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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十九章

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第541話 お披露目


 ムルーダ達が新たな従魔をテイムしてから、更に二か月程が経過した。

 その間、第二レイドエリアを探索しながらのレベル上げが行われ、全員のレベルが向上している。


 最初はまだCランクレベルに届いていなかったムルーダ達も、順調にレベル五十を超えて、二つ目の職業を入手できるレベルに達している。

 これは思いの他、その後の成長に大きく関わる事だ。


 レベル五十一になった直後ではDランク冒険者とそう大きく変わらないが、レベル六十位にもなれば、スキルの数や熟練度などといった部分で違いが出てくる。

 それに『ジャガーノート』では、〈八咫鏡(やたのかがみ)〉を使用しているので、更に成長に補正がつくのだ。


「次は六十一層か。そろそろ新しいエリアに到達してもよさそうなもんだが」


 魔法陣を前に推測を立てる信也。

 六十層から下に続く階段を発見した信也達は、北条達へと連絡を取って階段前で待機していた。

 人数としてはほぼフルレイドパーティーで編成していた上に、数の増えた従魔達もいたので、ダンジョン内だというのに辺りは大分賑やかだ。


「そうだね。あれからこの六十層の階段まで辿り着くのに約二か月。まあ僕達は先に進むのを優先してた訳じゃないけど、一つ一つの階層が大分広くなってたからね。そろそろ変化は欲しいよ」


 信也の推測した言葉に、シグルドも同意見だと口にする。

 この二人はレイドパーティー編成では大抵一緒になるので、大分気心も知れてきていた。

 それは何もその二人だけでなく、ヴェナンドやファエルモ。エスティルーナやボルドなど新参組も、このレイドパーティーでの探索によって大分交流が深まっている。


 「冒険者同士が絆を深めるには、一緒に冒険するのが一番」、とは冒険者の間で言われる事のある言葉だ。

 それはまさにその通りであり、共に同じ敵と戦ったり時には助け合ったりすることで、絆はより強く結ばれていく。




 下り階段前で待ち合わせる事数時間。

 ようやく北条達のパーティーと合流し、互いの地図を写し合いながら六十層の地図を埋めていく。

 丁寧に二つのパーティーに分かれて探索していたお陰で、これまでの階層は結構細かい地図が完成していた。


「それじゃあ……、早速次の階層に行こうかぁ」


 北条の言葉を合図に、全員が階段を下りていく。

 これまでもそうだったが、階段を下りるだけでも軽く数十分はかかってしまう。

 この第二レイドエリアの五十一層から六十層までの間で、一体どれだけの深さを潜ってきたのか、想像もつかない程だ。


 しかしダンジョンを潜っているなら、そんな事は一々気にしていられない。

 何故なら、十層近く続いた洞窟エリアの下には、平原が広がるエリアへと通じていたりするからだ。

 まさしく、今北条達が目にしている光景のように。


「お? ようやっと新しいエリアかぁ?」


「あっちには迷宮碑(ガルストーン)もありますよ、北条さん」


 代り映えのしなかった場所から新しい場所へと移り、みんな気分が高揚しているようだ。

 それは彼らの明るい表情からも窺えた。


「見渡す限りの平原……、所々に低木も生え、空は普通の空模様」


「ここならワイバーンを呼び出しても問題なさそうだね」


 十分な空間的広さがあるため、これまで出せなかった巨大な魔物も問題なく呼ぶことが出来る。

 シグルドの言葉を聞いてその事を思い出したのか、ラミエスは早速ワイバーンのワイとバーン。それからマナトレントのマナを呼び出す。


「あ、わたしも~」


 それを見て、芽衣も同じくテイムした魔物を呼び出す。

 芽衣はワイバーンの他に、リードレイヴンとエルダートレントが大きすぎてこれまで表に出せていなかった。

 呼び出された従魔側も、久々の呼び出しに大きく鳴き声を上げたりしたのでテンションが高い。


「オッサンは呼び出さねーのか?」


「ん? ああ、そうだなぁ。俺も出しておくかぁ」


 龍之介に促され、北条もリードレイヴンとグローツラングを〈従魔の壺〉から解き放つ。

 久々に呼び出された二体の魔物は、嬉しそうにその巨大な体を使って感情表現を行う。


「おいおい、そんな暴れるなよぉ?」


 北条に窘められシュンとする二体の魔物。

 体の大きさの割に、そういった所の感情表現はとても素直で子供らしい。


「わははっ。なあに、可愛いものではないか。我も興味本位で一度その壺に納まった事はあるが、あの中にいると暇というか妙な感覚になるのだよ。表で自由に動けるだけで嬉しいという気持ちはよくわかるぞ」


 ヴァルドゥスの話によると、〈従魔の壺〉に納まっている間はぼんやりとした意識しかないらしい。

 そこでは時間感覚も分からず、ただぼんやりと無の空間に揺蕩っているような……。

 肉体も恐らくその壺の中では存在せず、魂だけの状態で閉じこもっているような状態だという事だ。


「そういや爺さんも従魔だったんだよな。なんかすっかりその姿が定着しちゃって忘れてたぜ」


「む、どおれ。久々に元の姿に戻ってみるかの」


 そう言うと、ヴァルドゥスは一人みんなから距離を取る。

 その様子をボーっと見ていた北条だったが、ふとある事を思い出して声を上げる。


「お、おい? ヴァルドゥスちょっと待っ――」


 北条の制止の声も虚しく、久々に人化状態を解いたヴァルドゥスは、あっという間に巨大なドラゴンの姿へと変貌を遂げた。



「げ、げげげっ!」


 その余りの大きさに、龍之介も開いた口が塞がらない。

 これまで巨大な魔物とは何度も戦闘してきた他のメンバーも、これほどまでの大きさの魔物に遭遇した事はなかった。

 そのせいか、一瞬にして場は大きな騒ぎに包まれる結果となる。


 物好きな連中や龍之介などは、『ジャガーマウンテン』のヴィーヴルを見に行った事もあった。

 しかしヴィーヴルは属性竜であり、体長はおよそ十八メートルほど。

 それに比べ、エルダードラゴンたるヴァルドクスの体長は二十五メートルにも達する。


「あわわわわっ……。ちょっと、あれマジヤバイッス!」


「落ち着いてよ兄さん。……でも、確かにあれは凄いわね。ただ大きいだけでなく、存在感……とでもいうのかしら。それが圧倒的だわ」


 ロベルトに比べて落ち着いた様子のカタリナだが、鳥肌が立つのを止められないでいる。


「あのようなドラゴンを下したというのか……」


「今この場にはかなりの戦力が整っているが、ホージョー抜きであれとやれと言われたら、倒せるかどうか危ういな」


「それほどですか、ボルド様」


 ヴァルドゥスの真の姿は、歴戦の猛者たるボルドやエスティルーナをも唸らせる。

 レベルの違いというのは、ただそれだけで他者にこのような印象を抱かせる効果があった。


「……なんかすごい騒ぎになってしまったがぁ、とにかくヴァルドゥス」


【む、どうしたのだ? 我が主よ】


「次からは、元の姿に戻るときは服を脱いでからにしようなぁ……」


【おお、これは済まなかった】


 ヴァルドゥスが変身した辺りには、彼が人化時に身に着けていた服の破片が散らばっている。

 北条を真似て、人化時に使用していたハルバードだけが唯一、辛うじて近くの地面に無事な状態で転がっていた。


「まあ、今更これ以上言っても仕方ない。しばらくはその状態で探索するかぁ?」


【それは我も望むところよ。本当の"ファイアブレス"というものを、ダンジョンの魔物にも見せてくれよう!】


 久々に元の姿に戻ったせいか、やたらテンションの高いヴァルドゥス。

 時間が経過し、周りの状況も落ち着いてきた所で、改めてパーティー編成が行われる。

 といっても大体の構成は変わらずに、数名入れ替える程度だ。


 ただ今回は、ヴァルドゥスが本来の姿に戻ったことで、好奇心を抱いた魔術士連中や龍之介などが、同行したいと言い出し始める。

 基本的に北条と一緒に行動してきたヴァルドゥスだったが、余りの人気っぷりに今回だけは北条と別行動をする事になった。

 その結果、


「……よろしく頼む」


「ホージョーと一緒に探索できるとは光栄だ」


 強さの問題的に、いつも北条とは別のパーティーになっていたエスティルーナとボルドが、ヴァルドゥスの代わりに北条のパーティーに加わる事になった。



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