第546話 ザヴィーラとの熱戦
信也を先頭に、顔だけの悪魔――ザヴィーラへと近づいていく『ジャガーノート』のメンバー達。
それに対しザヴィーラは、口元から炎の球を吐き出して攻撃してくる。
それは正確に信也の方へと飛んでいったが、信也は避ける素振りも見せずそのまま突き進んでいく。
「うおおおおおっっ!」
炎の球は信也に着弾し、炎属性のダメージを与えてくる。
しかし"火耐性"スキルで減じられた攻撃は、信也に対し深刻なダメージは齎さなかった。
「これならいけるかっ?」
そう思った信也だったが、前方を見ると既に次弾が発射されていた。
しかも今度は連続して三発も放たれている。
「これが奴のメインの攻撃か? なんのなんのおお!!」
しかしその三発の連弾にも耐えきる信也。
一見簡単に耐えているようにも見えるが、Bランクのボス悪魔が放った攻撃だ。
Dランク以下の冒険者であれば、この炎の球を一つでもまともに食らったら、大きなダメージを負う事は必至。
炎の球を受けながらも、全力で前に進んでいた信也は、ついに剣の届く範囲に獲物を捕らえた。
「ヘイトスラッシュ! からの、闘気斬!!」
とにかく最初にヘイトを稼ぐために、"ヘイトスラッシュ"を放ち、更にダメージをヘイトを稼ぐために闘技秘技スキル"闘気斬"を放つ信也。
「ビビビビッ……」
ダメージを食らった悪魔が妙な悲鳴のような声を上げた。
しかし信也は気にせずに更に追撃の構えを取る。
次の瞬間、ズガアアアァンっという大きな音と共に、信也に対して落雷が連続して落ちてくる。
「シンヤさん! そいつは"火魔法"の他に、"土魔法"、"雷魔法"、"暗黒魔法"を使ってくるッス!」
「っ! 分かったあ!」
"鑑定"で読み取ったザヴィーラのスキル情報を伝えるロベルト。
他にもロベルトは、幾つか気になったスキルの名前を挙げていく。
「――他にも悪魔系特有のスキルがあるッスけど……、"悪魔眼"ってスキルは聞いた事ないッス!」
ロベルトの報告によると、この悪魔は見た目通り顔だけの悪魔なせいか、物理攻撃の手段は持っていないらしい。
その分、魔法に特化しているようで、まるでMPの限界などないといったように、尽きずに魔法を撃ち続けてくる。
それに対し、信也のヘイト稼ぎが一段落ついて来ると、他の仲間も本格的に攻撃を開始していく。
攻撃参加人数が多ければ、ヘイトを取らないようにダメージを抑えたとしても、人数分だけボスにダメージを与える事が出来る。
レイドボスにおいて、人数が重要視されるのはそういった理由も含まれていた。
それと、肝心のヘイトを稼いで敵を引きつけるタンクの能力も重要だ。
レイドパーティーともなると、タンクを二人以上用意するのが定石になる。
信也達のレイドパーティーも、メインタンクは信也が務めるが、サブタンクにはシグルドが控えている。
「シンヤ! そろそろ交代するかい?」
「まだ大丈夫だ! シグルドは引き続きそれくらいでヘイトを維持してくれ!!」
ヘイトというのは挑発系スキルや治癒魔法、それから魔物に攻撃を与える事などで溜まっていく。
だが溜まる一方ではなく、ヘイトを稼いだ相手に魔物が攻撃する事で、その相手に対してのヘイトが下がっていく。
そうしてタンクのヘイトが下がってしまうと、次は次点でヘイトを稼いでいた相手に白羽の矢が立つことになる。
今も信也がザヴィーラのヘイトを受け持ちながら、シグルドもそれに次ぐ位のヘイトを維持し続けていた。
その状態の維持は上手く運び、しばらくしてシグルドへとタンク役を譲る信也。
一旦後ろへと下がった信也は、ポーションをがぶ飲みしていく。
信也の場合、魔法も使うので〈ブルーポーション〉も必要だし、タンクとしてスタミナも多く消費するので、〈グリーンポーション〉も必要になってくる。
その上、魔眼系スキルなどで疲弊した魂を〈バイオレットポーション〉で癒したりするので、とにかく飲む量が多い。
「毎度これで腹がたぷんたぷんになるのも考えものだな……」
腹をさすりながらそんな事を独り言ちる信也。
そして、戦闘が開始してから一時間近くが経過した。
流石にレイドエリアのボスとなるとタフであり、ボルドやエスティルーナが参加しているというのに、まだ戦闘は続いている。
このタフさからいってメンバーの何人かは、これが領域守護者などではなく、守護者じゃないか? という疑念が高まりつつあった。
そんな中、ここでボルドが大技を披露する。
「お前達、一旦下がっていてくれ。……"爆砕剣"」
剣系の闘技奥義スキル、"爆砕剣"をザヴィーラへと見舞うボルド。
それはただ剣を打ち付けただけとは思えない、鈍く大きな音を響かせながら、ザヴィーラの仮面の一部を凹ませる程の打撃を叩きだした。
「ビイイイイイイイィィ!!」
ボルドの一撃に、甲高い悲鳴を上げるザヴィーラ。
すると、その声に反応するかのように、この広い部屋に乱立している幾本もの太い柱に、変化が生じ始めた。
「え、ちょっとちょっと!?」
陽子が辺りを見回しながら、思わず声を上げる。
そこにはザヴィーラの声に応じたかのように、一回り小さいザヴィーラ達が柱に張り付くようにして何体も出現していた。
サイズが小さい他に、色も紫色ではなく黄土色のような色合いになっているが、他の特徴は大体同じだ。
「ビビビビッ!」
「ビビーーッ!」
「ビビビッビビッビッ!」
そしてそれら複数現れた柱のザヴィーラ達は、一斉に口から炎の球を吐き出し始める。
「おわぁ、ちょ、ちょっとおお!?」
これまで紫ザヴィーラを囲んでタコ殴りにしていたメンバーも、この炎の球の弾幕によって、慌ただしく回避行動に移っていく。
「このままじゃあ、ジリ損よ! とにかく柱の顔を潰していかないと!」
そう叫びながら、ようやく覚えた攻撃向けの"雷魔法"を柱のザヴィーラに撃ち込む陽子。
「ここは私も奥の手を打とう。……"天弓"」
エスティルーナが弓系闘技奥義スキル、"天弓"を使用する。
これは空に打ち上げるようにして放った矢が、分散するように空中で無数の魔力の矢へと変換され、範囲内の敵に降り注ぐという技だ。
本来なら敵味方入り乱れる場面で使用するものではないのだが、エスティルーナは器用に敵の悪魔だけに当たるように、範囲を調整しながら複数のザヴィーラに向けて攻撃を当てていく。
「は~い。肉壁さんの出番ですよ~」
芽衣も"召喚魔法"でワイバーンを召喚し、前衛たちが被弾を防げるように配置させていく。
その肉壁の安全地帯を利用しながら、ボルドや信也らが柱のザヴィーラを潰していく。
どうやらこれら柱に現れたザヴィーラは、本体より大分HPが低いらしく、そこまでダメージを与えずとも倒す事が出来た。
感覚的には、これら柱のザヴィーラはボス扱いではなく、ザヴィーラ本体のようなHP補正を受けていないと陽子が予測を立てる。
素早い対処により、柱に現れたザヴィーラの対処を粗方終えた信也達。
それからは再び先ほどまでのような、本体の紫ザヴィーラへの集中攻撃が再開される。
「雑魚を呼び出す系のボスの場合、全部倒してもすぐ復活する可能性がある! その時は俺が注意を引きつける!」
これまで散々ダンジョンのボスとは戦ってきたので、信也も他の仲間達もそれ位の想定は出来ている。
それでもなお柱のザヴィーラを潰していったのは、HPが低い割には吐き出す炎の球の攻撃が本体とさして変わらない威力だったせいだ。
今戦闘中のメンバーなら、一、二発まともに食らった所で死にはしないだろうが、HPや防御力の低いメンバーが攻撃を受け続けると、危険な事にもなりかねない。
それに全部倒してまた復活するにしても、それまでには若干のタイムラグがある。
実際に即座に全復活は出来ないようで、素早く雑魚を全滅させればさせるほど、次に復活するまでのボスフリータイムが稼げるという寸法だ。
「ここは少し無茶をしても構わない! とにかく全力で攻撃をぶつけてくれ!」
信也の指示の下、エスティルーナやボルドが強力なスキルを次々とぶつけていく。ザヴィーラが単体のうちに、ダメージを稼ごうという目論見だ。
そして恐らくはこれまでの中で最高のダメージ効率でもって、ボスのHPがガリゴリと削り取る。
「ビイイイイイイイイイィィィィッ!!」
そこへ再び本体の紫ザヴィーラが大きな叫び声を上げる。
すると、再び部屋内の柱に一回り小さいザヴィーラが幾つも出現する。
その数は一回目の時より多い。
「今だ! 俺に攻撃を集中しろ! "インペリアルガード"」
柱ザヴィーラが呼び出された直後、信也は盾系闘技奥義スキル、"インペリアルガード"を発動させる。
範囲内の魔物のヘイトを大きく稼ぎ、なおかつ使用者の防御力と魔法防御力も大きく上げるスキルだ。
信也の指示通り全力で攻撃をしていた為に、途中で信也からボルドへとタゲが移っていたが、このスキルの使用で一気に信也がタゲを取り戻す。
そして部屋中のザヴィーラ達は、一斉に信也のいる方向へ炎の球を吐き出していく。
「今がチャンスっす!」
「そんな仮面なんて、ケイドルヴァの炎で焼き尽くしてやるね」
「フンッ! 奇怪な仮面など、ワシの斧で叩き割ってくれるわ!」
既に一度経験した事であり、更に事前に信也が攻撃を集めると宣言していたので、他の仲間達の行動も迅速かつ的確だった。
その結果、一回目より柱のザヴィーラの数は増えていたというのに、一回目以上に素早く処理する事に成功。
そして再び、ボス一体のみのボーナスタイムが始まった。




