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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十九章

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第550話 ポータルルーム


「玉座の間? ここがどうしたって言うんだい?」


 北条の案内によって向かった場所。

 それは一階の奥に設けられていた、玉座の間だった。

 やはり城にはこれがないと! という事でとりあえず作っただけの玉座の間。


 だが初めに北条や龍之介なんかが玉座に座って王様気分を味わった位で、それ以降はほぼ使用される事のない部屋だった。

 とはいえ、そうなる事は北条も最初から想定していたので、玉座の間といってもそんなに広い空間は取っていない。


「実はこの玉座の裏に、秘密の階段が隠されている」


 「風を感じなかったか?」などと言いながら、北条は玉座の裏へと回り込む。

 そして、玉座の背後部分に隠されたスイッチを押すと、地下へと続く階段が開かれた。


「うおお、こんな所に隠し階段があったのかよ!」


「なんか知んねーけど、ワクワクしてくるな!」


 玉座裏の隠し階段に、龍之介とムルーダのテンションが爆上がりしていく。


「え……、そんな所に隠し扉があったんッスか?」


「ここには何度か来た事あったけど、気づかなかったねえ」


 ロベルトら盗賊職組が、驚いたように地下への階段を見つめている。

 その視線の中には、発見出来なかった事への悔しさも含まれていた。


「まあ隠し階段を作ったはいいが、最近までは下に何もなかったんだけどなぁ。とりあえず、下に降りるぞぉ」


 北条を先頭に、隠し階段から地下へと降りていくメンバー達。

 降りた先はそれなりに広い空間で、詰めればクランメンバー全員が収まる位の広さがあった。


 調度品や家具などが設置されていない、がらんどうなこの隠し部屋は、天井に設置された明かりの魔法具(マジックアイテム)と、奥の壁際の中央部分にある柱のような台座しか目につくものがない。

 台座の上には水晶のような球体が置かれており、その台座の根本部分には見覚えのある魔法陣が描かれている。


「団長、これは転移魔法陣か?」


 魔法陣について詳しいヴェナンドが、床部分に描かれた魔法陣に注目する。

 大きさはそれほどなくて、一度に魔法陣内に収まるのは数人程度しかない。

 そしてダンジョンを潜る冒険者としてはお馴染みであるせいか、それがすぐに転移系の魔法陣である事を見抜く。


「そうだぁ。その台座の上の水晶球に魔力を通すと作動する。ただし、事前に登録しておいた魔力の持ち主しか、使用する事が出来ないようにしてある」


「登録? そういえばいつだったか、魔力の登録をしていたな」


 信也がその時の事を思い出しながらポツリと言う。

 それは拠点で暮らす人が増えていくのを見越して、拠点の機能を使用するのに制限をかけようという話が出た時の事だった。


 今の拠点には防御用の結界だけでなく、攻撃用の魔法兵器も各所に配置されている。

 それらを誰でも利用できるようにしておくのではなく、一部の権限を持つ人に限定することで、悪用される事を防ごうというセキュリティー的な対策をしていたのだ。


「うむ。避難施設への入口の扉など、いくつかの施設や魔法装置は権限を持った者にしか動かせないようになっている。その転移魔法陣に関しては、クランメンバーの他にはツィリルとアンナしか作動させられん」


「転移の魔法を使える事でも驚いたが、転移魔法陣まで作り出すとは……」


 似たような事に思えるが、ただ"空間魔法"だけがあれば使える転移の魔法と、"刻印魔法"など他のスキルや知識も必要になってくる転移魔法陣とでは、大きな開きがある。

 何せ、転移魔法陣は北条本人がいなくとも作動させる事が出来るのだ。

 その差は大きいだろう。


「ミラーエリアにある転移の罠や、これまで見て来た転移魔法陣を参考にして形にする事が出来たんだよ。それより、俺が紹介したいのはその先だぁ。順に転移していってくれぃ」


「順にって、この魔法陣そんなに大きくないけど、人数制限とかあるのか?」


「ああ、言い忘れてた。魔法陣で転移できるのは一度に六人までだぁ。それ以上人数がいたり、登録されていない者が混じっていると、作動しないようにしてある」


 これは技術的な問題もあっての人数制限だったが、ある意味セキュリティー的にも悪くはない。

 万が一悪用された場合、一度に大勢の敵が侵入してくる事を防ぐことが出来る。


「へぇ。じゃあ早速試してみるぜ」


 好奇心旺盛な龍之介をはじめとして、次々と北条自作の転移魔法陣によって別の場所へと転移していく。

 製作者として動作の確認を兼ねてその様子を見ていた北条は、最後に残ったエスティルーナやボルドらと共に、転移魔法陣を作動させる。




「あ、オッサン! ここすんげー広いな!?」


 北条らが最後に転移してくると、先に転移していた龍之介が真っ先に声を掛けてくる。

 他の皆も周囲を興味深げに眺めていた。


「ああ。ここは……言うなれば、ダンジョンにおける転移部屋のような場所に当たる。ただそれだと名前が被るから、『ポータルルーム』とでも名付けようかぁ」


 龍之介がいうように、余裕をもってという事なのか高さが四メートル近くもある天井に、縦横に広がる広大な空間には、しっかりとした柱が規則正しく立ち並んでいる。

 それはつい最近に顔だけ悪魔と戦ったボス部屋と、少し似たような造りをしている。

 ただ広さ的にはこちらの方が広く、数百メートル四方はありそうだ。


「最初は普通にフロアを作ろうと思ったんだけどなぁ。面倒だから、結局吹き抜けの構造にしてある。ま、こっちのが見やすいだろう?」


「それは……確かにそうなんだが、それよりもホージョー。この部屋にあるのは、全て転移魔法陣なのか?」


 エスティルーナが驚いたのは、部屋の広さそのものよりも、その広い部屋の中に無数に設置された転移魔法陣についてだった。

 縦横の列になって、規則正しく並べられている転移魔法陣の数は、ざっと見た限り数十個は存在している。

 《サルカディア》の転移部屋の規模を軽く上回る、巨大な転移部屋というべき光景がそこには広がっていた。


 よく見ると、部屋のあちこちにはゴーレムの姿も見受けられる。

 この重要な場所を守るために、北条が配置したものだ。


 拠点を警護するゴーレムは以前に比べて大分数は増えてきたし、機能も改良されてきている。

 今では汎用型のアルファをベースに、より見た目を人に近づけて作られたイプシロンタイプ。

 魔法主体のベータを基に、空を飛ぶ機能を付けた空戦タイプのゼータなど、種類も増えてきていた。


「あー、とりあえず設置はしてみたがぁ、まだ転移先の設定をしていないものばかりだぁ。とりあえずついてきてくれぃ」


 再び北条の案内に従って移動していく。

 といっても、ほんの少し移動しただけなのだが、案内された先は一つの転移魔法陣の前だった。


 この部屋にズラーと並んでいる転移魔法陣は、どれも同じ規格の基に作られている。

 台座とその上に置かれた水晶球。

 そして台座を中心として、床に刻まれた魔法陣。

 まるでコピーペーストしたかのように、同じ構造物が規則正しく部屋の中に並んでいた。


 しかし、北条が案内した転移魔法陣は、他とは少し違っている。

 台座の上に嵌めこまれている水晶球が、薄っすらと水色に光っているのだ。

 それは最初にこの転移部屋にくる時に利用した水晶球と、同じ光り方だった。

 そして、目の前にある転移魔法陣の他にも、幾つかそういった光を放つものがあった。


「見て分かる通り、台座の上の魔水晶が薄っすら光っている奴が、稼働中の転移魔法陣という事になる。この転移魔法陣は、ステプティカル高地へと繋がっているものだな」


「それはつまり……」


 《ステプティカル高地》という地名を聞いて、エスティルーナが納得した表情を浮かべる。


「うむ。さっきの話し合いで名前を出した、ロディニア王国内の祝福されたダンジョンとは、すでに転移魔法陣で繋げてある」


「マジか! この先に違うダンジョンがあるんだな!」


「先といっても、直接繋げてある訳ではないぞぉ? 外部の転移施設は、他の人に気づかれないように偽装を施してある。まあ、万が一内部に侵入されても警備のゴーレムが配置してあるし、登録者以外には転移魔法陣を利用できん」


 流石にダンジョンの転移部屋に直接繋げる事は、北条でも出来なかった。

 そもそも、ダンジョン内では一部の転移系の魔法が使用出来ないようになっているのだ。


「今後はこれらの転移魔法陣を使って、祝福されたダンジョンの攻略を進めたいと思う。当然の事ながら、転移魔法陣についての事は口外禁止だぁ。それと利用に関しては幾つか注意事項がある」


 それは使用の際には、事前に申告をしておくというものだ。

 そして使用記録もきちんと取っていく。

 転移魔法陣は、発動するとそれなりに魔力を消費してしまう。

 ダンジョンにいる時のように気軽に転移しすぎると、魔力が無駄に消費されてしまうのだ。


 他にも使用時に気を付ける事など、注意事項を伝えていく北条。

 一通り話が終わると、メアリーへと声を掛ける。


「細川さん。これがあれば、移動の時間も短縮できるし、結果的にはサルカディアの探索も早まる……と思うぞぉ」


「そう、ですね。まずは力を……身につけないと」


 メアリーが自分を納得させるように返事する。

 急いてしまうのは仕方ないが、失敗した場合に命が失われる可能性があるダンジョン探索において、その調子でいると大変な事になってしまう。


「ホージョー。ガルトロン神殿と水竜洞窟なら、以前探索した事がある。幾らか情報を提供できると思うぞ」


「それは助かる。こちらでも情報は集めてるがぁ、情報は多ければ多い程いいからなぁ」


 長く冒険者稼業を続けていたエスティルーナは、それらのダンジョンに実際に潜った事があるらしい。

 しかもガルトロン神殿については、完全攻略を果たしたとの事だった。




「これは……また、気合を入れていかないとな」


 強敵の蠢くエリアへとぶつかり、改めて日本帰還への道のりの遠さを実感した信也。

 しかし、静かなその眼差しには強い決意の光が宿っている。


 それは何も信也だけではない。

 龍之介やライオットらも、それぞれがそれぞれの目的を見据え、転移魔法陣を見つめている。


 こうして『ジャガーノート』は、《サルカディア》以外にも活動場所を拡張していく事になるのだった。 



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― 新着の感想 ―
[一言] 玉座裏の階段ネタはドラクエが初めてなのかな、知っている世代だと定番ですね 微妙に予想してしまうような感想だったので消しておきました
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