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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十章

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第568話 ぼったくり


 新たな方針を立て、ダンジョン探索を三つのグループに編成しなおした『ジャガーノート』。

 しかし、ダンジョンに潜る前の段階から問題が発生していた。



「……それはどういう事だ?」


「聞こえなかったのか? お前達の通行料は一人当たり一金貨だ」


 《水竜洞窟》の入り口にいる兵士が、ふてぶてしい顔をしながら信也に言い返す。

 一日の休日を挟み、全員でダンジョンへと向かった『ジャガーノート』は、突然の通行料の値上げ通達に呆気に取られている。


「この間までは一人五十銅貨だったはずだ。それにそんなに値上げしたら、誰も寄り付かなくなるだろう」


「それは問題ない。これはお前達『ジャガーノート』だけの特別料金だからな」


「なんだと?」


「ふん。この街で冒険者として活動するなら、逆らってはいけないクランを怒らせちまったんだよ」


 挑発するような兵士の言葉に、近くで話を聞いていた龍之介が耐え切れず話に参加する。


「活動停止処分を受けたってのに、懲りねえ奴らだな。こんな事しても、停止期間が延びるだけだってのによお」


「おおっと。今回は冒険者ギルドに泣きついても無駄だぜ。なんせここの管理はギルドではなく、領主様のものだからな」


「チッ、どういう事だ。オイッ!」


「ッッ! む、無駄だ! 俺を脅そうと、俺らの上の徴税官様が下した命令なんだ。お前らがどう足掻こうがこの命令はどうも出来ねえぜ!」


 兵士の態度に腹を立てた龍之介が、スキルなどは使わずに怒りを表すと、それに怯えた兵士が慌てて喚き散らした。


「北条さん、どうする?」


 予想もしない方向からの妨害に、信也が北条の判断を求める。


「……一旦引き上げるぞぉ」


「なぁっ!? オッサン、このまま引き下がるのかよ!」


「いいから、戻るぞぉ。龍之介」


「チィッ!」


「テメェらはさっさとこの街から出て行きゃあいいんだよ!」


 引き返していく『ジャガーノート』の背に、兵士の嘲笑の声が掛けられる。

 気の短い龍之介やムルーダなどは、顔を真っ赤にして怒りの感情を振りまいているが、信也やシグルドらはどうしたものかと困った表情だ。


「……それで、どうするの?」


 陽子が先頭を歩く北条の背に問いかける。

 すると北条はそのまま前を向いて歩きながら答えた。


「今日のダンジョン出立は一旦中止にする」


「それはいいけど、その後どうするのよ?」


「余り使いたくはなかったがぁ、これを使うしかあるまい」


 そう言って北条が"ディメンジョンボックス"から取り出したものを、後ろ手に陽子に見せる。


「それは……。なるほど、じゃあ私たちは仮拠点で待機してればいいのね」


「そゆ事だぁ。これでもダメなら、一旦拠点に戻って王子の力でも頼るさ」


 その後、仮拠点へと戻った一行。

 しかし北条だけは一人また出かけていく。

 その行き先はダラム区の内側。その中央にある領主の居城だ。





「待て、この先はダラム区だ。見たところ冒険者のようだがこの先に何の用だ?」


 ヴォルテラの四つの壁の内、一つ前のウォルーズまではノーチェックで入ってこれた北条。

 だがダラム区の装飾の施された大きな門の所で、衛兵に誰何されてしまう。

 この間ジャルマス邸へ依頼を受けにいった時は素通り出来たのだが、今回は偶々なのか呼び止められてしまう。


「アポイントは取っていないがぁ、速やかにこの地の領主に問い質したい事があって訪ねに来たぁ」


「何? 貴様、ただの冒険者ではないのか?」


「正式な貴族とは違うがぁ、俺ぁ名誉子爵を授かっている北条と言う」


 そう言いながら、北条はキリルより直々に受け取った勲章を翳す。


「こ、これは……っ! しょ、少々お待ち頂けますか?」


 北条が勲章を見せると、衛兵は急に態度を改めて門脇に設置されている詰め所へと向かった。

 少しすると、詰め所の中から先ほどの衛兵と数名の男たちが姿を現す。

 そのうちの一名は、装備の見た目からして立場が上だという事が明らかだ。


「名誉子爵様が訪ねに来られたとお聞きしましたが、私めにも勲章を拝見させてもらってよろしいでしょうか?」


 上司と思しき男――衛兵長が丁寧に要求すると、北条は手にしていた勲章を男へと手渡す。


「これは……間違いありませんね」


「何なら証書も出そうかぁ? キリル王子直々に頂いたものだぁ」


「いえ、結構でございます。領主様に御用がおありと伺いましたが、どのようなご用件でございましょう?」


「それは領主殿に直接伝えるつもりだぁ」


「出来れば用件だけでも窺っておきたいのですが、如何でしょう? さすれば先触れの使者を出すことも可能となります」


 食い下がる衛兵長に対し、北条は胡乱な目で見つめ返して言った。


「……見ての通り、俺ぁ普段は冒険者として活動をしている。そして、一冒険者としては、この街の住人に良い所感を抱いていない」


 それは言外に、お前達の事が信用出来ないと言ってるのと同じだった。

 その事に不快感を抱く衛兵長だったが、名誉爵位とはいえ子爵位を持つ相手に口答えする事は出来なかった。


「……では、せめて領主様の居城まで案内致しましょう」


「そうしてもらおうかぁ」


 衛兵長は一緒についてきた衛兵を二名指名すると、一緒についてくるように命令を下す。

 そして衛兵長自ら北条を案内し、中央にある居城まで向かう事になった。


 このダラム区は、一番最初に作られた街の部分だけあって、そこまで面積は広くない。

 アウラに頼まれた北条が、外壁工事をする前の《ジャガー町》と同じくらいだろうか。

 なので、領主が暮らす居城にもさほど時間もかからず辿り着いた。




「到着致しました。こちらがトビアス・ノイラード・グラスロー様の居城となります。私は先にホージョー様の到着を知らせて参ります」


 辿り着いた場所は、城というには大げさだが、館と呼ぶには大仰すぎる建物だった。

 普通の泥棒避け程度には効果はあるが、ここまで敵に攻め込まれた場合の防御力はそれほど期待出来ない。そんな建物だ。


 入口の門には領主直々の私兵が控えており、衛兵長はその私兵の下に向かっている。

 そこから城内の使用人を通し、領主であるトビアスの下まで話が通ると、すぐに北条の入城許可が下りた。


「では、我々はこれで失礼します」


 ここまで案内してきた衛兵たちは、そう言って元来た方向へと戻っていき、代わりに今度は城に勤める使用人が北条の案内を引き継ぐ。

 案内された部屋は応接室のようで、高級そうな家具が配置されており、北条はそこに座って領主の到着を待つ。



 十分ほど北条がその部屋で待たされていると、部屋の扉を開けて数名の人物が入ってきた。

 すかさずそれら全員に対し、遠慮する事もなく"解析"を使用していく北条。


 入室してきた者達は、男女の護衛が一人ずつ。

 それからこの地の領主であるトビアス・ノイラード・グラスロー。

 そして名前からして、その親族であろう男女二人の計五名だ。


 幾ら北条が名誉子爵と名乗ったといっても、相手はこのグラスロー領の領主であり、かつての三公爵の一人。

 門前払いされる事も可能性に入れていたというのに、本人だけでなく親族まで同伴で現れるとは北条も予想していなかった。


「突然の訪問に応じて頂き感謝する。俺はキリル殿下より名誉子爵位を賜った、北条と申す。此度は公爵にお話したい事があって参った」


 公爵の姿を確認した北条は、席を立ち、余りらしくない口調で挨拶をする。

 これでも貴族によっては礼がなってないと叱責されるレベルの挨拶だが、トビアスらは穏やかな表情で挨拶を受け取った。


「うむ、私がこのグラスロー領を治めるトビアス・ノイラード・グラスロー公爵だ。そしてこちらが義理の娘に当たるミュリエルと、次期領主となる息子のチェスカーだ」


「お初にお目にかかります。私はミュリエル・エル・リカルドソン・グラスローと申します。噂のホージョー卿とお会いでき、とても光栄ですわ」


「私はチェスカー・ノイラード・グラスロー子爵。父より拝領された、ヴォルテラより西にある子爵領を治めている」


 北条の挨拶を受けて、トビアスらも挨拶を返していく。

 この三人が直接現れたのも北条にとって予想外であったが、三人が全員敵意や警戒心を抱いていない事も少し妙だった。


 何せダラムの門から案内してきた衛兵長は、表に出しはしなかったが敵意がビンビンに漂っていたからだ。

 しかしそうした北条の疑問も、次のミュリエルとの会話によって納得がいく事になる。


「ホージョー卿の事は、弟達より話を伺っております。その……、卿本人はお認めにならないかと存じますが、私共は卿の働きによって救われたのです。改めてここで感謝の言葉を述べておきますわ」


「そう言われても、何の事だか覚えがないのだがぁ……」


 それがとぼけているのではなく、本当に覚えがないのだと見たミュリエルは、補足の言葉を付け加える。


「私の弟……キリル殿下から色々(・・)とお話しを伺っております。卿がいなければ、今日のロディニアはなかったのだと」


 ミュリエルのミドルネームであるリカルドソンとは、すなわち王家の名だ。

 つまり、ミュリエルは先代の王の娘……現王の血のつながった姉となる。


 北条が直に接触した王族は、キリル王子とエルランド、リタの双子だけだった。

 その全員が側妃の子であったため、ミドルネームがヴァシリーサとなっている。

 それでも貴族であれば、現王のフルネームくらい知っていて当たり前だ。

 しかしそういった事に関心のない北条は、名前を聞いただけではピンと来ていなかった。


「う、む……。これは失礼したぁ」


「いえいえ、些細な事ですわ」


 キリルがミュリエルに何を吹き込んだかは不明だが、おおよそ三人の態度に納得した北条。

 それからは本題となる通行料の件について、お茶を交えながら話を進めるのだった。



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