石〉じゃあないぞぉ? どれどれ……」


 精霊系はレアドロップとして、〈風精石〉などのアイテムを落とす事がある。

 これは精霊と契約した際に、契約した精霊を宿らせる器となるアイテムだ。

 北条は"錬金術"などを用いて、無属性である只の〈精霊石〉は作る事が出来るが、風の精霊なら〈風精石〉を器にした方が、力の回復が早くなる。

 それら属性の宿った〈精霊石〉は、今のところ北条も作成出来ていない。


 そして今回ドロップしたのは〈水精石〉でもなく、北条も初めて目にする〈精霊玉〉というアイテムだった。

 早速この見知らぬアイテムに北条が"解析"を掛けていると、特に出番のなかった龍之介達も近くに寄ってくる。


「それはもしや〈精霊玉〉か?」


「ほう、それは精霊の力が凝縮されているとかいうものじゃな」


 流石に精霊魔法のエキスパートであるエスティルーナと、無駄に長生きしているヴァルドゥスはこのアイテムについても知っているようだ。


「へー、なんか凄そうなアイテムなんだな。Aランクの魔物のレアドロップだし、高く売れっかな?」


「それなりの値は付くだろうが、精霊使い以外には余り意味のない代物だ。そこまでの値は付かないだろう」


 エスティルーナによると、精霊力がギッシリと詰まった〈精霊玉〉は、精霊を宿らせる器としては使用出来ないが、力を失った精霊に与えると力を取り戻す事が出来るという。


「ってなると、オッサンかエスティルーナが持っといて、いざって時に使う感じか」


「いや、どうやら他にも使い道があるようだぞぉ?」


 先ほどから〈精霊玉〉を手に、"解析"の魔法で調べていた北条。

 エスティルーナが語っていた使用方法もそこには示されていたが、得られた情報の中にはその他の使い道も書かれてあった。


「他の使い道? そのようなものがあるのか」


 それはどうやらエスティルーナも知らない情報だったらしい。

 そこで北条は〈精霊玉〉の別用途の使い道を、仲間に語っていく。



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