第540話 新しい従魔達
「それじゃー、おれがテイムしてきた魔物を紹介するぜ!」
あの日ギルドへと出かけていった北条は、結局その日はそのまま拠点に戻る事がなかった。
次の日になってふらりと戻ってきたのだが、その間にめぼしい場所の登録は済ませてきたらしい。
そこからはムルーダ、芽衣、ラミエスのテイム組を【長距離転移】の魔法で運び、新たな従魔の獲得の日々が始まった。
その結果を報告する場として、休日を終えてダンジョンに出発する直前の今、各自がテイムした魔物のお披露目が行われている。
「こいつがクロスケで、こいつがマッシュそんでもって……」
ムルーダが今回テイムしてきた魔物は四体。
どれもDランクの魔物で、魔法を使うダーケストクロウのクロスケに、マジシャンズキャットのシロ。
ビッグマッシュのマッシュに、ガルバトロンのガンバの計四体だ。
「へぇ……。この子はちょっとアレだけど、他の子は可愛いわね」
「え、なんでだよ? ガンバだってかっこいいだろ!」
シィラ的にはガルバトロン以外の魔物は及第点らしい。
しかしムルーダ的には、一番のお気に入りがガルバトロンのガンバだったので、心外といった様子だ。
「ええぇ? だって……なんかいかついじゃない」
「それを言うならマッシュの方がやべーだろ」
ビッグマッシュのマッシュは、マッシュマッシュというキノコの魔物が進化したものだが、マッシュマッシュの愛嬌のある顔と比べ、ビッグマッシュは邪悪な笑みを浮かべたような顔をしている。
正直一番シィラに反対されそうだとムルーダが思ってたのは、このマッシュだった。
「そう? 確かに小憎らしい顔をしてるけど、そこがまた可愛いじゃない」
「まーでも何にせよ、物理系と魔法系が二体ずつで丁度いいじゃねえか」
「そうだね。それにそのシロって魔物は進化すると猫又になるんだよね? それも楽しみだよ」
シクルムは単純に戦力が増えるので喜んでいるし、ディランも仲間が増えるのに否やはない。
「じゃあ次はラミエスのも紹介してもらおうか」
「ん」
ムルーダの従魔の紹介が終わると、次はラミエスの番だ。
彼女は小さく頷くと、〈従魔の壺〉から魔物を解放させていく。
その数なんと八体。
既存のウル、クック、ゴリと合わせると全部で十一体にも上る。
「ワイとバーン」
「GYYAAAAA」
「GYOOOOO」
「マリとマナ」
――ふわふわっ。
――わさわさっ。
「……ハイメ、マージ、プー、ナラ」
「BJ#DCS!?」
「みやあぁぁお」
「…………」
「キエエエェェェエエエッッ」
「以上」
途中で面倒くさくなったのか、早口で残りの紹介をしたせいで、ハイオークメイジのハイメが何か言いたげな様子で魔物の言葉を話していた。
「あ、ああ……」
簡潔なラミエスの紹介に、シグルドも他に言葉が浮かばない様子でただ頷く。
「あぁっと、補足するとだなぁ……」
その様子を見て、一緒にテイムに行った北条が説明を加えていく。
まずは二頭のワイバーンのワイとバーン。
何故かラミエスが二頭テイムしたいと言うので、オスとメスの番をテイムした。
"召喚魔法"だと一度召喚して契約した魔物は、しばらく期間を空けないと同じ魔物と契約出来ないという縛りがある。
しかし"魔物契約"にはそういった縛りはないので、同種でも複数テイムする事は可能だ。
次に、植物の魔法使い系の魔物であるマリモンのマリに、マナトレントのマナ。
マナトレントは《静寂の森》で見つけたのだが、レアな魔物だったらしく、テイムした一体しか発見出来なかった魔物だ。
そしてハイオークメイジのハイメに、マジシャンズキャットのマージ。
ウィクネスプーズーのプーに、ナーラーのナラ。
Dランクの魔物も一体混じっているが、他はC~Bランクの魔物を中心にテイムしてある。
「一気に大分増えたわね……」
やたらと自己主張の強い魔物たちを前に、ディズィーは若干呆れた様子だ。
「これまで新しくテイムする事なかったから、あの三体に強い思い入れがあったかと思ってたんだけど……。これまた随分と様変わりしちまったねえ」
ケイトリンも一度に冒険者パーティーまるまる一つ分以上の戦力が増えた事で、少し戸惑い気味だ。
「うん。ウィークネスプーズーというのは、いい選択だとケイドルヴァは思うよ。ボス相手だと地味に"呪術魔法"は有効だからね!」
リノイのメンバーの中では、ラミエスも"呪術魔法"を取得していた。
しかし"呪術魔法"は試行回数が多いほど、成功する確率も高まる。
なのでボスのような単体を相手にする時には、デバッファーの手数を増やすのは有効だ。
「まあ、それは確かにそうかもしんないけど……。ただ、名前のセンスが相変わらずラミエスよね」
「きっと長い名前だと呼ぶのが面倒なんじゃない?」
「それはあり得るねえ」
「?」
ディズィーとケイトリンが、ラミエスのネーミングセンスについて話す。
しかしラミエスとしては、何故名前の事をいちいち話題に出しているのか理解出来ていないようだ。
「けど……あれだね。今探索してるレイドエリアだと、ワイバーンもそのマナトレントもちょっと出せそうにないね」
ワイバーンは元より、マナトレントも高さ十メートルくらいあるので、幾らレイドエリア仕様とはいえ洞窟タイプの中では小回りが利かないだろう。
「いざとなれば壁に出来る」
「えっ? いや、確かにそういう事も出来るだろうけど……」
テイムしてきたラミエス当人からの発言に、シグルドも何と返せばいいのか分からない。
「おいおい、ラミエス。せっかく捕まえてきたんじゃから、大事に扱ってやらんとな?」
「? 大丈夫。使い捨てにはしない」
ガルドの注意の言葉も、いまいちラミエスには意図が伝わっていないようだ。
しかしラミエスとしても、別に従魔を使い潰すつもりなどはない。
元からいた三体程ではないが、新規組にもラミエスなりに愛情をもっている。
「じゃあ最後はわたしですね~。といっても、同じ場所に行ったから被ってる子もいますけど~」
芽衣がテイムしてきたのは計六体。
ワイバーンのカルビに、リードレイヴンのハツ。
マリモンのカイノミに、エルダートレントのネック。
ウィークネスプーズーのザブトンに、ウィンドカットのセンマイの六体となる。
「……なんか知んねーけど、名前を聞いてたら腹が減ってきたぜ」
「あぁ……。久々にカルビ食いてえなあ」
この世界の人には馴染みのない名前のはずだが、ムルーダは何故か食欲を刺激されたようだ。
それを聞いて、龍之介が日本の焼き肉屋に行った時の事を思い出す。
「え!? おまえ、メイのワイバーンを食うつもりなのか!?」
「い、いや、そーゆーんじゃなくてだな……」
慌てた龍之介が、芽衣の従魔の名前の由来を説明する。
「ふうん、そういう事だったのか」
「まあ俺もよく知らない肉の部位もあるけどよお。芽衣って意外と肉食系女子だったのかあ?」
「なんにせよ、変わった名前のセンスしてるよな」
ヒソヒソと話している龍之介とムルーダ。
他の異邦人にも芽衣の付けた名前の意味が通じていたが、シグルドなどの現地人には結局変わった響きの名前という印象だけが残る結果となった。
今回は三人共それなりの数をテイムする事になったが、それでもまだテイム出来る枠には全員余裕がある。
しかし一体いるだけで大分助かる、回復系の魔物の生息地が今回は掴めなかった。
なので今後の編成の余地を残す為にも、適当な所で帰還している。
ちなみに北条については、他の三人に予備用に作っていた〈従魔の壺〉を渡してしまったので、今回はテイムせずにただ付き添いするに留まった。
また〈従魔の壺〉を作成したら、テイムツアーが行われる事だろう。
「よおし、それじゃあ一旦従魔を壺にしまって、ダンジョンに向かうぞぉ」
「おおぉ! やあってやるぜえ!」
新しく従魔をテイムしたムルーダの、やる気に漲る声が拠点に響き渡る。
丁度今彼らが探索しているのはレイドエリアであり、テイムしたばかりの魔物たちのレベル上げにも持ってこいだ。
『ジャガーノート』による第二レイドエリアの探索は、まだまだこれから始まるのだった。




