第428話 暴れまわるサンドワーム
その巨体にもかかわらず、サンドワームが突進していくスピードはかなりのものがあった。
一見した感じではそこまで速い動きには見えにくいが、あの大きさの物体が動いていることを踏まえれば、実際には相当な速度で動いていることが分かる。
「ッ!? キャ、アアアアアァァァァッッ!!」
まるで視界の悪い交差点をそのまま飛び出してしまった人が、大型トラックに跳ねられるかのような……いや、それ以上にダイナミックで強い衝撃と共に、メアリーが叫び声をあげる。
そのまま優に数十メートルを超える距離を、吹き飛ばされていくメアリー。
まるで命無き物体のように、受け身を取ることもできず、砂地を二度三度バウンドして着地したメアリーは、ピクリとも動かない。
「メアリー! 【再生の光】」
見た目的にも大分危険な様子に見えるメアリーだが、北条は【パーティーコンディション】のスキルによって、今の一撃だけでメアリーのHPが半分近く飛んだことを認識していた。
通常のパーティーでは、迂闊にヒーラーが前に出てしまうとこういった事態になって手詰まりになることがある。
なので、神官戦士であろうと無理せずに立ち回るのが普通であるが、『サムライトラベラーズ』にはメアリーの後ろに更に北条が控えている。
今も北条の"再生魔法"、【再生の光】によって半分ほど削られたHPが即座に最大HPの七割位にまで回復した。
"再生魔法"は"回復魔法"の上位魔法であるが、上位魔法なだけあって【再生の光】には、回復効果の他に三分間ほど徐々にHPが回復するリジェネ効果も付与される。
それだけでは満タンの状態まで回復はしないだろうが、今はもう一度治癒魔法を掛けている余裕もなかった。
突進をかけたサンドワームが、今度は自身の巨体を武器にして、鞭を振るかのようにその体をメアリーへと叩きつけようとしていたからだ。
「チィッ、間に合わん! なら、これでぇぇ!! 【氷凍】」
普通に魔法を使用していたのでは間に合わないと判断した北条。
そこで二十八層で出会った悪魔から吸収した、MPを大量に消費してしまうが一瞬で魔法を発動できる、"フォースキャスト"のスキルを使用する。
そしてこのスキルで特級の"氷魔法"、【氷凍】を即座に発動させた。
その魔法の効果は覿面で、メアリーに追撃をしようとしていたサンドワームの全身が瞬く間に凍り付いていき、やがて動きを止める。
「お、おおおおおっっ!? ホージョー! 今のは"氷魔法"か!? それに……先ほどのは"神聖魔法"なのか?」
北条が連続して見せた魔法に、ヴェナンドがやたらと興奮してまくしたてる。
しかし北条はそんなヴェナンドには取り合わず、すぐさま次の指示を出す。
「ファエルモッ!! 彼女を!」
高台にいるお陰で周りの様子をよく見ることができるので、誰が一番メアリーの近くにいるのかもすぐに判別できる。
北条の指示を受け取った、一番メアリーに近い場所にいたファエルモは、北条の意図を察してメアリーの方へと駆け寄っていく。
"再生魔法"で回復させたはいいものの、メアリーに起き上がる気配はなく、どうやら気を失っているらしい。
「凍結による足止めはそう持たん! 溶ける前に一発デカイの入れるから、龍之介はその後を頼んだぁ!」
「オウッ! 任せとけッッ!!」
「さて……どれにするかなぁ」
サンドワームは現在【氷凍】の魔法によって、体の大部分が氷で覆われ、徐々にHPを削られつつある。
この状態で弱点属性の"水魔法"を使用すると、せっかくの動きを封じている氷が溶けてしまうかもしれない。
「ならぁ、これで行くかぁ。【這い寄る闇】」
北条が魔法を発動させると、サンドワームの頭上に黒く丸い穴のようなものが現れる。
厚さ一センチにも満たないその虚空に開いた穴からは、まるで黒い絵の具で塗りつぶしたような闇が流れ落ちていき、サンドワームの巨体を包み込んでいく。
「な、なんだ……あの魔法はっ」
「わーわー喚く前に、攻撃に加わってくれぃ。"闇魔法"も使えるんだろう? ニアだって言われなくても魔法を使ってくれてるんだ」
「ニャアッ!」
「ぬぬ、そうだな……」
先ほど北条の放った【這い寄る闇】は、サンドワームに大きなダメージを与えると共に、光に溶けるようにして消えていた。
そこに、ヴェナンドの中級"闇魔法"、【ダークネスボム】がサンドワームを襲う。
カタリナは、完全に凍りついていない部分に向かって"水魔法"で攻撃をしており、ニアもそれに倣って"風魔法"で攻撃をしてくれている。
そうした連続した魔法攻撃によって、苦痛を感じているサンドワーム。
恐らくはそのせいで体を無理に動かしていたようで、【氷凍】による「状態異常:凍結」がすでにほぼ解けつつあった。
「くたばり……やがれっ!」
しかし完全に凍結が解除される直前。
砂の足場をものともせずに、猛ダッシュで駆け寄っていった龍之介が、"剛力"や"力溜め"を併用しつつ、剣系闘技秘技スキル"闘気斬"で斬りこんでいった。
魔力よりも、闘気を多く纏って切りつけるこの闘技スキルは、切りつけた場所から爆発的な衝撃を与えることができる。
未熟者が迂闊に武器や盾で受けてしまえば、それら武器や盾ごと粉砕してしまうような威力を発揮することが可能だ。
龍之介の放った"闘気斬"は、サンドワームの長い体の中ほどに洞窟の入口か? と思わせる程の大穴を開ける。
しかし龍之介はそれだけに留まらず、大きく跳躍したかと思うとサンドワームの上に乗り移った。
「キッチリ捌いてやるぜ!」
そこからサンドワームの上を走りながら、手あたり次第にカタナを振るい、闘技スキルをまき散らしていく龍之介。
凍結がほぼ解けかけていたサンドワームは、慌てて横になっていた胴体を起こすが、龍之介は振り落とされ落下しながらも、カタナの切っ先をサンドワームに当て、表面を切り裂きながら地面へと着地する。
「アイツ……なかなかやるわね」
それを見て普段は龍之介にキツイ態度のカタリナも、思わず賞賛の声を上げる。
「ああ。楓の隠密状態からの"フイダマ"攻撃も、地味にサンドワームの生命力を削っているなぁ」
楓は戦闘中はとことん気配を消して戦っているので、近くで戦っている龍之介ですら彼女の動きが掴めていない。
このような巨大な相手に対しては、楓だと打てる手は減ってしまいはするものの、不意打ちによる攻撃は着実にサンドワームのHPを削っていく。
「シャアアアアアアァァァァッッ!!」
ついに凍結が完全に溶けたサンドワームは、身をよじるようにして暴れまわる。
その動き一つで押しつぶされてしまう危険性があったが、龍之介も隠密モードの楓も、動きに慣れてきたのか暴れまわるサンドワームを躱し続ける。
それでも、時折放ってくる"アシッドブレス"は流石に完全に回避することはできず、何度か被弾してしまう場面もあった。
北条のレジスト系魔法によって耐性が強化されてはいたが、かするだけでも手痛いダメージを受けてしまうのだ。
しかし、それも――
「龍之介くん、大丈夫ですか!? 【癒しの極光】」
意識を取り戻し、復活したメアリーによってすぐに癒されていく。
こうして一時間以上もの間、激闘は続く。
その間サンドワームは、砂中に潜り込んで真下からの不意打ちをしてくるなどの動きを時折見せた。
しかしそれも、北条が大まかなサンドワームの出現位置をその都度伝えていたので、不意打ちでそのまま飲み込まれることもなく、事なきを得た。
他にも、どうやってその巨体を? と思うようなダイナミックな跳躍を見せて、空から全長二十メートル近くの巨大ミミズが落ちてくるという、とんでもない攻撃を仕掛けてきたこともあった。
数十メートルもの高さからの落下は、サンドワームが巨体なだけあって着地時に大きな衝撃と、広範囲な砂埃を巻き起こす。
しかし例え視界が閉ざされていようとも、感知スキルや【パーティーコンディション】で仲間の状態を把握できる北条の指示によって、被害は最小限に抑えられた。
そして更に十分程戦闘を続け、北条の"解析"スキルでは敵のHPもあと僅かと表示された頃、再びサンドワームに大きな動きの兆候が表れる。
「よしきたぁ! ここは俺に任せてお前らは下がれぃ!」
待ってましたとばかりに北条が号令を飛ばし、前衛の龍之介らは指示に従ってサンドワームから距離を取る。
その直後、再びサンドワームの巨体が宙へと飛び上っていく。
「これでトドメだぁ! 【ヒュージアイシクルドリル】」
北条が魔法を発動させると、砂漠の上に六本の円錐状の氷が形成されていく。
それらは一つ一つが直径二メートル、高さが五メートルほどの大きな氷で、名前の通り、円錐部分はドリル状に螺旋を描くような構造になっている。
その六本の氷で出来たドリルは、形が出来上がると同時に猛烈な勢いで回転し始める。
びっしりと縦二列、横三列に配列されたそれら氷のドリルの設置場所は、まさにサンドワームが落下してくる場所とピッタリ一致していた。
「シャアアァァァァァッッ!!」
そして、その巨大な重量が氷のドリルへと落下すると、そのとんでもない重量によって折れることもなく、逆に猛回転するドリルによってサンドワームの巨体が派手に削られていく。
「うわ……、あれはエグいわね」
思わずカタリナがそう呟いてしまうほど、その光景は壮絶なものだった。
体液やら肉片やらを派手に周囲にぶちまけ、前衛の龍之介やメアリーの下にもそれらが飛び散っていく。
だがそれも、ほんのひと時のことだった。
ズタボロにされたサンドワーム本体から光の粒子が溢れ始めると、飛び散った体液なども全て綺麗に消えていく。
そうして残されたのは、大きな魔石とサンドワームのドロップ品の数々だった。




