第56話 パーティー名、決定
「なるほどお。ちなみにパーティー名は決めたんですか?」
朝の騒々しい喧噪の中、ジョーディの声がその喧噪の一部となって拡散されていく。
昨夜はパーティー編成をした後に、少しだけ話をして解散となった。
一夜明けて、別料金となる宿屋の朝の定食を食べながら、パーティー編成のことを話していると、そこにジョーディが興味深げに話に割り込んできた。
そうして発せられたのが冒頭の質問だった。
「パーティー名?」
その質問に「あー、それがあったか!」と龍之介が人差し指を立てながら右腕を前に出し、声を上げる。
すかさずそこへ「うるさい」と、一言口にすると同時にその腕を払いのける由里香。
払いのける際に力が入っていたのか、痛そうな声を上げながら龍之介は出した右腕を引っ込める。
その様子をみて、いつぞやの朝を思い出しそうになったジョーディは、無理やり頭を切り替えて信也の質問に答えていく。
「え、ええ。ギルドではパーティー登録というものが出来ます。本来なら討伐依頼は自分と同じランク以下のものしか受けられれませんが、パーティーを編成している場合、全員GランクでもFランクの依頼を受けられます。ただし、依頼内容や冒険者達の実績を鑑みて、職員がOKを出した場合だけですけどね」
彼らのように、全員同じランクでパーティーを組むということもあるだろう。
しかしパーティー内でランクが異なる者がいた場合、上位ランクと同じランクの依頼を受けることで、同パーティー内のランクが下の者も一緒に依頼を受けられるように、というコンセプトらしい。
なお、余りにランク差のある冒険者パーティーというのは基本的には組まれることは少ない。
あるとしたら、低ランク側が金を払って上位ランクパーティーに入れてもらっているとか、個人的に親しい間柄であるとか、事情があって一時的に組んでいるだけ、といった辺りが多い。
〈ソウルダイス〉でのパーティーメンバーの枠が六人である以上、戦力が低下するような編成は命取りになるのだ。
「あ、それと、依頼に関しても個人ではふたつしか同時に受注できませんが、パーティー登録をすることで四つまで受けることが出来るようになります。名を上げるためにもパーティー名を決めて、その名前で活動する方がいいですね。まだまだ先の話ですが、Cランク以上になると指名依頼を受けられるようになりますが、その際に名が売れていると指名が入りやすいですよ」
指名依頼というのもその手の小説ではよくあるものだが、ここでもそれは同様らしい。
名前が売れていて、ギルドによって一定以上の腕前と認められた冒険者を直々に指名して依頼を出す。
冒険者にとってのパトロンのようなもので、依頼者側は何度も同じ冒険者に依頼することで信頼関係を築き、多少は無理を聞いてくれたりもするようになり、冒険者側も定期的な依頼と人脈を得る。
相手のランクに応じた指名料が必要な上に、身元が確かな者でないと指名依頼を出せないため、指名依頼を出す者はそこそこ以上の身分の者も多い。
そうした相手と関係を結ぶというのは、明日をも知れぬ身の冒険者にとっては大事なことだ。
ちなみに、冒険者ギルドからの指名依頼がCランク以上からというだけで、個人的に依頼を受けたり、指名を受けて依頼を受けたりすることは可能だ。
だが、ギルドを通していない依頼は当然のことながらギルドは関知しない。
依頼を達成しても、依頼料はもらえてもギルドからの評価は変わらない。
それどころか、依頼料すら支払われないままとんずらされることすらありえる。
元々ギルドの設立理由には、こういった相手に遭遇した場合、泣き寝入りするしかなかった現状を、組織として仲立ちすることで緩和するという目的もあった。
ギルドの業務のひとつには、持ち込まれる依頼に対して、内容の確認と依頼人の身元について、最低限なレベルではあるが調べられてから依頼掲示板に張り出されている。
なので、ギルドとしてはそういった野良依頼を受けることは推奨していない。
「ううん、別に名を売りたい訳ではないんだが……」
信也はパーティー名を付けることに特に意味を見出してはいないようだが、パーティー登録による利点は甘受したいので、登録だけはするつもりだった。
「何言ってるんだよ!? 冒険者がパーティー名で活動するって基本だろ!」
「そ、そうね。私たちの場合パーティーが二つあるから、区別する為にも名前があったほうがいいと思うし……」
どうやら龍之介と咲良は乗り気のようで、何やら「青嵐の雷光」だとか、「遠方より来たりし者」といった、香ばしいパーティー名を呟きはじめた。
そんな二人に釣られてか、由里香と芽衣も素っ頓狂な名前を考え始め、場がカオスに煮詰まっていく。
信也もどうしたもんかといった表情で静観していたが、そこに待ったをかけたのは北条だった。
「あー、どうせ名前をつけるなら意味をもたせたらどうだぁ?」
「意味?」
それこそ意味が分からないとばかりに聞き返す咲良。
「そうだぁ。これはどちらを選ぶかにもよるがぁ、目立たせる方向でいくなら『日本の夜明け』みたいな名前にして、他にこちらに来ているかもしれない、或いはこれから現れるかもしれない同胞へのアピールも兼ねればいい。逆に俺達の出自のことを明かしたくないなら、適当にパーティー名を決めればいいだろぅ」
「ふうむ、なるほどな……」
北条の提案を受けて、どうするか軽く話し合いがもたれた。
地球出身ということをアピールするか否か。
アピールする利点は、同胞が見つかった場合、より多くの情報を入手できたり、協力を得られたりする可能性があることだ。
もし同胞が見つからなくても、ちょっと変わった名前だなと思われる程度だし、やって損はないという意見。
逆にアピールすることで起こりうる問題として、特定の相手や組織から狙われる可能性が僅かに発生することだ。
これは既に同胞がこの世界に存在してることが条件となるが、異世界の人間の持つ知識、そして実験用のモルモット的な意味での興味を持たれることが考えられる。
或いは単純にその能力を見込まれてスカウトされることも考えられる。
シディエルが驚いていたように、他の同胞者も信也達同様に二つのスキルをもらっていた場合、地球人というだけで貴重なスキルを持っていると判断される可能性もあるからだ。
これらはあくまで予想の範囲であって、その予想を確定させる判断材料は少ない。
ひとつだけ言えるのは、今までジョーディと話したり《ジャガー村》や《鉱山都市グリーク》で数日過ごしたりしてきたが、地球由来と思われる物事は一度も耳にしていないということだ。
今まで見聞きしたものは全て、この世界に飛ばされた時に脳に刻み込まれていた謎言語――大陸の名をとって『ヌーナ語』というらしい――しか耳にしていない。
十分ほどの話し合いの中で、結局北条の案は採用されることになり、信也のパーティーが『プラネットアース』。北条のパーティーが『サムライトラベラーズ』となった。
一応外国人が転移してきても分かりやすいような、そんな名前を意識したネーミングとなっている。
なお話し合いの間、いまいち話を理解出来ていない様子のジョーディだったが、彼らには彼らの流儀があるのだろうと、我関せずといった様子で一人朝食のパンを齧るのだった。
パーティー名も決まり、朝食を終えた彼らは今後の予定について、人の少なくなってきた食堂で話し合っていた。
ジョーディの話ではダンジョン報奨金については今日の昼過ぎに来てくれとのことなので、それまで時間が空いてしまう。
まず、ギルドマスターのゴールドルに呼ばれているジョーディは、引き続きダンジョンに関する話し合いがある。
昼になったら食事を取るためギルドカウンターの隣に設けられた軽食スペース――待合場所も兼ねているらしい――に降りてくるので、そこで全員合流しようというのがまず決まった。
何でも実際にダンジョン確認をした職員も話し合いには同席しないといけないとのことだ。
そのためジョーディはしばらくギルド側との話し合いが続くらしい。
残る信也達だが、一先ず全員でギルドへ赴いてパーティー登録をした後は、昼にジョーディと合流するまでは自由行動とすることになった。
《ジャガー村》のように小さな村ではないし、スラム街など治安の悪い場所もあるようなので、街に出る場合は出来るだけ単独行動は控え、危険な場所には近づかないようにとの注意もジョーディから受けた。
こうして信也達の《鉱山都市グリーク》における二日目が始まった。




