第53話 現在のステータス
「みなさん、精がでますねえ」
資料室の扉を開け、中へと入ってきた男はそのようなのほほんとした声を掛けた。
既に幾人かは気づいていたようだが、その声で初めて気づいた者もいたようで、幾つかの視線がその男――ジョーディへと向けられる。
「ああ、この資料室はいいな。色々と知りたいことも調べられるし、何よりここの司書であるシディエルさんには魔法の講義もしていただいた。本当に感謝している」
「なるほど。シディエルさんはかつて冒険者として活躍していた魔術師ですからね」
信也のその言葉が聞こえたのか、シディエルは照れ臭そうな表情に変わり、余計その悪霊じみた人相が凶悪になっていた。
そしてジョーディはシディエルとは知己だったようで、軽く右手を前にだし挨拶を交わしていた。
「ギルドマスターとの話に思いのほか時間を食ってしまったので、みなさんが待ちくたびれているんじゃないかと心配してましたが、この様子だとそんな心配はいらなかったようですね」
ジョーディが室内を見渡すと、ジョーディの来訪より目の前の書物といった様子で、各々読書を続けていた。
特に北条などは、次から次へと本を引っ張り出し、パラパラとページをめくっていったかと思うと、すぐさま次の本へと移っている。
何か気になることでも調べているのか、その作業を延々と繰り返しているようだ。
「ああ、そうだな。流石に日も暮れ始めたので、そろそろここをお暇しようかとは思うけどな」
「なるほど。ギルド自体はもう少し遅くまで開いてますが、こちらの資料室は日が暮れたら閉めてしまうので、丁度いいですね」
しかし資料を読んでいる途中の者達からしたら丁度いいということはなく、二人の会話を聞いて慌ててページをめくったりメモをまとめたりし始めた。
北条もようやく探していた情報がみつかったのか、何やらそのページを開きながらメモを取っている。
ほどなくして、資料室を閉めるということで情報の海から抜け出した彼らは、ギルドを立ち去った。
暮れかけた夕日に目を細めながら、街の喧噪をBGMに宿への帰路につく。
街は一見平和そのもので、仕事帰りの労働者を呼び込む定食屋や酒場の呼子の声がどこからか聞こえてくる。
中には家に帰る途中なのか、子供達の姿もチラホラと見受けられる。
周囲には大人の姿はなく、この街では夜中はともかく夕方までなら子供達だけで出歩いても問題はないという、街の治安の良さが窺えた。
そんな異国情緒あふれる街並みを眩しそうに眺めながら歩いていた信也は、突然前を歩いていた北条が足を止めたことで、思わずぶつかりそうになってしまった。
「っと……。突然立ち止まってどうしたんですか、北条さ……」
そう呼びかけた信也は、北条が普段見せることのない固い表情をしているのに気づき、言いかけた言葉を思わず飲み込んでしまう。
その視点はどこか一点を見ているようだったが、信也には何を見てそのような反応を示しているのかは判別がつかなかった。
そしてその表情は一瞬後にはいつもの表情に戻っており、
「ああ、すまんなぁ」
と短く謝ると、すぐにまた何事もなかったかのように歩き始める。
他にこのやり取りに気付いた人はいないようで、仕方なく信也は再び街の喧噪を楽しみながら歩きはじめた。
▽△▽△▽
《森の恵み亭》へと帰ってきた一行は、積もる話をしながら食事に舌鼓を打った。昼間食べた定食とは異なり、量より質といったその内容は、木の実やキノコ、それから野草などをメインにしたメニューだ。
龍之介や由里香などのお子様組は肉がないことにご不満だった様子だが、その素朴な自然の味に大人達は概ね満足していたようだ。
食事が終わると、示し合わせたようにひとつの部屋に集合し、恒例の会議が開かれることになった。
恒例といっても、今日のように大きな出来事があった時のみの開催なのだが、こちらに来てから日が浅い彼らにとっては、話し合うことは次々と生まれていた。
その結果、会議が開かれる割合も多くなってしまっている。
今日はジョーディもはじき出して、異邦人十二人だけでの話し合いだ。
「――という訳で、今後冒険者をしていく際のパーティー分けを決めようと思う」
信也の仕切りで始まったのは、本決まりではないが、とりあえずといった感じでパーティーを二つに分けるという話だった。
〈ソウルダイス〉によるパーティーの定員が最大六人なので、丁度二組のパーティーを組むことになる。
「その為にはまずみんなの情報を把握しないといけない。どうしても隠したいスキルがあるなら無理強いはしないが、できればレベルと職業など知られても影響が薄いものは提示してほしい」
信也の呼びかけに応え、各々がギルド証を手にあれこれと操作をし始めた。
この手の話はすでに何度もしているためか、初期の長井のように無駄に反抗する者は最早いない。
次々と提示されるギルド証の情報を、信也は一枚の羊皮紙に順に記していく。
最後に自分のギルド証の情報を写し取ると、みんなの見える場所に羊皮紙を置く。
当然みんなの注目はその羊皮紙へと集中する。
そこには以下のように書かれていた。
≪ケイスケ アシカガ 11歳 男 人族≫
≪レベル:6≫
≪職業:水術士≫
≪スキル:ガルスバイン神撃剣、水魔法、魔力操作、水の友≫
≪ヨウコ サトミ 26歳 女 人族≫
≪レベル:3≫
≪職業:結界付与魔術士≫
≪スキル:アイテムボックス、結界魔法、魔力操作、付与魔法≫
≪メアリー ホソカワ 32歳 女 人族≫
≪レベル:3≫
≪職業:回復術士≫
≪スキル:回復魔法、メディテーション、癒しの祝福、魔力操作≫
≪ミチコ ナガイ 24歳 女 人族≫
≪レベル:1≫
≪職業:ローグ≫
≪スキル:非表示、非表示、罠感知、罠解除、罠設置 罠調査 鍵開け≫
≪リュウノスケ オオタ 17歳 男 人族≫
≪レベル:7≫
≪職業:剣術士≫
≪スキル:非表示、剣神の祝福、剣術、スラッシュ、パリィ、器用強化 軽装備≫
≪ヒロアキ イシダ 28歳 男 人族≫
≪レベル:5≫
≪職業:闇術士≫
≪スキル:非表示、闇魔法、魔力操作、闇耐性≫
≪シンクロウ ホウジョウ 33歳 男 人族≫
≪レベル:7≫
≪職業:混魔槍士≫
≪スキル:成長、ライフドレイン、槍術、光魔法、身体能力強化、敏捷強化、風魔法 魔力操作 軽装備≫
≪メイ ナガオ 14歳 女 人族≫
≪レベル:6≫
≪職業:召雷術士≫
≪スキル:召喚魔法、雷魔法、魔力操作、従属強化≫
≪サクラ イマガワ 16歳 女 人族≫
≪レベル:5≫
≪職業:四大魔術士≫
≪スキル:神聖魔法、エレメンタルマスター、魔力操作、火魔法、水魔法≫
≪カエデ モモチ 20歳 女 人族≫
≪レベル:3≫
≪職業:下忍≫
≪スキル:非表示、影術、罠感知、罠解除、罠設置、罠調査 危険感知、忍術 鍵開け 軽装備≫
≪ユリカ タケダ 13歳 女 人族≫
≪レベル:6≫
≪職業:格闘家≫
≪スキル:身体能力強化、筋力強化、格闘術、ステゴロ、体力強化、ジャブ 軽装備≫
≪シンヤ イズミ 27歳 男 人族≫
≪レベル:6≫
≪職業:光剣士≫
≪スキル:剣術、光魔法、スラッシュ、光剣 軽装備≫
今までの経験と転職によって、初期状態から大分変化を遂げていたが、中でも北条、楓、陽子、咲良が新しく魔法スキルを覚えたことが大きな変化だ。
他には主に前衛で戦っていたものには共通して"軽装備"というスキルが生えていた。
これらスキルの一覧を見る彼らは「オッサン、シンクローって名前だったのかよ!」とか「なんで今川とオッサンはいきなり魔法スキルを二つも覚えたんだ」だとか、「そもそもオッサンの職業、なんなんだよそれ」などと……若干一名の声だけが妙に響いている気もするが、好き勝手感想を言い合って止まりそうにない。
そんな中、北条のステータスを見て、
「三十三歳……、それに…………」
と呟くメアリーの声は周囲の喧噪に消されてかき消えた。
「ほらほら、感想とか雑談はその辺までにしておいてくれ。一先ずはこれを参考にパーティーを二つに分けようと思うのだが、その前に効果がよく分からないスキルもあるので、その紹介を先にしてもらおうか」
新しく取得したスキルは字面だけで何となく効果が予想できるものから、そうでないものまで様々だ。
効果がはっきりしないまま割り振るのも情報共有した意味が薄れるので、きちんとその辺をはっきりさせる必要があるのだった。




