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第5話 魔法の小袋


 突然の事に驚く一同であったが、そういった周囲の反応を意に介さずに「なるほどな」と信也が軽く呟くと、次の瞬間には再び手の上にあった紙は姿を消す。

 それから更に二度ほど紙が出現したり消えたりが繰り返された。


「わっわっ! それってもしかして魔法の鞄って奴ですか!?」


「……良くは分からないが、恐らくは今川さんの言いたいことは概ね合っていると思う」


 興奮した面持ちで話しかけてくる咲良にいささかあやふやに答える信也。

 このような不思議な物があれば興奮するのも無理はないが、実は咲良は龍之介ほどではないが、近頃の異世界ファンタジー作品を幾つか読んでおり、密かに憧れていたりもする。


 思わず口から漏れた「魔法の鞄」というのもそういった作品のひとつである「異世界で丁稚奉公に出された俺が魔法の鞄で成り上がり!?」という作品に出てくる無限に収納できる魔法の鞄のことだ。

 ただ、信也が手にしているのは、どうみても鞄といった様態ではなく、ただの袋……それも小袋なので、魔法の鞄ではなく魔法の小袋という方が正しいだろう。


「んー、その魔法の鞄? って何なんっすか」


 先ほどの不思議現象をキラキラした瞳で見つめていた由里香が純粋な質問を投げかける。その質問に対し、


「それはこの袋に手を入れてみればわかるよ」


 とだけ告げて由里香に小袋を渡す信也。

 早速由里香はその袋に手を無造作に突っ込むが、その手が袋の内部をわさわさと探るだけで、これといった反応は返ってこない。

 やがて、


「袋には何も入ってないみたいっすけど、これってつまり手品ってことっすか?」


 と逆に尋ね返してくるのを聞いて、信也はおや? っと思った。


「あれ、袋に手を入れても何もないのか? 何かイメージが頭の中に浮かぶというか……」


「いえ、そんなことないっす」


「む、そうなのか。ちょっと今川さんも試してもらっていいかな?」


 その信也の言葉を受けて、由里香が咲良に袋を渡す。

 受け取った咲良も同じように袋の内部をがさごそと動かすが、やはり反応は芳しくない。


「どうやら俺以外の人には、単なる小さい袋としか機能しないようだな」


「ちなみに和泉さんは、袋に手を入れるとどうなったんですか?」


 結局何の反応もなかった袋を信也に返しながら咲良が尋ねる。


「俺か? 俺の場合は袋に手を入れた瞬間に幾つかのイメージが脳内に広がった感じだな。それらのイメージは、どこか別の宇宙空間のような場所に漂っているようで、意識すればひとつひとつを明確に把握できるようだ」


 まあこればかりは口で説明するよりは実際に体験できればよく分かるんだろうけどな、と付け加えた信也は更にこの袋の機能についての説明を続ける。


「それと同時にこの袋の使い方というのも自然と理解できた。この袋に触れた状態で先ほど浮かんだイメージ……さっき試したのは紙なんだが、それを任意の場所に取り出したいと念じると、その場所に念じたものが現れるようだ」


「おおおっ! マジっすか? それは凄いっす!」


 信也の説明を受けて、興奮する由里香とは対照的に咲良は「直接取り出すタイプではなく、瞬時に呼び出すタイプ……そうなると色々と使い道があるのかも?」などと、ぶつぶつ何やら呟いている。


「そうだな、こうして直接魔法的なものに触れると、ここが今までいた場所とは異なるのだということがよく分かる。それでこの袋だけど、取り出すときは個数を指定して出すこともできるみたいだ。ちなみに収納する際は、片手で袋に触れつつ収納したい物をもう片方の手で触れて"収納"と意識すればしまうことができるようだ」


「それってとっても便利だね~」


「便利どころじゃないよ芽衣ちゃん! これがあれば毎日手ぶらで登校できるよ!」


「たしかに~、それは楽でいいわね~」


「あ、ところで和泉さん。かんj……」


 などとピントの外れた会話をしてる二人を尻目に、ぶつぶつ呟いていた咲良が何かに思い至ったようで、信也に問いかけようとしたその時。


「おおぉ!? 開いたぞー!!」


 という声が部屋に響き渡った。

 信也や咲良たち四人以外の面々は各々箱を調べているようで、先ほど上がった胴間声もその中の一人のようだ。

 その声の主――龍之介は喜々とした表情で箱を開け始める。


 それからそう時を空かずして、他にも箱を開けたものが数名現れたようで、その光景を眺めていた信也は「そういうことか」と小さく呟いたかと思うと、箱の中身を回収して他の者達との中心辺りの位置に移動し始めた。

 近くにいた三人も何とはなしにその後をついていく。

 やがて移動を終えた信也は、


「皆、聞いてくれ! どうやらこの十二個ある箱は我々十二人にそれぞれ対応した人物にしか開けられないようだ。箱をまだ開封できてない人は未開封の箱をかたっぱしから開けられるか試してみてくれ! 開封できた人は中身を回収してこちらに集まってもらえないか? 全員集合した時点で情報の撚り合わせをしたい」


 信也の声を聞き、各々がその意に従って行動しはじめる。

 反抗的な態度や非協力的な者も、現状では無意味に逆らう意味を見出さなかったのか、大人しく従っているようだ。

 最も、それは集団行動に流されたり事なかれ主義の趣がある日本人らしさが現出したりしただけなのかもしれない。

 やがて全員が箱の中身を回収して一か所に集まると、信也は箱の中身について話し始めた。


「皆きちんと回収はできたようだな。既に知ってる者もいるかもしれないが、俺の方で得られた情報を説明する」


 と、一同の持つ"箱の中身"を見渡す信也。

 小さな袋と短剣は皆が共通して持っているようだが、信也のように更に別の装備を持っている者も幾人かいるようだ。それらをざっと確認すると再び続きを話し出す。


「どうやら共通して入っていたのはこの小さな袋と短剣だけのようだな。俺の場合は更に西洋風の剣と短い杖が追加で入っていた。見たところ他にも剣や短杖が入っていた人もいるようだな」


 具体的に見てみると、

 信也が西洋剣と短杖。

 メアリー、石田、慶介、陽子、芽衣、咲良が短杖のみ。

 龍之介は信也と同じような西洋剣が入っていた。

 そしてここからが少々変わり種が入っていたようで、

 楓は忍者映画に出てきそうな苦無が二本。

 そして由里香の開けた箱には、拳にはめて攻撃力を増すための装備。

 所謂ナックルとかメリケンサックとか呼ばれるものが入っていた。


 無骨でゴツイ見た目の装備だが、気に入ったのかすでに由里香の両拳にはその物騒な武器が装着されていた。

 あまり今どきの女子中学生に馴染みのある武器とは思えないが、軽くシャドーボクシングのようにパンチを繰り出して使い勝手を見ている様子からして、その用途はきっちり理解しているらしい。

 それら各自の中身を確認したメアリーは、至極当然な疑問を口にした。

 ちなみに北条と長井は小袋と短剣しか入っていなかったようだ。


「あのー、人によって中身が違うようですけど何故なんでしょうね?」


 その質問に幾人かは僅かに反応を見せたが、即座に答えを返す者はいなかった。

 十秒ほどの沈黙の後に言葉を発したのは、手にしていた蛙の代わりに箱の中身である短剣と小袋を手にした北条であった。


「そりゃー、まあそれは見ての通りだろうなぁ」


 となんとも曖昧な口を切り出した北条に一瞬胡乱な視線を向ける者もいたが、続く言葉には十人十色の反応があった。


「最初に指定した二つのスキルによって、箱の中身が決まったんだろうよぉ」


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