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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十五章

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第429話 初見殺しエリア


「倒せ……たのか?」


 サンドワームの巨大な体が粒子化していく様子を見てもなお、実感がわかないのかそのような言葉を口にするヴェナンド。


「ああ、見ての通りだぁ」


 そんなヴェナンドに短く答えると、北条は高台から降りて前衛たちの下へと向かう。

 カタリナもその北条の後をすぐに追いかけるが、ヴェナンドはしばしその場で立ち尽くした。


「……ランジー」


 ポツリとヴェナンドの口から人の名前らしき言葉が漏れる。


「ルーベルト……ベニア……、エルマート……。仇は取ったぞ……」


 続いて幾人かの名前を挙げたヴェナンドは、瞳を閉じ、祈りを捧げるようにして右手を自分の胸の辺りにあてる。

 その瞳からは微かに涙が溢れ、密やかにこぼれ落ちていくのだった。






▽△▽




 北条が前衛の下へと歩いていった時、彼らはサンドワームのドロップが落ちた辺りに移動をしていた。

 そこにはサンドワームのドロップである巨大な肉や、牙などが散らかっている。


「……これ、一応食えるのかぁ」


 "解析"でドロップを調べた北条は、


≪サンドワームの肉、食用可。普通に焼くと硬くて食べにくいが、煮込むと柔らかくなる≫


 という解析結果を得ていた。


「これだけあれば、しばらく肉には困らなそうね」


「う……。でもなー、これあの巨大ミミズの肉だろお?」


 後から追いついてきたカタリナがさらっと言ってのけるが、それに龍之介がしかめっ面を浮かべている。

 カニやエビには拒絶反応を示すカタリナだが、サンドワームの肉は特に問題ないらしい。


「それに、あんだけ手ごわかったのに、今回も宝箱なしかよ」


「それは仕方あるまい。領域守護者(エリアボス)がそうホイホイと宝箱を落とすようなら、周回して繰り返して倒す冒険者がもう少し多くなってる所だからなぁ」


 北条が言うように、そこまでしてボス系統を周回して倒して回る冒険者は少ない。

 龍之介ら異邦人は、他のこの世界の一般的な人に比べて優れている。

 しかも『サムライトラベラーズ』には北条もいる為、少し感覚が麻痺してはいるのだが、本来はボス戦というのは死を覚悟して挑むようなものだ。

 特にCランク位から魔物もどんどん強くなっていくので、好き好んでボスに戦いを挑みまくるような奴は極少数だ。



「ただ見てみろぉ。今回はドロップに〈オリムンドスクロール〉が三枚も出ている。これで武器を+5まで安全に三回も強化できるぞぉ」


 装備の強化というのは、タイミングがなかなか難しい。

 せっかく強化しても、新しく強い武器が手に入ればせっかくの強化した武器がもったいない。

 特に入手しやすい〈ゼラゴダスクロール〉に比べ、〈オリムンドスクロール〉は、売りにだせば最低でも二十五金貨以上はするので、使いどころが難しい。


 〈ゼラゴダスクロール〉では+2まで安全強化が出来、最大で+5までの強化。

 〈オリムンドスクロール〉では、+5までの安全強化に最大で+9までの強化。

 強化値のプラスは、一上がるごとに元の性能の十パーセント増しに強化されていく。

 これは"装備鑑定"などのスキルで確認されていて、それなりに知られていることだ。


 あとは装備が元々魔法効果を帯びている場合には、その魔法効果が強化されたり、特殊な装備では強化していくことで特殊能力が新たに発現したりすることもある。


「その三枚のスクロールはどう分配すんだ?」


「あー、俺と龍之介と細川さんとで一枚ずつでどうだぁ?」


 楓の今のメイン武器は、ルカナルに作ってもらった苦無やダンジョンで見つけた短剣などだ。

 カタリナは『巨岩割り』時代から使っている、母の形見の品である魔法の弓を所持しているが、ダンジョン内では使用する機会も減る。


 その弓の方はすでに+2まで強化してあるが、それ以降の強化は他の三人が持つ魔法の武器をメインに強化してきていた。


「まあ、いいんじゃない?」


 カタリナには弓以外に"水魔法"や"精霊魔法"もあるので、そこまで装備の強化を強く主張することもなかった。


「じゃあ、早速強化だけは済ませちまおう。……これで俺の〈サラマンダル〉も+4かぁ」


「オレはルカナルに武器を作ってもらうまでは我慢しておくぜ」


「私は……この新しく手に入れた〈爆砕槌〉を+3まで強化しておきますね」


 龍之介だけはすぐには使用せず保留にしたが、他の二人はすぐさまその場で武器を強化していく。

 それから思い出したように、北条が他のサンドワームの肉などのドロップを収納していった。




「……にしても、なかなか厄介な奴だったな」


「そうね。あんなでかい魔物相手に、普通はどうやって対処するのかしら」


 今回は北条が用意した高台のおかげで、足元からの不意打ちを受けることなく、後衛のカタリナ達は時折使ってくる"アシッドブレス"にだけ気を使っていればよかった。


 しかし前衛の龍之介らは、砂中に潜っては不意に襲ってくるサンドワーム相手に、慌ただしく北条の指示で動き回っていた。


「……厄介どころの話ではない」


 龍之介らがサンドワームについての感想を話していると、大分遅れてこの場にやってきたヴェナンドが口を挟んできた。


「考えてもみてくれ。ここに来るまでの三十一層から三十九層までは、出現する魔物のランクがDからCランクだった」


 ヴェナンドの言うように、後半の階層になるにつれてDランクよりCランクの魔物の割合は増えていったが、Bランクの魔物が出ることはなかった。


「それが、次の領域守護者(エリアボス)はBランク……それもあのような巨大なサンドワームが相手だ。それまでの魔物の強さに油断していると、足をすくわれる羽目になる」


「確かにヴェナンドの言う通りだぁ。思い返せば、三十層で出て来たシーサーペントも、その前の階層の魔物と比べて明らかに格上な相手だったぁ。これでは、『帰らずのエリア』というより、『初見殺しエリア』と呼ぶべきだろう」


「……この先にまだ続きがあった場合、五十層では更に注意が必要となりそうですね」


 黙って話を聞いていたメアリーが、緊張した面持ちで発言する。


「ただ、正直お前達の……いや。ホージョーの魔法には目ん玉ドビューンだ。あれならば、五十層に強敵が待ち構えていようと、どうにかなるかもしれない……」


「え……っ? あ、ああ。そーかもな」


 龍之介はしどろもどろにそう答えるが、「目ん玉ドビューン?」と小声で呟いている。

 北条やカタリナらも、真面目そうなヴェナンドから飛び出た妙な言葉遣いに、少し困惑した様子だ。


「さあっ! ドロップの回収も終わったんだし、次の階層がどうなってるか見てみようよ! もしかしたら、今のが領域守護者(エリアボス)じゃなくて守護者(ガーディアン)の可能性だってあるんだしさ」


 場の空気を変えようとしたのか、ファエルモが明るい声を出すと、全員の意識が切り替わっていく。


「けど、次の階層に続く魔法陣ってどこにあるんだ?」


「この場所でサンドワームに襲われたということは、恐らくそう遠くないと思うんだが……」


「なら、ちょいと上から探ってみよう」


 肝心の魔法陣の居場所が分からず途方にくれる中、北条が徐に"浮遊"のスキルを使い、その場からフワフワと宙に浮き始める。

 そしてある程度までの高さまで上り詰めると、"視覚強化"や"遠視"などのスキル効果マシマシで、周囲を見渡す。


「おお、あったぞぉ。アッチの方角だぁー!」


 北条が上空から指を指すが、二十メートル以上は浮かんでいるので、いまいち地上からではどっちを指差しているのか分かり辛い。


「アッチじゃわかんねーぜ、オッサン」


「なあに、問題はない。場所は俺がしっかり把握してある。付いて来てくれぃ」


 地面に戻った北条に文句を言う龍之介。

 しかし北条は気にした様子もなく返事をすると、そのままスタスタと歩き出す。


「はぁ……。ついていきましょ」


 この四十層は、三十層と同じく領域守護者(エリアボス)専用の階層らしく、砂漠に潜む生物はいるようだが、魔物は存在していない。

 その領域守護者(エリアボス)もすでに倒してあるので、しばらくの間この階層は砂漠特有の環境さえ凌げれば安全なエリアとなる。


「いー加減、そろそろ迷宮碑(ガルストーン)が出てこねーもんかなー」


「どーかしら。なんせ『初見殺しエリア』だからね」


 先ほど北条が口にした、『初見殺しエリア』という言葉を持ち出すカタリナ。

 そもそもの入口の罠からして、初見殺しというのも言いえて妙だ。


 今後のダンジョンの展開についてなどを話しながら、北条の後に続いて十分ほど歩き続けると、砂漠の中にポツンと存在する石の構造物が見えてきた。

 四方には石柱が立っており、その枠内に設置された石の舞台中心には例の如く魔法陣が描かれている。


 ようやく魔法陣までたどり着いた一行は、『サムライトラベラーズ』から順に魔法陣に魔力を通し、次の場所へと転移していくのだった。



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