第433話 廃墟
『サムライトラベラーズ』が初見殺しエリアの五十層に転移すると、少し遅れたヴェナンドらも転移してくる。
彼らは今までと違う周囲の風景に、興味深そうに辺りを眺めていた。
「こいつは……街か?」
「もう何百年も前に滅んだような感じだね」
ヴェナンドとファエルモが率直な感想を漏らす。
二人の言うように、周囲には石造りの建物が並んでいるが、どれも痛みが激しく、半分以上崩壊しているような建物も多い。
「やけに静かね……」
実際には洞窟エリアなどとそう違いはないのだが、人が暮らしているはずの街から誰の声も聞こえてこないという状況が、カタリナに静かさを強く印象付けていた。
「これ建物ん中に宝箱とか隠されてたりすんのかな?」
「だとしても、一つ一つ探していくのは現実的ではないですね」
この廃墟となっている街は所々が崩壊しているせいで、方角によっては遠くまで見通すことができる。
そしてそれはこの街の規模がかなり大きいことをも教えてくれた。
「俺の感知だとすぐ近くに魔物の反応はない。何にせよ、この街を練り歩く必要がありそうだぁ」
北条の指示に従い、街の探索を始める一行。
時折建物の中を軽く調べるが、めぼしいものは見つからない。
長い年月が経過しているようで、木製の扉が付いていたであろう名残があったり、風化の影響を受けにくい石造りのものなどは、比較的原型をとどめて残っていたりした。
「ダンジョンってよくわかんねーもんだけど、これって実際どこかにあった街なのか?」
「そういった発想をしたことはなかったが……。ありえないとは言えないな」
特に答えを求めての質問でもなかったが、ヴェナンドが龍之介の質問に律儀に答える。
ヴェナンドがこのような返答をしたのは、この街の廃墟に、遠い昔の生活を感じ取ったからだ。
「……見つけたぞぉ」
しかし北条は別のものを感じ取ったらしい。
「ボスか?」
「恐らくそうだろう。こっちの方角だぁ」
北条の指し示す方向へと進んでいくと、やがて大きな通りにぶつかった。
これまで歩いていた道と比べると、三倍以上の幅がある。
「あっちの遠くの方に、門らしきものが見えるな。そんでもって、反対側のこっちの方は……あれは城門か?」
どうやらこの道は街の中心を走る大通りのようで、片方は街の外へと通じる門に。そして反対方向には城門らしきものが見えている。
何故城門"らしき"と表現するかといえば、門の奥に城らしきものが存在していないからだ。
しかし、城門や城門から繋がる城壁は、所々が崩れながらもしっかりと残っている。
「恐らくそうだろう。魔物の反応はあの城門の奥からだぁ」
現在地は、街の外への門よりも城門までの方が近い場所にいる。
とはいえ、まだ大分遠くに見えるのでもう少し歩く必要があるだろう。
「さーて、何がでてくっかな?」
これまでにない様相のエリアなだけあって、龍之介は若干緊張した様子だ。
一行はそのまま城門の方へと進んでいく。
ここはこれまでの領域守護者のいた階層同様に、他には魔物が出現しないようだ。
一行は静かな廃墟の中を興味深く観察しながら、先を目指していく。
▽△▽
それから三十分ほど移動を続けると、ようやく城門前へと到達した。
高さ六メートル以上はある城門と、それ以上の高さの城壁で周囲を囲まれたこの場所だが、ここに来るまでの道中からだと、肝心の中身にあるハズの建物が確認出来ていない。
「中にポツンと一軒だけ小さな家が建ってたりして」
「それはそれである意味豪勢ね」
「リューノスケ、余裕がありそうだね。ボクはなんか嫌な予感がヒシヒシとするよ」
「余裕ってか、ここまで来たら腹決めて戦うしかねーだろ」
一見ぞんざいにも聞こえる龍之介の言葉だが、実際の所はすでに覚悟を決めてるだけであって、適当に言っている訳ではない。
そのことは、付き合いの浅いファエルモらにも伝わったようだ。
「それもそうだな。では先に進むとしようか」
「いや、ちょっと待ったぁ。俺が先に上から様子を見てこよう」
龍之介の心意気に押され、先へと進もうとするヴェナンドを制止させる北条。
発言するなり、ふわふわと上空へと浮かんでいって、城門をも超える高さから中を見渡す。
「……あれか」
北条の視界に映ったのは、内部にあったハズの城部分が完全に取っ払われてしまい、瓦礫のちらばる更地になってしまった城壁内部の様子だ。
しかし、もしこの場所に城があって何らかの理由で壊されたとしても、地面に散らばっている瓦礫の数が少なすぎる。
一体どのような経緯でこの状態になったのか気になる所ではあったが、それ以上に気になるのが、奥の方に見える魔法陣の存在と、その近くに控える大きな魔物の姿だ。
≪ドレイク 竜種 レベル:91≫
早速北条が"解析"でもって魔物のデータを取得していく。
悠然と佇ずんでいるその魔物は、まさしく西洋風ドラゴンといった見た目をしている。
ドラゴンにしてはほっそりとしたボディに、短めの両手と両脚。
蝙蝠の翼に似たような形状の翼にスラリと伸びた長い尾。
今は丸くなって休んでいるような体勢を取っており、北条が視界の通る場所に入っても、"解析"を使用しても、特に反応を示していない。
「オッサン、どうだった!?」
一通りの情報を取得し終わると、北条は再び地面へと降りていく。
すると、真っ先に龍之介が中の様子を尋ねてくる。
「中には残念ながら一軒家はなかったぁ」
「そ、そんなことはどーでもいいんだよ! ボスがいたんだろ? どんな奴だった?」
「うむ。丁度この門の奥の方には、魔法陣があったぁ。そして、その近くにはドレイクがお休み中だったぞぉ」
「どれいく……?」
「なっ、ドレイクゥゥッ!?」
「そうか……。やはりAランクの魔物が次の守護者か」
ドレイクという名に龍之介やメアリーなどは心当たりがないようだが、カタリナやヴェナンドはその名を良く知っていた。
「引っこ抜くと叫び声をあげるやつか?」
「何言ってんのよ、リューノスケ。ドレイクって言ったら最強種族の一つである、竜種に名を連ねる魔物よ!」
「竜種……ドラゴンか!」
相手がドラゴンと聞いて、怯えるどころか逆に戦意を露わにする龍之介。
これは実際にこの世界の人たちでも、ある程度以上の実力者の中には同じような反応を示す者たちがいる。
ドラゴンや悪魔などは、一体でも討伐するだけで、人々から竜殺しや悪魔殺しなどと呼ばれ恐れ敬われる。
それ故、倒してもいないのにドラゴンを倒したと自称する者が、夜の酒場にいけばちょこちょこ見かけられる。
龍之介もファンタジー作品をよく読んでおり、竜殺しといったワードには心ときめかせていたタイプだ。
「奴は竜種だけあってブレスを吐いてくる。前回のサンドワームは想定外だったので後になってしまったがぁ、今回は最初から【レジストブレス】を掛けてからいくぞぉ」
「"ファイアブレス"……か」
竜種といえば一番有名なのは、ブレス攻撃だろう。
物理防御や魔法防御が適用されないので、【レジストブレス】などで対策しておかないと、手痛いダメージをもらうことになってしまう。
「ブレスの範囲は広い。前衛は違いに距離を取って、一緒にブレスを食らわんように気を付けてくれぃ。それと、後衛と直線状に並んでしまうのもマズイ」
「分かった。オレは左手から攻める」
「では私は右手から」
「えっと、ボクは……」
「あー、ファエルモは今回後衛組と一緒の方がいいだろう」
「うううん、仕方ない……かあ」
Cランクの中では、レベルが上の方に位置するファエルモ。
だが前衛専門という訳でもないので、Aランクのドレイク相手に前に出るのは危険すぎる。
メアリーも同じようなスタイルではあるが、すでにレベル的にはBランク級になっているし、スキル熟練度においてもファエルモを凌駕している。
今回は龍之介とメアリーの二人が前衛を担当することになった。
そしていつも通り、楓が遊撃として近~中距離から攻撃を加える。
「さっき俺が偵察した時、奴は動きを見せなかったぁ。なので、予定通りまずは俺が魔法で一発ぶちかます」
「オッサンの一発はキョーレツだからなあ。少しは楽になりそーだぜ」
「魔法の発動後、もしくは魔法の発動途中に奴が反応を見せるかもしれん。そうなった場合、上空から合図を送るから、門を開けて中に突入してくれぃ。俺は一発か二発魔法をぶち込んだら合流する」
「ホージョー。魔物の召喚はどうするのだ?」
「あー、それもあったなあ。前衛としてオークキングを二匹。後は万が一の時の為の、後衛の肉壁を一匹召喚しよう」
「それだけでよいのか? まだ召喚出来る枠はあるのだろう?」
「恐らくはこれくらいで問題はない。足りなかったら随時追加すればいいだけだしなぁ」
「承知した」
「ではバフを掛けていくぞぉ」
戦いを目前に控え、北条が上位魔法の"添加魔法"で筋力などのステータスを強化させ、上級の"付与魔法"である【ハイプロテクション】よりも効果が高い、"添加魔法"の【ディフェンス】の魔法を前衛二人に施していく。
ブレス対策に関しては、"添加魔法"で上位の魔法を覚えていないので、"付与魔法"の【レジストブレス】を全員に順にかけていく。
"付与魔法"系統によるバフはこれで終わりだが、実は他属性にも属性に応じたバフ魔法が存在する。
【シャドウボディ】は中級の"影術"で、使用者本人の回避力を上げる効果がある。
これを前衛の龍之介とメアリーに使用していく北条。
【シャドウボディ】は本来自分にしか効果がない魔法だが、"マジックエクスパンド"のスキルによって、北条はそういった対象が自分専用の魔法を、他者にも掛けることができる。
そのスキルを利用し、中級"土魔法"の【アーススキン】と中級"火魔法"の【ファイアウェポン】。それから、同じく中級"風魔法"の【ウィンドウォーク】を前衛二人に掛けていき、防御、攻撃、敏捷を更に強化する。
「…………」
それらの様子を目を見開いて観察するヴェナンド。
上位の魔術士ともなれば、複数属性を使用することは当然ではあるが、北条はそれにしても異常に過ぎる。
しかも、本来自分自身にしか使用できない筈の魔法まで、他の人に使っている。
一般的な魔術学院や魔法塾などでは、自身の攻撃力を上げる【ファイアウェポン】 などに目を向ける者はいない。
いるとしたら、剣と魔法を扱う魔法剣士などの一部の者達だけだ。
「これで準備は整ったぁ。では、行くぞぉ!」
ヴェナンドからすると、色々と気になることが多い北条。しかし、今はそんなことを考えている時ではない。
後ろ髪引かれる思いのヴェナンドだが、気持ちを切り替えて前を向く。
他の全員も、意識は既にこの先に待つというドレイクに向けられている。
そして"浮遊"スキルによって、再び上空へと舞い上がっていった北条は、開戦の狼煙となる魔法を発動させるのだった。




