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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十章

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第580話 判決


 グラスロー公爵の前でアンドリューが行った証言は、聞くに堪えないものだった。

 何も知らずにその証言だけ聞いてもツッコミ所がいくつもあるような、とにかく保身ばかり考えてウソばかり言っているのが透けてみえる証言だ。


 それは最初にアンドリューに扇動された、一部の『バスタードラゴン』の妄信者の目をも覚ます結果となる。

 そして次に証言を求められた北条は、ンシアに手招きしてから話を始めた。

 

「まずは、ここにいるンシアが結成していた冒険者パーティーの探究者が、ダンジョン内で襲撃された件について。彼女は仲間の挺身もあって、一人襲撃から逃れる事が出来たぁ。その際にンシアを助けたのが俺達であり、俺達もンシアを追ってきた覆面の冒険者集団を目撃している」


「ふむ。その時点から既に、アンドリューの証言とは食い違いがあるという訳だな」


「公爵の仰る通り、現時点では俺もソイツらもただそう主張してるだけで証拠がない。そこで、俺は彼を証人として用意したぁ」


 北条がそう言って合図を送ると、一人の中年の男が兵士達を分け入るようにして前に出て来る。



「ふむ。して、お前は何者なのだ?」


「ハ、ハハァ。私めはエンゲイト南区で商店を営んでおります、バハマルと申す商人でございます」


「商人か。ホージョーの話によれば今回の件に関する証人だという事だが、詳しい話を聞かせてもらいたい」


「分かりましてございます。私が証言を求められたのは、これらの品についてでございます」


 バハマルと名乗った商人は、〈魔法の袋〉から次々に装備を取り出していった。

 その行為が何を意味するのか、トビアスやアンドリューにも理解出来ていなかったが、それらの品を見ていたンシアが一際大きな声を上げる。


「それ! 仲間の……、ムワイの使ってた斧! そっちは、ドゥヌの持っていた槍!」


「……とンシアが言っているがぁ、店主よ。これらの品はどのような経緯で手に入れたんだぁ?」


 ンシアの発言にすかさず反応し、北条がバハマルへと質問する。


「はい。これらの品は、バスタードラゴンの冒険者が持ち込んだものでございます」


「なっ! 嘘だ!? デタラメな証人をでっち上げて、俺らをハメようとしている!!」


 商人の証人の証言を聞いて、アンドリューが黙っていられずに大きく声を張り上げる。

 しかしすぐにトビアスからよけいな口出しをせぬように注意され、唇を噛みしめながら口を閉ざす。

 静かになったのを確認したトビアスは、バハマルへ問いかける。


「持ち込んだのは本当にバスタードラゴンの冒険者で相違ないか? そして、それらの品が持ち込まれたのは何時の事だ?」


「ハッ。当店はエンゲイト南区では、有数の商店だと自負しております。その為、バスタードラゴンのような高名なクランの方々にもご愛顧頂いているのです」


 バハマルの店は、武具だけでなく魔法具(マジックアイテム)や冒険者向けの雑貨、そしてポーションなど冒険者に役立つ品を扱う店として有名だ。

 またダンジョンで手に入れたアイテムの買い取りなども行っており、この街の冒険者なら誰しも一度は利用した事があるような、大きな店だった。


「そして私共も商人でございますので、お客様の……それも重要なお客様のお顔ともなれば勿論覚えております。これらの品を売りに来た時は、顔を隠してはおりませんでしたので……。こちらの品を売りに来られたのは、帳簿で確認したところ例の襲撃の数日後のようでした」


「あの時ぁ、たまたま俺らが迷宮碑(ガルストーン)から近い場所から助けたからなぁ。ンシアを襲撃してた連中は、逃げ出す際にダンジョンの更に奥にある迷宮碑(ガルストーン)から帰還したんだろう」


「つまりンシアを襲撃した連中は、数日掛けて街に戻った直後にこれらの品を売り払いに来たという事か」


「ち、違う! そんなのはただのこじつけだ! 俺達に恨みを持ってたそこの女が、デタラメに証言してるに違いない! そんなどこにでもあるような武器を、一目見て見分けられる訳ねえだろ!!」


「おい、貴様! グラスロー閣下に対してそのような無礼な口。余りに無礼が過ぎるぞ!」


 トビアスの言葉に真っ向から反抗する態度の悪いアンドリューに、思わず護衛の騎士から叱責が飛ぶ。


「……とこの男は言っているが?」


 しかしトビアスは騎士を止めるような手振りをした後、静かに北条に問いかける。


「バハマルの店に持ち込まれた品は、どれもが高級品だったぁ。Aランク冒険者の探究者が使用していた装備だから、それも当然。つまり、そこいらに売られてる武器とは違う特別製なんだから、身近で接していたンシアなら区別くらいはつくだろう」


「なるほど。冒険者の諸事情に詳しい訳ではないが、納得出来る話ではある」


「あの襲撃の日、アンドリューは襲撃には参加していなかったぁ。そして、先ほどの様子からして、これらの武器が売り捌かれていた事は伝達されていなかったようだなぁ? 恐らくは襲撃犯のクランメンバーが、アンドリューに内緒でこれらの装備を売り払って、私服を肥やしていたって所だろうよ」


 アンドリューが襲撃に参加していなかった件については、先ほど本人が証言していた事でもあり、その点に関しては北条も否定していない。

 それに関してはきちんと裏付けも取れているからだ。


「とはいえ、全ての装備を売り払ったとも思えん。ンシアに仲間の装備についての情報を改めて聞き取りをし、それらの品がバスタードラゴンの本部や冒険者達の荷物に含まれていれば、奪われた可能性は更に高まる――」


 とそこまで北条が発言した時。


 《水竜洞窟》から冒険者の集団が姿を見せる。

 それは襲撃の後始末をした後、アンドリューが魔物をトレインしながら迷宮碑(ガルストーン)に逃げたせいで、下り階段付近に固まっていた魔物に足止めされ、帰還が遅れていた信也達だった。



「北条さん!」


「いよう、無事で何よりだぁ」


 互いに全員無事なのを確認し、緊迫した場面でありながら一時の笑みを浮かべる『ジャガーノート』メンバー。


「それで、そこの二人は生け捕りにしたバスタードラゴンの連中かぁ?」


「ああ。相手は三十人近くいたが、捕らえたのはこの二人だけだ。あとは……そこにいる男を取り逃した位だ」


「ほぉ、こいつはクラン長って立場にありながら、仲間を見捨て一人で逃げ出したと。それも、自分たちから襲撃しておきながら尻尾巻いて逃げ出すとは、とんだろくでなしだなぁ」


「ふざけるな! 俺達は襲撃などしていない! 卑劣な罠を仕掛け、先に襲撃してきたのはお前達だろう!!」


「……はぁぁ。お前の頭の構造はどうなってるんだぁ? さっきも言ったがぁ、もし俺達がお前達に襲撃を仕掛けるとしても、卑劣な罠なんざ必要ねえんだよ。こっちには見ての通り、エルダードラゴンがいるんだからなぁ」


「GYOOAAA」


 北条の口から話題に上がった事で、返事をするかのようにヴァルドゥスが声を上げる。

 それは威圧する意図がなかったにもかかわらず、この場に集まった人々の心胆を寒からしめた。


「どうだぁ? 今この場でなら、俺達には卑劣な罠を仕掛ける余裕などない。残ったクランの連中をかき集めて、エルダードラゴンと戦ってみるかぁ? お前達はバスタードラゴンとかいう大層な名前を掲げてるんだ。それで白黒決着をつけるのでもこちらは構わんぞぉ」


「ばっ、バカな事言うな!」


「そうかぁ。ならここはグラスロー公爵の裁決に委ねるとしよう」


「ぐっ……」


 これまでの話の流れから、自分が不利な立場に置かれている事を感じ取るアンドリュー。

 しかしこれ以上何を言っても逆転の手が思いつかないでいる。


「では私の方から判決を伝えよう。……だが、その前に証人として連れてきたもう一人の男には証言はさせぬのか?」


「いや、彼にも証言をしてもらいたい。何せ重大(・・)な証人なのでね」


「では、証人。前へ!」


 トビアスの言葉を受け、兵士達の裏に隠れるように潜んでいた男がおずおずといった感じで前に歩み出ていく。

 その姿を見て、アンドリューは一瞬頭が真っ白になる。

 しかし事態はそんな彼を置き去りにして、先へと進んでゆく。


「証人、名前は?」


「ハッ、私はバスタードラゴン所属のCランク冒険者、フォルクと申します!」


「バスタードラゴン所属? しかしお前はジャガーノート側の証言者ではなかったか?」


「はい。私はクラン長の側で小間使いのような立ち位置にありましたので、幹部メンバーにしか伝えられていないような事も、知りえる立場にありました。それを踏まえて証言致しますと、先ほどからのホージョーの発言に間違いはありません。襲撃を計画したのは、全てクラン長……アンドリューの手によるものです」


「きっ、さまぁぁぁ!!」


 フォルクが致命的な事を発言する直前まで、アンドリューはこの土壇場に自分をフォローする証言をするものだと思っていた。いや、思い込もうとしていた。

 しかしその身勝手な予想は崩れ去り、反射的にアンドリューはフォルクへと向かって高速で近寄り、手にした剣で切り払おうとする。


「っとぉ。そうはさせんよぉ」


 しかしその動きは北条によって、完全に取り押さえられてしまう。

 必死に暴れようとするアンドリューだが、まるで体が固まったかのようにピクリとも動かす事が出来ない。


「こいつはしっかり押さえておくから続きを頼むぞぉ」


「は、はい。では……」


 それからもフォルクは、『バスタードラゴン』の悪行についてを語っていく。

 しかもただ語るだけでなく、クランハウスから持ち出した賄賂などの悪事の証拠も一緒に提示していった。


 それらの悪事の中には、冒険者や兵士達だけでなく、街の人にまで被害が及ぶものまであった。

 今や周りの観衆ほぼ全員が、ゴミクズでも見るような視線をアンドリューに送っている。



「……口に出さずとも明らかであろうが、グラスロー公爵の名に於いて判決を下す。『ジャガーノート』には一切罪は認められず、代わりに『バスタードラゴン』に関してはメンバー全員を捕えた上、詳しい調査を行う! 懲罰はその調査の結果に応じてメンバー個別に課すものとする」


 トビアスの判決を受け、早速この場にいた『バスタードラゴン』の面々は捕縛されていく。

 しかしアンドリューはこの期に及んでも暴れようとしたので、北条が両手両足の骨をポキポキと折って黙らせる。


 大きな悲鳴を上げながら兵士に連行されていくアンドリュー。

 それを見て顔を引きつらせながら、トビアスが北条に話しかけた。



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― 新着の感想 ―
[一言] どこかで既視感があると思いましたが、ここでバハマルさんを出すと、ロアナとともに移り住んだバハマル一家を思い出すんですね、最近出てこないから何の既視感かすぐに想起できなかったけども
[一言] 疑似携帯を作ってしまった北条さんのこと、ドライブレコーダーのごとく、襲撃の様子を動画撮影でもして証拠とするかと思っていました
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