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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十章

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第570話 『バスタードラゴン』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「何? サルカディアから来た冒険者だと?」


「ええ。なんでも東支部で喧嘩振ってきた挙句、例の依頼を受けたらしいです」


 《迷宮都市ヴォルテラ》には近くに祝福されたダンジョンがあるだけあって、多くの冒険者が集っている。

 やがてその冒険者たちはクランを結成し、ダンジョンだけでなく街中での縄張り争いのような事を始めだす。

 一時期はギルドの介入で収まったものの、未だにそうした影響は残されていて、冒険者にとって大手クランの持つ影響力というのは大きい。


 中でも、街一番の大手クランである『バスタードラゴン』は、ギルド、役人、兵士なども巻き込んで、我が物顔で《水竜洞窟》を支配していると言える。

 その『バスタードラゴン』の代表であるアンドリューの下に、部下からの報告が届いた。

 報告を聞いたアンドリューは、またか……と思いながらも、部下に聞き返す。


「あの依頼をか? よっぽどのバカでなければ、高ランク冒険者って事になるが、どうなんだ?」


「奴ら、どうやらクラン単位で来てるらしいです。ギルドに来たのは六人だけでしたが、街のもんが大勢で移動している所を目撃しています」


「クラン単位だと? それは面倒な事になりそうだな」


 冒険者単体やパーティー位であれば、ちょっと嫌がらせ(・・・・)をすれば出ていく奴は多い。

 しかしクラン単位で来るような奴は、人数が多いせいかそう簡単に引く事もないし、人数が多ければ高ランクの者が混じっている可能性も高まる。

 そうなると、他の金魚のフンまで調子こいてイキってくる……というのがアンドリューの見解だった。


「そうですね。ちょっとやそっと嫌がらせをした位では引かないかと。ランクの方ですが、一番上はAランクらしいですが一人だけらしいです。後はBランクとCランクで人数はおよそ四十人」


「四十人? そりゃあまた大層な団体さんだが、最低ランクがCランクなのか?」


「ええ。ゴツトスの調べた情報ではそうなってます」


 ゴツトスとはこの街の冒険者ギルドに勤める職員で、『バスタードラゴン』の忠実なシンパの一人。

 最初に揉めた時の受付の男の名だった。


「……まあいい。クラン相手なら、直接絡みにいくのはやめにして、まずは連中のスキルを丸裸にしておけ。〈スキル見の筒〉の使用許可を出す。それと、冒険者や街の連中には適当に噂を流しておけ」


 〈スキル見の筒〉とは、『バスタードラゴン』が代々受け継いでいる、単眼鏡の形をした魔法道具だ。

 その名の通り、これで覗いた相手のスキルを覗き見る事が出来る。


「分かりました。では何か分かりましたらまた報告します」


「おう」


 鷹揚に頷いたアンドリューは、クラン長の豪華な椅子にもたれかかりながらほくそ笑む。


「ふんっ。フォルクの報告通りなら、あの依頼を受けても弾かれるだけだろう。なんせAランクを十人も抱えてるウチ(バスタードラゴン)だからこそ、依頼の前金をせしめる事が出来たんだからな」


 ドフォール商会の出した依頼については、特に『バスタードラゴン』が工作する必要もなく、次々と訪ねていった街の冒険者は前金をもらえず弾かれてきた。

 『バスタードラゴン』に次いで二番手の大手クラン『悠久のシャルン』ですら、ドフォール商会のお眼鏡には叶わなかったのだ。


 近年は、自分たちの立場に胡坐をかくことが多くなっていた『バスタードラゴン』。

 この段階ではクラン長であるアンドリューも、何も問題ないと思っていた。

 しかしそれから数日後。

 一つの知らせがアンドリューの下に届く。





「『探究者』と『ジャガーノート』がドフォール商会の依頼請負を認められた?」


 最近は直属の使いっ走り的な役割を積極的に行っているフォルクから、アンドリューが報告を受けていた。

 報告内容を確認するアンドリューは、不機嫌な顔をフォルクへと向けている。


「はい。この依頼は元々買取依頼なので、面談を受けなくても報告は出来ます。しかし依頼を認められたという事は、ドフォール商会は奴らを我々と同等だと認めたという事になります」


「そいつは気に入らないな。大陸規模の大商会だという話だが、見る目がないんじゃないのか?」


「しかし『探究者』はAランクが四人も揃っているので、認められるのもおかしくはないかと」


「ではもう一つのジャガー……なんちゃらとは何だ? そんな冒険者パーティー、聞いたことないぞ」


「いえ。『ジャガーノート』はパーティー名ではなく、クラン名です。先日申し上げた一件の……」


 名前まで報告を受けていなかったのか、或いは単に路傍の石と思ってアンドリューが気に留めてなかっただけか。

 何にせよ、この時点ではアンドリューの『ジャガーノート』に対する反応はこの程度のものだった。


「先日……ああ、あれか。確か〈スキル見の筒〉で調査するように命じていたな?」


「はい。それなんですが、奴らはその日からダンジョンに潜り始めたようで、なかなか接触が取れなくて……」


「まだ調査が進んでいないという事か?」


 ギロリとフォルクを睨むアンドリュー。

 アンドリュー自身もほとんど忘れていたような事だったが、調査依頼を出したのはもう一週間近く前の話だ。

 まだ調査が進んでいないのかと、アンドリューの表情が更に険しくなっていく。


「いえ……、それが、その……」


「なんだ!? さっさと言え!」


 フォルクの煮え切らない態度に、ついにアンドリューが大声を上げる。


「は、はい! それが、奴らはパーティー単位ではなく、幾つかのグループに分かれてダンジョンを探索しているようで、昨日そのうちのグループの一つが帰還したそうです」


「……で?」


「それがどこかのエリアを攻略したようで、転移部屋に転移してきたそうです。そこで、早速待機していたウチの者が〈スキル見の筒〉を使ったそうなんですが、その、スキルを見る事が出来なかったとの事です」


「なんだと?」


「それも一人だけでなく、全員のスキルを見る事が出来なかったと……」


 恐る恐る報告するフォルク。

 それを聞いてアンドリューの機嫌が更に悪化していくが、同時に疑問も生じていた。


「……確かにスキルを隠蔽するスキルや、同様の効果を持つ魔法道具も存在する。だが、全員がそんな高価な魔法道具を身に着けているなどありえん!」


「まさしくその通りかと……」


 他に語るべき言葉を持たないフォルクは、ただアンドリューの言う事に同調する事しか出来ない。

 それから少しの間、ブツブツと何か考え込み始めたアンドリューだったが、結局『ジャガーノート』への考えが纏まらなかった。



「……とにかく、まだ全員を調べた訳じゃないんだろう? 奴らに関しては引き続き、調査を続けろ。それより、『探究者』の方の計画はどうなっている?」


「は、はい。すでに依頼人役は確保してあります。ですが、本当にやるんですか?」


「勿論だ。ただでさえ悠久のシャルンが勢力を増してきているのに、これ以上余所者や裏切り者共をこのヴォルテラでのさばらせる訳にはいかん!」


 ヴォルテラで二番手に位置している大手クラン『悠久のシャルン』は、『バスタードラゴン』とは真逆で、他所からやってきた冒険者にも偏見はない。

 そのせいか、他所から来た冒険者の加入者や、加入まではしなくてもシャルンの肩を持つ者が一部増加していた。


「それに奴ら(探究者)は新エリアを発見しただとかで、調子こいてやがる。だからダンジョン攻略と同義の、あの依頼なんかを受けやがったんだ」


「確かに、連中もAランクが多いですが、水竜相手に挑むにはちょいと無理がありますね……」


「そうだ! だからこそ奴らが無駄死にする前に、奴らが発見したエリア内で息の根を止めてやるんだよ。俺達(バスタードラゴン)に逆らうとどうなるのか。これで余所者共にもよく分かる事だろう」


「そ、そうですね」


 わはははははっと高らかに笑うアンドリューに、どうにか相槌を返すフォルク。

 すでに成功した後の事を妄想しているアンドリューだったが、この襲撃計画は思いがけない妨害に遭う事になる。

 その事をアンドリューが知るには、更に数日の時間が必要だった。



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