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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第三章

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第51話 シディエルの魔法講座 その1


「失礼します」


 律義にそう言葉を発しながら扉をくぐる信也。

 その部屋は一般的な日本の学校にある図書室の半分位の広さをしており、棚にはこの世界で初めてみるほどたくさんの本が並べられている。

 とはいっても、半分程は机と椅子で占められており、棚もぎっちり埋まっている訳ではなく、この程度の蔵書数なら日本では一般人なら同程度所有している者もいるだろう。


 入口付近にはカウンターが設置されており、そこには司書らしき職員の男性が何やら書き物をしていた。

 余りに熱中していたのか、信也達が入ってきたことにすぐには気づかなかった様子だが、次々と十三人もの団体が入ってきたことで、流石に事態の変化に気付いたようだった。


「む、何じゃお前さん達は。頼んでいた写本作成の助手か?」


 その職員の男性はしわがれた声でそう尋ねてきた。

 他の職員とは違い、黒いローブを身にまとい室内なのになぜかフードまで被っている。

 そして、その声からも分かるように大分年を召しているようで、フードの隙間から覗く顔には多くの皺が刻まれていた。


 不揃いで時折抜け落ちた歯を見せながら、しかめっ面をしているその男性はなかなかの凶悪顔をしており、思わず咲良が「ひぇっ」と声を上げるほどだった。


「あー、シディエルさん。この方たちは助手ではなく資料室をご利用の冒険者の方達ですよ。ですので、今は写本作成より司書としての仕事をお願いしますね」


 そう言うなり案内してくれた職員は道を引き返していく。

 シディエルは去っていく職員から早々に目を移し、信也達の姿を一瞥すると、


「ふむ。今どき資料室を利用するとは、感心なことじゃな。どれ、調べたいことがあるなら儂も手伝ってやるぞ」


「え、あ、それじゃあ魔法やスキルに付いて調べたいのですが、その辺について記された資料はどこら辺でしょうか?」


 その強面とは裏腹に、孫を可愛がるジーサンのように協力的な様子のシディエルに向けて、信也がここへ来た当初の目的を告げる。


「魔法とスキルか……。どういった事情かは知らぬが、詳しく話してもらえれば儂が力になるぞ?」


「えーと、その俺達は魔法スキルを得たのはいいものの、どんな魔法があるのかとか、魔法とはどういったものなのかをよく知らないんです。スキルについても同様で、どんなスキルがあるのかも分からない有様で……」


「ほーほー、なるほどのお。よし、わかった。では元Dランクの魔術師である儂自ら魔法について教えてやるぞ。スキルに関してもある程度は知っておるが、そちらの方にある……あの本がやたら詰まっておるのが魔法関連の本棚で、その隣の棚にスキル関連の本がまとめられておる。スキルに関してはそちらを見てみるといいじゃろう」


 そういってシディエルは本棚を指差した。

 そこにはギッシリと本が詰め込まれており、他の棚に比べてもその部分だけが妙に資料が充実しているようだった。

 早速龍之介と由里香、それから長井がそちらへと向かう。


「それで、魔法についての話じゃったな。あー、魔法というのはじゃな……」


 と言いかけた所で、何故かシディエルの言葉は止まる。

 その視線はその場に残っている九人へと注がれていた。


「む、スキルより魔法についての話が気になるのか? というか、お主らの中で魔法スキルを使えるのは誰なんじゃ?」


「僕は"水魔法"です」


「私は"回復魔法"です」


「俺は"光魔法"だ」


 と順番に告げていく内に、シディエルが困惑したように遮った。


「ちょ、ちょっと待たんか。ここに残っている九人、全員が魔法スキルを持っているということか?」


 慌てた様子のシディエルにそうだと返事を返す信也達。

 しかし一人だけ返事をせずに、逆に質問を返す者もいた。


「あ、あの……"影術"と"忍術"って魔法に含まれるんですか?」


 その楓の質問に、驚きの連続で口が開けっ放しになっているシディエルは、軽く指で目頭を押さえる仕草をすると、一息ついたあとにその質問に対して答え始める。


「……そうじゃな。"影術"という名称であるが、影魔法という魔法スキルは確認されていないので、"影術"も魔法というくくりになっておる。"忍術"もまた同様じゃ。魔法と術で異なるのは、魔法は魔法名を発音する必要があるが、術はその必要がないということじゃな。……しかし、所有者が少ない"影術"だけでなく、この大陸では所有者が極端に少ない"忍術"まで所有しておるとは驚きじゃ……」


 驚きの余り口を開けすぎて、顎がはずれないか心配になるレベルのシディエル。

 しかし、異邦人達のターンはまだまだ続く。

 石田はこの場では自らの魔法スキルを明かさなかったが、陽子の"結界魔法"と転職によって新しく取得した"付与魔法"。


 芽衣の"雷魔法"と"召喚魔法"、咲良の"神聖魔法"と転職で覚えた"火魔法"と"水魔法"。

 北条も"光魔法"と"風魔法"を覚えたようで、全員の申告が終わった時点でシディエルは驚きの余り息が止まりかけていた程だった。



「お、お主ら一体何者なんじゃ……」



 思わずそんな言葉が出てくるほど魔法スキルの多さ、そして希少さに驚いたようだ。

 しかし驚いてばかりではいられない。

 信也達が魔法スキルを明かしたのも、そもそも明かさないと魔法について教わりようがないからだ。

 一度目を閉じ独特な呼吸法で息を整えたシディエルは、大分落ち着きを取り戻した様子で魔法の授業を再開した。


「んむ、ではまずは基本的なことから伝えていこうかの。魔法というのは、そもそも魔法スキルというスキルの一種じゃ。通常のスキル同様、それを取得した者はそのスキルの名称と、漠然とした使い方が脳裏に浮かぶはず。他のスキルならばそれだけでも良いのじゃが、魔法スキルに関しては、使いこなすためにその魔法スキルのことをより詳しく理解しなければならないのじゃ」


 例えば"火魔法"であるならば、炎を生み出す【イグニッション】などは感覚的に使用出来る者は多い。

 しかし【フレイムウィップ】という炎で出来た鞭で敵を攻撃する魔法などは、そういった発想そのものを思いつかなければ使用することもできない。


 それに、基本的な魔法ではなく【フレイムウィップ】のような少し高度な魔法の場合は、ちょっとやそっと練習した位で使いこなせるものでもない。

 その結果、こういう魔法は"火魔法"ではできないんだと思い込んでしまい、その人の魔法の可能性を狭めてしまう。


「そういった事態に陥らぬためにも魔術士は幾つか策を講じてきた。魔術士ギルドを結成したのもそのためじゃな。魔法の私塾を営む者や、もっと大規模に魔法学園などを運営してる所もある。徒弟制度もそのひとつだろう。だが悲しいかな、魔術士は己の技術を秘匿する者が多い! 弟子が大量におるのに、もったいぶって魔法を伝授しないままぽっくり逝きおるボケカスや、魔法ひとつ教えるのに一金貨よこせなどと言ってくる強欲ジジイ。それから――」


 よっぽど鬱憤が溜まっていたのか、その小言はいつまでも続くかと思われたが、シディエル自身が大分歳をとっているせいか、その怒りを継続する体力がもたなかったようだ。

 少し荒くなった息を整えるように、司書机の上にあった水差しから直接口をつけて飲み始める。


「ぐぷ、うく、ぷはぁ。っと、すまんのお。少し興奮してしまったようじゃ」


「い、いえ、あのそれで魔法スキルをつかいこなす方法について詳しく聞きたいのですが……」


「ん、そうじゃったな。では簡単に説明しよう。魔法スキルを使いこなすのに必要なものは、まず基本となる"知識"。それからその知識を基にどういった魔法を発動させるかの"閃き"。そして、次にそれらの発想を形にする"魔力操作"と"イメージ力"。あとは最後に諦めない心じゃな。これは決して根性論などといったものではなく、魔法に関しては本人が出来ないと思ってしまっては、絶対に出来なくなってしまうのじゃ。もし現在は使うことができなくても、今は腕が足りないだけ、そう思って決して諦めてはいかん」


 なんとなくわかったような、わからないような。

 まだ魔法を使えるようになってから日が浅い彼らには、いまいちピンときていない様子だ。


「まあ、確実なのは先人の知恵の結集によって体系化された『基本魔法』を覚えることじゃな。これは魔法の教科書に使用されたり、街の本屋や図書館などで探せばそこそこ見つかるじゃろう。等級によって分けられてもいるし、とりあえず使える魔法を増やしたいなら『基本魔法』じゃな」


「ええと、幾つか気になる所があるんですが『基本魔法』というのがあるのなら『応用魔法』などもあるんですか? それから等級によって分けられていると言ってましたが『等級』とはなんですか? あと、実際に本屋で『基本魔法』の本を買うとしたら幾ら位になりますか?」


 細かい契約の確認のミスが大きな損失となることもあったので、こういったことについて信也は妙にうるさい。

 性格的な几帳面さもあるのかもしれない。


 ビジネスの場ではともかく、私生活の場においてはこういった信也の性格は面倒に思われることもままあったのだが、シディエルは熱心な生徒を見るような瞳で信也を見つめていた。

 正直いって怖い、そう思い反射的に顔を背けようとしてしまった信也だったが、寸での所で留まりその視線を受け止めた。


「おおう、おおう。質問大いに結構じゃ! どれ、ひとつひとつ答えていくとするかのう……」


 どうやらシディエル爺さんの魔法授業はまだまだ長引きそうであった。





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