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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十六章

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第445話 四将軍と宮廷魔術師


「間違いなく本陣には参加しているだろうが、田舎の町や村の攻略に差し向けるかまでは分からぬ」


 まずマデリーネが話したのは、実際にこの町が攻められたとしてそこに英雄が含まれているかという話だった。


 通常であれば、下手したら一人で村を制圧できるレベルが英雄というものだ。

 一般兵に加えてそのような英雄を出しては、普通なら過剰戦力も良いところだろう。


「でもでもぉ、今ここは冒険者もたくさんいるしぃ、英雄の一人や二人参加しててもおかしくなくない?」


「……そうか、それもあるか」


 当初はその規模については触れられていなかったが、今ではユーラブリカの《ブレイヴキャッスル》以上の規模のダンジョンとして、《サルカディア》の名は広まってきている。

 その謳い文句に釣られてこの地を訪れる冒険者は多い。


 とはいえ、この度の内乱にそうした冒険者たちが参戦するかといったら微妙な所だ。

 元々このグリーク領内で生まれ育った者は、声を掛けずともグリーク辺境伯に付いて貴族派と戦ってくれるかもしれない。

 それだけグリーク辺境伯は民にも冒険者にも慕われている。


 《鉱山都市グリーク》の冒険者たちは、エスティルーナを除けばライオットらのCランクが最高ランクだ。

 よその街から短い間Bランク冒険者が訪れることはあったが、高ランクの依頼が発注されることも殆どないので、常駐する高ランク冒険者はいなかった。


 なので実際の所、当てに出来る冒険者の戦力は大したものではない。

 しかしながら、攻める側としては実際にどれだけの冒険者が動くのかが想定出来ない以上、ある程度の戦力を出してくる可能性はある。



「では英雄が参加するとして、この国で英雄として知られているのはそう多くはない」


 冒険者でもBランクまではそこそこ見かけることはできるが、Aランクとなると途端に数が少なくなる。

 Aランク級の強さが基準となる英雄となると、国全体でもそう多くはないようだ。


「その中でもまず有名なのは、四将軍だろう。第一軍団長アンブロスシウス・ファルンバリ、副団長のリニュス・リーフェフット。それから第二軍団の軍団長であるシャルル・バレットに、副団長のヨーリス・ボート。この四人は英雄クラスの力を持つと言われている」


「その四人とも敵に回るということか?」


「いや。ファルンバリ卿はまさに騎士のお手本となるような素晴らしい御方で、王家派閥に属しているので敵対することはないだろう」


「他はどーなんだ?」


 ムルーダが質問すると、マデリーネは少し考えてから口を開く。


「ボート卿は王国最強の剣士と謳われていて、平民出身でありながら準男爵の爵位と家名を授かった御方だ。本人の人となりは真面目で実直な方だと伺っているが、特にどの勢力でもない中立派でもある。立場的に貴族派に付いている可能性はあるだろう」


「……残りの二人は?」


「そちらはずぶずぶの貴族派だ。まず間違いなく敵として対峙することになる」


「最悪の場合四人中三人が敵に回るということか」


「はぁ、この国って思ってた以上に危うかったのね」


 陽子は思わずため息を吐く。

 これまでグリーク領以外の領主の話などは、町中や冒険者などから耳にしたことはあった。

 そうした話を聞くたびに「酷い領主がいたものね」と、どこか他人事のように思っていた陽子。

 まさか横暴な悪徳貴族がこれほど蔓延っているとは、思いもしなかった。



「その三人が敵対するとして、軍団長ということは三人共前衛なのか?」


「うむ。一つか二つくらいは魔法スキルを覚えているかもしれないが、少なくともメインは武器で戦う方が専門だ」


 マデリーネも流石に詳しい能力までは知らないらしい。

 ただボート卿に関しては、完全に剣一本で戦うタイプだという話だ。


「魔法を使うタイプの英雄というのはいないのか? 国では魔術士部隊というのも組織しているんだろう?」


「勿論、いる。とはいっても魔術士部隊の隊長となると、私も詳しくは知らぬ。もしかしたらそうした者の中にも英雄クラスが混じっているやもしれないが、私が知っているのは宮廷魔術師だけだ」


「なるほどね」


 その説明を聞いて納得顔のシグルド。


 宮廷魔術師とは国が直接管理している、国内の魔術士達の頂点とも言える存在だ。

 宮廷という名称とは裏腹に、戦争ともなれば前線に引っ張り出されてその国の威容を示すことになる。

 そのため貴族などは実力がなくともその地位に就くことは往々にしてあるが、宮廷魔術師になるには実力を示す必要が出てくる。


「我が国の宮廷魔術師は第一席から第十二席まで存在し、数字が低い方がより上位となり、魔術士としての実力が高くなる」


「その十二人全員が英雄クラスなのか?」


「それはどうだろう? 少なくとも上位四席は私も噂を耳にしたことがある位だし、実力は確かだと思う」


 帝国のようにしょっちゅう戦争をしている国の宮廷魔術師は、実際に戦場でその腕を多くの人に見せつけているので、広くその名と実力が知られている。

 しかしロディニアではそういった機会も少ないので、余り一般にその名が知られていなかった。


「その上位四人はどういった人物なんだ?」


「第一席のファトクーリン卿は、先代の国王陛下の時代から国を支えて来られた方で、王家派に属しておられる。大分ご高齢であるが、騎士と違って魔術士は少々の年齢などは関係ないので、まだ現役であられる」


 実際には騎士や戦士であろうと五十過ぎて強い者も存在するが、やはり身体能力は全盛期よりはどうしても衰えてしまうものだ。

 それに比べ、魔法を扱うための魔力そのものは加齢で衰えることはない。


「次に第二席はレヒーナ・パレスという貴族派の女性魔術士なのだが、彼女については良くない噂を耳にする。曰く、悪魔と契約をしているだとか、彼女の住む屋敷に向かうと言ったまま帰ってこない者が多数いるだとか」


「なんだそりゃあ? そんな奴が宮廷魔術師なんかやってんのか?」


 顔を顰めてムルーダが問いかける。


「無論調査もされたことはあるらしいのだが、特に何も見つからなかったらしい。それどころか、そういった噂の出どころとなった平民の一人が逆に投獄されたという話だ」


「きな臭い話だな……」


「そうだな。噂が事実であるかどうかは不明だが、彼女も貴族派の貴族であり、自領では大分好き勝手やっているらしいので、そうした背景が噂を生んだ可能性はある」


 マデリーネはそういった貴族に対して嫌悪感を抱いているようで、淡々と説明しようとしているのだが、どうしても声に感情が出てしまっていた。


「それで残りの第三席と第四席の宮廷魔術師だが、実は余り詳しくは知らない。第三席はオロフ・エーベルゴードという中立派の方で、第四席が確か……えい、えい……」


「エイベル・ホルボーン?」


「そうそう、そんな名前だった。そちらは確か貴族派だったと思う」


 これまではスラスラと名前も出たマデリーネだったが、宮廷魔術師に関しては余り詳しくは知らないらしい。

 最後だけはアリッサの力を借りて思い出していた。


「中立派と貴族派ということは、宮廷魔術師の上位四人も四将軍同様に、四人中三人までが敵となる可能性があるという訳か」


「そういうことになるな」


「一辺に襲って来るわけではないだろうけど、大分厳しそうね……」


 改めて敵の戦力を聞くと、このままでは王家派に勝ち目があるのか不安になってくる。

 陽子の言葉は、この場にいるみんなの気持ちが代弁されたかのようであった。



「……でも話はそれだけじゃないよね」


 重い空気の中シグルドが発言する。


「どういう事だ?」


「『メッサーナ商会』の話では、貴族派は前々から傭兵や冒険者を雇い入れているって話だった。そうした連中の中にAランク級の人が混じっててもおかしくはないってことさ」


 信也が尋ねると、シグルドが更に空気が重くなる内容を話し始める。

 シグルドとしてもわざと空気を重くしたい訳ではないのだが、このことに関して見て見ぬ振りで判断を間違える訳にもいかない。


「確かに……その通りだろう。それに他にも私の知らない強者が、軍関係者の中にもいるかもしれない。私が知るだけでも、トルーマン卿のように英雄クラスには届かずとも武勇の誉れ高い方は多く存在している」


 英雄には届かない準英雄クラスであっても、実力的にはシグルドらと同等ということになる。

 もっともそこまで気にし始めたらキリがなくなってくるので、ここでそれ以上追求しても時間の無駄だろう。



「……よし、分かった。戦の勝敗を左右する英雄についての話を聞かせてもらい、今後の俺達の方針が幾つか浮かんできた」


 終始何事かを考えながら話を聞いていた信也が、淀みない口調でそう言い放つ。

 信也の声には自信といったものを感じられず、かといって不安も感じられず。

 そこにはただ、冷静に状況を判断したような理知的な表情をした信也の姿だけがあった。



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