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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第二十章

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第552話 通行料


 転移魔法陣を抜けた先は、一面の荒れた土地が広がる場所だった。

 多少は草や低木も生えているが、荒涼としたこの地には乾いた風が吹き抜ける。

 その乾いた風を受けながら、北条達は転移地点から南へと進んでいた。


「まだ着かねえのかー?」


「歩き始めたばかりだろぅ? もうすぐだよ」


 北条が設置した転移魔法陣は、ダンジョンから更に北の方に二キロ程いった先に設置されていた。

 通常、ダンジョンに向かう冒険者は、《ガルトロンデス》の街がある南の方からやってくる為、今北条達が歩いている場所に他の冒険者の姿はない。


「あ……。あれか? 何か小さな建造物が見えてきたが」


 ブツクサいう龍之介を無視して先に進んでいると、段々と立体的な造形が目に付くようになってくる。

 《ガルトロン神殿》は、元々古代の遺跡があった場所に発生したダンジョンだ。

 しかし、それにしてはこの位置から見る遺跡の規模は大分小さく見える。


「確かルートが二つしかねーんだよな? だからその遺跡ってのもちゃっちい奴なんじゃね?」


「見た感じだと相当古そうだ。もしかしたら、大部分はもう崩れて風化してしまったのかもな」


 それは龍之介にとってはただのちゃっちい遺跡だったが、信也からすると古代人の息吹やロマンを感じさせるものだったようだ。

 興味深そうに信也は周囲の遺跡を見ている。


「ホージョー、このまま真っ直ぐいくのか?」


「あー、少し回り込んだほうがいいだろうなぁ」


「回り込む?」


 北条とエスティルーナの会話に疑問を呈す信也。

 しかし実際に少し遠回りして遺跡を回り込んでみると、その意味が理解出来た。



「これは……すごいな」


「うおおおおお! なんだよ、ガルトロンやるじゃん!」


 北条達がここまで歩いてきた荒野は、平坦ではなく大きな起伏があった。

 特に途中で回り込むようにして進路を変えた際は、坂道を下るかのように百メートル以上の高低差のある場所を下っている。

 その地形の謎は、下りきった先にある光景を見れば一目瞭然だった。


 《ガルトロン神殿》を正面から捉えた位置からは、真ん中に太い道が走っているのが見える。

 その道の両端には、これまた太く十メートルくらいの高さのある柱が、規則的に立ち並んでいる。

 キッチリ崩れずに原型のまま残っている柱は少なく、途中で折れている柱も多いが、この遺跡が稼働していた頃はきっと今よりも人の心を打つような光景があったのだろう。


 その柱に挟まれた道の先には、切り立った崖があり、その崖は一部がくりぬかれたようになっている。

 北条達がやってきたのはその崖の上の奥からであり、脇道に逸れて回り込むようにして道を下り、ようやく遺跡を正面にとらえられたのだ。

 そして崖をくりぬいた場所には、人工の巨大建造物――《ガルトロン神殿》が埋め込まれるようにして建てられていた。


 この切り立った崖が自然なものなのか、人工的に斜面を削ったものなのかは不明だが、崖部分には所々に石壁が張られたり石像が埋め込まれたりしていて、崖そのものが一つの大きな遺跡のようにも見える。


「……あの崖に埋まっているパルテノン神殿みたいなのが、ガルトロン神殿って事なのか?」


「ぱるてのん神殿というのが何か分からないが、あの埋まっている部分がそうだ。崖のすぐ傍にも幾つか建物はあるが、あれは元々あったものや、ダンジョン発見後に建てられたものになる」


 信也の質問にエスティルーナが答えた。

 彼女の言うように、神殿の前には幾つも建物が立ち並び、そこには人がそれなりに集まっていて信也のいる位置にまで喧騒が聞こえてくる。


「つまり、あれが《サルカディア》でいう所のダンジョン前広場って事っすね」


「商人の人達はどこも変わらないようですね」


 人の集まるところには商人が寄って来る。

 遠くから聞こえてくる喧騒の中には、ポーションや食料などの必要な品を売りさばく声が混じっていた。


 貴族派の内乱が起こったのはまだ記憶に新しいが、少なくとも今見た感じでは活気にあふれているように見える。

 その辺も《ジャガー町》とそう違いはなさそうだ。

 北条達は、早速遺跡の方へと近づいていく。



「……なんだ、奴らは」


「見た事ねえ顔ばかりだぜ」


「あれだけの集団となると、他所から来たクランか?」


「見ろよ。外套にお揃いの徽章を付けてやがる」


「ハンッ! 仲良しこよしってかあ?」


 四十人近くの集団行動だけあって、『ジャガーノート』は周囲の注目を大きく浴びていた。

 注目を浴びる事自体は《ジャガー町》でも慣れていたが、ここでは彼らの知名度が全く広まっていないため、いつもとは向けられる視線の質も異なるようだ。


 しかし集団で行動している事が功を奏したのか、或いは実力を読み取ったのか、ちょっかいを出してくる者はいなかった。

 見慣れぬ冒険者集団に声を掛けてくる商人もいたが、それらを一切振り払って一行は先へと進む。


 そして北条達がまず向かったのは、ダンジョン入口前にある受付だった。

 そこには受付の男の他に、屈強そうな兵士も数人配置されている。

 北条が代表して受付へと向かうと、受付の男は興味深そうな顔を浮かべながら話しかけてくる。


「へぇ……、こりゃまた随分と大きな集団だね。クランごとこっちに来たのかい?」


「ああ、そうだぁ。通行料は幾らになる?」


うち(ガルトロン神殿)は一人につき一銀貨だよ」


 現在サルカディアでは徴収されていないが、管理されたダンジョンでは中に入るのに通行料を取る所は多い。

 特に、通常のダンジョンではなく祝福されたダンジョンともなると、料金が高くなる傾向にある。


「一銀貨ぁ? 大分値上がってないかぁ?」


「アンタ、以前ここに来た事あるのかい? 確かに料金は上がったが、別によそ者だからってふんだくってる訳ではないんだよ」


 北条は事前にエスティルーナから、このダンジョン(ガルトロン神殿)の通行料が五十銅貨だという話を聞いていた。

 今回提示された額の丁度半額だ。

 エスティルーナが以前潜ったのは二十年以上も前の話だが、それにしても大分値上がりしている。


「ほら、例の内乱があっただろう? アレのせいで、ここも影響を受けちまってねえ。私としては、下手に通行料を上げるより、中に潜る冒険者を増やした方が良いと思うんだが……」


 ダンジョンに潜る冒険者が増えれば、ドロップの取引量なども増え、結果として経済が回る事になる。

 だから多くのダンジョンでは、そこまで過剰な通行料を取ることはしない。


 なんせダンジョンなど別の場所にも存在しているのだ。

 下手に通行料で搾り取ろうとすれば、冒険者は他のダンジョンのある場所へ流れてしまう。


「なるほどなぁ。まあ、事情は分かったよ。ほら、ちょっと多いが釣りはいらんよ」


 そういって北条は五十銀貨を一枚渡す。

 この大陸で主に使用されているパノティア貨もゼラム貨も、同じ額面の銅貨や銀貨でも額面の数字が異なるものがある。

 これらは、硬貨の中に含まれる金属の純度や硬貨自体の大きさがそもそも異なっている。

 五十銀貨ともなれば、出来る範囲で純度が高められた銀が使用されていた。

 

 一人一銀貨という値段は、今の『ジャガーノート』の面々からは、それっぽっちかという程度のはした金ではあった。

 だが、これだけあれば町の一般的な宿に二泊出来る位の金額になる。

 低ランク冒険者にとっては痛い出費となる事だろう。


「ええと、ひいふう…………。確かに、四十六人分の料金受け取ったよ」


 受付の男が人数を数え確認を終える。

 数が多いため、少し時間がかかっていた。


「それじゃあ先に進ませてもらうがぁ、特にここ独自の決まりなどはあるかぁ?」


「いいや、基本はギルドとロディニアの規則に従ってくれればいいよ。中にはいちゃもんつけてくる奴もいるが……そんだけ規模が大きいなら大丈夫だろう。ま、一応気に止めといてくれ」


「分かったぁ。忠告ありがとよぉ」


 受付でのやり取りを終えた北条は、仲間の下へと戻っていく。

 その仲間の数は、確かに受付の男が数えたように、北条を合わせると一見全部で四十六人のように見える。


 しかし、その内の六人は人間ではなく魔物だ。

 北条の使役するヴァルドゥス、アーシア、ニアの他に、芽衣やムルーダの使役しているマジシャンズキャットも、今では猫又に進化している。

 そのため、一見すると人間が六人ほど笠増しされたような状況だ。


「料金が一人あたり一銀貨に値上がりしてたがぁ、四十六人分に更におまけして払ってきたぞぉ」


「話は聞こえていた。あの内乱の影響は未だ残っているようだな」


「さあて、受付が言った事が本当かどうかも分からんがねぇ。それよりも、見た目で魔物とわかる従魔を連れていても、その分の料金は取られるのかどうか気になったぞぉ」


「《クッタルヴァ遺跡群》では、従魔の分までは取られなかったけど、場所にも寄るんじゃないかな?」


 シグルド達は、かつて《迷宮都市リノイ》のダンジョンに潜っていた事があった。

 その時は従魔の分まで料金は取られていなかったらしい。

 ちなみに他の従魔達は、全部〈従魔の壺〉に収納済だ。



「さ、行こうかぁ」


 通行料を払い終えた『ジャガーノート』は、《ガルトロン神殿》へと侵入していく。

 彼らが通り過ぎた後、入口近く屯してた冒険者達は、口々に先ほどのクラン(ジャガーノート)についての話題に花を咲かせるのだった。



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