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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十章

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第577話 扇動される民衆


 ボルドがガンスを討ち取り、由里香がモンクの男の心臓を突き刺した頃。

 龍之介は二人の冒険者を相手に戦っていた。

 相手はハルバードを扱う戦士の男と、不意に距離を詰めては短剣攻撃、反撃しようとすると後ろに下がって投擲攻撃をしてくる、盗賊職の女。

 特に盗賊職の女はレベルも高く、防御に少し難があったハルバードの男をカバーしつつ、見事な連携でもって龍之介と立ち合っていた。


「ったくよお! ハルバードの奴はオッサンに比べたら屁でもねーけど、二人でちょこまか来られると面倒だぜ」


 愚痴を言いながらも、龍之介は高レベルの冒険者二人を相手にまったく引けを取っていない。

 この拮抗した状況に、相手の二人の方が焦りの表情を浮かべていく。

 盗賊の女が視線誘導などフェイントを混ぜ、ハルバード男の攻撃を回避した直後の龍之介目掛け、短剣系闘技秘技スキルの"スプラッシュダガー"を発動させる。


 常人にはまるで、同時に何か所も短剣を突き出して見えるほど高速に短剣を突き出していく盗賊の女。

 さらにはフットワークも活かして、龍之介の周囲を四方八方に移動しながら攻撃を加えようとしていく。

 しかし……、


「くうぅ!」


 龍之介は手にしていた〈水鳥〉で、冷静に闘技応用スキル"棟打ち"を使用する。

 これは刀の棟の部分で相手の特定部位を打ち付けるスキルで、攻撃の為というよりは相手の武器を落とす時などに有用なスキルだ。


 こと剣に関しては大分出来上がってきている龍之介は、雨あられのように降り注ぐ短剣の突きを見極め、相手が突き出したうちの一つに対してカウンターを当てるように、"棟打ち"を決めていた。

 これによって、盗賊の女の手にしていた短剣は派手に宙を舞ってしまう。


「……敵は多いが、オレも巻き込まれそうだな。しゃあねえ、ターゲットはこの二人でいいだろ」


 小声でボソッと呟いた龍之介は、一時的に武器を失っている状態の盗賊の女とハルバード男に対し、闘技奥義スキル"転"を発動させた。

 瞬時に、そして順番に二人の背後へと回って背中から切りつけていく龍之介。

 元々防御が弱かったハルバード男は元より、素早さが売りだった盗賊女もこの背後からの攻撃を躱す事は出来なかった。


 バタバタッっと音をたて倒れていく二人。

 しかし流石は高レベル冒険者だけあってか、龍之介の"転"をまともに食らってもなお、二人ともまだ現世へとしがみついていた。


 それは無論斬った本人である龍之介も理解している。

 地に倒れ動けない人間に止めを差すのは気分のいいものではないが、龍之介も既に覚悟は出来ているので今更躊躇する事はなかった。


 ……のだが、ザシュッ! ゴオオッッ! っという音と共に、龍之介が止めを差すまでもなく、二人の冒険者は息の根を止めた。

 それは部屋の上空に浮かんでいる、エスティルーナの精霊による魔法攻撃だ。


「……あんがとよ」


 少し言葉に詰まるような感じで小さく礼を述べる龍之介。

 辺りに視線を這わせれば、すでに戦いはほぼ終結といっていい状況に推移していた。

 『バスタードラゴン』の主だった連中は、そのほとんどが物言わぬ躯となり果てている。


 この戦いの途中、勝ち目がないのを悟った者が何名か、武器を捨て命乞いをしていた。

 しかしそれを信也らが認識してどうするか判断を下す前に、命令を受けていた芽衣の呼び出したAランクの魔物達が、武器を捨て無防備でいた冒険者を軒並み血祭に挙げている。


 そうして最後に残された二名だけを残し、信也達は全ての襲撃者を返り討ちにする事に成功する。

 しかし、生け捕りにした二名や部屋に散らばる死体の中に、『バスタードラゴン』クラン長であるアンドリューの姿だけは、発見する事が出来ないのだった。




◆◇◆



「あり、あり、あり……」


 一人の男がブツブツ喋りながら、ダンジョン内を一人で駆け抜けていく。

 途中で魔物に見つかっていた為、背後からは魔物が迫ってきているのだが、男――アンドリューはそんな事よりも先ほどの戦いの事しか頭になかった。


「ありっええねえええ!! 何故だ? 俺達ぁバスタードラゴンだぞ!!」


 ダンジョン内でこのような大声を出せば、魔物をおびき寄せる事になる。

 そんな冒険者の基本も頭から抜けてしまう位、アンドリューの心は嵐の時の海のように荒れていた。


「クソッ……クソッ……」


 今回アンドリューは、短距離ではあるが使用者を転移させる事が出来る魔導具を持ち出していた。

 本来は相手の背後に転移して不意を突くだとか、攻撃の為に使用するハズだったその魔導具。

 しかしガンスや他のAランクの仲間が次々とやられていくのを見て、急遽使用用途を変更して、逃亡の為に使用される事になった。


 あの大部屋から五十二層の迷宮碑(ガルストーン)までは、走って三十分程の距離だ。

 その道中の道は数日前にアンドリュー達が通ってきた道であり、その際に罠を解除しながら進んでいたので罠にひっかかる心配は余りない。

 ただし魔物については普通に徘徊している。


「邪魔ッだあああああ!!」


 進行方向から現れた数体の魔物を前に、正面突破を図ろうとするアンドリュー。

 素早さ重視のタイプではないが、アンドリューは前衛だけあってそれなりに身体能力が高い。


 それに魔物とぶつかる直前に短距離転移の魔導具を使用し、正面の魔物をすり抜けるようにして、難所を乗り切っていく。

 目指すはこの先にある迷宮碑(ガルストーン)

 そこへ向けてひた走るアンドリュー。


「はぁっ……はぁ……」


 息を切らしながら五十二層への下り階段を駆け下り、最初の部屋にある迷宮碑(ガルストーン)に無事到達したアンドリュー。

 慌てた様子で迷宮碑(ガルストーン)に〈ソウルダイス〉を嵌めこみ、転移部屋へと転移していく。




「クラン長!」


「アンドリューさん!?」


 転移部屋に三つある迷宮碑(ガルストーン)のうちの一つから、アンドリューだけが一人転移してくる。

 それを見た『バスタードラゴン』の下っ端のメンバーは、名前を呼びながらアンドリューの下へと駆け寄っていく。


「どうしたんですか? 一人だけなんですか?」


「あの……計画の方は……?」


 事が事だけに、大声で襲撃計画の成否を問う事は出来ない。

 言葉を濁して問いかけるメンバーに、しかしアンドリューは返事を一つも返さなかった。

 ただ一人ブツブツと何か呟きながら、幽鬼のようにダンジョン出口へと向かっていく。


 《水竜洞窟》は海辺にある大きな岩の裂け目が入口になっているが、《サルカディア》同様にダンジョンを出てすぐの場所は、ちょっとした町の広場のようになっている。

 ダンジョンに入る前の冒険者の待ち合わせ場所であるため、ソロの冒険者がメンバーを募集する声や、冒険者相手の商売人の声でいつも騒がしい。


 ダンジョンの入口周辺ではあるが、特に壁に囲われているとかはない。

 ここから北に二十分程歩くと《迷宮都市ヴォルテラ》の南門があり、冒険者達はそこを通ってダンジョンへと行き来している。


 アンドリューは多くの人で賑わう中、広場の中心部へと歩いていく。

 転移部屋からついてきたクランのメンバーもその後に続いているが、声を掛けても反応がないアンドリューに不安そうな様子をしている。

 やがて人々の注目を浴びやすい広場の中心部へと辿り着くと、アンドリューは大声を張り上げた。


「聞いてくれ! 我らヴォルテラの同志よ!」


 その一声に、人々の注目はアンドリューへと集まっていく。


「今! 俺達はジャガーノートの卑劣な作戦によって、ダンジョン内で襲撃を受けた! そして……そして俺以外のメンバーの多くが、奴らの悪辣な罠と非道な方法でもって、惨殺された!!」


 突然始まったアンドリューの演説に、すぐに周囲は人の山が出来上がっていく。

 それからアンドリューは、アカデミー賞でももらえそうな程の熱演を披露する。

 冒険者なんかやってるより、よっぽどそっちのが向いてるんじゃないかと思うほどの熱演っぷりだ。


 元々ここ最近の『バスタードラゴン』は、活動停止処分を受けたり北条が転移部屋でぶちまけた情報が拡散していたりで、少し風当たりがきつくなっていた所だった。

 しかし、アンドリューはそれらも全て『ジャガーノート』の悪辣なる計画の一部であると主張し、涙ながらに無念を語っていく。



 このアンドリューの熱演は、すでに三十分程も続いている。

 話を聞きつけてわざわざ街の方から覗きに来る者なども増えて、ダンジョン前広場はいつにないほどの人だかりが出来上がっていた。


 咄嗟に作り上げたとは思えない程に、あらゆる嘘を重ねて『ジャガーノート』の悪評をばらまいていくアンドリュー。

 元々この街は冒険者から市民に至るまで、『バスタードラゴン』推しの声が大きかった。


 そしてその中心であり、多くの人から優秀な冒険者と謳われていた男が、大勢の前で涙ながらに語る言葉は、聴衆の心を打った。

 この場に集まった人々は、集団心理も働いてか実際に見た事も会った事もない『ジャガーノート』に対し、親の敵であるかの如く怨嗟が伝染していく。


 暴動にも発展しそうな程の異様な空気。

 悪逆なる『ジャガーノート』に鉄槌を下すべきだ!

 そのような声があちらこちらから湧き上がっていく。


 それらはまるで互いに共鳴しあうように、一つの大きな唸りへと昇華していく……そんなタイミングだった。

 《水竜洞窟》へと続く大岩の裂け目から、件の『ジャガーノート』のメンバーが姿を現したのは。



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