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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十五章

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第432話 龍之介の覚悟


「キュッキュッキュッ!」


「ラビ、ご機嫌なのです。ニアもご主人さまと一緒で嬉しいのです」


 進化した北条の二匹の従魔は、それぞれラビが「白翼兎」。ニアが「猫又」という名前の魔物で、どちらもCランクに分類される。

 白翼兎は背中に翼が生え、"神聖魔法"の腕も上達しているが、相変わらず攻撃の面でいえば弱い。


 猫又は見ての通り"人化"のスキルによって、人型と猫型の二つの体型を取ることができる。

 今のニアはまだ"人化"スキルの熟練度が低いので、血の濃い猫獣人のようにしか見えないが、スキル熟練度を磨くことで、より人族に近い見た目になることも可能だ。




 現在北条達は、初見殺しエリアの四十九層を探索している。

 四十八層は例によってアンデッドの巣食う階層だったのだが、そこでは以前に話だけ聞いたことがあった吸血鬼種が出て来た。

 Dランクの屍鬼に、Cランクのレッサーヴァンパイア。

 そしてBランクのヴァンパイア。


 一般的には「吸血鬼」という言葉で同一視されているが、識者から恐れられているのは中位以上の吸血鬼、即ちBランクのヴァンパイア以上のものとなる。

 その一番の理由は、ヴァンパイアとその上位種たちが持つ、"ブラッドドミネーション"のスキルのせいだ。


 このスキルによって、ヴァンパイアは眷属となるレッサーヴァンパイアを、十体まで作り出すことができる。

 そしてAランクのエルダーヴァンパイアともなれば、ヴァンパイアを六体まで作り出すことが可能だ。

 つまり、上位種が一体いるだけで、下位種のレッサーヴァンパイアの数も増やせることになる。


 だが幸いなのは、ダンジョンで出てくる吸血鬼種には、眷属を作り出す能力がない。

 スキル自体は持っているようなのだが、これまでダンジョンの吸血鬼が眷属を作り出した事例はなかった。

 初めのうちは、ヴァンパイアの特殊能力に少々ビビッていた龍之介も、その話を聞いて以降は、積極的にヴァンパイアに攻撃を仕掛けている。



 そうしてアンデッドの階層を抜けた先は、いわばボーナスエリアのようなものだった。

 これまでにも二十六層、三十七層にも同様のエリアがあったのだが、四十九層は鉱山エリアとなっていたのだ。

 余り強い魔物は出現せず、部屋や通路のあちこちに採掘ポイントがあって、各種鉱石を掘ることができる。


 本来であれば、ここは北条の"アイテムボックス"スキルが大活躍するような階層だ。

 しかし、先を急ぐ北条達は、採掘もろくにせずに探索を優先させている。

 その結果、ニアたちが進化してから一週間ほどの期間で、五十層へ通じる魔法陣を発見することに成功した。





「……あったな」


「ああ」


「次は五十層……。少なくともあのサンドワームより強い魔物が待ち構えていると見て間違いないだろう」


「またデカブツが来るのかぁ?」


 ヴェナンドと北条が、魔法陣を前に次の階層についての話を始める。

 すでに全員には北条より休憩が言い渡されており、みんな魔法陣の周囲に思い思いの体勢で休憩に入っている。


「三十、四十ってでけーのばっかり続いたからな。案外今度はちっちぇーのが来るかもしんねーぜ?」


「私としては攻撃しやすいので小さい方がいいんですが……」


「僕はおっきい方がまほーを当てやすいから好きなのです」


「それはそうだけど、大きいと攻撃が効いているか分かりにくいのよねえ」


「ううぅ……。あの大きなにょろにょろに僕のまほー、あんま効いてなかったかもです……」


「そんなことはねーぞ! ニアは十分役立ってるって。なっ!」


「リューノスケ……」


 ニアに嫌われている龍之介は、ニアのご機嫌取りに必死だ。



「でかいにせよちっちゃいにせよ、これまでの傾向からして次はAランクの魔物が出てくる可能性が高い」


「……であろうな。これまでCランクのシーサーペント、Bランクのサンドワームと続いている。となると、次はAランクときても不思議ではない」


「場合によっては、あの悪魔と戦った時のように、お前達には後方からの援護を任せることになるかもしれん」


「いや……。オレは相手が例えSランクのバケモンだろうと、前にでるぜ」


「龍之介……」


「龍之介くん……」


「オレだって以前に比べて強くなったし、状況判断だって少しは出来るようになった。何時までもオッサンばかりに負担をかけさせるつもりは……ねえ」


 いつになく強い意志を感じさせる龍之介。

 その瞳に宿る強い決意を感じ取った北条は、言い返そうとしていた言葉を飲み込み、口を閉ざす。


「……そうか。だが、くれぐれも無茶はするなよぉ? 勇気と蛮勇をはき違えないでくれ」


「ああ」


「…………」



 龍之介の決意表明に、メアリーは複雑な表情を浮かべる。

 メアリーとしては、普通に適正な魔物と戦うのであれば前に出ることを厭わないが、あの悪魔のような桁違いの相手に対して、敢えて前に出ようとは思っていなかった。


 それは龍之介の決意を聞いた今でも変わらない。

 先ほど北条が何かを言いかけたように、メアリーも龍之介を思いとどめさせるようなセリフが喉まで出かかっていた。

 しかし、結局北条同様にその言葉は声へと変わることなく押し込まれる。


(なぜそこまで思えるのかしら……)


 そこがメアリーにはどうしても理解が出来なかった。

 メアリーも、もし仲間が目の前で危機に晒されていたら、危険を顧みずに助けることはあるかもしれない。


 しかし、少なくとも北条という規格外な存在がいるので、そこまで無理をしなくても……という気持ちもある。

 そのことに対し、メアリーは北条に対し負担をかけて申し訳ないという気持ちが強く、その思いが通常戦闘時の積極性にも繋がっていた。


(龍之介くんには、そのことが……、北条さんに頼りすぎることが耐えられないと思っている?)


 考えに耽るメアリーだが、その答えは出てきそうにない。

 結局その後、昼食休憩を取ることになってこの話は流れてしまう。

 その場で龍之介に直接尋ねていれば、本人から答えを聞けたかもしれなかった。

 しかし、一度機を逃してしまったせいか、どうもその話題を持ち出しにくい。




「さて……。皆も知っての通り、次の五十層には恐らく領域守護者(エリアボス)守護者(ガーディアン)が待ち構えているだろう」


 昼食を終えた一行は、出発の準備を整えつつ北条の話に耳を傾ける。


「最初から待機しているタイプなのか、近寄ると勝手に出てくるタイプなのか、魔法陣に魔力を通すと出てくるタイプなのか。その辺は俺にも予想はつかん」


 他にも出入口が封鎖されるのかされないのか。

 ボスが取り巻きを召喚するタイプなのかどうか。

 色々なパターンが予想出来る。


「だがぁ、最初に俺がまずデカイのを一発食らわせようと思っている。状況によっては、二発食らわせられれば御の字だぁ。その初撃の様子を見て指示を出す。先走って突っ込んだりはせんでくれよぉ? それと……」


 北条の念押しに、各自が返事をしていく。

 これから強敵と戦うという場面であるのに、そこには悲壮な覚悟などは一切見られない。

 ヴェナンドらはともかく、やはり『サムライトラベラーズ』の面々は、北条という存在が不安を取り除いているのだろう。



(あと他に言うことはあるか……?)


 その張本人である北条は、何か留意点がないかどうか、改めて思い返している。

 外面ではいつものふてぶてしい感じの顔を浮かべている北条だが、今回に限って内心ではどこかいつもと様子が違っていた。


(何が出てくるか分からんし、最初から助っ人の魔物を召喚しておくか? ……いやまて、何が出てくるかも分からんなら後で様子見してから呼んだほうが……)


 発言が途中で止まったことで、みんなからの注目を集めてしまう北条。

 それが今の北条にはプレッシャーとして襲い掛かる。


(なんだ? どうも心が落ち着かない……)


 それは、初見殺しエリアに挑む前から時折感じるようになっていた感覚。

 ダンジョン出発の日に強く感じたあの感覚が、より明確になって表れたような……。


(この、感覚は……。俺は焦って……いるのか? 次の階層に一体何が待っている……?)



「ご主人さまー?」


「……! いや、なんでもない。ちょっといい感じでお腹も膨れたから、少し眠くなってボーっとしちまったようだぁ」


 主の様子がいつもと違うことに、付き合いの長い異邦人よりも先に、従魔であるニアが気づく。

 その声を聞いた北条は慌てて誤魔化しの言葉を入れる。


「……そうなのですかー?」


「ああ、そうだぞぉ。こんな感じで妙に気負わず、いつも通りに最善の行動を取っていけば、例えAランクの領域守護者(エリアボス)でも、俺たちなら問題ない!」


 言い訳の言葉に納得がいかない様子のニアだが、北条は無理矢理に話をまとめ、話をそこで打ち切る。

 そして改めて号令をかけると、魔法陣に魔力を通し、ボスが待つであろう初見殺しエリア五十層へと向かうのだった。



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