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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十章

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第556話 裏に潜む者


 『ブレイブバスターズ』に、目には見えない亀裂が入ったその日の夜。

 今は亡き団長のストロガノフの部屋に、二人の幹部が訪れていた。

 それは初見殺しエリアを探索して生き残っていた、副団長のボルシチと盗賊のキシュカだ。


「ガノフの部屋に呼び出すなんてどういう事だい? ボルシチ」


 この二人は、クランを結成する前からパーティーを組んでいた古馴染みだ。

 荒々しい気性を持つキシュカから見ても、人数が膨れ上がったこのクランの中ではボルシチには大きな信頼を置いている。

 しかし、今は苛立ちを抑えようともせず、今にも殴りかかりそうな視線でボルシチを睨みつけていた。


「……お前にも分かっているだろう。()に報告する必要がある」


「チッ……」


 その一言で理解できたのか、苦々しそうに口を噤むキシュカ。

 とりあえずキシュカが暴れる事がないと判断したボルシチは、〈マジッグバッグ〉から一つの魔導具を取り出す。

 それは3×3の正方形のブロックから構成されている、昔日本で流行ったおもちゃに似ていた。

 ボルシチはそれをクイクイッと回して操作する。



「ガイ様、いらっしゃいますか?」


「…………ボルシチか」


 ボルシチが呼びかけると、少し間があって低い男の声が返ってくる。

 このキューブ状の魔導具は、遠方との通話を可能にする魔法具(マジックアイテム)だった。

 それも魔導具だけあって、かなり距離の遠い場所ともやり取りが可能だ。


「はい、此度は報告しておく事がございまして……」


「ストロガノフらがくたばった件か?」


「ッ! 然様でございます。《サルカディア》の初見殺しエリアに挑んだ結果、生き残ったのは俺とキシュカだけとなりました」


「チィィッ! あの情報さえもっと早くに掴んでいれば!」


「あの情報?」


「……最近ギルドに流れ始めた情報の事です」


 ガイと呼んでいた通話相手に対し、怯えといってもいい態度を見せながら応対するボルシチ。

 それに比べ、不遜とも思わせる態度をとっているキシュカ。

 そんなキシュカの態度に冷や汗をかきながら、ボルシチは先ほどメンバーの男から聞いた情報を伝えていく。



「クックック……、なるほどな」


「何がおかしいッ!」


「おい! キシュカ!!」


 ついには声を荒げるキシュカを、必死に宥めようとするボルシチ。

 しかし、笑い声をあげていたガイは、キシュカの物言いに腹を立てた様子はなかった。


「なあに、いいように奴らに踊らされてるなと思ってな」


「……それはどういう意味で?」


 ガイの返答を聞くとボルシチも表情を変え、真剣な声で問いかける。


「元々奴ら……『ジャガーノート』に対抗心を燃やして、初見殺しエリアとやらに向かったのだろう? 私の出した指示を他の者に任せてまでして」


「それは……そうですが、その件はガイ様にも了承を頂いたはずでは?」


「別にその件を責めているんじゃない。そうまでして強行したというのに、犠牲者が出るタイミングで、奴らがその隠し扉の情報を垂れ込んだ。皮肉だと思わないか?」


「……といいますと、冒険者ギルドに隠し扉の情報を垂れ込んだのは、奴ら『ジャガーノート』であると?」


「その通りだ。前もって知っていた可能性は高い」


「なんだってェ!?」


 ガイの推測を聞いて、キシュカがいきり立つ。

 このストロガノフの部屋は、密談用に防音の魔法具(マジックアイテム)が設置されているが、あまりの大きな声に外まで聞こえそうなほどだった。


「隠し扉の先にはAランクの悪魔が出るんだろう? 確かにドレイクも強敵だが、悪魔の厄介さはお前らも知っているハズだ。それを打ち破る冒険者となれば、過去に一度悪魔を打ち破った奴ら以外にあるか?」


「……クソッがああッッ! オレもボルシチも反対してたってのに、ガノフが奴らに対抗心を燃やしたばかりに……」


 部屋の中に置かれたテーブルを、思いっきり叩き付けるキシュカ。

 元々荒くれ者だったストロガノフが特注で作らせたテーブルは、キシュカの一撃程度で壊れる気配はない。


アイツら(ジャガーノート)……許さねえ。殺してやるッ!」


 それはキシュカの一方的な逆恨みである事を、ボルシチは理解していた。

 しかしその事を指摘するつもりはない。

 この状態のキシュカにそんな事を言えば、逆効果なのは目に見えているからだ。


「そうだ。奴らはいずれ地獄に引きずり降ろしてやれ。その為に、お前たちを送り込んだんだからな」


「……」


 ガイの煽るような言葉を聞き、キシュカは『ジャガーノート』への恨みを募らせ、ボルシチは過去を思い出して渋い顔つきになる。


「こちらも大分計画は進行している。すでにアジオンの奴の取り込みはほぼ終わっているし、北東戦線も大分有利に進んでいる。あの堅牢な《獣都ゼラス》も、落とせる目算が出来た」


「では……」


「ああ。このまま上手くいけば、二年もかからず計画を実行できるだろう」


「殺す……皆殺しにしてやる……」


「キシュカ……」


 濁った眼差しで物騒な言葉を吐き続けるキシュカを、ボルシチは気遣わし気な顔で見つめる。


「ああ、そうそう。それで一つお前に頼みたいことがあるのを思い出した」


 キシュカの恨み言のような声は通話先のガイにも届いているはずだが、彼は全くその事を気にした素振りもなく話を振る。


「俺に……ですか?」


「いや、どちらかというとキシュカにだ。危険な任務だから、他に任せられる奴がいなかったんだ」


「……それは奴らに関する事か?」


「そうだ。計画が大分進行してきているので、改めて奴らの脅威を量りたい」


「と言われてましても、すでに奴らは一介の冒険者がどうにかできる相手ではありませんが……」


「正面からぶつかれとは言ってない。任務の内容は、あの男がテイムしたというエルダードラゴンの調査だ」


「!? それは……」


 数か月前に、大陸規模でいえば無名だった冒険者が、エルダードラゴンをテイムしたという噂が流れた。

 そしてそれは一部の者達の間では、人が移動するよりも速く大陸各地へと広まっていった。

 冒険者ギルドの現グランドマスターであるエルネストも、その情報を耳に入れるなり即座に確認のため《ジャガー町》のギルドマスターであるナイルズに連絡を取った程だ。


「……あのジャガーマウンテンとやらに忍び込んでこいって事か?」


 『ジャガーノート』拠点の北西部にある小さな山に、テイムしたとされるエルダードラゴンが住み着いているのは、町の者なら誰もが知っている。

 そしてその住処に足を踏み入れた愚か者は、すべてが悉くブレスに焼かれて死んでいったという事も。


「そういう事だ」


「そんな、それは余りに危険すぎます!」


 ガイからの指令に、ついボルシチが声を荒げて反論してしまう。


「確かに危険だが……、これまで何度か人前に姿を現した時の話を聞く限り、そのドラゴンはエルダードラゴンではない可能性が高い」


「それは何を根拠としているのですか?」


「大きさだよ。そもそも滅多に人前に姿を現さないので断定はできないが、言い伝えに聞くエルダードラゴンより大分小さいと聞く。恐らくはエルダードラゴンなどではなく、ファイアードラゴンなどの属性竜ではないかと思われる」


「……仮にそうだとしても、危険には変わりありません」


「別に戦って倒せというのではない。例のドラゴンが実際にエルダードラゴンなのかどうか、大きさを見て確かめてくるだけでいい」


 拠点そのものについては、警備が厳重な事はすでにボルシチらも調べがついていた。

 しかし北西部のジャガーマウンテンだけは、周囲に異様に深い堀はあるものの、入ろうと思えば侵入可能だ。


「分かった。やってやろうじゃないか!」


「キシュカ!」


「止めるなよ、ボルシチ。今のオレは黙ってじっとしてるなんてできそうにねえんだ」


「やり方はお前らに任せる。私からの話は以上だ。成功の報告を期待しておくとしよう」


 ガイはそう発言すると、魔導具の通信を切断する。

 それと同時に、キシュカが動き始めた。


「それじゃ早速いってくる」


「待てっ!」


「いいや、待つつもりなんて――」


 今にも部屋を出ていきそうなキシュカより先に、部屋の唯一の扉の前に立ちふさがるボルシチ。


「分かった、止めはしない。ただ俺たちは今日戻ってきたばかりだ。せめて今日はゆっくり休め」


「けどっ!」


「それとクランの備品で必要そうなものも使っていい。あと調査前には、セレンから"付与魔法"を受けていけ」


「……分かった」


 今すぐにでも出ていきそうなキシュカを、どうにか食い止めることに成功したボルシチ。

 明くる日の夜、万全の態勢でジャガーマウンテンへと侵入したキシュカは、命からがらクランハウスへと戻ってくる事に成功した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] どんどんフラグを積み立てていきますね、エルダードラゴンじゃねーや、何とかなるかもしれない程度の相手だな、よし突っ込もうぜからの丸焼きが… [気になる点] 初見殺しエリア入る前から敵対心をも…
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